105 / 129
飛車
4
しおりを挟む
「~っ、やっぱ美味しくないなぁ!」
「高麗人参と丁度よく」
「ならない、不味い!
てゆうかさ、僕から言うのもなんなんだけど、高麗人参って高いって松本先生が言ってたよ?」
「そりゃあまぁ…せやけど土方さん持ちですし」
「…さっきのボロ刀、貸してよ。ついでに頼んでおくから」
「………」
色々を考えた。
多分沖田は、経費だとかなんだとかではなく、安い刀鍛冶に自腹で仕事を与えているのだ。
無名の刀を治す鍛治など、困窮している。
「…わての生計を考えるんなら、その前に」
沖田は錫杖刀の柄の先をキュッと握り「やらせて」と言った。
「まだ諦めてないから、いまあんたの不味い薬を飲んでるわけだし…」
意外と、優しい青年なんだな。
持ってる刀も明らかに、他の幹部よりも安手の物だ。しかし、仕事量的にはきっと、金はある。
「…免じてお頼みしますが、なんや、そうもなんか湿臭く言わんでくださいよ。明日にはくたばりそうな挨拶ですやん」
「ははっ、憎まれ口は本当、天下一だよね」
さて、用は済んだ。金清楼にそろそろ行かねばなと「また来ますね」と去る間際に沖田が「ありがとうね」と言った気がしたが、聞こえなかったことにしよう。なんせ、あの小生意気な沖田総司だ。
それでいい、それがいい。
一応、毎度挨拶をしてから出ることにしている。
先程土方もいたしなと副長室に寄り「では、また明日」と帰ろうとしたが、今度は土方が「あー、そうだ」と、久方ぶりにちゃんと声を掛けてきたので振り向く。
土方はふと紙をペラっと翳し「岡田以蔵は先日土佐に移送され処刑されたようだぞ」と述べた。
紙を見た瞬間にわかることだ、そんなこと…。
「頭の武市にも処刑とくだされたらしい。土佐勤王党は実質解散だな」
「……そうですか」
「…坂本龍馬については、何かあったら報告をくれ。
とは言っても、今は幕府の重鎮と仲良しみたいで…なかなか手も出せない」
当て付けだろうか。
それなら、もう挨拶も済んだしとまた帰ろうとするが「まぁ待て、」と言われれば仕方ない。皮肉にも、金をそれなりに貰っている恩義という意識が掠め、また振り向く。
随分寝ていなさそうだ。しかし、土方は真面目な面で見上げてきた。
これは…何か確証、戦略…そういった志士の魂、熱い何かを含んでいる。
それもそうか、なんせこの負けん気が随分コケにされているのが現状なのだから。それに…関係があるのなら、若干面倒ではあるが…。
「…そこに、怪しい影があるのは分かってるよな?お前も。
ちょこまか小賢しく、動き回ってる奴が」
…それは。
彼はニヤッと笑い「お前にとっちゃ因縁だよな」と、まるで悪戯を仕掛ける子供のような口調。
…宛なんてひとつしかない。だが、それは確証ではなく…。
皮肉にも、義父を殺したあの風景が頭をチラつく。これは、あれに似た状況。
「…今日のところは、これにて」
本当に去ろうとする背後から「考えといてくれ」と言われた。
だとしたら、因果応報とはこのことかもしれないが。どうやら生きるということは、繰り返すらしい。どれだけ捨てても。
花街に向かう短い道程で、一度息を吸い直す。
「高麗人参と丁度よく」
「ならない、不味い!
てゆうかさ、僕から言うのもなんなんだけど、高麗人参って高いって松本先生が言ってたよ?」
「そりゃあまぁ…せやけど土方さん持ちですし」
「…さっきのボロ刀、貸してよ。ついでに頼んでおくから」
「………」
色々を考えた。
多分沖田は、経費だとかなんだとかではなく、安い刀鍛冶に自腹で仕事を与えているのだ。
無名の刀を治す鍛治など、困窮している。
「…わての生計を考えるんなら、その前に」
沖田は錫杖刀の柄の先をキュッと握り「やらせて」と言った。
「まだ諦めてないから、いまあんたの不味い薬を飲んでるわけだし…」
意外と、優しい青年なんだな。
持ってる刀も明らかに、他の幹部よりも安手の物だ。しかし、仕事量的にはきっと、金はある。
「…免じてお頼みしますが、なんや、そうもなんか湿臭く言わんでくださいよ。明日にはくたばりそうな挨拶ですやん」
「ははっ、憎まれ口は本当、天下一だよね」
さて、用は済んだ。金清楼にそろそろ行かねばなと「また来ますね」と去る間際に沖田が「ありがとうね」と言った気がしたが、聞こえなかったことにしよう。なんせ、あの小生意気な沖田総司だ。
それでいい、それがいい。
一応、毎度挨拶をしてから出ることにしている。
先程土方もいたしなと副長室に寄り「では、また明日」と帰ろうとしたが、今度は土方が「あー、そうだ」と、久方ぶりにちゃんと声を掛けてきたので振り向く。
土方はふと紙をペラっと翳し「岡田以蔵は先日土佐に移送され処刑されたようだぞ」と述べた。
紙を見た瞬間にわかることだ、そんなこと…。
「頭の武市にも処刑とくだされたらしい。土佐勤王党は実質解散だな」
「……そうですか」
「…坂本龍馬については、何かあったら報告をくれ。
とは言っても、今は幕府の重鎮と仲良しみたいで…なかなか手も出せない」
当て付けだろうか。
それなら、もう挨拶も済んだしとまた帰ろうとするが「まぁ待て、」と言われれば仕方ない。皮肉にも、金をそれなりに貰っている恩義という意識が掠め、また振り向く。
随分寝ていなさそうだ。しかし、土方は真面目な面で見上げてきた。
これは…何か確証、戦略…そういった志士の魂、熱い何かを含んでいる。
それもそうか、なんせこの負けん気が随分コケにされているのが現状なのだから。それに…関係があるのなら、若干面倒ではあるが…。
「…そこに、怪しい影があるのは分かってるよな?お前も。
ちょこまか小賢しく、動き回ってる奴が」
…それは。
彼はニヤッと笑い「お前にとっちゃ因縁だよな」と、まるで悪戯を仕掛ける子供のような口調。
…宛なんてひとつしかない。だが、それは確証ではなく…。
皮肉にも、義父を殺したあの風景が頭をチラつく。これは、あれに似た状況。
「…今日のところは、これにて」
本当に去ろうとする背後から「考えといてくれ」と言われた。
だとしたら、因果応報とはこのことかもしれないが。どうやら生きるということは、繰り返すらしい。どれだけ捨てても。
花街に向かう短い道程で、一度息を吸い直す。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
Get So Hell? 2nd!
二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末。
For full sound hope,Oh so sad sound.
※前編 Get So Hell?
※過去編 月影之鳥
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――
黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。
一般には武田勝頼と記されることが多い。
……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。
信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。
つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。
一介の後見人の立場でしかない。
織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。
……これは、そんな悲運の名将のお話である。
【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵
【注意】……武田贔屓のお話です。
所説あります。
あくまでも一つのお話としてお楽しみください。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる