Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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飛車

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 すかさず青鵐が「翡翠はここ抜けてから4年は経つから若いモンには謎の人なんや…」と補足してくる。

「ぼーさんは来んかったもんなぁ、女郎より年季短いんよ、本来の男娼はな…」
「あっ、そーなんやね!?」
「せやけどまぁ次、てのもなかなか…てなもんでなぁ、わりとここは長寿がいる方なんよ。わてもやし」
「…気になってたんですけどあんたはつまり、いくつ」
「おっと、そこは遊郭とおんなじやでぼーさん。歳は聞いたらあかんあかん。殺されるわ」
「あ、すませ、」

 「ぼーさんは殺せんやろ!」だの「駆け落ちくらいが丁度えーよね!」だの、まるで明るい雰囲気。
 うーん、流石飲み屋だ…。

「まぁ、若いモンとは言いつつ翡翠もクソガキくらいやったんやけどねぇ、はは、まぁ兄さん呼びする子ぉらも出てきたんやなーと染み染みするわぁ。来た頃なんてホンマ、はは、ホンマ擦れ切ったクソガキやったんになぁ、目に光もないような」

 流石にウチに来た時はギラギラしていたがそうか、この店にいればそうもなりそうだ。
 まぁ、翳をチラつかせるようなヤツだった気はする。あれじゃぁ、なかなか接客は向いていなかったのかもしれない。

 青鵐が誰でもなく「誰か酒持ってきぃ」と指示をした。

「ん?」
「え?そーゆーこっちゃろ?言いたいことは」
「あ、まぁまぁそうなんやけどその……俺は酒飲めなくて…」

 ついつい小声になるが「は!?解禁やないの!?あんさん!」と、江戸っ子のような、上特有のノリのような…。

「あ、いや、ホンマに止めときます。なんか徳というかホンマに人道も仏道も神道もなんもかんも外れそうなんで、ハイ。せやけど今日は一応ご供養には来たんで、ハイ」

 「相手は忘八なのに?」だの「そんなん言うて、あんさんめんこいなぁ」だの「酔ったらどないなるん?」だの、慣れては来たがこの空気、大変だ、なかなか体力を使う。
 「やめい、やめや」と窘めつつも明らかに面白がっている青鵐に、いやまぁそう、多分仏が望んだからこうもなっているのかなぁ…と、珍しく坊主らしいことを考える。

 取り敢えず早く来ないんか翡翠は…と、一度「外見てきますね」と出てみて今更気付く。店の扉には「喪中ノ為、本日臨時休業」と張り紙がしてあった。いつの間に貼ったんだろう。

 あんな風には見える場所だが、現実はこうだよな。
 部屋に戻る。喪中、姦しい空気にやはり戸惑いつつ。

 薬箱を背負い「よいしょっと」と翡翠が現れた瞬間、助かった~!より先に、確かになんとなくだが店そのものの空気が変わったような気がした。

 どうやら、翡翠が来ると一瞬張りつめるらしいと、こういう立場で物を見て知る。

 ここは翡翠にとって良い場所か悪い場所かも、朱鷺貴にはずっと測りかねていた。だから、骨壷を持って、という窓口を作ったつもりだった。

 開け放たれたままの部屋に、まるでいつもそうしていたような様子で入ってくる当の翡翠は、いつも通りで寺にしては派手、しかし茶屋にしては地味な服装だったんだなと、最初より集まってきた従業員を眺めて思った。本当に裏方だったんだな、お前は。

 しかし、「わあ、翡翠兄さん!」やら「男らしくなったねぇ」やら、わちゃわちゃと皆に言われている翡翠はそう、化粧で固めた男娼達より遥かに存在感はあった。

 意外と面、良かったんだった、そういえば。女顔だけど。

「遅れ遊ばしまして。皆元気そうやね」

 朱鷺貴と目が合えば「っはは!皆虐めんといてあげてくださいな!」と笑う、それで空気がまたころりと変わった。

 不思議なやつ。今更だけど。だからこそどこも性に合わなかったのかもしれない。
 それはある意味、自由で羨ましい。

「あぁ翡翠、今日は酒盛りやで、久々に一曲弾いてや」
「えー、三味線置いて来ちまいましたよ、朱里兄さんのやつ」
「あぁ、あれ、朱里のやったんか」

 青鵐がふと朱鷺貴を見、「店主、物捨てれん人やったんよ」と耳打ちした。

「…意外、」
「せやろ。あんたが来る前にチラッとな、箪笥見たらまー出てくる出てくる。
 おい皆、忘八のもんは全部持って行きや、お下がりやけどええもんばっかやで!
 朱里だけはまぁ…どうやろな、翡翠はいくつか貰ってそうやなあの感じは。
 朱里っちゅーのは藤嶋さんのお手付きやったんよ。まさか、残ってるとはわても思わんかった」
「…ええっと…」
「翡翠の前の女っちゅーこっちゃねん。翡翠の…兄貴分でもあったんやけど、まぁま、随分前に労咳でな」

 確かにそういえば、いくつか藤嶋から何かを貰っていたな。三味線も最近、寺に坊主が減ってからたまに弾いて…暇な時にふざけて般若心経に乗せていた…。

 なんとなく大切なものなんだろうとは思っていた。手入れも随分丁寧にしていたし。そんな経緯があったのか。

 物にも魂が宿る。しかしそれは生きている者の感情だ。
 あれは魂抜き完了だな、最早。と、ぼんやり考える。

 しかし…。

「もしかして、その方だけやなく、皆」
「御明答。ここで死んだヤツらの遺品や」

 …それを聞いてしまうと「えー、皆さん皆さん」と言うしかない。

 薬箱を置いて「茶あシバいて来ましょか?」と言う翡翠と「いや酒やっちゅーねん」と言う青鵐に「御神酒な御神酒。あと塩を多めに」と朱鷺貴は付け足した。

「遺品整理はいいのですが、そうですねこの人が化けて出るかもしれんので、一回魂抜きをさせてください。それから持って行ってくださいねー」
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