Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

文字の大きさ
上 下
92 / 108
霧雨

8

しおりを挟む
「…どうも…」 

 しかも、気もそぞろらしい。
 熱い陶器に口を付けてしまい「熱っ」と声を出してしまうような無防備さ。珍しい。いつも翡翠はわざわざ茶を冷まさねば、飲めない。

 すぐにはっと湯飲みを置き息を殺しつつ、「すまへん、おおきにトキさん」と目を合わせ、また聞き入ろうとしたが「開けろ」という藤嶋の声で襖が開いた。

「さて、話は終わりだ」

 最初に藤嶋が部屋から出てきて「なんだ?お前らか?だんだらはどうした」と言うがすぐ、伊東の演説が耳に付いたらしい。

「なーんだ、仕事をしねぇ役人は困ったもんだな」

 西郷を見上げ「待つか?」と聞く藤嶋に西郷は「いんやどっちでもよか。おいどんは護衛をつけとるけん」と答える。

「んー、まぁじゃあいいか。この勢いだと俺がミブロに殺されそうだよなぁ」

 …もしや。

「あんた、謀ってたのか?」
「ん?」

 直に朱鷺貴がそう言えば、藤嶋は何故だか少し眉を寄せ「んなわけねーだろ」と言った。

「何を謀るんだ。俺は神様でもなんでもねぇぞ」
「…陰陽師だったか?」
「それは安倍晴明だ。勉強しろよ坊主なんだから」
「ふうん。じゃあ戒名もそれなりかな」
「慮るならそれでいい。
 護衛がアレじゃあ、仕方ねぇからコレ借りんぞ」
「は?」

 集団は有無を言わず歩き出し、「おいちょい待て待て、」と止めたが意外にも「じゃあいい」と、藤嶋は投げやりに返してきた。

「…は?」
「おいそう来られると俺はどうすりゃいいんだ朱鷺貴。顔色悪ぃし寝とけアホ」
「……機嫌悪いのかよあんた。めんどくせぇな」
「…わかりました。行きましょうか藤嶋さん。
 トキさんはあの狐野郎の対応に追われますね……何々、『新撰組とは別として』って……」
「おー怖っ。じゃ、帰るわ。西郷どん、こうなりゃあの浪人集団ぶっ潰した方が早いんじゃねぇの?まぁあんたがやることじゃねぇみてぇだが」
「…そげなこと、あんさんはぁ、」
「あーあー、こーゆー人なんですこの売女野郎は、昔から。恩も徳もありまへん」

 …そぉのわりには、着いてっちゃうのぉ…?

 と、今し方翡翠に言われた「対応に追われる」という一言が身に染みた。

 堂の声も、止み始めている。そろそろ終わるのだろう、早いものだ。頭が良いと口もまわるらしいと、去り行く集団に「ホンマか…」と、朱鷺貴は一人ごちた。
しおりを挟む

処理中です...