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弾丸
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「…自分についてはどう考える」
「首は洗ってないぞ、今朝からな。あれはわかっていてやってるんだ、こうなることを……随分、昔からな」
「…場合によってはお前も」
「別にいい。だが、はは、俺も大人になったもんだ。あの寺に入った話をしても良いか?」
別にいいと言いつつ、ふとそんなくだらない話をしたくなる。
壬生寺に着く頃に土方は言った、「皮肉なもんだな」と。
壬生寺、これは…弁天台か、それと水掛地蔵の間、弁天台に寄り掛かる藤嶋がいた。
藤嶋はいつも通り、何も面白くなさそうな表情でこちらをチラッと見るのみで、こちらは間を通るのみ。
そして龍の水場の前では、少し前に翡翠から聞いていた沖田が…痩せたような気がする、目の下に隈を作り確かに具合が良くなさそうな体で刀を手にし立っていた。
亀甲縛りにされ白州に御座が敷かれたのみの場所に正座させられた、見るも無惨な幹斎の後ろで。
本当はその瞬間、まるで刻が止まったような衝撃を受けた。
こんなものを目にすると、やはりこうも思うのかと…歯すら鳴りそうで仕方なく手を握る。それも…じっとりするのを感じる。自分は今、平常な顔をしているだろうか。
幹斎は疲れきった顔色だが、まるでわかっていたかのような口調、目の色は強く「久しぶりだな朱鷺貴」と言った。
…怒りなのかそうでないのかはわからない、だが暑くて炎天下が己を沸騰させるような気がする。
息を噛み殺しているうちに土方が冷淡に「大方、状況は説明した」と告げる。
「…では、切腹の介錯は私が」
沖田が改まる中、土方が横目で「どうする?坊さん」と振ってきた。
話さなければ、よかったか。
いや、土方はあの文を…予想が出来る。
久坂は辞世の句など、聞いた限りその場で書けたものじゃない、恐らく……。
そんな男だ、多分自分の話などなくとも同じ事を言ったのだろう。
誰が敵であれ、見方であれ。
「沖田はいま、具合が良くない」
「…待ってください土方さん。坊さんに首を切らせようなんて、正気ですか」
沖田がそう言うのに土方は掌を見せ制し、「あんたはどう思うんだ?藤原さん」と藤嶋に振った。
「は?」
「…同じ門下なんだろ、」
「…へぇ、」
皮肉な表情を見せた藤嶋は「よく行き着いたな、まぁ隠してねぇけど。流石身辺整理がお得意なようで」と言い捨て返す。
「取捨選択は芸術だと思うよ。興味ねぇけど」
「はっ、」
幹斎はまるでくつくつと笑い「まぁ、そうだったな」と言った。
「……わかった。
…沖田くん。土方さんの言う通りだ。身体に染みるのは良くない」
「…え、」
汗も酷いしなと、しかし、少し…冷淡になれた気がした。
朱鷺貴は腕を組むついでに……考えたが、一度しゃがんでグッと、幹斎の顎を掴み上げてまた離した。
「呼び出した理由くらい聞いてやろうと思ったが、説法か?はいどーぞ」
「…そうだな。
仏教には「死を目にすること、知ることもならない」という教えがあったと思う。それが如何様な理由があれど穢れをもたらすと」
「…そんなものは疾うの昔に破られた掟だったろ。今更何を言う」
すぅ、と息を吸う。
「俺はあんたを見送ることにする。
沖田くん、下がってくれ」
その静かな空気に、沖田もすっと刀を納め、「わかった」とだけ言った。
場には、静粛に冷たい空気が流れ始めた。
恐らくは隠されるように植わった…木々のお陰だ。弁天台も、目を背けるような。
「…幹斎和尚。
俺は、あんたが寺を離れてからも考え続け、疑問だった。逢仏殺仏、相祖殺祖の意味が」
「…答えは出たか」
「…坊主の教えは結局、悟りを開いた者が悟りを開かぬ者へ残す戯れ言で、そんなものは利己という“形がないという型”に嵌まった物なんだと、解釈した」
噛み締める。
いや、噛み殺す、そして目を閉じまた息を吸う。
「…そうか」
静かに淡々とした和尚を朱鷺貴は見下ろす。幹斎が自分をどう眺めるのか、知りたかった。
幹斎はふと、笑ったのだった。
「…仏でもないあんたに俺が考えを言うのならばもう腹は…もっと前に決まっていたんだ。
無差別というのはいずれ、どのような形であれ人を殺すと。あんたは、その俺の訴え故に俺を呼んだのか」
「……」
「冗談じゃない、」
砂利が足に軋むような感触、あの日の、木の臭いが薫ってくるような気になる。
「俺はあんたを一生許すことが、出来ないだろう」
沼の匂いや砂利の音、それすら静かに刻となり、流れていく。
本日は晴天で、この香りは土や池の水も混ざる薄暗さも、乾いた風もある。
幹斎は縛られたまま、後ろに立つ沖田を見た。
沖田に腕の縄を解かれながら「朱鷺貴、」と呼び、見上げてくる。
間を持ち、「切腹というのはな」と更に続けた。
「…武士の教えだが、切腹には3つの手管がある。
一文字と三文字と十文字とで、大抵は、一文字だ」
そして、脇差しを抜き放つ。
「首は洗ってないぞ、今朝からな。あれはわかっていてやってるんだ、こうなることを……随分、昔からな」
「…場合によってはお前も」
「別にいい。だが、はは、俺も大人になったもんだ。あの寺に入った話をしても良いか?」
別にいいと言いつつ、ふとそんなくだらない話をしたくなる。
壬生寺に着く頃に土方は言った、「皮肉なもんだな」と。
壬生寺、これは…弁天台か、それと水掛地蔵の間、弁天台に寄り掛かる藤嶋がいた。
藤嶋はいつも通り、何も面白くなさそうな表情でこちらをチラッと見るのみで、こちらは間を通るのみ。
そして龍の水場の前では、少し前に翡翠から聞いていた沖田が…痩せたような気がする、目の下に隈を作り確かに具合が良くなさそうな体で刀を手にし立っていた。
亀甲縛りにされ白州に御座が敷かれたのみの場所に正座させられた、見るも無惨な幹斎の後ろで。
本当はその瞬間、まるで刻が止まったような衝撃を受けた。
こんなものを目にすると、やはりこうも思うのかと…歯すら鳴りそうで仕方なく手を握る。それも…じっとりするのを感じる。自分は今、平常な顔をしているだろうか。
幹斎は疲れきった顔色だが、まるでわかっていたかのような口調、目の色は強く「久しぶりだな朱鷺貴」と言った。
…怒りなのかそうでないのかはわからない、だが暑くて炎天下が己を沸騰させるような気がする。
息を噛み殺しているうちに土方が冷淡に「大方、状況は説明した」と告げる。
「…では、切腹の介錯は私が」
沖田が改まる中、土方が横目で「どうする?坊さん」と振ってきた。
話さなければ、よかったか。
いや、土方はあの文を…予想が出来る。
久坂は辞世の句など、聞いた限りその場で書けたものじゃない、恐らく……。
そんな男だ、多分自分の話などなくとも同じ事を言ったのだろう。
誰が敵であれ、見方であれ。
「沖田はいま、具合が良くない」
「…待ってください土方さん。坊さんに首を切らせようなんて、正気ですか」
沖田がそう言うのに土方は掌を見せ制し、「あんたはどう思うんだ?藤原さん」と藤嶋に振った。
「は?」
「…同じ門下なんだろ、」
「…へぇ、」
皮肉な表情を見せた藤嶋は「よく行き着いたな、まぁ隠してねぇけど。流石身辺整理がお得意なようで」と言い捨て返す。
「取捨選択は芸術だと思うよ。興味ねぇけど」
「はっ、」
幹斎はまるでくつくつと笑い「まぁ、そうだったな」と言った。
「……わかった。
…沖田くん。土方さんの言う通りだ。身体に染みるのは良くない」
「…え、」
汗も酷いしなと、しかし、少し…冷淡になれた気がした。
朱鷺貴は腕を組むついでに……考えたが、一度しゃがんでグッと、幹斎の顎を掴み上げてまた離した。
「呼び出した理由くらい聞いてやろうと思ったが、説法か?はいどーぞ」
「…そうだな。
仏教には「死を目にすること、知ることもならない」という教えがあったと思う。それが如何様な理由があれど穢れをもたらすと」
「…そんなものは疾うの昔に破られた掟だったろ。今更何を言う」
すぅ、と息を吸う。
「俺はあんたを見送ることにする。
沖田くん、下がってくれ」
その静かな空気に、沖田もすっと刀を納め、「わかった」とだけ言った。
場には、静粛に冷たい空気が流れ始めた。
恐らくは隠されるように植わった…木々のお陰だ。弁天台も、目を背けるような。
「…幹斎和尚。
俺は、あんたが寺を離れてからも考え続け、疑問だった。逢仏殺仏、相祖殺祖の意味が」
「…答えは出たか」
「…坊主の教えは結局、悟りを開いた者が悟りを開かぬ者へ残す戯れ言で、そんなものは利己という“形がないという型”に嵌まった物なんだと、解釈した」
噛み締める。
いや、噛み殺す、そして目を閉じまた息を吸う。
「…そうか」
静かに淡々とした和尚を朱鷺貴は見下ろす。幹斎が自分をどう眺めるのか、知りたかった。
幹斎はふと、笑ったのだった。
「…仏でもないあんたに俺が考えを言うのならばもう腹は…もっと前に決まっていたんだ。
無差別というのはいずれ、どのような形であれ人を殺すと。あんたは、その俺の訴え故に俺を呼んだのか」
「……」
「冗談じゃない、」
砂利が足に軋むような感触、あの日の、木の臭いが薫ってくるような気になる。
「俺はあんたを一生許すことが、出来ないだろう」
沼の匂いや砂利の音、それすら静かに刻となり、流れていく。
本日は晴天で、この香りは土や池の水も混ざる薄暗さも、乾いた風もある。
幹斎は縛られたまま、後ろに立つ沖田を見た。
沖田に腕の縄を解かれながら「朱鷺貴、」と呼び、見上げてくる。
間を持ち、「切腹というのはな」と更に続けた。
「…武士の教えだが、切腹には3つの手管がある。
一文字と三文字と十文字とで、大抵は、一文字だ」
そして、脇差しを抜き放つ。
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