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弾丸
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「情報は錯綜しているだろうが長州は始め、天皇側に着いていたと聞いているが?」
「ああ…そうだ。ある日突然長州は朝敵となった。
会津としては、どの道幕府の命で動いている。が、幕府は朝廷の命で動くんだよ坊さん。
俺たち新撰組は最後、長州兵の参謀が一人、真木って野郎をその寺まで追い掛けたんだが、真木は爆弾を拵えていた」
土方は両手を上げる動作をし、「寺からまるで、これ以上踏み入るなと守るように一人の坊主が出て来た」と続けた。
「…真木はそのまま俺たちを目前にして寺の側で自ら爆死したんだが、その坊主は真木が死ぬのを見届け、自らこちらに降伏してきたんだ」
…は?
「こちらとしてはその坊主から口を割らせるつもりだったが、そもそもそうしなくても坊主は自ら語り始めた。
その坊主は爆薬の作り方を知っていたよ」
土方は袖から一枚文を取り出し、まるで切ない表情でそれを渡してきた。
「坊主は切腹前に弟子を連れて来いと言ってな。…お呼び出しだ、南條朱鷺貴」
文を、開く。
時鳥 血爾奈く声盤 有明能 月与り他爾 知る人ぞ那起 久坂玄瑞
話を終えた頃、親慧は「どうぞ!」と、盆に乗せた茶器を持ってきてくれた。
朱鷺貴はさっと文をしまい、「…どうも」と茶器を受け取り、まるで地面に足も付かぬような感覚で親子の元へ向かった。
言わずと土方は着いてきたが、知らぬうちに気配は消えている。
翡翠がチラッと後ろを見たので、本当に後ろから見守ることにしたのだろうと思う。
朱鷺貴が茶を親子に渡す間、翡翠がすっと立ったが「待て、」と宥める。
「…お西さんまで連れて行ってやってくれ。最高僧親慧殿にも言ってきた。
俺は少し野暮用をこなして来るから」
「野暮用…?」
「あぁ、幹斎が」
土方に気付いた子供が「あれやあれっ!」と震え始める。
母も気付き子の目を掌で覆って視線の先に言った、「こんの、人でなしぃ!」と。
ふっと、去るように歩き出した土方を見て「頼んだぞ翡翠」と告げ、その際に、久坂の辞世の句を渡しておいた。
壬生寺へ向かう最中、ふっと…見てわかった。足元に弾丸の跡、恐らく出火原因だろう場所、それは御所の門で、「堺町門っつーらしいが」と土方は語り始める。
「ここに一発やった。例の、久坂玄瑞という長州兵がここから侵入したからだ」
「……」
「久坂は…知ってるか?吉田松陰って。あれの友人だった鷹司って現関白へ、藩主の減刑を天皇に伝えてくれと、話しに言ったそうだ。
鷹司は…長州へ軍資金を出すって言ってみたりとしていたらしい。
…これは独り言だがな。そんなのってあるかよって、思わねぇか?」
「…なるほど」
「ちなみにあの公家店主いたろ?あれはどうやら鷹司家に繋がりがあるやつなんだそうだ」
「…は?」
「鷹司輔煕の前まで久坂は行ったんだよ。だが、鷹司は火事で逃げ出した。まぁ、燃やしたからな。
けれど久坂は切腹を選んだようだ、もう一人の仲間とその場で刃交えてな。
この戦に、何が残ったんだろうなって、少し考えているところだ。結局、天皇様々は市中の荒れっぷりに、江戸へ向かったよ」
そんなもの。
じゃぁ、あの“粛清”された吉田稔麿がやろうとしていたことと、どう違うのか。
きっと、これは本人が一番感じていることだろうが。
「…天秤に掛けるつもりはないが」
「いい。言うな」
…じゃあ。
「いや、言うぞ。この鬼が」
「…ははは。なるほど、鬼か。納得だ」
更に、開け放たれた…禁じ門まで歩き、「これだ」と、残された弾丸を見せられた。
「…これは俺たちが来る前にこうなっていた。薩摩の…西郷という男が長州の首謀、来島又兵衛の兵を殺ったそうだ」
…確かにこんな物がと、弾痕をみて恐ろしくなった。
辺りにはまだ、戦の跡が染みている。
「戦略としては長州を通さずこれで全員殺っちまおうって腹だったが、西郷は木島の1兵のみを殺って持ち場を離れた。
俺たちは最後、逃げた真木を追った。そして、だ」
…この久坂の戦死を高杉は知っているのだろうか。
「…全く。潔すぎてな。でも俺はあと一歩、悔しいという感情じゃない。俺は…これも一人言だ、魂があるもんだと思う。悪人なんかじゃなくて」
「…明日は我が身ってか。
形のないものは、形がないという形である。仏教の教えだ」
「…はは、坊さんが言うことはやっぱ、わかんねぇもんだな。元々俺には学がない」
「…そうきっぱりと切り捨てられるならまだ良いもんだと…じゃあこれも嫌味だ。江戸っ子にもわかるか」
「…容赦ねぇでやんの。鬼はどっちなんだか。
なぁ、幹斎は」
「言うな。いい」
間を持ち、土方はやはり「いや、」と言った。
「文字通り首を洗って待っている」
「そうか」
まぁ…土方と自分の違うところと言えば、自分は結果をわかっていた、それだけだと朱鷺貴には思えた。
「ああ…そうだ。ある日突然長州は朝敵となった。
会津としては、どの道幕府の命で動いている。が、幕府は朝廷の命で動くんだよ坊さん。
俺たち新撰組は最後、長州兵の参謀が一人、真木って野郎をその寺まで追い掛けたんだが、真木は爆弾を拵えていた」
土方は両手を上げる動作をし、「寺からまるで、これ以上踏み入るなと守るように一人の坊主が出て来た」と続けた。
「…真木はそのまま俺たちを目前にして寺の側で自ら爆死したんだが、その坊主は真木が死ぬのを見届け、自らこちらに降伏してきたんだ」
…は?
「こちらとしてはその坊主から口を割らせるつもりだったが、そもそもそうしなくても坊主は自ら語り始めた。
その坊主は爆薬の作り方を知っていたよ」
土方は袖から一枚文を取り出し、まるで切ない表情でそれを渡してきた。
「坊主は切腹前に弟子を連れて来いと言ってな。…お呼び出しだ、南條朱鷺貴」
文を、開く。
時鳥 血爾奈く声盤 有明能 月与り他爾 知る人ぞ那起 久坂玄瑞
話を終えた頃、親慧は「どうぞ!」と、盆に乗せた茶器を持ってきてくれた。
朱鷺貴はさっと文をしまい、「…どうも」と茶器を受け取り、まるで地面に足も付かぬような感覚で親子の元へ向かった。
言わずと土方は着いてきたが、知らぬうちに気配は消えている。
翡翠がチラッと後ろを見たので、本当に後ろから見守ることにしたのだろうと思う。
朱鷺貴が茶を親子に渡す間、翡翠がすっと立ったが「待て、」と宥める。
「…お西さんまで連れて行ってやってくれ。最高僧親慧殿にも言ってきた。
俺は少し野暮用をこなして来るから」
「野暮用…?」
「あぁ、幹斎が」
土方に気付いた子供が「あれやあれっ!」と震え始める。
母も気付き子の目を掌で覆って視線の先に言った、「こんの、人でなしぃ!」と。
ふっと、去るように歩き出した土方を見て「頼んだぞ翡翠」と告げ、その際に、久坂の辞世の句を渡しておいた。
壬生寺へ向かう最中、ふっと…見てわかった。足元に弾丸の跡、恐らく出火原因だろう場所、それは御所の門で、「堺町門っつーらしいが」と土方は語り始める。
「ここに一発やった。例の、久坂玄瑞という長州兵がここから侵入したからだ」
「……」
「久坂は…知ってるか?吉田松陰って。あれの友人だった鷹司って現関白へ、藩主の減刑を天皇に伝えてくれと、話しに言ったそうだ。
鷹司は…長州へ軍資金を出すって言ってみたりとしていたらしい。
…これは独り言だがな。そんなのってあるかよって、思わねぇか?」
「…なるほど」
「ちなみにあの公家店主いたろ?あれはどうやら鷹司家に繋がりがあるやつなんだそうだ」
「…は?」
「鷹司輔煕の前まで久坂は行ったんだよ。だが、鷹司は火事で逃げ出した。まぁ、燃やしたからな。
けれど久坂は切腹を選んだようだ、もう一人の仲間とその場で刃交えてな。
この戦に、何が残ったんだろうなって、少し考えているところだ。結局、天皇様々は市中の荒れっぷりに、江戸へ向かったよ」
そんなもの。
じゃぁ、あの“粛清”された吉田稔麿がやろうとしていたことと、どう違うのか。
きっと、これは本人が一番感じていることだろうが。
「…天秤に掛けるつもりはないが」
「いい。言うな」
…じゃあ。
「いや、言うぞ。この鬼が」
「…ははは。なるほど、鬼か。納得だ」
更に、開け放たれた…禁じ門まで歩き、「これだ」と、残された弾丸を見せられた。
「…これは俺たちが来る前にこうなっていた。薩摩の…西郷という男が長州の首謀、来島又兵衛の兵を殺ったそうだ」
…確かにこんな物がと、弾痕をみて恐ろしくなった。
辺りにはまだ、戦の跡が染みている。
「戦略としては長州を通さずこれで全員殺っちまおうって腹だったが、西郷は木島の1兵のみを殺って持ち場を離れた。
俺たちは最後、逃げた真木を追った。そして、だ」
…この久坂の戦死を高杉は知っているのだろうか。
「…全く。潔すぎてな。でも俺はあと一歩、悔しいという感情じゃない。俺は…これも一人言だ、魂があるもんだと思う。悪人なんかじゃなくて」
「…明日は我が身ってか。
形のないものは、形がないという形である。仏教の教えだ」
「…はは、坊さんが言うことはやっぱ、わかんねぇもんだな。元々俺には学がない」
「…そうきっぱりと切り捨てられるならまだ良いもんだと…じゃあこれも嫌味だ。江戸っ子にもわかるか」
「…容赦ねぇでやんの。鬼はどっちなんだか。
なぁ、幹斎は」
「言うな。いい」
間を持ち、土方はやはり「いや、」と言った。
「文字通り首を洗って待っている」
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