Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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弾丸

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 …先程から本堂には、弾丸が如く怒号が飛び散っていた。
 数ヵ月前からここは寺ではなく、兵士用の長州藩邸に成り代わったのだ。

『進軍をせぬとは何事か久坂よ』

 本堂の扉に寄り掛かり、幹斎は聞き耳を立てる。

 佳境に入った下関戦争。そこから一人の若者がここへやってきた。
 まだここまで殺伐とはせず、平和だった頃に一度だけ目にしたことがある若者。久坂玄瑞という男だった。

『…貴方が憎んでおられるのは先日の池田屋の件かと思われる。その悔しきはわかる、私も志士だからだ』

 …それは、7月の頭の頃だった。

 あの凄惨な事件を功績とし、会津藩預り役、通称“壬生浪みぶろ”と呼ばれていた壬生浪士組が、正式に『新撰組しんせんぐみ』という隊名を授かったらしい。

 寺にいる長州組は一丸となり、「戦をする」という雰囲気の中、幹斎にはその若者が変わっているように感じられた。

『何より、孝明様は退けと命じているではないか。いまはまだ、期ではない』

 明日行かんとするこの戦を、彼は必死に止めようとしているのだ。
 あまり詳しい事情は坊主にはわからないが、想像は容易に出来る。

 長州は英、仏、蘭、米と戦争をしている。
 もう一人、彼の悪友である若者はいま、脱藩の罪で牢にぶち込まれながらも、どうやらこれら四ヶ国から吹っ掛けられた賠償金についての交渉を行っているらしい。

 いまや金も兵もない状況下で騒ぎ始めたのは、それら若者の大義を知らぬ爺達ばかり。首謀の一人には神職だなど自称した久留米くるめの爺もいる。

 朱鷺貴よ…とつい、想いを馳せてしまった。

 條徳寺の話も、朱鷺貴とのやりとりが途絶えてしまったが、風に乗り飛んできていた。
 いま、我が弟子は寺終いをしているらしい。

『医者坊主にはわかるまい、武力を見せつけてやろう。我は今から悪人共を退治しに行く、』

 悪人。
 その怒号と共に、粗野な首謀の一人が数名を引き連れ本堂から出て行ってしまった。

 …情とは碌なものではない。どこか自分の内で、長州藩の者達に同情的な気分になるのだから。

 彼らは何故、朝敵となってしまったのか。

 若者は真面目だ。
 今回は武力行使ではなく、ただただ話し合い汚名を…藩主の懲罰をどうにかと、動いているだけに過ぎぬようだと聞き取る。

 長州藩が数々と行ってきた脅しのような行為はこうした、頭に血の登った者達の迷走だというのもここまでくれば坊主でもわかる。
 けして口出しはせず、そうして見守ってきたのだから。

 暫くすれば久留米の爺と久坂が話し合う声が聞こえてきた。
 結局一人飛び出してきた若者は、まるで息を上げ汗をかいている。

 目が合い互いに見つめ合い、若者はふっと笑って「どうやら…」と、俯いて拳を握っていた。

 押し殺したような声で「長らくの我が藩の御無礼…、ご迷惑を」と声を震わせる若者に「まぁ来い」と、幹斎は久坂と共に縁側へ座り庭を眺めた。

 若いせいか彼は暫くし、パチンと腕を叩き掌を眺めた。蚊に刺されたらしい。

「若いなぁ。儂など」 

 と言っているうちにちくっと頭に何かが刺さった感触。
 パチッと叩いて手を見れば、血塗れだった。

「はぁ、珍しいな、久しく刺されていなかった。線香の匂いなど嫌うのにな、こいつらは」

 殺生をしてしまったが、「南無」に留める。

「…はは、大罪だ」
「私は……」

 彼は、刺された腕を少し掻きながら語る。

「師匠の首をこの腕で持ち帰りながらも考えていた。日本を、治す医者になりたいと」

 そうか。君は、医者だったのか。

 久坂は諦めたように笑い、「真木殿にあぁは言ったのですが」と、懐から二枚の文を取り出し、一枚を渡してきた。

 幹斎が開いているなか、手元に残した方は見もせず「請願書なんかを預かっているのです」と、その文はまた自分でしまった。

「師匠は私達に『遅かった、異人を斬れ』等と残したのです。
 期はまだ満ちぬまだ満ちぬと言った最期にそう覆した。
 私には意味がわからなかったが、友は師匠の意を組み、今や下関で戦っている…。
 などと、坊主に聞かせてはならぬ話でしょうが」
「…では、何故、」
「…情けないことに、もうわからないからです。私には話術もない。何より戻る道がないから…ですかね。私は、友を置いていくと決めました」
「…そうか」
 
 …ここに来た時点で、彼は「死ぬこと」を考えていたのかもしれない。

「そうやって先に繋ぐことは出来ると…これは、あの男にしか出来ないことです。わかっているのです、それは甘えた考えだと。
 これをただ、師匠の友人に渡しに来たのみなのですがね。本当は彼らを止める気も技量も…私にはありません」
「…仏教には「死を目にしてはならない、知ってはならない」という教えがある。君は、それを人柱だと捉えるか?」

 聞いてみたくなった。ただ、それだけは。

「そんなに高尚なものではない、冗談じゃありませんよ。ただ、彼はどうやら、私を待たせてはくれなかったのです」

 …夏風の温さに、何故こうもヒヤリとしたものを感じるのか。

「…君は、立派な志士だと儂は思う。儂は君の声を聞いたわい」

 こんな、高尚でも碌でもない儂が。
 辞世とは、何か。この文の送り先を考えてみる。
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