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不垢不浄
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帰りは昼過ぎ、夕暮れの近くになっていた。
場所が場所だったせいか、寺よりも随分前で降ろされ、駕籠はまた来た道を戻った。
あの猿顔息子と特に話すこともなく歩いて寺まで帰ったが、門の前には丁度、今帰ったのか翡翠と武田が立って話している。
武田はニタニタと翡翠の細い腰、ケツ付近に手を当てていた。
なるほど…本当に衆道なのかもしれないな。
しかし翡翠も慣れたものだ、身を少し翻し、寺から走ってきた小姓の対応をしている様。
「あ、武田組長」と猿顔が声を掛けると武田はこちらを見、その手をパッと離し「ああ、ご苦労様佐久間くん」と、平然とした。
「あら?お帰りなさいトキさん」
少しだけ力を抜いた翡翠は「お出かけ…?ですか?」と疑問そう。
“新撰組”の二人は「では、改めて。何かありましたら」といつも通りに市中の方へ帰って行く。
翡翠は今小姓から受け取ったばかりの文を渡してきた。それは、各寺からの返信だった。
それで特に何かを聞いてくるわけではないが、「随分な駕籠だったろ」と朱鷺貴は自ら翡翠に話しを振ることにした。
「……後見職とやらからお呼び出しだ」
「……ん?」
少し小声で(所謂次期将軍だ)と朱鷺貴が囁くと、当たり前に翡翠は「(は…)次期将軍!?」と、重要な部分が大声で、はっと口を手で塞ぐ。
「お前と入れ違いだったよ…あんのクソチンピラ副長殿とそれがやってきてな…」
「え、なんで!?まぁ確かに副長殿は…うーん、鉄面皮の癖にどうも浮き足だった調子で帰ってきては、えらい楽しそうに罪人を絞め上げとりましたが、」
「うっわー…」
「大方寝ずに生き残りをね、吐かせたようやで昨日のアレ」
「……ナニソレ!?」
「ホンマに祇園の最中に御所でボヤ騒ぎを起こし、偉い人と将軍を拐おうとしていたとか、なんとか、と盗み聞きをしました。けど、殆どは土佐の浪人やったとか、なんとか。
幕府関係の公卿の人やったかなぁ?つまり公武合体論者を」
「……うっわー怖っ。ちょっと待ってこの話部屋入ってからにしよ、誰もいない?俺つけられてない?」
「……気配はないけどええ匂いやねぇ、白檀や…ないね…?まあそんなええとこなんやもんね。幽霊とどちらが」
「なんもいないのが一番ええわ…こ…怖っ!」
下手すりゃそれ、間違えば今頃俺も燃やされて死んでたじゃん…。
拷問されるのとどちらが良いんだか。土方に恨み言も吐いたし、死んだら悪霊になってたかもしれんな…。
手元の紙を眺め、もう早くしないとな…と眺めるが、なんとなく読まなくてもわかる。
悠禅も昨日言っていたし、ボヤやらなんやらで市中の寺も嫌になっているだろう…。
翡翠が茶を用意する間、そうか、悠禅はどう言いくるめて壬生寺に返したのだろうと考えたが、あんな騒ぎではもしかすると案外あっさりだったのかもしれない。
手紙は3通しか返ってきていなかった。
1通目つらつらつら…はい、ダメ。
2通目あの高台寺、あれ、一人自ら行ったんだけど人員募集?朝の話を思い出した、保留。
3通目、真言宗は…お、良いかもしれない。場所も市中…いや、市中を外している場所の方が実はあの新撰組、やりそうだよなと、それだけは取り敢えず頭に入れた。枠は一人、二人か…。
2通と考えれば確かに、残りは捌けるが…うーん。
と悩むうちに翡翠が部屋に戻り、「どうです?」と聞いてきた。
「うーん…捌けそうだけど怪しいから一人、二人は確定…あちらさんはな。真言宗だし誰かいないか、明日面談しようかな」
「…大変やねぇ、雑把でええならわてが振りますが…」
「…一件、高台寺なんだよなぁ…」
「…え、」
「先日一人出て行ったよなぁ…あそこに。今度はあちらさんから人員募集と来ていて…人数は書いてない」
「…怪しいですな」
「だよなぁ…まぁ、行きたいヤツがいればだが…。あれ、前回と違うヤツが送ってきてる…なんて読むんだこれ、コウシ?キネ?ん?てゆうか宇田って…?」
「ん?」
翡翠も手紙を覗けば確かに、変な名前だ。伊東甲子太郎(宇田兵衛)とある。
「…今年って甲子年だっけ?」
「あぁ、えっと…宇田兵衛って…聞いたことあるような…」
翡翠がそろばんを弾き「あ、そうやわ甲子やわ」というのに少し…成長を感じたというより、やはり今日はよく考えるな、江戸を思い出した。
「…うわぁなんか感慨深い…」
「ん?」
「いやそろばん軽く教えたよなと…まぁお前、元々出来はしたんだけどさ…」
「…そう言えばそうやね、金計算はよくやりましたが年計算はトキさんから教わりましたなぁ」
「懐かし」と二人で同時に吐いたところではっと、「そう言えば悠禅はどうした?」と、朱鷺貴は思い出した。
場所が場所だったせいか、寺よりも随分前で降ろされ、駕籠はまた来た道を戻った。
あの猿顔息子と特に話すこともなく歩いて寺まで帰ったが、門の前には丁度、今帰ったのか翡翠と武田が立って話している。
武田はニタニタと翡翠の細い腰、ケツ付近に手を当てていた。
なるほど…本当に衆道なのかもしれないな。
しかし翡翠も慣れたものだ、身を少し翻し、寺から走ってきた小姓の対応をしている様。
「あ、武田組長」と猿顔が声を掛けると武田はこちらを見、その手をパッと離し「ああ、ご苦労様佐久間くん」と、平然とした。
「あら?お帰りなさいトキさん」
少しだけ力を抜いた翡翠は「お出かけ…?ですか?」と疑問そう。
“新撰組”の二人は「では、改めて。何かありましたら」といつも通りに市中の方へ帰って行く。
翡翠は今小姓から受け取ったばかりの文を渡してきた。それは、各寺からの返信だった。
それで特に何かを聞いてくるわけではないが、「随分な駕籠だったろ」と朱鷺貴は自ら翡翠に話しを振ることにした。
「……後見職とやらからお呼び出しだ」
「……ん?」
少し小声で(所謂次期将軍だ)と朱鷺貴が囁くと、当たり前に翡翠は「(は…)次期将軍!?」と、重要な部分が大声で、はっと口を手で塞ぐ。
「お前と入れ違いだったよ…あんのクソチンピラ副長殿とそれがやってきてな…」
「え、なんで!?まぁ確かに副長殿は…うーん、鉄面皮の癖にどうも浮き足だった調子で帰ってきては、えらい楽しそうに罪人を絞め上げとりましたが、」
「うっわー…」
「大方寝ずに生き残りをね、吐かせたようやで昨日のアレ」
「……ナニソレ!?」
「ホンマに祇園の最中に御所でボヤ騒ぎを起こし、偉い人と将軍を拐おうとしていたとか、なんとか、と盗み聞きをしました。けど、殆どは土佐の浪人やったとか、なんとか。
幕府関係の公卿の人やったかなぁ?つまり公武合体論者を」
「……うっわー怖っ。ちょっと待ってこの話部屋入ってからにしよ、誰もいない?俺つけられてない?」
「……気配はないけどええ匂いやねぇ、白檀や…ないね…?まあそんなええとこなんやもんね。幽霊とどちらが」
「なんもいないのが一番ええわ…こ…怖っ!」
下手すりゃそれ、間違えば今頃俺も燃やされて死んでたじゃん…。
拷問されるのとどちらが良いんだか。土方に恨み言も吐いたし、死んだら悪霊になってたかもしれんな…。
手元の紙を眺め、もう早くしないとな…と眺めるが、なんとなく読まなくてもわかる。
悠禅も昨日言っていたし、ボヤやらなんやらで市中の寺も嫌になっているだろう…。
翡翠が茶を用意する間、そうか、悠禅はどう言いくるめて壬生寺に返したのだろうと考えたが、あんな騒ぎではもしかすると案外あっさりだったのかもしれない。
手紙は3通しか返ってきていなかった。
1通目つらつらつら…はい、ダメ。
2通目あの高台寺、あれ、一人自ら行ったんだけど人員募集?朝の話を思い出した、保留。
3通目、真言宗は…お、良いかもしれない。場所も市中…いや、市中を外している場所の方が実はあの新撰組、やりそうだよなと、それだけは取り敢えず頭に入れた。枠は一人、二人か…。
2通と考えれば確かに、残りは捌けるが…うーん。
と悩むうちに翡翠が部屋に戻り、「どうです?」と聞いてきた。
「うーん…捌けそうだけど怪しいから一人、二人は確定…あちらさんはな。真言宗だし誰かいないか、明日面談しようかな」
「…大変やねぇ、雑把でええならわてが振りますが…」
「…一件、高台寺なんだよなぁ…」
「…え、」
「先日一人出て行ったよなぁ…あそこに。今度はあちらさんから人員募集と来ていて…人数は書いてない」
「…怪しいですな」
「だよなぁ…まぁ、行きたいヤツがいればだが…。あれ、前回と違うヤツが送ってきてる…なんて読むんだこれ、コウシ?キネ?ん?てゆうか宇田って…?」
「ん?」
翡翠も手紙を覗けば確かに、変な名前だ。伊東甲子太郎(宇田兵衛)とある。
「…今年って甲子年だっけ?」
「あぁ、えっと…宇田兵衛って…聞いたことあるような…」
翡翠がそろばんを弾き「あ、そうやわ甲子やわ」というのに少し…成長を感じたというより、やはり今日はよく考えるな、江戸を思い出した。
「…うわぁなんか感慨深い…」
「ん?」
「いやそろばん軽く教えたよなと…まぁお前、元々出来はしたんだけどさ…」
「…そう言えばそうやね、金計算はよくやりましたが年計算はトキさんから教わりましたなぁ」
「懐かし」と二人で同時に吐いたところではっと、「そう言えば悠禅はどうした?」と、朱鷺貴は思い出した。
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