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夢の日々
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「わしゃぁお上さんのことなん、全く興味もないのになぁ、そんなことよりカンパニーっちゅーのを作りたいんじゃけんど」
「何ですかそれは」
言った瞬間、朱鷺貴自ら気が付いた。つい、知らぬ単語に食いついてしまった。
案の定、翡翠からは「なんで聞いたんだ」という非難の視線を浴び、坂本からはにまにま、得意気な表情をされてしまう。
「聞きたいか?聞きたいか?せやけど…ふふふ、まんだ先の話でなぁ」
「…そりゃあ聞かん方がええね」
「カンパニーっちゅうのはな、米国の…まぁ店じゃ店。わしゃあ今、勝……えぇと麟太郎先生とな、そんために船の……まぁ、海での戦の仕方を学んどるところなんじゃ」
「海での戦…?店と何の関係が?」
つい、聞いてしまった。
さらに視線は刺さる。
坂本は非常に嬉しそうに「よう聞いたよう聞いた!!」と肩をがっしり掴んでくる。
「ええか?異国は戦で儲けとるんじゃ。まんず、黒船は海を渡って日本まできたわけじゃけんど」
うわぁ、本当に聞かなければよかった。
しかし坂本は一人でペラペラペラペラ、飯もそぞろに語りを止めない。
まるで経のようだ…しかも食後になれば非常に眠くなる。
翡翠はあの、佐久間象山を思い出していた。あれと同じ現象が起きている。
何を言っているのか、わかるようでわからないような気がしなくはないが、いまのいままであの文書は取って置いてある、変に刺激はあるのだからなんとも言えない気持ちになるのだ。
これもまた、息を止めていないのではないかという程、あれからこれからどんどん話が流れていくのだからしょうがない。
朱鷺貴も最早頭のなかで「観自~在~菩~薩~ぅ」と唱え始めている。まずカンパニーなるものは客と店と、そこに自治体のような纏まった団体等を交えるような考え方である、というのだがその“客”を“異国”とする“貿易”の考えだということ。
米国などは特に、日本よりも遥かに広い、故に売買は客(異国)の方が多い、まぁ言いたいことはわかる。
それにはまず、下田やらなんやらと言っておらずまずは国単位で開港してしまえ、うん、まぁ言いたいことはわからなくもない。
商品、というのを何に置き換えてもいい、相手を知る、つまりは「文化」も知ることが出来る、まぁわかる、相手を知れば相手が欲しいものを理解出来る、しかしそれがもしも伴わないなら「開発」すれば良いではないか。思想は大いにわかった。
「米国は今、よそん国と殺り合うてる、せやから武器が売れるんじゃ。しっかし、日本は米国が欲しい武器を作れん、何故なら戦い方を知らんからじゃ。
ここを学ぶ言うんはつまり、いずれ米国と殺り合う時には日本は相手の手を知っちょる、どうじゃ効率ええじゃろ?」
「ん~」
実態が無いことがそのまま形になっているのだ……。
「相手に対抗も出来るし金回りもようなる、こげな素晴らしい案、他にないじゃろ?な?」
「なるほど~……」
「そもそもなして米国と殺り合う前提になっとるんですか?」
「…は!?」
翡翠は単純な疑問を投げてみたのだが、そんな態度をされてしまった。これもまた話の着火要因になってしまったかもしれない。
「やつらは不平等条約を叩き付けて来たんやで!」と、更に話は進路を変えた。
これは恐らく長い…翡翠も頭のなかで「捨~利~子ぃ~」と始めてしまう。
……まぁ、実は自分達の予想以上にこの日本は切迫しているのではないか、という雰囲気は感じられた。
だが、どうも坂本の意志が「では、何をしたいのか」というところと言えば、やはり坊主と考え方は異なってくる。
元商家であり藤宮一門や茶屋にいた翡翠にはわかるところもあるにはあった。商売を回せば確かに、皆餓えることがないのだと。
そこが最低限の線で、それ以上は「欲」となってくる。そして欲の行き先は米国のように「戦」となってくる。それでは一向に堂々巡りになる…。
合うわけがない、単純に坊主は争わないのだから。
それでも争いは起きている、だからこそ“俗世”と呼ぶのかもしれないとは思えたが。
「…坂本さん」
話が途切れた瞬間を見計らい、(しかしそれは話が途切れたわけではなくただ、坂本が息を吸っただけにすぎないが)朱鷺貴はふと割って入った。
「んにゃ?なんか」
「以前俺が言ったことを覚えてますか?「欲に溺れるな」という話を」
坂本は閉口した。
見事にズブズブと浸かりに行っているように感じられる。
夢というのは、一見、空か何か、宙にあるように感じてしまうから、足元が覚束ないのかもしれない。
「…まぁ、そやな。坊さんには無縁の話かもしれんけど、」
「言いたいことはわかる。けれども坊主は“無”が最終的なところなんで…。
勤勉真面目、勉強は世を捨てていないうち、つまりは死ぬまでは必要なことなんで、大変有り難く拝聴しますけどね。
我々坊主は誤り、利己を押し付けては失格だと俺は考えてる。商品の話で言えば“最後、遺族がどうすれば報われるのか”というところは、投げるんです、相手に」
「何ですかそれは」
言った瞬間、朱鷺貴自ら気が付いた。つい、知らぬ単語に食いついてしまった。
案の定、翡翠からは「なんで聞いたんだ」という非難の視線を浴び、坂本からはにまにま、得意気な表情をされてしまう。
「聞きたいか?聞きたいか?せやけど…ふふふ、まんだ先の話でなぁ」
「…そりゃあ聞かん方がええね」
「カンパニーっちゅうのはな、米国の…まぁ店じゃ店。わしゃあ今、勝……えぇと麟太郎先生とな、そんために船の……まぁ、海での戦の仕方を学んどるところなんじゃ」
「海での戦…?店と何の関係が?」
つい、聞いてしまった。
さらに視線は刺さる。
坂本は非常に嬉しそうに「よう聞いたよう聞いた!!」と肩をがっしり掴んでくる。
「ええか?異国は戦で儲けとるんじゃ。まんず、黒船は海を渡って日本まできたわけじゃけんど」
うわぁ、本当に聞かなければよかった。
しかし坂本は一人でペラペラペラペラ、飯もそぞろに語りを止めない。
まるで経のようだ…しかも食後になれば非常に眠くなる。
翡翠はあの、佐久間象山を思い出していた。あれと同じ現象が起きている。
何を言っているのか、わかるようでわからないような気がしなくはないが、いまのいままであの文書は取って置いてある、変に刺激はあるのだからなんとも言えない気持ちになるのだ。
これもまた、息を止めていないのではないかという程、あれからこれからどんどん話が流れていくのだからしょうがない。
朱鷺貴も最早頭のなかで「観自~在~菩~薩~ぅ」と唱え始めている。まずカンパニーなるものは客と店と、そこに自治体のような纏まった団体等を交えるような考え方である、というのだがその“客”を“異国”とする“貿易”の考えだということ。
米国などは特に、日本よりも遥かに広い、故に売買は客(異国)の方が多い、まぁ言いたいことはわかる。
それにはまず、下田やらなんやらと言っておらずまずは国単位で開港してしまえ、うん、まぁ言いたいことはわからなくもない。
商品、というのを何に置き換えてもいい、相手を知る、つまりは「文化」も知ることが出来る、まぁわかる、相手を知れば相手が欲しいものを理解出来る、しかしそれがもしも伴わないなら「開発」すれば良いではないか。思想は大いにわかった。
「米国は今、よそん国と殺り合うてる、せやから武器が売れるんじゃ。しっかし、日本は米国が欲しい武器を作れん、何故なら戦い方を知らんからじゃ。
ここを学ぶ言うんはつまり、いずれ米国と殺り合う時には日本は相手の手を知っちょる、どうじゃ効率ええじゃろ?」
「ん~」
実態が無いことがそのまま形になっているのだ……。
「相手に対抗も出来るし金回りもようなる、こげな素晴らしい案、他にないじゃろ?な?」
「なるほど~……」
「そもそもなして米国と殺り合う前提になっとるんですか?」
「…は!?」
翡翠は単純な疑問を投げてみたのだが、そんな態度をされてしまった。これもまた話の着火要因になってしまったかもしれない。
「やつらは不平等条約を叩き付けて来たんやで!」と、更に話は進路を変えた。
これは恐らく長い…翡翠も頭のなかで「捨~利~子ぃ~」と始めてしまう。
……まぁ、実は自分達の予想以上にこの日本は切迫しているのではないか、という雰囲気は感じられた。
だが、どうも坂本の意志が「では、何をしたいのか」というところと言えば、やはり坊主と考え方は異なってくる。
元商家であり藤宮一門や茶屋にいた翡翠にはわかるところもあるにはあった。商売を回せば確かに、皆餓えることがないのだと。
そこが最低限の線で、それ以上は「欲」となってくる。そして欲の行き先は米国のように「戦」となってくる。それでは一向に堂々巡りになる…。
合うわけがない、単純に坊主は争わないのだから。
それでも争いは起きている、だからこそ“俗世”と呼ぶのかもしれないとは思えたが。
「…坂本さん」
話が途切れた瞬間を見計らい、(しかしそれは話が途切れたわけではなくただ、坂本が息を吸っただけにすぎないが)朱鷺貴はふと割って入った。
「んにゃ?なんか」
「以前俺が言ったことを覚えてますか?「欲に溺れるな」という話を」
坂本は閉口した。
見事にズブズブと浸かりに行っているように感じられる。
夢というのは、一見、空か何か、宙にあるように感じてしまうから、足元が覚束ないのかもしれない。
「…まぁ、そやな。坊さんには無縁の話かもしれんけど、」
「言いたいことはわかる。けれども坊主は“無”が最終的なところなんで…。
勤勉真面目、勉強は世を捨てていないうち、つまりは死ぬまでは必要なことなんで、大変有り難く拝聴しますけどね。
我々坊主は誤り、利己を押し付けては失格だと俺は考えてる。商品の話で言えば“最後、遺族がどうすれば報われるのか”というところは、投げるんです、相手に」
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