Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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遠離

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 笑いそうになってしまう。

 取り残された悠蝉を見て、まぁしっかりせねば、しかし、また違うと「悠蝉」と呼んでおいた。

「つまりこの寺には何も残らないという話だ。あのアホ法師・・の柵とやらは絶たれる」
「は、」
「俺は明日から檀家や寺院を虱潰しに歩き、ここの者達の行く場所をどうにか探さねばと」
「…なんで、」
「いつ焼き打たれても構わないようにだ。俺なりの始末だがどうだろうか。あてがった手前、君には最初に言っておきたかった」

 …勝手だ。

 誰が勝手だったのかと言えば、誰も勝手ではないが、寺の者はそうして集まった。

「……酷い話です」
「あぁ、そうだろう」
「私は納得もいかんからまぁ、新派やなく、持ち出して行こうかと…朱鷺貴、お前に賛同する者はどれ程いるかな」
「壮士殿…?」
「こいつは謂わば賊やで、悠蝉。世話になった最高僧を捨てようなど、恥を知れ朱鷺貴」
「了見が狭いですね。俺は元々仏教、いや、神様なんて信じていない」
「…それがお答えですか、朱鷺貴殿」
「あぁ、だから君がどうしたって」
「やはり宝積寺へ向かいます」

 どうにも変わらなそうか…。
 幹斎も、いっそ悠蝉にもう少しだけ与えてあげればよかったものを…それからでも、よかったじゃないか。

 壮士にも少し動揺はあったらしく「お前、」と詰まりそうに続けた。

「…何を言うか、……朱鷺貴、」
「…あ、あぁはい」
「お前この子供にそう押し付けて…なんと情けない」

 …実は、案外考える人なんだよなと、少し喉元を下げ「悠蝉、」と諭す心境になる。
 確かに、話さなければよかったか…いや、そもそも幹斎を含めた自分も勝手なのだ。

「宝積寺には行けないよ」
「…何故、」
「あちらは今や話題の長州過激派の巣窟だ、疑心暗鬼に至っているだろう。足を踏み入れる前に殺されるかもしれない。事実、俺の元に文すら」
「だったらなんだって言うんですか」

 …気の強い。
 流石だが、…そうだな。

「もとはと言えば誰が悪いんですか、私には皆勝手に見える。朱鷺貴殿、それも含めて私に話したのではないのですか」
「………」

 そうだったかもしれない。

「…聞いてなかったのですか、お前は。仏教に於いて生き死にの話しなどは禁句です。ましてや死など。大罪で」
「…いや、壮士殿」

 逆説かもしれないな。

「確かにあんたのそれが正しい。悠蝉、そう言うことだ。お前が死ぬと宣言するならば俺はお前を止めなければならなくなった」
「…は?」
「そう言うことだ悠蝉。甘い。お前が何をしようと……勝手だな。別にいいけれども。だが忘れるな、そしてそうなら数々、関わったものをも揺るがすと…」

 我ながら恐らくはこの気の強い少年に…まぁ、当てられたのだろうか、随分怒ったような口調だ、これほど作ることが出来るようにもなったのかと自分で感心する。

「…俺のようになるんじゃない。
 わかったらこの話はおしまいだ。今のところそれぞれなんとなく、寺院は頭に浮かべている。こうして面談は行うが」
「それは」
「押し付けだな。しかし圧を掛けるつもりはない。
 清水寺の下に高台寺という寺がある。そこはかつて俺が足を運んだ場所だ。実態は佐幕勤王を吟っているが。頭に入れておいてくれ」
「…佐幕?」
「もしくは…壬生寺かな。知っての通り知り合いだ。彼らも今や打倒長州と」
「…けしかけるのですか、朱鷺貴殿」
「いや」

 ただただ、少し興味はあるんだが。

 一度目を閉じる。いつでも酷な方を、か。言われてみればそうかもしれないな。こんなにも胸が痛い。

「………」

 悠蝉は黙りこけ何かを考え始めたようだった。
 壮士は「馬鹿馬鹿しい、」と、聴覚では否定的だが、初めてだ、微妙に切ないような、何か慮るような目付きをしてくるのだから、いままでのことが回想されていく。

「お前など、…神を語る資格もない。やっていけんな朱鷺貴」
「そうですね」
「私は私で勝手にやろう」
「そうしてください。助かります」

 考える機会は沢山あった。
 この、暇で平和な世界に飛び込んでから。なのに、どうしても気付かなかったことは次々と沸いてくる。

 これも、知恵の完成かと思えば、やはり皮肉でしかない。いや、単純にもう、ぎゅっとするのだ。

 自分はこれを耐える器ではない…そう思い続けている。だから先を見なければならないのだ。
 せめて、だからこそこうはなるなと、自分の本音が少し出ただけだ。

 言って欲しかった物だよ、幹斎和尚。これは酷く勝手で…そして生温い。

 壮士が呆れたような態度を取り去って行く。
 悠蝉はまだ、座り込み拳を固め俯いていた。

「…朱鷺貴殿、」

 声も潰れそうだ。

「私が教わったことは、一体なんだったんでしょう」
「…それは、」

 答えられない。
 禅問答にそもそも、答えなんて書いてはいないのだから。“正しいか”すら、形を成さない。

「…でも、少しだけわかった気もします」
「…それは、何よりだ」

 捨てないで欲しい。本当は。
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