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静寂と狭間
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…やりそうだな、藤嶋なら。
「お前らの面倒なんて見たことねぇよ。お前が言ってんのは関白の話だろ?なら、鷹司は充分まだ、見捨ててないだろうけど…っはははは!」
まるでおかしいと言いたそうに藤嶋は笑う。
「…まぁ、良い嗅覚だな。吉田稔麿と言ったか。
あの首を持ってきたのは藤宮という男だろ?しかし、あれはお前たちにそれほど益のあった官僚だったのか?」
「…は?」
そして吉田は、まるで拍子抜けしたように一瞬気を納めた。
「…お前ら全員、頭悪ぃよな。バーカ。保身に人頼ってんじゃねぇよ。公家もなぁ、なんで戦えないかわかるか?お前も今言ったろ?世間知らずだからだよ」
意味もなくなったからか、藤嶋は戸を離れ当たり前に茶を煎れ始める。
そこで漸く翡翠を見、「で、お前はなんなの?」と聞いてくる。
「…別に。あの坊主がそわそわそわそわ落ち着かんので。一言言うてやったらええのに」
「なんで?」
「…そういうところやで藤嶋さん。あんた、わざわざそんなせんでも、充分性格悪いんやから、ただ迷惑になるだけです」
「っはは!
で、なんだ?」
うん、そうだな。
「“知ることもなければ”ですね。
吉田さん、あんた八徳ってあったでしょう?つまりそういうことですよ。影できっと“忘八”と呼ばれてますからね」
「…なるほど?」
そしてくつくつと「…っははははは!」とこちらも笑い出すのだから、あぁ、充分気が可笑しいのだと思った。
「…僕ぁね、藤嶋さん。
あんたの言うつまらない現象とおさらばし、あんたと心中しても良いと思ってんですよ」
「やーだよっ。お前みたいな品のないガキは好みじゃない」
「あっそうですか…」
吉田のあまりに落ち着いた声色に、一瞬反応が遅れてしまった。
吉田が脇差しの鯉口を切り刃を少しちらつかせたあたりで「あっ、」と、翡翠は咄嗟に、吉田を膝立ちの状態で後ろから押さえたが。
「……っ、」
抵抗するようなその手の力に、そうだ以前も押されたのだと思い出す。
「…あれ、あんたなんか、腑抜けたな。もう少し早かった、ような、」
「……っ、」
「このままだとすっぱり、刃先が胴あたりを掠めるんじゃねぇかなぁ、」
吉田はそう言って刀を引き戻したが、同時に柄の先で腹あたりを軽く突かれた。
ふいに、柄を持っていたその左手が太股に伸ばされた、と思った瞬間に気付いた、苦無がさっと抜かれ…。
「っ……!」
太股に冷たい刃先が伝う、痛みが走った。
性格が悪い、まるでなぶるようにさーっと一本傷を付けられる。
「流石だな、声すら出さないなんてな、」
うるさい、出ないんだよこういう時……。
びしゃっと何かが少し掛かり、傷に染みた。
同時にがんっと、鈍い音、そして吉田の手も苦無も弾かれ、流石に少し、互いに声が漏れた。
視界に、茶飲み。
藤嶋が怒りを露にし、眉を潜め息を殺して茶飲みを投げたようだった。
ガクッと、体勢が崩れてしまう。
吉田が「痛ぇな、」と、まるでぼんやりとその手を眺めていた。
「……怒らせましたか」
「とっとと帰んな。俺を殺したくば貴様らで来いよクソッタレ、」
「………」
何を察したのかはわからない。
吉田はすっと立ち「残念だ」と吐き捨てる。
「上官は皆平和主義だな、反吐が出る。死神が聞いて呆れた」
そして手首を回し「あぁ痛い」と皮肉を言って部屋を去っていった。
戸が閉められるとまず藤嶋は、「何やっとんだこのアホが、」と怒り、がさがさと慌てたように薬箱を漁る。
初めて見たかもしれない、どうやら藤嶋は切羽詰まっている。
イライラと通仙散か軟膏かと出し、箪笥を漁り始めたので「大事ないで、藤嶋さんっ、」と、腹に力を入れて声を出した。
「……少々、痛いですけどね…、慣れてます」
「うるさい、」
んなわけねぇよと言う藤嶋に…気が抜けたわけではないが兎に角仰向けになった。
不覚だ。確かに寺での平和な生活に慣れていた。これも「世間知らず」なのだろうか…。
「なんこーで、充分やから、」と言ったはいいが何故か、急激に泣きそうになり目を腕で隠す。
どうしたというのだろう。この、逼迫した空気だろうか。
さささっと藤嶋が側に寄り、かぽっと開けた酒をぶっ掛けてくる。
「……ぅっ、」
「痛ぇだろ、」
流石に歯の間から声が出る、かなり染みた。
傷を見て「全くホンマに性根の悪い、品もない、」等とぶつぶつ言っている。
少し腕をずらして見たら、藤嶋は自分の趣味ではないだろう女物の帯に、軟膏を塗っていた。
…バカだなぁ、この人。全く碌でもない。
「……へたくそっ、」
声が切れて弱々しくなった。
一度その手が止まったのがわかる。しかし思い切りぎゅっと絞られ「うるせぇよ」と言われた。
軋む。
「浅い。筋だし…朝には血は止まるだろう…。
飯か、飯だな。料理長に言って」
「ええです帰ります」
「動くんじゃねぇよ…アホかお前は、全く」
「…だから、どのみち…ぼーずも心配してますし、」
「無理だから。お前が悪い」
全く。
「バカはあんたや、この忘八っ!」
「うるさい」
ふと、藤嶋は頭に手を当ててきて…えらくゆったり、撫でてくる。
何事もないように部屋から出ていったとわかり、そのパタリとした静寂に少しだけ…息がしにくく歯を噛んだ。
それはまるで、刄を喉元に当てるように。
「お前らの面倒なんて見たことねぇよ。お前が言ってんのは関白の話だろ?なら、鷹司は充分まだ、見捨ててないだろうけど…っはははは!」
まるでおかしいと言いたそうに藤嶋は笑う。
「…まぁ、良い嗅覚だな。吉田稔麿と言ったか。
あの首を持ってきたのは藤宮という男だろ?しかし、あれはお前たちにそれほど益のあった官僚だったのか?」
「…は?」
そして吉田は、まるで拍子抜けしたように一瞬気を納めた。
「…お前ら全員、頭悪ぃよな。バーカ。保身に人頼ってんじゃねぇよ。公家もなぁ、なんで戦えないかわかるか?お前も今言ったろ?世間知らずだからだよ」
意味もなくなったからか、藤嶋は戸を離れ当たり前に茶を煎れ始める。
そこで漸く翡翠を見、「で、お前はなんなの?」と聞いてくる。
「…別に。あの坊主がそわそわそわそわ落ち着かんので。一言言うてやったらええのに」
「なんで?」
「…そういうところやで藤嶋さん。あんた、わざわざそんなせんでも、充分性格悪いんやから、ただ迷惑になるだけです」
「っはは!
で、なんだ?」
うん、そうだな。
「“知ることもなければ”ですね。
吉田さん、あんた八徳ってあったでしょう?つまりそういうことですよ。影できっと“忘八”と呼ばれてますからね」
「…なるほど?」
そしてくつくつと「…っははははは!」とこちらも笑い出すのだから、あぁ、充分気が可笑しいのだと思った。
「…僕ぁね、藤嶋さん。
あんたの言うつまらない現象とおさらばし、あんたと心中しても良いと思ってんですよ」
「やーだよっ。お前みたいな品のないガキは好みじゃない」
「あっそうですか…」
吉田のあまりに落ち着いた声色に、一瞬反応が遅れてしまった。
吉田が脇差しの鯉口を切り刃を少しちらつかせたあたりで「あっ、」と、翡翠は咄嗟に、吉田を膝立ちの状態で後ろから押さえたが。
「……っ、」
抵抗するようなその手の力に、そうだ以前も押されたのだと思い出す。
「…あれ、あんたなんか、腑抜けたな。もう少し早かった、ような、」
「……っ、」
「このままだとすっぱり、刃先が胴あたりを掠めるんじゃねぇかなぁ、」
吉田はそう言って刀を引き戻したが、同時に柄の先で腹あたりを軽く突かれた。
ふいに、柄を持っていたその左手が太股に伸ばされた、と思った瞬間に気付いた、苦無がさっと抜かれ…。
「っ……!」
太股に冷たい刃先が伝う、痛みが走った。
性格が悪い、まるでなぶるようにさーっと一本傷を付けられる。
「流石だな、声すら出さないなんてな、」
うるさい、出ないんだよこういう時……。
びしゃっと何かが少し掛かり、傷に染みた。
同時にがんっと、鈍い音、そして吉田の手も苦無も弾かれ、流石に少し、互いに声が漏れた。
視界に、茶飲み。
藤嶋が怒りを露にし、眉を潜め息を殺して茶飲みを投げたようだった。
ガクッと、体勢が崩れてしまう。
吉田が「痛ぇな、」と、まるでぼんやりとその手を眺めていた。
「……怒らせましたか」
「とっとと帰んな。俺を殺したくば貴様らで来いよクソッタレ、」
「………」
何を察したのかはわからない。
吉田はすっと立ち「残念だ」と吐き捨てる。
「上官は皆平和主義だな、反吐が出る。死神が聞いて呆れた」
そして手首を回し「あぁ痛い」と皮肉を言って部屋を去っていった。
戸が閉められるとまず藤嶋は、「何やっとんだこのアホが、」と怒り、がさがさと慌てたように薬箱を漁る。
初めて見たかもしれない、どうやら藤嶋は切羽詰まっている。
イライラと通仙散か軟膏かと出し、箪笥を漁り始めたので「大事ないで、藤嶋さんっ、」と、腹に力を入れて声を出した。
「……少々、痛いですけどね…、慣れてます」
「うるさい、」
んなわけねぇよと言う藤嶋に…気が抜けたわけではないが兎に角仰向けになった。
不覚だ。確かに寺での平和な生活に慣れていた。これも「世間知らず」なのだろうか…。
「なんこーで、充分やから、」と言ったはいいが何故か、急激に泣きそうになり目を腕で隠す。
どうしたというのだろう。この、逼迫した空気だろうか。
さささっと藤嶋が側に寄り、かぽっと開けた酒をぶっ掛けてくる。
「……ぅっ、」
「痛ぇだろ、」
流石に歯の間から声が出る、かなり染みた。
傷を見て「全くホンマに性根の悪い、品もない、」等とぶつぶつ言っている。
少し腕をずらして見たら、藤嶋は自分の趣味ではないだろう女物の帯に、軟膏を塗っていた。
…バカだなぁ、この人。全く碌でもない。
「……へたくそっ、」
声が切れて弱々しくなった。
一度その手が止まったのがわかる。しかし思い切りぎゅっと絞られ「うるせぇよ」と言われた。
軋む。
「浅い。筋だし…朝には血は止まるだろう…。
飯か、飯だな。料理長に言って」
「ええです帰ります」
「動くんじゃねぇよ…アホかお前は、全く」
「…だから、どのみち…ぼーずも心配してますし、」
「無理だから。お前が悪い」
全く。
「バカはあんたや、この忘八っ!」
「うるさい」
ふと、藤嶋は頭に手を当ててきて…えらくゆったり、撫でてくる。
何事もないように部屋から出ていったとわかり、そのパタリとした静寂に少しだけ…息がしにくく歯を噛んだ。
それはまるで、刄を喉元に当てるように。
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