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静寂と狭間
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「さ……3,000んんん!?」
「えぇ多分…」
「集まんのか、そんなに!いまの時代、」
「いや知らんけど…」
「それホンマの話か?」
「多分…」
「うっわ…。
ちょい待てちょい待て、え?壬生浪とか前回17人って、言ってなかったっけ!?」
「あ、そういえばそうかも」
「あー……なる、ほど…。言うほどじゃないって、何、そーゆーこと…?」
脱力したようだ。
「…いや、わかりませんよトキさん」
そしてしまいには眉間を揉んで黙り込んでしまった。
…しかし照らし合わせてみると確かに、どうにも明るくは見えない。だが、まるで夏の蜃気楼、ぼやけて感覚を失いそうなほど途方もない話だ。
「…山崎の…合戦はな、」
まるでくらくらするかのように朱鷺貴は一人、話し始める。
「…あそこを陣とし勝利した太閤秀吉は、いくつの軍勢を集めたか知ってるか?」
「え、いや…」
「戦国の世の当時だ、万単位ではあっただろうが兎に角、明智の倍以上の兵を集めて大勝利した。勝因の一つには場所が関係するのは有名だが、」
なるほど、国境か。
本能寺の変は京の町中、つまり秀吉は上から明智を責めた…ということだろうか。
「それは上から攻めた、言うことでしょうか」
「いや、初動も遥かに早く、更に左右にも陣営を置いたんだよ。
鵯越の逆落とし、飛ぶ鳥を落としさらに囲い込みをしたわけだ。こうもなると、蜘蛛の巣と言った方がしっくり来る」
太閤秀吉と、明智光秀…。
「けど…」
例えるなら。
現代版山崎の戦とするのであれば、大分形勢が逆転しているように捉えられる。
「朝廷、薩摩、幕府と会津が長州を落とそうということなんだろうか…」
「あ、そうか、公武合体やっけ。なるほど、それがあの、島津光久がやって来た理由なんやね…」
「だろうな。
…だからわざわざ、アレはどうしてそうしたのか…。厄介だ。しかし俺の元には連絡も来ず」
「似た者同士かもしれませんね、トキさん。藤嶋と和尚は」
「かくて得ることもないのだから、悟りを求める者が知恵の完成に住する…か。笑わせてくれるなよ、全く…」
涅槃とは。
「どうせ、一生を掛けたってどこにも行けやしないというのに」
「…そうやね」
「これが知恵の完成だとアレが言うならば、俺はもう…知らん。無知はなくならないって神も言うわけだし、ホンッマふざけんで欲しいもんだわ」
幹斎がわざわざ、朱鷺貴の父親の首を跳ねたのだと語られたことを思い出す。
幹斎は…やはり朱鷺貴の親代わりか…、実はもしかすると自身が思うよりも上手く生きられていないのではないか、そんな気もしてきた。
「なしてこうも…皆勝手なんやろ」
互いに本音だ。
これは、しかし吐いて捨てるものでもない。
「多分、あんさんには一生向きませんよ、トキさん」
「それでいいや」
涅槃か。
誤解をしていたのかもしれないと気付いた。アレらがもしもその場所を「涅槃」と捉えるのなら、自分も確かに、逆説でいい。
少し、すっとしたような気がした。
「わてもそう思います。どっかに飛んで行くんは…なんでやめましょうね、トキさん」
「…なんだか、」
朱鷺貴は砕けたように言った。
「いつもと逆だな」
「はは、そうですね。
丁度わても、似たようなことを考えながら帰ってきたんですよ。休みたいです」
「たまには旨いな…羊羹」
「せやろ。あまり食べませんよねトキさん。甘味は」
「正直好きじゃなかったが…変わるもんなんだな」
「無受想行識 無限耳鼻舌身意なんて、どうかしていますよ?」
「お前も言うなぁ…」
お咎めも無いようだし、これはこれでいいかと思えた。
しかし、朱鷺貴はふと襖を眺め…やはり、「知らん!」と言った割には随分と思案顔というか…どこか寂しそうでもあり。
結局顔を見てしまうとな、とわかる気もして言葉にはしなかった。
まぁ、自分も断固として江戸に行かないと今朝、決めたのだし。
だから、どこかに飛ぶのはやめましょうってば。
つい言いたくもなるが、自分達も随分と寄っているのかもしれない。
この狭間はひどく、じりじりとする。だから黙るしかないのだ。少なくとも今の自分では。
この流れを見ることしか、敵わない。それだって本当は随分勝手なことかもしれない。空とは何か、忌々しくも般若心経の羅列を思い浮かべた。
自分の裏側で今起こっていることは、どうしても影になっていく。
そして、では「表に出ろ」と言われてしまうのは…本当に酷く勝手だ。
「えぇ多分…」
「集まんのか、そんなに!いまの時代、」
「いや知らんけど…」
「それホンマの話か?」
「多分…」
「うっわ…。
ちょい待てちょい待て、え?壬生浪とか前回17人って、言ってなかったっけ!?」
「あ、そういえばそうかも」
「あー……なる、ほど…。言うほどじゃないって、何、そーゆーこと…?」
脱力したようだ。
「…いや、わかりませんよトキさん」
そしてしまいには眉間を揉んで黙り込んでしまった。
…しかし照らし合わせてみると確かに、どうにも明るくは見えない。だが、まるで夏の蜃気楼、ぼやけて感覚を失いそうなほど途方もない話だ。
「…山崎の…合戦はな、」
まるでくらくらするかのように朱鷺貴は一人、話し始める。
「…あそこを陣とし勝利した太閤秀吉は、いくつの軍勢を集めたか知ってるか?」
「え、いや…」
「戦国の世の当時だ、万単位ではあっただろうが兎に角、明智の倍以上の兵を集めて大勝利した。勝因の一つには場所が関係するのは有名だが、」
なるほど、国境か。
本能寺の変は京の町中、つまり秀吉は上から明智を責めた…ということだろうか。
「それは上から攻めた、言うことでしょうか」
「いや、初動も遥かに早く、更に左右にも陣営を置いたんだよ。
鵯越の逆落とし、飛ぶ鳥を落としさらに囲い込みをしたわけだ。こうもなると、蜘蛛の巣と言った方がしっくり来る」
太閤秀吉と、明智光秀…。
「けど…」
例えるなら。
現代版山崎の戦とするのであれば、大分形勢が逆転しているように捉えられる。
「朝廷、薩摩、幕府と会津が長州を落とそうということなんだろうか…」
「あ、そうか、公武合体やっけ。なるほど、それがあの、島津光久がやって来た理由なんやね…」
「だろうな。
…だからわざわざ、アレはどうしてそうしたのか…。厄介だ。しかし俺の元には連絡も来ず」
「似た者同士かもしれませんね、トキさん。藤嶋と和尚は」
「かくて得ることもないのだから、悟りを求める者が知恵の完成に住する…か。笑わせてくれるなよ、全く…」
涅槃とは。
「どうせ、一生を掛けたってどこにも行けやしないというのに」
「…そうやね」
「これが知恵の完成だとアレが言うならば、俺はもう…知らん。無知はなくならないって神も言うわけだし、ホンッマふざけんで欲しいもんだわ」
幹斎がわざわざ、朱鷺貴の父親の首を跳ねたのだと語られたことを思い出す。
幹斎は…やはり朱鷺貴の親代わりか…、実はもしかすると自身が思うよりも上手く生きられていないのではないか、そんな気もしてきた。
「なしてこうも…皆勝手なんやろ」
互いに本音だ。
これは、しかし吐いて捨てるものでもない。
「多分、あんさんには一生向きませんよ、トキさん」
「それでいいや」
涅槃か。
誤解をしていたのかもしれないと気付いた。アレらがもしもその場所を「涅槃」と捉えるのなら、自分も確かに、逆説でいい。
少し、すっとしたような気がした。
「わてもそう思います。どっかに飛んで行くんは…なんでやめましょうね、トキさん」
「…なんだか、」
朱鷺貴は砕けたように言った。
「いつもと逆だな」
「はは、そうですね。
丁度わても、似たようなことを考えながら帰ってきたんですよ。休みたいです」
「たまには旨いな…羊羹」
「せやろ。あまり食べませんよねトキさん。甘味は」
「正直好きじゃなかったが…変わるもんなんだな」
「無受想行識 無限耳鼻舌身意なんて、どうかしていますよ?」
「お前も言うなぁ…」
お咎めも無いようだし、これはこれでいいかと思えた。
しかし、朱鷺貴はふと襖を眺め…やはり、「知らん!」と言った割には随分と思案顔というか…どこか寂しそうでもあり。
結局顔を見てしまうとな、とわかる気もして言葉にはしなかった。
まぁ、自分も断固として江戸に行かないと今朝、決めたのだし。
だから、どこかに飛ぶのはやめましょうってば。
つい言いたくもなるが、自分達も随分と寄っているのかもしれない。
この狭間はひどく、じりじりとする。だから黙るしかないのだ。少なくとも今の自分では。
この流れを見ることしか、敵わない。それだって本当は随分勝手なことかもしれない。空とは何か、忌々しくも般若心経の羅列を思い浮かべた。
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