Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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静寂と狭間

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 芹沢の「…誰だ」と、近藤が咄嗟に繕った「く…すり屋さん!」が見事に被る。

「あぁ総司、大事ないか、悪い騒がしくて」
「いいえ。まぁ治りました。薬がよく効いたみたいで」

 近藤が翡翠を見つめ「忝ない、」と頭を下げる。

「あ、はい……。
 沖田さん、では、こちらに漢方を置いて帰りますんで、何かあったら」

 袖口から一包、たまたま持っていた薬を出して置いておいた。
 ただの漢方だが、まぁ元気そうだし毒でもない、大丈夫だろう…。

「あ、わざわざありがとう薬屋さん。お茶も出せずにごめんね」
「いえ、せつろしいようやけど、お大事にしてくださいね」

 これは早々に去ろう。
 忙しいのは本当らしい…と、切羽の詰まる気まずい空気の中、翡翠は間を割るように八木さんの家から辞した。

 …はてさて。これから沖田さんはあの、使いにくいらしい刀を使うんだろうか。

 長州の閉め出しと斎藤が言っていた。一体どういうものか、皆目検討も付かない。
 貰ってきた人相書きを改めて眺めてみる。

 彼らの仕事は、これだ。京の治安を守ること。

 どうやら、土佐藩の重鎮を殺した犯人が判明したらしい。
 見かけたら、となってはいるが、前回の岡田以蔵の人相書きの件がある、きっとさっぱり似ていないのだろう。
 背丈やらも特に書いていない。下級武士だろうか。

 大体こういうのは、裏を牛耳る者が依頼をするものだ。阿片配りやら…殺しやら。身分のよくわからない、貧しい者に。

 しかし、この“天誅組てんちゅうぐみ”とは、初めて聞いた名だな。
 反乱の輩なんだろうが、これがひとつの集団だとすれば、まぁ、物の売り買いの仕組みも変わってきそうな。

 義兄はもしかすると、そういったものにも手を付けているのかもしれない。だとすれば、それはこれらと変わらない。

 自殺の話……死に関わってはならない、と。確かに、坊主のそれは浮世離れの綺麗事だ。

 すっかり忘れていた。先日義兄が言った恥晒しだの非道だのと…思い出す。
 腹が立つ割に何も言い返せなかった。当たり前だ、事実そうで自分も同じく関わっていたのだから。

 どうして複雑な気分で、こうして少しは沈む物なのか、道中考え、途中で羊羹を買った。気が気じゃないというか、紛らわせたかった。
 ふと眠りが浅いときのような碌でも無さのよう。どうしても深く考えてしまう。
 たまに、まるで自分を上から見たような冷静さが「貴様など」と刄を喉元に当ててくる。

 何故だかそれは、朱鷺貴が側で寝ているのになと実感すれば、下手な罪悪感に襲われることが多々あるのだ。
 息苦しい、それは白檀などの香ではない。血生臭くて泥臭いものだなと、一つ息を吸った。

 特に覚えてなどいない。それほど自分は空白に何かを…恐らくまだ、抱えている。
 ある日、捨てなくともいいと言われた。どれもこれも肺に刺さる。

 ぼんやりとそんなことを考え続け、ふと「寺が近くなったな」と景色を認識すれば、自然と息を吐き出した。

 軽くしておきたい、いつの間にか癖になっている。

 今日は喪服の人通りがない。
 盆の目まぐるしさからめっきりとしていた。それでも、「近年、やはり忙しくなったなぁ」と朱鷺貴はぼやいていたのだ。
 どうやらそんなものらしい。

 境内に入れば一件か、微かに線香の匂いが漂っているような気配がした。急に誰か、仕事が入ったのだろう。

 堂の前からやはり微かに経も聞こえた。誰だろう、朱鷺貴の声ではないな。四大坊主の……まぁ、光正さんかな。

 台所を覗きどさくさに紛れ、仕事をする小姓から茶の一式を用意してもらった。

 茶と羊羹を抱え部屋の戸を開けると、朱鷺貴がパッと自分を見て、「あ、ああ…ああ?」と、何故だか態度が一定しなかった。

「ただいま戻りました」

 羊羹。
 「お茶を煎れますね」と流そうとしたが、「お前さぁ、」と続けてくる。

「…お使いついでに」
「……壬生寺だよな?」

 あれ。
 特に告げても行かなかったのだが。

「…そうやけど…」
「………」

 朱鷺貴が何故か黙りこける。まるで気まずそうな。
 変な人だなと、まずは落ち着け湯呑みに茶を注ぐと、「おっさんの件か?」と聞かれた。

「おっさん?」
「アレだよアレ。藤嶋」

 本当に嫌いなんだな…まぁ、初対面にして険悪な雰囲気の中、突然口付けをされたら誰でもそうではあるだろうが…。

「あ、はいわかりますが。アレがなんかしたん?」
「…さっきまでここに居たんだが」
「…なして?」
「まぁ幹斎についてとか、話をしてたんだけど…藤嶋、殺されるっつってここに来たよな…?」

 うーん。

「あ、いや。追い払おうと壬生浪さんに押し付けに行ったわけやない」
「会わなかったか?道中」
「え?」
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