Get So Hell? 3rd.

二色燕𠀋

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手紙

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「…そんなゴミみたいなことでかっかしとんのか、あんさん」
「はぁ?」

 どうも犬猿なご様子だ。
 いや…犬も食えねぇよ。

「関係ねー。きょーみ無っ。まぁ言い分はわかった兎に角仲良くすれば面倒臭い。質問に答えて欲し」
「出来るかそんな、変態と!」
「うーん同意だよ藤宮の。けどまぁわかんねぇけどこいつは多分そんな人間出来てないぞ。お前もじゅーぶん」
「それが売ったんは“思想”や。恐ろし…あんたのつまらん復讐はいつまでも終わらんで」

 …知らないこともありすぎる。

 復讐?なんだ?長州過激派が一掃されたとまでしかわかっていない。確かに、見方によれば理不尽に感じるような気がしなくもないとは、思ったが。

「…あんた、そっちの人だったってことか?」
「物を持ちたがるのは邪念だな。そんな下等な争い、まぁ好きに捉えてどうぞ」
「…まぁええわ。今日は嫌味を言いに来たのみ。あんた、恨まれるいうんを学んだ方がええで。誰もが上さんに遣えるわけやないわ。斬られろっちゅーねん」
「宛がありすぎてわからんなぁ、忠告どうも」
 
 けっ、と藤宮は背を向ける。それにしっしと手を払う藤嶋。
 本当に暇人なのか。いっそ寺にでも入ればいいのにとすら思える。

「……あんたが何するとか、興味はないが」
「ああそうしろうざったい」
「もう少し詳しく聞こうか。端から謎だった、何故ウチのジジイかと。
 概ね、指南所だか道場だかで一緒だったんだろうと、節々で拾ったが」
「覚えてねぇし興味ねぇよ」

 …外台秘要方。
 それまであった世の中の俗説を、根底から覆した禁書。

 昔、父にその禁書を自慢をされたことがあった。父は、勘定奉行の寺社奉行であり、書簡奉行なんかと繋がりがあったせいかもしれない、よく、本の話をしていたのだ。

「…あんたら“大人”には、足下なんてただの繋がりでしかないのかもしれない。だが、そこには繋がりとも関係のない“意思”がある。
 それは翡翠も同じだ。余計な…障害を作るな、勝手に」
「ならば言う。それが時世であり、お前の言う上にも意思はある。
 出来るだけ柵を断つようにと、どうだ幹斎はそう言ったはずだ」

 …わからない。
 これが親や子の話ならば随分拗れているのだろうが。

「えらく利己的だな。
 いつでもあんたら“先人”は勝手だ。手放し解放すれば良いって問題じゃない、」
「そりゃあ優しい意見で。這えよ、置き去りにされないようにな」

 吐き捨てるように言う割には、ただの偏った感情だろうか。藤嶋は少しだけ俯きがちなようにも見えた。

 ……あんたが何者なのかすら、知りたくもないけれど。

 そして少しだけ口元を歪めたようにも見えた。わからない、ただの傷の引き吊りなのかもしれない。

 こんなことで妥協して良いものかと、戸惑いが出るには充分だ。

 …さて、ウチのアホ従者は何処へ行ったか。ということは碌なことじゃないのかもしれないという固定観念が過る。

 事実、あれも俺もただ、渦中にはいない、外なのだ。
 外にしかいないもどかしさ、こんな感情が沸こうとは、そろそろ良い歳なのかもしれない。

 世の中は、生き死にの繰り返し。それを知ることもなければ得ることもなく、彼らは“自らをも殺せ”だなどと耳元で言ってくる。

 理念、思想…感情というのはそれぞれが違うものだ。何故、人はこうも違えしかし差異がないのか、これは縺れだ。

 ゆっくり、ゆっくりと解くつもりが、余計に絡まることもある。それは“利己”とだけでは片付かない。

 今朝の訃報の手紙を思い出した。

 清く自由であれ。それに苛まれる日が来ないことを…祈る、それは前にしかない。

 後ろはいつでも、陰がある。その闇は、徐々に、徐々にと、朱鷺貴は部屋へ戻る前にまた門の方へ振り向いた。

 特に誰もいなかった。ただ、少し鬱蒼として見えるだけ。
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