5 / 129
門出
4
しおりを挟む
「ナニソレかっこ悪っ!!」
「ホンマそれっ!!」
異論、論破も何もないやん。
「うっせぇわどてくり返すぞオラっ!」と怒鳴る土方に「なにそれ~っ!」と素直に翡翠が返答し「野暮った~っ!」と朱鷺貴も続けた。
流石にイラっとした土方が力を込めて朱鷺貴の腕を殴る。
「わっ、まぁ、まぁね、まぁね、君たちとしてはアレなんでしょうけどあ、ふっ、酷っ!ふっ、」
「いーわいーわ無理に慰めなくてぇっ。わーってるよだから近藤さんが頑張ってんだよ!」
「そやねぇ、そやねぇ、」
「腹立つな畜生っ、」
本当に不機嫌になってきた土方に「悪かった悪かったって!」と笑いながら謝ってみる。
「いやはやまぁまぁ志志。笑ってしまいましたけどなんや上手くいくとええね、あんさんら帰る場所ないんやろ?」
「ねぇよ」
「ホントにね~。どうする?ってとこだけど、近藤さんなんとかしてくれるよねえ」
「…まあそういう人だし」
「じゃなきゃ、はは、着いていけないよ。いざとなったら俺たち坊さんになるのかなぁ?」
ぼんやり言う沖田に「いや、」と、それでもどうやら意思は硬いようだった。
「いやぁそしたら俺はあの高慢を突きに行くぞ!そして俺も自害する、それくらいの」
「まぁなぁ…やられたらただじゃおかねぇよ」
あ、殺伐としてきた。
というところで、「大変ですねぇ」と労う。
「いざとなったらホンマにここに来てもええん違います?ね?トキさん」
「んーダメとは言えないよねぇ」
「いーわ、ぜってぇ来ねぇよ」
「そうですな。あんさんらには暇でしょうからね」
まぁ余程でなければ確かに、こんなこともしないだろう。
「悪かった悪かった。うん頑張ってくださいよ。信念ってやつでしょ、そこは立派ですよ、まるで出家だな。今に見てますから」
「……なんかなぁ、下げて上げるなんざぁ、あんたそれは調子が狂うな全く」
「いや自然でしょ。人間そんなもんです」
「……有難ぇ高説だこって」
「そんでも巻き返したら凄ぇんじゃねぇですか?」
ふん、と土方がそっぽを向く。案外単純な男なようだ。
「俺は武士になるんだよ、近藤さんと、絶対に」
「この人こればっかりなんだよねー。まぁ良いんだけどさ」
考えてみれば結構深刻だろうが、微塵も感じないのが不思議だ。最悪の可能性がひとつも滲んでいない。
「なんともなしにですが、あんたらしぶといから問題が感じられないな。
近藤さんはいつ戻るんですか?まぁ俺たちも一宿一飯のがありましたし、今日くらいは別に良いですよ。部屋ひとつくらいあったよな?」
「ありますねぇ」
「いや、こう見えて17人いるから」
は?
「どこに?」
「挨拶っつっただろ。まぁそれから転々と…今のところ俺たち試衛館は壬生の民家に世話になってるが」
うわぁ、なんだかこの人達なら平気で民家に押し入っていそうだなと思ったが「そうですか…」と引き下がった。事実面倒はあるし。
「そんなことより女だな今は」
やはり突拍子もないことを言い出すのは原田だった。
「は?」と朱鷺貴が言うのに土方も沖田も黙っているのだからどうやら総意らしい。
「え?それ俺に聞くの?」
「お坊さんって若くても本当に女買わないの?」
「は?」
「おいおい沖田、もう少し聞き方ってのがあるんじゃねぇか?」
「少なくてもあんたは買うでしょ従者さん」
「…あんさん地味に江戸でのこと根に持ってますよね」
何年前だか。全く。
しかし「思い出させないで殺したくなるから」だなんて、やはりこいつら作法的なものを知らないと言うか、破天荒でぶっ飛んでいるようだ。
「なんせ来たばかりだし」
「…はぁ、」
「たまにはどうだい、坊さん」
「うん確かに…壬生川通りでしたよね、丁度だなぁ」
「ん?」
「トキさん、あきまへんよね?あんさん今はアホ坊主もおらんしお仕事やないやろ?」
「なんだ、やっぱりそうなんじゃねぇか」
「そりゃぁ俺も男ですからね」
バレたら晒しの刑だけどね。少しだけまわりを見る。取り敢えず寺の者は側にいない。
「と言っても…俺この後何あったっけ、あったはず、いや、あるんだ俺は向こうに」
「えっと………じゃぁ夕方に一件お茶屋さんの三回忌がありましたけど」
「あーそうだ抹茶屋さん。さくっと済みそうだし結局宇治だなぁ。そっちまで出そうにない…か?俺は」
「ホンマに言うてますかトキさん。たまにはええのん?」
「いや、ダメだよ、うん。そういうことだ皆の衆」
うーんと朱鷺貴が考え始めてしまう中「あ、そーゆーこと?だから緩いの?」と沖田が何かを察したように朱鷺貴と翡翠を眺める。
「何が?」
「あんたら懇ろ?」
「あーね、そう来たか。ははは無粋だなぁ君は。不思議とそうじゃない」
「不思議と?」
「前から思っていたけど言っていいかな沖田くん」
「どうぞ?」
「君って変だよね。まぁ良いんですけど」
とにかく!と朱鷺貴は手を叩く。
「暇なら茶ぁしばきますか。
お前こっそりかなり良い羊羹も買ってたしね俺知ってるよ。
もう雑談でもしてこい。俺はそれしか言わないからね」
「…わてに押し付けましたなトキさん」
「ホンマそれっ!!」
異論、論破も何もないやん。
「うっせぇわどてくり返すぞオラっ!」と怒鳴る土方に「なにそれ~っ!」と素直に翡翠が返答し「野暮った~っ!」と朱鷺貴も続けた。
流石にイラっとした土方が力を込めて朱鷺貴の腕を殴る。
「わっ、まぁ、まぁね、まぁね、君たちとしてはアレなんでしょうけどあ、ふっ、酷っ!ふっ、」
「いーわいーわ無理に慰めなくてぇっ。わーってるよだから近藤さんが頑張ってんだよ!」
「そやねぇ、そやねぇ、」
「腹立つな畜生っ、」
本当に不機嫌になってきた土方に「悪かった悪かったって!」と笑いながら謝ってみる。
「いやはやまぁまぁ志志。笑ってしまいましたけどなんや上手くいくとええね、あんさんら帰る場所ないんやろ?」
「ねぇよ」
「ホントにね~。どうする?ってとこだけど、近藤さんなんとかしてくれるよねえ」
「…まあそういう人だし」
「じゃなきゃ、はは、着いていけないよ。いざとなったら俺たち坊さんになるのかなぁ?」
ぼんやり言う沖田に「いや、」と、それでもどうやら意思は硬いようだった。
「いやぁそしたら俺はあの高慢を突きに行くぞ!そして俺も自害する、それくらいの」
「まぁなぁ…やられたらただじゃおかねぇよ」
あ、殺伐としてきた。
というところで、「大変ですねぇ」と労う。
「いざとなったらホンマにここに来てもええん違います?ね?トキさん」
「んーダメとは言えないよねぇ」
「いーわ、ぜってぇ来ねぇよ」
「そうですな。あんさんらには暇でしょうからね」
まぁ余程でなければ確かに、こんなこともしないだろう。
「悪かった悪かった。うん頑張ってくださいよ。信念ってやつでしょ、そこは立派ですよ、まるで出家だな。今に見てますから」
「……なんかなぁ、下げて上げるなんざぁ、あんたそれは調子が狂うな全く」
「いや自然でしょ。人間そんなもんです」
「……有難ぇ高説だこって」
「そんでも巻き返したら凄ぇんじゃねぇですか?」
ふん、と土方がそっぽを向く。案外単純な男なようだ。
「俺は武士になるんだよ、近藤さんと、絶対に」
「この人こればっかりなんだよねー。まぁ良いんだけどさ」
考えてみれば結構深刻だろうが、微塵も感じないのが不思議だ。最悪の可能性がひとつも滲んでいない。
「なんともなしにですが、あんたらしぶといから問題が感じられないな。
近藤さんはいつ戻るんですか?まぁ俺たちも一宿一飯のがありましたし、今日くらいは別に良いですよ。部屋ひとつくらいあったよな?」
「ありますねぇ」
「いや、こう見えて17人いるから」
は?
「どこに?」
「挨拶っつっただろ。まぁそれから転々と…今のところ俺たち試衛館は壬生の民家に世話になってるが」
うわぁ、なんだかこの人達なら平気で民家に押し入っていそうだなと思ったが「そうですか…」と引き下がった。事実面倒はあるし。
「そんなことより女だな今は」
やはり突拍子もないことを言い出すのは原田だった。
「は?」と朱鷺貴が言うのに土方も沖田も黙っているのだからどうやら総意らしい。
「え?それ俺に聞くの?」
「お坊さんって若くても本当に女買わないの?」
「は?」
「おいおい沖田、もう少し聞き方ってのがあるんじゃねぇか?」
「少なくてもあんたは買うでしょ従者さん」
「…あんさん地味に江戸でのこと根に持ってますよね」
何年前だか。全く。
しかし「思い出させないで殺したくなるから」だなんて、やはりこいつら作法的なものを知らないと言うか、破天荒でぶっ飛んでいるようだ。
「なんせ来たばかりだし」
「…はぁ、」
「たまにはどうだい、坊さん」
「うん確かに…壬生川通りでしたよね、丁度だなぁ」
「ん?」
「トキさん、あきまへんよね?あんさん今はアホ坊主もおらんしお仕事やないやろ?」
「なんだ、やっぱりそうなんじゃねぇか」
「そりゃぁ俺も男ですからね」
バレたら晒しの刑だけどね。少しだけまわりを見る。取り敢えず寺の者は側にいない。
「と言っても…俺この後何あったっけ、あったはず、いや、あるんだ俺は向こうに」
「えっと………じゃぁ夕方に一件お茶屋さんの三回忌がありましたけど」
「あーそうだ抹茶屋さん。さくっと済みそうだし結局宇治だなぁ。そっちまで出そうにない…か?俺は」
「ホンマに言うてますかトキさん。たまにはええのん?」
「いや、ダメだよ、うん。そういうことだ皆の衆」
うーんと朱鷺貴が考え始めてしまう中「あ、そーゆーこと?だから緩いの?」と沖田が何かを察したように朱鷺貴と翡翠を眺める。
「何が?」
「あんたら懇ろ?」
「あーね、そう来たか。ははは無粋だなぁ君は。不思議とそうじゃない」
「不思議と?」
「前から思っていたけど言っていいかな沖田くん」
「どうぞ?」
「君って変だよね。まぁ良いんですけど」
とにかく!と朱鷺貴は手を叩く。
「暇なら茶ぁしばきますか。
お前こっそりかなり良い羊羹も買ってたしね俺知ってるよ。
もう雑談でもしてこい。俺はそれしか言わないからね」
「…わてに押し付けましたなトキさん」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
Get So Hell? 2nd!
二色燕𠀋
歴史・時代
なんちゃって幕末。
For full sound hope,Oh so sad sound.
※前編 Get So Hell?
※過去編 月影之鳥
空蝉
横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。
二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
新撰組のものがたり
琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。
ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。
近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。
町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。
近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。
最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。
主人公は土方歳三。
彼の恋と戦いの日々がメインとなります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる