【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

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第三部:死食のカルト

第13章:守りの料理

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アーケイディアからの出発から二週間、栄作たちは遂に霧の森の入口に立っていた。周囲の風景は徐々に変化し、通常の樹木が神秘的な銀色の樹皮を持つ巨木に変わっていた。地面には淡い青色の苔が広がり、空気中には霧が漂っている。

「これが霧の森...」栄作は息を呑んだ。「神秘的な場所ですね」

シルヴァンが静かに頷いた。「この先は精霊族の領域だ。慎重に進まねばならない」

彼らは馬車を森の入口に置き、徒歩で進むことにした。荷物は最小限にし、栄作も調理道具を厳選して背負っていた。

「霧が濃くなってきたな」マグナスが周囲を見回した。「視界が悪い」

「互いを見失わないように」ナディアは全員に魔法の紐を配った。「これを手首に巻いておきましょう。離れすぎると光って知らせてくれるわ」

森に入るとすぐに、彼らは異質な雰囲気に包まれた。鳥や動物の声が聞こえないかわりに、風が葉を揺らす音が不思議なメロディを奏でていた。時折、光の粒子が空中を舞うように漂っている。

「あれは...精霊?」ルークが小声で尋ねた。

「そうだ」シルヴァンは静かに答えた。「この森の住人だ。今はただ我々を観察しているだけだが、敵意を示せば攻撃してくる」

彼らは半日ほど森の中を進んだ。霧が濃くなるにつれ、時間の感覚も曖昧になってきた。昼なのか夕方なのか、判断が難しい。

「そろそろ野営地を探しましょう」栄作は提案した。「この先は見通しが悪いです」

彼らは小さな空き地を見つけ、そこで休息することにした。マグナスが歩哨に立つ中、栄作は特別な「精霊の森のスープ」を用意し始めた。シルヴァンから教わったエルフの調理法を取り入れたレシピだ。

「この料理には、周囲の自然と調和する効果があります」栄作は説明した。「精霊族に敵意がないことを示す助けになるはずです」

スープが煮立つと、柔らかな青い光が鍋から漂い始めた。その香りは森の深い部分から集めた特殊なハーブの効果で、心を落ち着かせる効果があった。

「これは素晴らしい匂いだ」シルヴァンは珍しく感心した様子で言った。「エルフの技術を見事に取り入れている」

全員がスープを口にすると、不思議な感覚が体内に広がった。森の音がより鮮明に聞こえ、霧の中の光が以前より明るく見えるようになった。

「体が森と共鳴しているような...」ナディアは驚いた様子で言った。

夕食後、彼らは交替で見張りをしながら野営を続けた。栄作の当番中、彼は不思議な感覚に包まれた。森が彼に何かを伝えようとしているような...

「誰か、いますか?」栄作は小声で問いかけた。

一瞬、風が止み、そして彼の目の前に小さな光の球が現れた。それは人の形に変化し始め、やがて半透明の小さな人型の存在になった。女性のような姿で、髪は風に揺れる草のようだった。

「精霊...」栄作は息を呑んだ。

精霊は栄作を観察し、何かを言おうとしたが、声は聞こえなかった。代わりに、栄作の頭の中に直接言葉が響いた。

『料理人よ、なぜここに来た?』

栄作は驚いたが、冷静さを保った。「私たちは月光の果実を探しています。世界を救うためです」

精霊はしばらく栄作を観察した後、『多くの人間は奪うために来る。だが、お前の心には純粋さがある』と伝えた。

「どうか私たちを導いてください」栄作は丁寧にお願いした。「私たちは森や精霊族に危害を加えるつもりはありません」

精霊は考えるように静止した後、『明日、長老に会わせよう。彼女がお前たちの真意を判断するだろう』と答えた。

その後、精霊は光の粒子となって消えた。栄作は急いでシルヴァンを起こし、起きたことを報告した。

「精霊と直接交流できたのか」シルヴァンは驚いた様子で言った。「珍しいことだ。おそらく、お前の料理が彼らの心を開いたのだろう」

翌朝、目を覚ますと、彼らの周りには数十の小さな光の球が浮かんでいた。精霊たちが彼らを囲み、観察していたのだ。

「みんな、慌てないで」シルヴァンは静かに言った。「彼らは私たちを案内してくれるはずだ」

予想通り、精霊たちは彼らを森の奥へと導き始めた。より深く進むにつれ、森はますます幻想的な景観に変わっていった。木々は巨大化し、その幹は青白い光を放っていた。様々な色の花が咲き乱れ、中には宝石のように輝くものもあった。

数時間歩いた後、彼らは大きな湖に到着した。湖の水は鏡のように澄んでおり、その中央には小さな島があった。島には一本の巨大な銀色の木が聳え、その周りに小さな家々が見えた。

「精霊族の集落だ」シルヴァンは畏敬の念を込めて言った。

精霊たちは彼らを湖の岸辺に導き、すると水面が分かれ、湖底から道が現れた。彼らはその道を通って島へと向かった。

島に着くと、多くの精霊族が彼らを見るために集まってきた。人間に似ているが、より細く優雅な体つきで、肌は淡い青や緑の色合いを持っていた。彼らの目は大きく、内側から光を放っているようだった。

「人間が来た...」「彼らは何を求めている?」「危険はないのか?」

精霊族の間でささやきが交わされる中、一人の年老いた女性が前に出てきた。彼女は白い長い髪を持ち、青緑色の肌に年輪のような模様が刻まれていた。

「私はエオラ、この森の守護者」彼女は静かな声で言った。「なぜ我々の領域に足を踏み入れたのか、話しなさい」

シルヴァンがエルフの挨拶をした後、栄作が一歩前に出た。

「私は椎名栄作、料理人です。私たちは月光の果実を探しています。世界を脅かす闇に対抗するために必要なのです」

エオラは栄作をじっと見つめた。「五大食材の予言...知っているわ。だが、月光の果実は我々の最も神聖な宝。簡単に与えることはできない」

「お願いします」栄作は誠実に言った。「私たちは悪意を持っていません。むしろ、『死食のカルト』と呼ばれる組織から世界を守ろうとしているのです」

「死食のカルト?」エオラの表情が変わった。「彼らもここに来た。数日前、森の境界で彼らを追い返したところだ」

「彼らも月光の果実を狙っているのです」栄作は説明を続けた。「彼らは料理を悪用して人々を操っています」

エオラはしばらく考えた後、「お前たちの真意を確かめるため、試練を与えよう」と言った。「料理人よ、精霊の心に響く料理を作りなさい。我々の森の恵みを使い、その料理で森との絆を示せ」

栄作は決意を込めて頷いた。「喜んで挑戦させていただきます」

エオラの指示で、栄作は森の神聖な調理場に案内された。そこには精霊族の調理道具と、森で採れる珍しい食材が用意されていた。栄作はシルヴァンの助言を得ながら、精霊族のための特別な料理「森の調和」の準備を始めた。

栄作は精霊族から教わった調理法と自分の技術を融合させ、森の恵みを最大限に活かす料理を心を込めて作った。彼の周りには小さな精霊たちが集まり、好奇心いっぱいに彼の調理を見守っていた。

「料理には心を込めます」栄作は精霊たちに語りかけた。「この森への敬意と感謝を、この一皿に表現します」

数時間後、栄作の料理が完成した。「森の調和」と名付けられたその料理は、淡く光る青色のスープをベースに、様々な森の植物や花が彩りよく盛り付けられていた。スープからは柔らかな光が放たれ、心を落ち着かせる香りが広がっていた。

エオラとその側近たちが料理を前に集まった。「では、試食させてもらおう」

彼らが料理を口にした瞬間、驚くべきことが起きた。周囲の木々が優しく揺れ、空中に光の粒子が舞い上がった。エオラの体から青白い光が広がり、森全体が共鳴するかのように輝いた。

「これは...」エオラは驚きの表情を浮かべた。「お前の料理には森の声が宿っている。私たちの心に直接語りかけてくる」

他の精霊族も感動した様子で料理を味わった。「素晴らしい」「人間の料理とは思えない」「森の歌が聞こえる」と喜びの声が上がった。

エオラは満足そうに頷いた。「料理人よ、あなたは試練を見事に乗り越えた。あなたの心に偽りはないと分かった」

彼女は栄作に近づき、「明日の満月の夜、あなたを月光の果実がある聖域へ案内しよう」と告げた。

栄作は深く頭を下げた。「ありがとうございます」

その日、栄作たちは精霊族の歓待を受けた。彼らの住居で休息し、精霊族の文化や歴史について学んだ。シルヴァンは精霊族の長老たちと古代語で会話を交わし、ルークは若い精霊たちから簡単な自然魔法を教わっていた。

夕方、栄作は森の泉のそばで一人考え事をしていた。

「心配事でもあるのか?」

振り返ると、エオラが静かに立っていた。

「いえ...ただ、これからのことを考えていました」栄作は正直に答えた。

「死食のカルトのことか」エオラは泉に映る月を見つめた。「彼らについて、もっと知っておくべきことがある」

エオラの話によれば、カルトは最近活動を活発化させており、各地の神聖な場所を冒涜していたという。そして彼らのリーダー、ヴォラクスは強大な力を持つようになっていた。

「彼は禁断の魔力を料理に込める術を会得した」エオラは憂いの表情で語った。「そして今、五大食材を手に入れようとしている」

「彼らも月光の果実を?」

「ああ」エオラは頷いた。「先日、彼らは森の境界に現れた。我々は彼らを撃退したが、また戻ってくるだろう」

栄作は決意を固めた。「私たちは月光の果実を守り、正しく使います。死食のカルトのような悪用は絶対にしません」

エオラは栄作の目をじっと見つめた。「お前を信じよう、料理人よ」

---

翌日の夕方、満月が昇り始めた時、エオラは栄作たちを湖の奥にある隠された洞窟へと案内した。洞窟の内部は結晶で覆われ、月の光が反射して幻想的な光景を作り出していた。

「ここが聖域」エオラは洞窟の中心を指した。

そこには小さな池があり、池の中央に一本の細い木が生えていた。木には一つだけ、月のように白く輝く果実がなっていた。

「月光の果実...」栄作は畏敬の念を込めて見つめた。

「満月の夜だけ実を結ぶ神秘の木だ」エオラは説明した。「その果実には純粋なエネルギーと再生の力が宿っている」

エオラが儀式を始めようとした時、突然、洞窟の入口から物音がした。

「侵入者だ!」精霊の警備兵が叫んだ。

次の瞬間、黒い服を着た数人の人間が洞窟に押し入ってきた。彼らの目は赤く光り、体には黒い筋が走っていた。

「カルトの信者たち!」マグナスは巨大な斧を構えた。

「月光の果実を守れ!」シルヴァンは弓を引き絞った。

戦いが始まった。カルトの信者たちは通常の人間より強く、黒い魔力を放出していた。マグナスとナディアが前線で戦い、シルヴァンが弓で援護する。ルークは水の魔法で信者たちの動きを鈍らせていた。

「栄作、果実を!」シルヴァンが叫んだ。

栄作はエオラと共に池に向かった。エオラは古代語で呪文を唱え始め、月光の果実が優しく光り始めた。

「急いで!」エオラは栄作に促した。「満月の力で果実を採るのだ」

しかし、その時、黒い影が二人に飛びかかった。それは他の信者とは異なる、より強力な存在だった。

「邪魔はさせん」低く冷たい声が響いた。

男は黒いローブを着て、顔は影に隠れていたが、首には骸骨の紋章が見えた。

「ヴォラクスの側近か...」エオラは身構えた。

男は黒い炎のような魔力を放出し、二人に襲いかかった。エオラは精霊の力で防御したが、その力は強大だった。

「栄作、果実を!私が時間を稼ぐ」エオラは必死に叫んだ。

栄作は池に飛び込み、中央の木に向かって泳いだ。水は不思議なほど温かく、体を癒すような感覚があった。木に到達すると、彼は恭しく頭を下げ、「お許しください」と静かに言った。

果実に手を伸ばした瞬間、月の光が池全体を包み込み、水面が銀色に輝いた。果実は自ら枝から離れ、栄作の手の中に収まった。それは手のひらに乗るサイズで、触れると温かく、内側から光を放っていた。

岸に戻ると、戦いはまだ続いていた。エオラは力を使い果たしたように見え、黒いローブの男は彼女を追い詰めていた。

「やめろ!」栄作は叫び、月光の果実を高く掲げた。

果実が強く輝き、その光が洞窟全体を包み込んだ。光に触れたカルトの信者たちは悲鳴を上げ、黒い筋が消えていった。

黒いローブの男だけは耐えていたが、彼も徐々に後退し始めた。「この程度では...」

しかし、その時、栄作は果実を胸に抱き、「浄化の言葉」を唱え始めた。エオラから教わった古代精霊語の呪文だ。

果実の光がさらに強まり、男は遂に耐えきれなくなった。「恨むぞ...料理人...」

彼は黒い煙となって洞窟から逃げ去った。

戦いが終わり、栄作はエオラに月光の果実を見せた。「無事です」

エオラは安堵の表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔に戻った。「だが、カルトはここを知ってしまった。もう安全ではない」

「私たちと一緒に来ませんか?」栄作は提案した。「アーケイディアなら...」

エオラは静かに首を振った。「私たちの場所はここだ。森を守らねばならない。だが...」

彼女は手を伸ばし、月光の果実に触れた。「果実よ、今こそ使命の時。料理人と共に行き、世界を救いなさい」

果実が優しく脈動し、エオラの言葉に応えているように見えた。

「栄作」エオラは厳かな声で言った。「月光の果実を託す。だが約束してほしい。力が必要な時だけ使うこと。そして最後には、新たな果実の種を森に返すことを」

栄作は真摯に頷いた。「必ず約束を守ります」

エオラは特別な容器を差し出した。「これに果実を保管するといい。月の力を保ち続けるだろう」

栄作は感謝の言葉を述べ、果実を容器に収めた。これで二つ目の食材を手に入れたことになる。

---

精霊族の集落に戻ると、彼らは緊急の防衛体制を敷いていた。カルトの襲撃に備えてのことだ。

「私たちは明日出発します」栄作はエオラに告げた。「カルトをここから遠ざけるためにも」

エオラは頷いた。「良い判断だ。だが、気をつけるように。カルトの力は強大になっている」

その夜、栄作は精霊族のために「感謝の晩餐」を用意した。月光の果実の微量なエネルギーを料理に込め、森を守る力を高める効果を持たせた。

「この料理が、皆さんの力になりますように」栄作は精霊族に向けて言った。

食事の間、エオラは第三の食材についての情報を共有した。「深海の真珠貝は、南の大海原に沈む古代の海底神殿にあると言われている」

「次はそこに向かいますね」栄作は頷いた。

「旅の間、気をつけるのだ」エオラは警告した。「カルトは諦めない。そして、月光の果実の力は慎重に使うように。使いすぎれば、果実は枯れてしまう」

翌朝、栄作たちは精霊族に別れを告げ、森を後にする準備を始めた。多くの精霊たちが見送りに集まった。

「またいつか来てください、料理人さん」若い精霊が栄作に言った。

「必ず戻ってきます」栄作は微笑んだ。「そして約束通り、果実の種を返します」

エオラは最後に栄作に近づき、彼の額に祝福の印を描いた。「月の祝福があなたとともにありますように。そして...」

彼女は栄作の耳元で囁いた。「第三の試練は水と忍耐。第四の試練は風と自由。そして最後は、創造と調和。覚えておくように」

栄作は頷き、その言葉を心に刻んだ。

霧の森を離れる時、栄作は振り返り、銀色に輝く木々に最後の別れを告げた。二つ目の食材、月光の果実を手に入れた今、彼らの旅はさらに危険になるだろう。カルトとの戦いは始まったばかり。そして次なる目的地は、南の大海原—深海の真珠貝を求めての旅が始まろうとしていた。
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