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1巻

1-3

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 お祖父様がずっとお祖母様に怒られている。その様子は、お父様がお母様に叱られている様子にそっくりだ。私が屋敷で転んだとき、お父様は屋敷の硬いところをすべて柔らかくしようとしたり護衛を増やそうとしたりしてお母様にやりすぎって怒られてたもんね。
 でもお父様とお母様と同じ感じなら、きっとお祖母様もすぐ機嫌は直るはず。
 くらいの高い貴族は愛人や側室を持つことがある。でもうちは公爵家だけれどお父様はお母様一筋だ。
 この様子を見ていると、お祖父様もきっとそうなのだろう。お祖母様に謝ってるけど雰囲気は優しくて甘い。
 本格的にいちゃいちゃし始めそうな二人にお父様がごほんと咳払いした。

「で? 二人は何をしに来たんですか?」
「そんなもん、孫娘に会いに来たに決まっとる。初めての女の子の孫じゃからな!」
「フィエルテが五歳になるまで待つように手紙を出したはずですが」
「そんな手紙、届いてないわよ?」

 お父様の言葉にお祖父様もお祖母様も首を傾げている。
 私に会うためにわざわざ領地からきたのか。結構遠いよね? 手紙と入れ違いになっちゃったのかな?
 お父様がジュール兄様に手紙を渡して出すように頼んだと言ってるけど……ジュール兄様?
 ちらっと隣を見るとジュール兄様がそっぽを向いていた。どうやら手紙を出すのを忘れていたようだ。

「あらあら、ジュールは相変わらずねぇ。ディーンそっくりだわ」

 なるほど。ジュール兄様はお祖父様似だったのか。
 にしてもみんないつまで立ってるんだろう、と考えていたらお祖父様たちはもう帰ると言い出した。元々王都に用事があったからついでに寄っただけだそうだ。
 嵐のようだった……、お見送りをしてから思わずため息をつく。
 にしてもお祖母様めちゃくちゃ綺麗だったな、お祖父様もかっこよかった。そりゃお父様かっこいいよね。遺伝子最高だもん。
 それに、自然とお祖母様をエスコートしているお祖父様と、それを当たり前のように受け入れるお祖母様がすごく素敵だった。
 お父様たちもお互いを想いあっているのが一目で分かるし。
 もしかして神様の言っていた『運命のつがい』なのかな。
 お見送りをした後の玄関で、思い切って聞いてみることにした。

「おとーしゃまとおかーしゃまはうんめいなのでしゅか?」
「え?」
「ほんにかいてありました。うんめいのつがいって」
「ふふ、そうねぇ。どうかしらカイン?」
「アイシャは紛れもない私の運命ですよ。どうせ今日はこのまま家にいますから、フィルの疑問に答えましょうか。ジュールもいつの間にか外の花壇にいるようですし」

 ちらっとお父様の向けた視線の先に、ジュール兄様が見えた。
 本当だ、いつの間に。ジュール兄様、手紙のこともあって逃げたな。
 それでものんびりと笑っているお母様とお父様。我が家ってやっぱり少し変わっているのかもしれない。


 目の前には紅茶が三つ。そして私はお父様の膝の上。
 まぁ、三歳だしいいんだよ? でも毎回膝の上じゃなくてもいいのでは?
 ご飯やレッスンの時以外で家に保護者がいる時は常に抱っこって……いずれ歩けなくなりそうで怖い。

「おとーしゃま、フィルひとりで」
「だめです」
「あい……」

 最後まで言わせてもらえなかった。
 しょうがない、あと数年もすれば抱っこは卒業できるはず。それまで我慢だ。
 さて、とお母様が話を切り出す。まず『運命のつがい』というものについてどこまで知っているのかと聞かれ、本の内容を思い出す。えーと、『運命のつがい』は運命の夫婦のことで、魔力の波長が合う人同士がなりやすい。
 それをどうにかお母様に伝える。お母様はにっこり笑ってくれた。

「その通り。そこまで分かっていればいいわ。それでね、魔力の波長っていうのは本能で見分けるの。なんとなくこの人は好き、この人は苦手ってね?」

 お母様は話を続ける。
 魔力の波長は魔力の質に左右される。だから魔力の強い相手同士で惹かれあうことが多い。そしてそれは種族の差も多少影響するらしい。
 たとえば、獣人や竜人族は波長をとても大事にする。波長が合わなければ近寄らないし、反対に波長さえ合えば仲良くなれる。それを『理性的ではない』と言って人間の貴族の一部では、獣人への差別の理由になっているらしい。

「フィエルテは精霊から愛される愛護者だから、もしかしたら人間ではない『運命のつがい』に出会うのかもしれないわね」

 そしてあらがうことのできない波長というものがある。それが『運命のつがい』だという。
 この人じゃなきゃだめ、この人以外はいらない。この人がいて私は存在すると思える存在。
 その人と触れ合えば形容しがたい幸福感に包まれる。それゆえに『運命のつがい』を求める人は多く、特に波長を大切にする獣人族や竜人族はその傾向が強いそうだ。
 でも、『運命のつがい』とはそうそう出会えるものではない。
 獣人族や竜人族の中には出会えずに悲しみに暮れてこの世を捨ててしまうこともあるらしい。
 壮絶な話だ。でもそれほど愛されるのは少しだけ羨ましい。
 神様は私にもその『運命のつがい』がいると言っていたけれど……
 お父様はお母様の手を優しく握って微笑んだ。

「先程の質問ですが、私とアイシャは『運命のつがい』ですよ。出会った瞬間に惹かれましたから」
「そうねぇ、やっと出会えたって感じたわ。カインと初めて会ったのに」
「じんぞくもうんめいのつがいになれるんでしゅか」

 そう聞けば、お母様曰く、魔力が多く強ければ理性より本能で生きるから、そういうこともあるとのこと。ただ、人族の『運命のつがい』が一番珍しいそうだ。

「それと、獣人や竜人は元々つがいへの執着がすごいの。つがいが他人と仲良くするのを避けたがるし、実の子ですらつがいとの時間を邪魔ると怒るから」

 二人の言葉に自分の『運命のつがい』が誰なのかすごく気になった。私も運命にちゃんと出会うことができるかなあ……?
 心配に思っていると、お母様は私の頭を優しく撫でてくれた。

「この世界で一番大切なのは想像力、イマジネーションよ。だから、あなたの望む世界を、未来をしっかり思い描ければ大丈夫」

 そっか、そうだね。悪い想像ばかりしていたらよくないよね!
 この世界は不思議な力で溢れているから、しっかり思い描けばそれは現実になりうる。

「はい!」

 私が全力で頷くとお母様はいい子ね、と言ってクッキーをくれた。
 その日はそれでお開きになった。


      ◆


 それから数日して、目覚めるとなんだか不思議な感覚に襲われた。温かい感じ、冷たい感じ、その他にもいろんな感覚が自分を中心にふわふわ動いている。みんなの魔力……でもなさそう。自分がレーダーにでもなったようだ。
 部屋に入ってきたリリアは朝の挨拶をすると、いつものように私の髪を結びはじめた。その様子にいつもと違いはない。私以外には分からないのかな?
 そう思っていると再び勢いよく私の部屋のドアが開いた。

「フィルー? 今日はみんな休みだからな! 何して遊ぶ?」
「リーベにーしゃま‼」

 リーベ兄様が部屋まで来てくれたのだ。今日はみんなお休みらしい。それならどこかに出かけてもいいのに、私が外出禁止になってからは家族みんながずっと家にいてくれる。

「お、可愛くしてもらってんな?」

 リーベ兄様がにこっと笑う。相変わらずのイケメンだ。私も全力の笑顔で返すことにした。

「リリアにかわいくしてっていったらかわいくしてくれるの! リリアはすごいでしゅよ!」
「そうかぁ。リリアにありがとうを言わないとな」
「はい! リリアいつもありがとう!」
「フィルお嬢様……。こちらこそありがとうございます」

 リリアが嬉しそうにしてくれて私も嬉しい。
 いつかお返ししたいな。何をプレゼントしたら喜んでくれるかなあ……

「フィル?」
「はっ!」

 いけないいけない。
 考えてたらぼーっとしていた。何して遊ぶ……かぁー。何しようかな。
 んー、あ。そういえば聞きたいことがあったんだった。

「にーしゃま」
「ん?」
「フィル、ききたいことがあります」
「なんだ?」

 えーと、と目をつぶって、今朝から周りにある不思議な感覚を追いかける。
 温かい感じ、冷たい感じ……いっぱいあるのはあそこか。
 ついてきてください! とリーベ兄様を引っ張って部屋を出た。
 向かう先はテラス。私は一生懸命走って向かおうとしたけど、すぐにリーベ兄様に抱きあげられた。

「どこだ?」
「テラス!」

 自分で行けるのに……! と思うのだけど、私を抱っこしたリーベ兄様はご機嫌だ。すぐに私をテラスまで連れて行ってくれた。
 テラスに着いてざっと周りを見渡してみる。
 やっぱりここだ。

「にーしゃま。これなんでしゅか?」
「これ?」

 一つずつ指で指しながら答える。

「ここはあったかくて、ここはつめたいでしゅ。あとあそこはピューピューしててあっちはきらきら! ほかにもしょくぶつのにおいのところと、くらいかんじがありましゅ!」

 何もない所が冷たかったり、植物の匂いがしたり。みんな気にしてないからそういうものなのかと思ってたけど。
 リーベ兄様を見るとびっくりした顔で私を見つめていた。
 え、なに? 何かおかしかった?

「まじか……そういやヒビ入ってたんだっけなー……」
「へ?」
「それが何か教えてやるからとりあえず母さんの所に行こうな。……母さんは知ってた方がいいだろうし」

 最後の方は聞き取れなかったけど、お母様の所に行ったら、これが何か教えてもらえるのかな?
 この世界のことや、新しいことを教えてもらうのはすごく楽しくて嬉しい。だからいっぱい知りたい。一番はやっぱり魔法について、だけどね。
 やっぱり魔法とかファンタジーはワクワクするもん。
 リーベ兄様は再び私を抱き上げると、心配そうに私のことを見つめた。

「冷たいのとかあったかいのの近くにいて気分が悪くはならなかったか?」

 体調とかは特に悪くならなかったけど、なんだか今後ろからついて来ているような。

「なかったでしゅ、でもいまついてきてる……?」
「ついてきてるなー、まぁわれてないしいいけど」
「たべられる?」

 私、食べられちゃうの?
 正体は良くないやつなのかな? ちょっと怖くなって体に力が入る。
 するとリーベ兄様は私の頭を撫でて、微笑んだ。

「まぁ大丈夫だとは思うが、少しでも体調が悪くなったら叫べ」
「あい」

 てくてくと歩いていると、みんながいつも集まる談話室に到着した。
 リーベ兄様、迷うことなくここに来たけどお母様はここにいるのかな?
 ガチャッと音を立てて扉を開ける。そこには本当にお母様がいた。
 お母様いたよ。すごいねリーベ兄様。もしかして魔力感知ってやつかな?

「あら、リーベにフィル、どうかしたの?」
「フィルに説明してほしいことがあってさ」

 それから私が伝えたことをリーベ兄様がお母様にも伝えると、お母様も驚いたような顔をして私の体をペタペタと触りはじめた。
 ついでとばかりにほっぺたをむにむにされた気がするけど気のせいかな?

「結界にヒビが入っているとはいえ、精霊をはっきりと属性ごとに感じるなんて……」
「ちゃんと説明した方がいいと思ってさ、こういうのは母さんに聞いた方が早いだろ?」
「そうね、フィルいらっしゃい」
「あい」

 ぽんぽんとお母様がお膝を叩くのでリーベ兄様にそこに乗せてもらう。
 お母様が後ろからお腹に手を回してゆらゆら揺らしながら説明してくれる。

「フィルが今まで感じた気配は全部で六種類?」
「はい、むっつでしゅ」
「やっぱり全部感じるのね……フィルが感じた気配っていうのは精霊のものよ」
「せいれい⁉ でも、ごしゃいまでみえないしかんじないんじゃ……?」

 魔力の鑑定式で体の周りに張られている結界を壊さない限り、五歳未満の子供は精霊を見ることはおろか感じることすらできないはずだ。
 でも、それは結界がちゃんと機能している場合の話なのだとお母様は言った。
 私はこの前外出した際に、他の人の魔力をたくさん受けて、その結界にヒビが入ってしまっている。そのせいで精霊の気配を感じることができたらしい。
 暖かいのは火の精霊。冷たいのは水の精霊。植物の匂いは土の精霊。風が吹くところは風の精霊。あとは光と闇。いつのまにかすべての属性を感じ取っていたみたいで、お母様はすごく心配していた。
 精霊は魔力をご飯としていて、自分を認識できる相手の魔力を欲しがる。
 普通は自分の意思で魔力をあげたりあげなかったりを選択できるけど、私の場合は常に体から魔力が溢れているせいで精霊が勝手に魔力を食べることもできるのだとか。
 魔力を食べられすぎてかつしたり、沢山の属性の精霊に触れたせいで魔力に酔ったりしていないかって心配されてしまった。
 特に体調は悪くなってないし、今のところなんの問題もなさそうだ。
 そう伝えるとお母様はほっとした顔になった。
 それよりも。気配がまた近くにいる。見ることはできないのだけど、なんとなくくるくると周りを見回してしまった。

「フィル?」
「ここにも、いるでしゅか?」
「そこにいるのは母さんが契約してる風の中位精霊リーンだな」
「リーンしゃん、よろしくおねがいしましゅ」

 どうせ存在を感じるならと、試しにペコッと挨拶してみる。
 すると、リーンと呼ばれた精霊らしき風が、私の周りでぴゅーぴゅー回りだす。

「ふふ、リーンがよろしくねって言ってるわ」
「……フィルも、せいれいがみえるようになったらけいやくできましゅか?」
「そうねぇ、きっとできると思うわ。うちには契約した精霊がいっぱいいるから未契約の精霊はあまり近づかないように牽制してもらってるけど、フィルが五歳になったらそれもやめるもの。いっぱい遊びに来てくれると思うわ」

 なるほど。確かに、今既に精霊たちがいっぱい来ていたら、私の周りは暖かかったり冷たかったりと大変なことになっていそうだ。見えないところでも守られていたんだね。
 はっきりと鑑定された訳じゃないけど、どうやら私が愛護者なのは確定のようだ。初代国王も愛護者だったんだっけ。どんな精霊と契約してたんだろう。

「どうやってけいやくしゅるんでしゅか?」
「気になる? ふふ、それじゃあ少しお勉強しましょうか」

 そう言って、お母様は図書室まで私を運んでくれた。
 リーベ兄様はお茶の時間まで森で昼寝するって言っていなくなってしまった。私の周りに来たがる精霊をこっそり説得していて疲れたらしい。
 昨日と同じようにお母様の膝の上に座らせてもらう。

「まず、契約っていうのは魔力量が多い人じゃないとできないわ。そして、精霊にもくらいがあって、高いくらいになるほど契約の時と契約後の魔力量の消費が激しいの」

 なるほど。
 精霊は自由。自由だからこそ力の強さがものを言うらしい。強い精霊であるほど自由に振る舞うことができてくらいも上がる。それに高位の精霊になるほど数も少なくなるみたい。生まれ持った魔力量でくらいは決まっているが、契約することで契約主の魔力量によってはくらいが上がる精霊もいる。
 そして、中級や上級の精霊は契約を嫌がることも多いから基本的に下級の精霊と契約してる人が多いんだって。質より量って考えの人もいるみたい。それに精霊だけではなく召喚獣――魔獣との契約という方法もあるそうだ。

「契約自体は簡単なの。精霊に気に入られて、魔力を込めた名前をつけることができれば契約は完了する。気に入られなければ付けた名前は跳ね返されてしまうの」

 お母様の言葉にこくりと頷く。
 じゃあどんな精霊にも愛される愛護者ってすごいのでは……?
 どきどきしながら続きを聞く。
 一度契約したら基本的には一生契約が解除されることはない。だから契約というのは一生を共にするパートナーになることなの、とお母様は続けた。
 たまに酷い扱いをして精霊から契約を破棄される人もいるらしい。
 人が自然に勝てないように、自然から生まれた精霊に何かを強制することはできない。精霊の気分次第でいつでも契約の破棄はできる。まぁ精霊も美味しいご飯である魔力を毎日食べたいから、滅多なことでは契約破棄なんてしないそうだけど。

「おかーさまとリーンはなかよしでしゅか?」
「ふふ、そうよ。それにお母様にはもう一人、契約している精霊がいるのよ」
「もうひとり?」
「そう。その子はねぼすけさんでとってものんびりしてるわ。土の精霊よ」

 へー! 精霊にも性格があるんだね。
 いつか私も仲良く過ごせる精霊と契約できるといいな。この世界に来てわかったけどこの世界、とっても繋がりを大事にする。他種族間の繋がりや人と自然の繋がり。縁っていうのかな? そういうのを大事にしているように感じるからなんだか心がポカポカする。

「フィルもなかよしになれるでしゅか?」
「それはあなた次第よ。一生を共にするパートナーだもの。大事にしてあげてね。そして、どんな壁も一緒に乗り越えていくのよ」
「あい!」

 お母様の精霊が私の周りをクルクルクルクル回っているようだ。柔らかい風が私の髪を揺らす。リーンはすごく元気な子みたい。それに、大丈夫だよってはげましてくれてる気がする。
 早く五歳になりたいな。魔法を使えるようになって、いろんな事に挑戦したい。
 なでなでとお母様が私の頭を撫でてその後も色々なことを教えてくれた。五歳になったら詳しく勉強できるからと。
 楽しみだなあ!



   第二章 お城に呼ばれたよ


 ついに! 外出禁止令が! 解除されたよぉぉぉぉ‼
 そう、私は五歳になった。
 屋敷から出ることができないとても不自由(そうでもなかった)な生活も終わりを迎えた。
 自分の部屋でそうかいさいを叫んでいるとドアが開いた。

「フィル」
「ジュール兄様? 何かご用ですか?」
「父さん……執務室に来てって」
「分かりました!」

 そして私、ついに噛み噛み卒業したんですよ!
 お嬢様らしい言葉遣いもできるようになったし、もう何も怖いものはない!
 にしても、ジュール兄様はスッと私を持ち上げてお父様の執務室に向かっている。
 五歳になっても抱っこから逃げることはできなかった。
 まぁ、学園入学までに卒業できればいいか、な?
 ジュール兄様が私を執務室の前まで運んでから片手で器用にノックする。室内からお父様の声が響いた。

「誰です?」
「ぼく……」

 兄様、ぼくってオレオレ詐欺じゃあるまいし。さすがのお父様も怒るんじゃ……

「フィルは?」
「つれてきた」
「よし! 入りなさい! すぐに!」

 もう、何も言うまい。
 私が部屋に入った瞬間、お父様がダダダッと近寄ってきてジュール兄様から私を奪い取る。
 あぁ、ほら、ジュール兄様がしょぼんとしている。お父様に抱きかかえられた私の服の裾を握っていて、なんて可愛いんだ。ほんと、うちの兄様最高に可愛い。ジュール兄様、と呼ぼうとしたけれど、お父様にぎゅっと抱きしめられているせいで声が出ない。というかもはや苦しい。
 意識がふっと飛びかけた時、別の柔らかい何かに包まれた。お父様とは違う絶妙な力加減。
 んー! 安定の!

「お母様っ」
「もう、カイン? あなたフィルを殺す気?」
「はっ! すみません、軽すぎて抱いている感覚が……」

 五歳とはいえそんな軽いわけないでしょお父様。そうこうしている間にお母様がジュール兄様を戻らせている。そして三人になるとお父様は一通の手紙を差し出した。手紙を開くと魔力鑑定式のお知らせと書いてある。
 私の顔は輝いたことだろう。だってこれでようやく魔法の練習ができるんだもん! ずっと学びたかったからね!


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