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番外編
番外編 Maho's true route
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私がその男の子と出会ったのは、とある昼休みの学食だった。
私は身長が低い。
高校一年生になってもまだ一五〇センチしかない。
昼の学食というのはいわば戦場みたいなもので、私みたいな小さいのは人の波に飲まれてたちまち埋もれてしまう。
そしてまごまごしている間に食べたいものなんかすぐ売り切れてしまって、泣く泣く大して食べたくも無い、値段と味の釣り合わないものを食べなければならなくなる。
しかし、その日だけは違った。
「パン?何パン?甘いのとしょっぱいのでいい?」
こんな小さくて見失っててもおかしくない私に目を留めて、声をかけてくれた人がいた。
咄嗟のことに声が出ず、ただうんうんと頷くしかできなかったが、その人は人の波をかきわけて、メロンパンと焼きそばパンを買ってきてくれた。
袋を手渡されて、小さくありがとう、と言うが聞こえていただろうか。
お金を渡そうともたついている間に、彼は再び人の波の中へと消えて行ってしまった。
私はそんな彼に惹かれて、すぐに彼のことを調べて回った。
聞いたこともない、珍しい苗字だった。
名前も、あんまり馴染みが無い。
この世知辛い世の中で、あんなにも温かみを持った人に出会えるなんて思って居なかった私は、何とかして彼に近づきたかった。
私の家庭環境を知る人間はこの学校にも少なく無い。
私の所属するクラスの人間は全員知っている。
彼が違うクラスでよかったと思ったが、何かの拍子に知られてしまう懸念がある。
私はすぐに、クラスメイト一人一人に口止めをして回ることにした。
やってることはやや汚い気がするが、それでも彼に幻滅されたくない。
怖いなんて思われたくない。
もしかしたらもう他に好きな女の子がいたりするかもしれない。
それでも、私は彼から目が離せなかった。
幸い、彼と接点のあるクラスメイトがいないこともあって、快くみんな内緒にしてくれる、とのことで大して骨が折れることもなかった。
一年生の間はクラスが違い、接点も無いためひたすらストーカーの様に気配を殺して彼を影から見た。
気づかれていないと思って油断していたら、彼に気づかれてしまったことがあった。
「えっと、あの時の女の子……だよな。俺に何か用?」
やってしまった。
私の初恋はこんなところで終わるのか、と思った。
「え、えっと……」
答えに困っていると、そういえば食堂での代金を払っていない、ということを思い出す。
あの時のことを改めて礼を言って、財布を取り出す。
「そんなの、いいって。いくらだったか覚えてないし。それより、あれからちゃんと食べられてるの?」
めんどくさそうとか、そういうのではなく、彼はそんなことか、みたいな感じで言っていた。
私は名乗りもせずつけ回していたことを少し恥じた。
「そうか、結城さんて言うのか。気にはなってたんだ」
社交辞令かもしれないのに気になってた、という一言のみをピックアップして、私の乙女脳がフル稼働した。
この人も、私のこと気になってたの?
私、この人のこと好きでいていいの?
曲解もいいところだが、私の脳みそはその時既に、自分にとって都合の良い解釈しかできなくなっていた。
それから何かにつけて彼に話しかけに行ったり程度だが密かなアプローチが始まった。
私みたいな小さい人間は、こうでもしないと存在すら認識してもらえないんじゃないかなんて自虐的な思考が生まれたのだ。
まずは私という人間を認識してほしい。
彼に願うのはそればかりだった。
二人で出かけたりというのはまださすがに気が引けて、クラスに押しかけたり放課後に偶然を装って話しかけたりが精一杯の私だったが、それだけでも十分幸せだった。
彼もそうだといいな、と密かに思っていたけど、そんなことは聞けるはずもない。
だが、嫌がったりしている様子は無いので、私は勝手に彼も楽しんでくれてるのだと思い込むことにした。
「結城さんは食べるのが好きなんだな。あの時、もっとパン買ってあげたら良かったな」
好きな食べ物について熱く語っていた時、彼はそんなことを言ってくれた。
餌付けなんかされたら、もうずっと離れられなくなってしまう。
一生ついていきます、なんて重い子だと思われたら生きていけない。
「じゃあ今度、何か食べにでも行く?」
彼がそう言ってくれたが、これは社交辞令なのだろうと勝手に解釈して叶うことはなかった。
何てもったいないことをしたのだろう、と思う。
彼は物事にこだわりがないのか、本を読む以外ほとんど適当だ。
ご飯も適当に食べてるし、誰かと話しているときでも、生返事をしていることがほとんどだった。
しかし、私と話しているときだけはちゃんと返事をするし、考えて喋ってくれたりもする。
これは勘違いしてもいいのかな、なんて希望が湧いてきた。
学年が上がって、二年生になると私は彼と同じクラスになることができた。
小躍りして喜んで、これで毎日言い訳しないで一緒にいられる、なんて楽天的に考える。
事実、お昼を一緒に食べたり放課後に二人で雑談したりと、接点は急激に増えた。
この頃には私は浮かれきっていた。
彼も何となく、私との会話を楽しんでくれている素振りを見せてくれている気がして、私は張り切って彼に話しかけた。
そんなある日、異変が起きた。
朝早くに登校してきて、フラフラとしている。
目がどこかうつろで、明らかに元気がない。
栄養が足りてないのかな、なんて思って甘いものでも、と思って鞄を漁っていたらいきなりスクワットとか始めて元気アピールされた。
普段の彼らしからぬ行動だった。
あまり追求されたくないのか、と勘繰ってしまうが、追及したら彼が離れていってしまいそうで、私は諦めて見守ることにした。
見守っていたら、具合が悪くなったみたいで保健室に行ってしまい、私はお昼までの時間を一人寂しく過ごすことになってしまう。
昼休みに食堂で彼を見かけて、いち早く声をかけた。
カレーの気分だったので、今日はカレーにしようと思う、と告げたところ、彼の様子が激変した。
あれはカレーなんかじゃない、とか言い出して、彼がそこまでカレーに熱意を持っていたのかなんて思ったのもつかの間、いきなり彼が倒れてしまった。
パニックになりかけたが何とか意識を強くもって、私は救急車を呼んだ。
私もついていきたかったが、家族でないから、という理由でそれは許されなかった。
結局そのあと彼は二日間の入院をしたという。
そこまでひどい何かがあったというのに、私は少しも気づかずのほほんと過ごしていたことを後悔した。
彼が退院して翌日、登校してきたときは抱きつきたくなるくらい嬉しかった。
もう、彼があんなことにならない様に、私は今まで以上にちゃんと見守ろうと誓った。
お昼には献身的にカレーをあーんしてあげて、そしたらラーメンを箸ごとくれた。
元気になってほしくて、栄養でもつけてもらおうと食事に行こうと提案する。
誘う時はそれはもう心臓がバクバク言って、断られたらどうしようと思ったものだったが、周りの視線やらに負けた彼が私を下校に誘ってくれた。
ちなみに話題に困ったのか、唐突に下ネタを言われた時はどうしようかと思った。
その時にちゃっかりと連絡先も交換して、週末にご飯を食べに行くことが決まった。
家に帰ったらずっと一人だった私は、最愛の人という話相手を得た。
忙しくても暇でも、彼はちゃんとメールの返事をしてくれる。
どんなくだらない内容でも必ずちゃんとした返信をしてくれる彼のことを、私はもっともっと好きになっていった。
そして迎えた週末。
彼はあまり乗り気でない様だった。
だって、顔にそう書いてある。
彼は食べるのがあまり好きではないのだろうか。
私の調べによれば、彼には嫌いなものなどない。
今日だって、男だったら大喜び間違いなしのデカ盛りメニューの店を選んだ。
まぁ、女の子である私でも大喜びで食べるんだけど。
二人で違うものを注文して、私は唐揚げをおすそ分けしてあげた。
そしたら、彼は海老天とかぼちゃ、サツマイモのてんぷらをくれた。
何で私の好物を知ってるんだろう。
ますます彼のことが好きになる。
自分のことながら、チョロい女だと思う。
食べ終わって会計は、最初私が奢るつもりでいたのに、彼も譲らなかったので半分こすることにした。
二人で半分こっていいよね。
店を出たところでカップルが仲睦まじげに食べ物を半分こしてかじりあってるのを見て、私は彼とのそういうことを連想した。
すごく、いい。
出来れば今すぐでもしたいと思った。
しかし彼は恨めしげな目でそのカップルを、睨む様に見ていた。
カップルとか見るのが苦手なのかと聞くと、そうだと彼は言った。
意外だった。
男の子って大半は恋愛に興味があるものだと決め付けていたこともあって、彼がそういうことに興味を持っていないことが。
しかし、恋愛には興味があるのだと彼は言う。
いい人がいるのかと聞いてみると、それはまだ、という。
私にも、ちょっとくらいならチャンスがあるかもしれない。
そう思うと居ても立ってもいられず、私は半端な時間だと思ったが先に帰ることにした。
これからの彼の攻略法を練っておきたかったのだ。
断じてトイレが恥ずかしいから、などという理由ではない。
家で色々考えていたら、母が不思議そうな顔で私を見た。
「何だか楽しそうね」
そう嬉しそうに言う母の顔が印象的だった。
翌週、彼を週末にある祭りに誘った。
彼は二つ返事で了承してくれて、私は粗方の位置を知ってもいたので、彼の家に迎えに行くことにした。
彼は最初、それを渋っていた。
魔王がいるから、とか何とか。
きっとエッチな本とかあるんだろうなぁ、と予想はできた。
しかし私だってエッチなサイト見たり、たまにエッチな本立ち読みしたりすることくらいある。
男の子がそういうの見てガス抜きしないといけないメカニズムなのも、本で読んだりして知っていた。
だから、もし見つけても見ない振りするよ、と言っておいた。
当日、浴衣を母に着付けてもらう。
「いい人でも、できた?」
母は嬉しそうだ。
髪型も普段と違う感じで浴衣に合わせてくれた。
私は明言はしなかったのだが、母は何となく察した様だった。
「上手く行くと、いいわね」
今までこんな話をしたことはなかったのに、母はそれでも快く送り出してくれた。
気合いを入れなおして、私は彼の家に向かう。
彼の家で私を待っていたのは、魔王ではなく彼のお姉さんだった。
まるでお人形さんか何かを見るかの様なお姉さんの視線。
私もまた、お姉さんをすごい綺麗だと思ったし、正直こんなお姉さんほしいと思った。
私たちは一気に意気投合したのだが、彼は苦い顔をしていた。
お姉さんとお話でも、なんて思ってたら彼は真っ先にお姉さんを追い出しにかかる。
私が少し甘え気味に、話したいと言うと、少しだらしない顔になったのは気のせいだろうか。
お姉さんとの会話が盛り上がるにつれ、彼の顔色が悪くなっていく。
彼は私を彼の部屋に案内してくれた。
男の子の部屋に入るのは当然初めてなのだが、やはり落ち着かない。
異性を嫌でも意識させられる気がした。
彼に促されて彼の机にある椅子に腰をかける。
その時、机に置いてあるものの違和感に気づいた。
こ、これは……こういうのが、彼の好みなのか。
ため息とともにページをめくると、彼が光の速さでその雑誌を回収してしまった。
予習が全然できなくて不満はあったが、彼の部屋だし意思は尊重してあげないといけない。
もし彼が野望をむき出しにして襲ってきたら、なんて妄想をしてしまいそうになるが、まだそんな段階じゃないと自分を諌める。
そんなとき、彼がお姉さんから童貞奪われそう、みたいなことを言った。
私は二人の仲のよさを実際に見ていたし、言い知れぬ危機感に襲われて、つい我を忘れて彼に逆壁ドンしてしまった。
少し怯えて子犬みたいになっている彼は、少し可愛く見えた。
それからお姉さんの昔の話なんかを聞いて、私たちは出かけることにした。
ここまできてビビッてられるか、と思い立って、私は手を繋ぎたいと提案する。
明らかに動揺して、手汗など気にしている彼だったが、彼の手だったらたとえ自家発電直後でも構わないと思った。
寧ろ推奨。
彼は力強く私の手を握ってくれた。
温かくて、何時間でも繋いでいたいのは私の方だった。
会場につくと、色とりどりの飴だとかカキ氷だとか、美味しそうな食べ物がたくさん並んでいる。
一方の彼はと言うと、難しい顔で出店を眺めていた。
私は見てるだけでは我慢できず、買いに行くことにした。
彼を待たせてしまうことにはなるが、今日も沢山食べてもらおう。
そうすればきっと、今すぐじゃなくてもいつかは元気になるよね?
彼と二人で食べる出店のご飯は、格別だった。
彼は頑張って沢山食べてくれたと思う。
私が残りを引き受けようとして、アクシデントが起きた。
焼きそばのパックが地面に落ちてしまった。
浴衣を汚したりということはなかったが、受け取ろうとした時にバランスを崩した私の肩を、彼は掴んで支えてくれたのだ。
彼がこんなにも積極的に、私に触れたのは初めてなんじゃないだろうか。
思わず心臓が跳ねた。
一瞬見つめあう形になったのに、言うに事欠いて彼は、
「口の周りにソースついてる」
なんて意地悪なことを言った。
ムードぶち壊しじゃん、もう!!と心の中で怒りが湧きそうになったが、意地悪には意地悪を。
とって、とねだってみると、彼はティッシュを取り出そうとした。
そういうのはエッチの後ででも使えばいいと思う。
「手、放しちゃうの?」
私はわかっていながらこんなことを言った。
そのままでも取る方法、あるんだよ、と。
彼は明らかに狼狽して、目を泳がせていた。
赤くなっているのが暗がりでもわかった。
しかし、決意したのかそのまま顔を近づけてきた。
これは予想外だった。
けど、言いだしっぺがこんなところで逃げるわけにいかない。
何より彼の決意を踏みにじる様なことはしたくなかった。
もう少し……もう少し……と思ったところで、子どもの冷やかしが入って彼の頭が冷えた様だった。
子どものしつけくらいちゃんとしてよね……。
我に返った彼からティッシュを借りて、私はフリーズした。
パッケージに欲求不満そうな女の人のイラストと、人妻ダイヤルの文字。
何個か電話番号が書いてある。
彼の趣味ではない、と頭でわかっていても聞かずにいられなかった。
私とのメールなんかじゃ、やっぱり満たされないのかな、って。
私の中の元々自信のない部分が顔を見せ始めてしまった。
理不尽な文句を、散々言ってしまった。
やれ顔文字使ってくれないだの、絵文字使ってくれないだのと、普段そんなこと考えてもないのに。
楽しくて仕方ないという気持ちが先行しているはずなのに、今日だけは何故か私のわがままな部分がじっとしていてくれなかった。
つい、彼の気持ちが知りたくなって、先走ってしまう。
私とのメールを楽しんでくれているのか、とか。
彼は、毎日ワクワクソワソワしてると言っていた。
本当なら、こんなに嬉しいことは無い。
だけど、今日はこれだけで満足できなかった。
とうとう、聞いてしまう。
本当なら、私から好きです、って言おうと思っていた。
だけど、口から出た言葉は、彼を誘導するものだった。
私のこと、好きなのかと。
彼は勢いで答えてしまった様で、相当に慌てていた。
けど、全くの見当違いということでも無い様で、彼はもう取り繕うのを諦めていた。
私も、次の段階に進みたくて仕方なく、その場にあったゴミを手早くまとめる。
これで邪魔するものはもう無い。
彼との距離を詰めて、彼の腕にしがみついて、私も好きだと伝える。
好きだと言わせてしまったので、トドメになる一言は私から言うことにした。
「だから、私と付き合ってくれる?」
彼は何が起きたのか理解していなかった様だが、そのあと正気を取り戻した彼は喜んで、と言ってくれた。
その瞬間、目の前の光景全てがばら色に見えた気がする。
彼と、私がお付き合いすることになるなんて。
彼に、こんなにも大事にしてもらえるなんて。
お母さんの祈りもちゃんと通じたんだって。
いつの間にか私たちの周りには見物人がいて、私たちの様子を見ていた様だった。
だけど、ここで引き返すことは出来ない。
何より、確かなものがほしかった。
口の中はまだたこ焼きのソースの味が残ってる。
だけど、このままでもいいから、彼と……キスがしたかった。
どうしても、今すぐ。
私はわがままだ、と前置きした上で、彼にキスをねだってみる。
これは、達成されないだろうと予感していた。
いくら彼でも、そこまでの行動力を持ち合わせていないだろうから。
どうにもできなそうだったので、じゃあ私がする、と前置いて彼の肩をがっちりと掴んで、二人の距離がゼロになった。
キスをする少し前、お姉さんの声が聞こえた気がした。
ごめんねお姉さん、きっと彼のこと大事なんだろうけど……私がこれからはもっと大事にするから。
心の中で謝っておく。
家に帰って余韻を楽しみつつ、お母さんに恥ずかしながらの結果報告をすると、自分のことの様に喜んでくれた。
いつでもいいから、是非家に連れてきなさい、と言われた。
それからしばらくは、下校デートが中心で私が場所を選ばずキスをせがんだから彼はすごく困ったりもしていたと思う。
夏休みに入ったら、きっともっといっぱい会える、なんて思っていたけど、最初の二日くらい、彼はお誘いもくれなかった。
私も何だか意地になってしまって自分から誘ったら負け、とか訳のわからない縛りを自分に課していた。
すると突然電話が鳴る。
珍しい。
普段はメールで連絡がくることがほとんどで、電話での会話など片手の指で足りるくらいしかしたことがない。
お姉さんに何か言われたのかな。
せっかく電話してくれたのに、彼は私の名前を呼んでくれない。
付き合い始めて一ヶ月近く経とうというのに、まだ慣れない。
困った彼氏に、私は意地悪をした。
「結城さんなら、今もう一人うちにいるよ。お父さんだけど。代わる?」
すると彼は慌てて私の名前を呼びなおした。
ちゃんと呼んでくれないなら、今度のデートにはお父さんを同行させる、なんて言ったらめちゃくちゃに狼狽していた。
実はプールか海には絶対行きたいと思っていて、先日こっそりと水着は購入しておいた。
その為結局プールに行こうと提案して、また私は彼の家まで迎えに行くことにした。
さすがに暑かったしちょっと汗ばんでしまったけど、プールに入るから大丈夫か、なんて思った。
今日もお姉さんは家にいたけど、彼はさっさと私を連れ出してバス乗り場に向かう。
行きのバスの中でまた、名前を呼んでもらう様にお願いしてみた。
思い切り照れながら真帆、って呼んでくれる彼の顔は茹でダコみたいで美味しそうに見えた。
大事な時にそんなんじゃ困るよ、なんて言ったらもう野獣みたいな顔になってて、男の子なんだなぁって思った。
そんな彼が愛おしく感じて、バスの中なのにそっとキスをする。
プールに着くと、彼はバスを降りるときに手を差し伸べてくれた。
こういうの自然にやってくれるところはポイント高い。
大事にされてるなって実感できる。
彼はさっと入場券を二人分買って、一枚を私に渡した。
お金を払おうとしたらそそくさと更衣室に逃げ込まれてしまった。
なら私はお昼を買ってあげたら釣り合い……取れないなぁ。
本当に困った彼氏だ。
今日の為と言っても過言ではない、用意してきた水着を着て、彼の待つプールへ。
出来るだけ可愛らしいものをと思って選んだつもりだったが、効果覿面だった。
何というか目が釘付けになっていて、見つめているなんていう表現が生ぬるく感じた。
軽く準備運動をして、私たちは流れるプールに入る。
彼は下半身が困ったことになったみたいだったので、気を遣って先に入ることにした。
程よく冷たい水が心地よく、私はどんどんと泳いでいたのだが……その時ちょっと困ったことが起きた。
水着を見せるという目的に心を奪われすぎて、紐の結びがゆるかったことに気づかなかった。
結果、流れるプールで私だけでなく水着の上が流されてしまう。
このままじゃ男の人たちの欲望のはけ口に……なんていうバカな妄想をしていると、彼が私の様子に気づいてきてくれた。
事情を話すと、またも下半身事情がおかしくなりそうになっていたが、探そうとしてくれた。
実はもう見つけてあるので、彼の手を文字通り借りて、手ブラをさせた。
密着していればイチャついているカップルに見えるだろうから、と。
私には男の子の気持ちなんてわからない。
仮にバミューダパンツの中で彼のアレがつっかえ棒みたいになってしまっているとして……お尻に何かあたった。
まぁ、この状況でそうならないのなんて熟練のセクシー動画男優くらいじゃないかと思う。
生理現象だし、今は突っ込まないでおく。
そう、今はね。
水着が浮いているところまで二人で密着しながら歩いて、漸く彼は手ブラから開放された。
水に潜ってこっそり彼の下半身を見ると、案の定だった。
こんにちはしてないだけマシかな。
少し泳いで、水から上がってご飯にすることにした。
私が財布を持って買いに行く。
こういうところで食べるご飯もなかなか……味ではなくて、雰囲気の問題だけど。
それに彼と一緒なら何食べてもきっと美味しい。
二つのトレーにてんこ盛りにご飯を買って彼の元に戻ると、彼は眠っていた。
興奮しすぎて疲れちゃったのかな。
先に食べてようかとも思ったが、食い意地が張ってるなんて思われたらちょっと嫌なので待つことにする。
時間にして二、三分くらいで彼は目を覚ました。
様子が少しおかしかったけど、エッチな夢でも見てたのかな。
食事を終えて、しばらく遊んでその日は解散になった。
送ってくれると言ってたけど、さすがにまだちょっと心の準備ができてないので遠慮しておいた。
母に今日の成果を報告する。
手ブラのことなんかは伏せておいたが、それでも慈しむ様な視線で私を見て、嬉しそうだった。
小さい頃から心配ばかりかけていた私だったが、やっと子どもらしい喜ばせ方ができたのだろうか。
課題が思っていたよりも多くて、消化しないとまた後々面倒なことになるので、私は一人で全部片付けた。
彼はちゃんと終わらせたのだろうか。
メールで確認をすると、ぼちぼちやっている、とのことだった。
出来れば夏の間にひと夏のアバンチュール……なんてちょっと古い?
とか思ってたが、夏の間にエッチなことはできなかった。
二人で汗だくになってお互いの汗を舐めあって、なんて過激な妄想が膨らんではいたのに、二人でいてもいざとなると勇気が出なかった。
ならばと私は一人勉強に勤しむ。
何の勉強かって?
それは……もちろん大事な時のお勉強。
見ていて興奮して、自家発電に耽ってしまうことも多々あって、半分くらいしか頭に入らないけど……それでも大事な時の役に立てばいいなって思った。
秋になって、私たちは文化祭の実行委員会になった。
二人で立候補して、準備を着々と進める。
後で慌てたりなんて私の性に合わないので、任されたことはさっさと済ませる。
私たちが任されたのは予算やらの擦り合わせ。
これについては非常に簡単だった。
代表の大半は私の家のことも、過去に色々暴力沙汰を起こしていたことも知っていたので……暴力沙汰?また今度機会があったらね。
まぁ、そんなわけでちょっと真剣な顔をして話をしたらあっさり了承してくれた。
彼は不思議そうな顔をしていたが、私は女の子同士の話だから、と嘘をついた。
この日、私は密かに行動を起こす決意をしていた。
二人で大人に……有体に言えばエッチなことをしよう、と。
だから適当な事情を取り付けて、彼を駅前までつれてきた。
何もなしにいきなりというのも芸が無いので、適当に文具を買って駅ビルを出た。
裏通りに出て、ここから先に行けば大人の街なんだという私の呟きに、彼は私の中の女を意識した様だ。
もちろん、これもわざとだが彼はお金の心配をしている。
察しが良くて嬉しい限りだ。
何やら葛藤があるのか、彼はぼーっとしていたので私は返答を待たずその手を取って、裏通りを歩きだす。
頭の悪そうな三人組の男が、邪魔臭く広がって歩いているのを避けて通る。
しかし、彼がそいつらにぶつかってしまった。
人に迷惑をかけるのが生きがいだとかカッコいいだとか思って居そうな、自分の存在意義をそんなことでしか見出せない連中なのだろうと思った。
彼は潔くぶつかってしまったことを謝るが、三人組は想像通りの頭の悪い文句を述べる。
面倒なことになってしまった。
彼がたまりかねて三人組に食って掛かる。
私に逃げろなんて言っていたが、さすがにそんなわけに行かない。
それに彼がケンカ慣れしてる様にも見えない。
どう見ても無謀だ。
私が助けてしまえば話は早いのに、私はここで彼に本性を見せることを躊躇ってしまった。
それが、彼に怪我をさせることに繋がってしまい、私は酷く後悔した。
見た目通りにゲスは男たちは、私にその矛先を向けた。
こうなってしまったらもう、仕方ない。
せめて彼の前でだけは可愛い彼女でいたかった。
そんな思いまでもふみにじったこの男どもに、わからせてやることにする。
「私の彼氏にこんなことして、生きて帰れるなんて思ってないよね?」
殺すつもりはもちろんなかったが、彼に負わせた痛みの倍以上は痛みを知ってもらおうと思った。
一人は肩から腕が二回転くらいするまで捻ってやって、一人は前蹴りからの踵落とし。
これくらいやれば十分か。
完全に縮み上がった残りの一人に、次会ったら殺すと脅しをかけて負傷した二人を連れて帰らせた。
彼もあんな私を見て、少々縮み上がってしまった様だ。
大いに計画が狂ってしまった。
あいつらがいなかったら、今頃は違う方面の汗を流していたかもしれないのに、こんな無駄なことに……。
ともかく彼をそのままにしておくのは危険だと思い、傷の手当がしたかった。
私はもう、ここまで本性を晒してしまったので諦めて近いということもあるし私の家に来てもらうことにした。
居間で手当てをしている間、彼は私の家を見て部屋の中で驚愕の表情を浮かべていた。
私の素性を知って、まさかこんな家の子だとは思って居なかったのだろうということがわかる。
私の素性についてぽつりぽつりと語り、彼に惹かれたきっかけになった話もした。
彼もそのことについては覚えてくれていた様だった。
そんな話をしていると、お母さんが居間に入ってきた。
彼は恐縮して挨拶をしていた。
私が彼の怪我について話すと、母は別方向の心配をした。
「じゃあ、もう?」
もう、何だ。
まだだけど何か?
心の中で悔しい思いがひしめく。
お母さんに、そんな話は、と言って止めたが、母はこんなことを言う。
「ああ、ごめんなさいね。でも、空太郎くんはそんなの、あんまり気にしてない様に見えるわよ?」
私は知られてしまったという事実にばかり囚われて、彼をよく見ていなかったのかもしれない。
彼を見ると、確かに軽蔑したりと言う様子はなかった。
母をして、砂糖吐きそうなくらい甘酸っぱい、と言わしめる様な彼の決意を聞いて、私は自分が恥ずかしくなった。
自分の体裁だのばかり頭にあった私と、精一杯私を愛してくれようとしている彼。
私はこの時、彼の前で可愛い彼女でいることをやめることにした。
お母さんが私の小さい時の話なんかを彼にする。
誘拐されそうになった話とか。
居間はもうそこまでトラウマでもないが、小学校の頃なんかはそのせいで人間不信になったのを思い出す。
そして母が頭を下げて、彼に私を頼むと言った。
さすがに驚いたが、私も彼によろしくされたい。
だから黙って見ていた。
口八丁な母はそのまま泊まって行く様に彼に言う。
彼は戸惑っていたが、私も泊まって行ってほしいというと、家に電話をして許可を取ってくれたのだ。
私がこんなに素晴らしい彼氏を連れてきたお祝い、ということで両親は寿司を取って彼をもてなした。
挨拶のすぐ後に露骨な下ネタで歓迎しようとした父を嗜めると、父は大きな杯を用意させた。
お酒を少しだけ注いで、彼と私に飲む様に言う。
飲み終わって、父はこれで夫婦だな、などと浮かれたことを言う。
いい加減恥ずかしいからやめてもらいたい。
食事が済んで、お父さんは酔いつぶれてそのまま机に突っ伏して寝てしまった。
彼の前でそういうだらしないのはやめてほしかった。
彼にお風呂に入ってもらって、私もその後で入浴して、色々と念入りに洗う。
予定は狂ってしまったけど、結果オーライ。
きっと彼だって、そういうことを意識はしているはずだ。
彼が通された客間に、私は忍び込んだ。
なるべく音がしない様に、と思ったがふすまの音をさせてしまってひやりとする。
彼はまだ寝入っていなかった。
彼の枕元に立って、彼を見下ろす。
目、開けてくれないかな、なんて思いながら彼を見る。
するとすぐに目を開けて、彼も私を見た。
一緒に寝たい、と言うと彼は少し考え込んでいた。
もちろん寝るだけで済ませるつもりはない。
私の中に滾る欲望を、彼にぶつけたい。
彼にもぶつけてほしい。
おそらくは私の目に、そういう邪な思いが映ってしまっていたのだろうと思う。
彼はそんな私の思いに気づいている。
泣き落としに近い形で、私は彼にうんと言わせた。
焦ってはいけない、と思いながら布団にもぐりこんで彼に触れると、彼の体温が心地よかった。
胸に頬を寄せてみると、すごい勢いで心臓がドクドク言ってるのが聞こえる。
やっぱり彼も緊張しているのだとわかる。
彼に、今日守ってくれようとしたご褒美と称してキスをする。
今までは、唇を合わせるだけの軽いものだった。
だけど今日これからは、もっと濃厚な関係になりたい。
そんな意味を込めて、舌を絡めることを提案する。
もちろん拒否権など与えない。
なのに何故か彼は舌と聞いてお腹を鳴らしていた。
焼肉の牛タンの話なんかをされて拍子抜けしてしまった。
食べられないけど、と私のタンで我慢してもらうことにした。
彼は私に幻想を持っている節がある。
私を綺麗なものだと思っている。
可愛くいるための努力はしているつもりだが、それでも女の子だって汚いことくらいある。
ずるいしエッチなことだって考えるし憧れる。
そのことを彼に確かめる。
体育のあった日の学校帰りの革靴の匂いとか嗅いだら一瞬でそんなのぶっ壊れる、と言うと、何やら想像したみたいだった。
なのに嫌な顔ではなかったのが少し気になる。
とにかくずるくてエッチな私は、彼にがっちりと組み付いて舌を絡めた濃厚なキスをした。
正直動画なんかでの見よう見まねだったが、上手くできたかわからない。
「もっと、私の味を覚えて……私も空くんの味、覚えるから」
私は彼を焚きつけるため、恥ずかしいなと思いながらもこんなことを言ってみた。
深く長いキスを重ねるうち、私の体も疼きを覚えるのがわかる。
彼がほしい。
少しくらい痛みを伴っても彼の欲望の赴くままに、かき回されたい。
そんなことを考え始めていた。
けど、彼は流されて抱いたりはしない、と言った。
どういうことなのか、イマイチ理解できない。
まさかとは思うが、これからセックスをしましょう、なんていちいち宣言してからじゃないとしない、なんて言うつもりなのだろうか。
私の中の疼きが強いこともあって、一瞬はイラつきを隠せない私だったが、彼はすぐに代案を出した。
出した、というとおかしいかもしれないが、彼は私の下着の中に手を入れ、疼いているその部分を、弄り始めた。
思いもかけない奇襲に、思わず声が漏れてしまう。
私の中の女の部分が、覚醒する。
多分、この時にはもう完全にメスの顔をしていたに違いない。
彼の手を存分に使って、自らを慰めろと彼は言った。
もう、手でも何でも良かった。
彼に触ってもらえるなら、それだけで良かった。
恥ずかしいと言う思いに反して体は素直な様で、彼の手に大事な部分を強く押し付ける。
私の反応を見て、彼は反応が強まった場所を把握した様で、執拗にその部分を刺激してきた。
はしたない嬌声をあげながら、私はその行為に没頭する。
やがて、頭が真っ白になって、彼の見ている前で私はだらしなく果ててしまった。
私が達したのを見届けて、彼はトイレに、などと言っていた。
そんな嘘が通じる相手だと思っていたのか、と私は彼を引き止める。
一人で処理してすっきりするつもりだったのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。
彼を私の前に座らせて、私は彼のガチガチになった部分を扱いた。
動画では割と激しく扱いたりしてるのを見たが、何処まで強くしていいのかわからなかったので、なるべく痛くない様に。
拙い手つきで、私なりに一生懸命に頑張ったつもりだったが、彼は反撃してくる。
さっき達したばかりの私は、彼が果てたすぐ後で絶頂を迎えた。
処理をして、気まずい雰囲気の中二人で布団に入った。
なにしろ、お互いの手を使って自家発電に勤しんでいたのだ。
恥ずかしさは倍増だ。
しかし彼に抱きついてみると、彼も抱き返してくれたので、私たちはそのまま抱き合って眠った。
時間は午前三時になろうとしていた。
六時頃、私は予め設定しておいたアラームで目を覚ます。
昨夜の行為の余韻とでも言うのか、少し体がだるい。
当然寝不足でもあると思う。
だけど、私は簡単にシャワーを浴びて彼と私二人分のお弁当を作った。
母が途中から手伝ってくれて、お弁当は思ったよりも簡単に出来上がった。
七時を過ぎて彼が起きて来て、母と何やら話していた。
二人で学校に行くために家を出て、少ししてやっぱり昨夜のはなかったことに、なんて思った。
あれは性行為ではあるが、いわばオナニーの見せ合いっこみたいなものだ。
あんなのはカウントしたらよくない気がして、彼にそう提案しようとした。
すると彼も言いたいことがある、ということで一緒に言うことにした。
「「昨夜のことはやっぱり恥ずかしいから、無かったことにしよう」」
少しもずれることなく二人で同じことを言って、思わず笑ってしまった。
そのあと話題を切り替えるためか、彼は私の食べる量についての話をしてきた。
食べた分の質量は何処に?みたいなことを聞かれてさすがにこれは答えるのが恥ずかしかった。
女の子だって排泄くらいする。
その為の器官だってあるわけだし。
じゃなかったら今頃は部屋から出るのさえ苦労する様なおデブちゃんになってるだろうし、きっと彼は好きになってなんかくれてないと思う。
そういうことを、ぼかしぼかし言っておく。
それから、その辺のバカップルみたいなことをしながら学校に行って、委員会に出るがやることがなくて私たちはそのままクラスの手伝いに行った。
これまたやることがなかったので、彼の家に行きたいと提案した。
お姉さんに会いたい、と建前では言っておく。
もちろん、昨日の雪辱を果たすために決まっている。
そんな私の考えに気づいたのか、彼は観念してすぐに了承してくれた。
彼の家に着いて、彼は着替えてくる、と言って部屋に向かった。
私はお姉さんと少し話をした。
「どう?愚弟は」
お姉さんはこんなことを言うが、決して憎からず思っていることは明白だった。
二人の絆はこう見えてなかなか強い。
私なんか、本来は入り込めなかったんじゃないかと思う。
それでも彼が私を好きになってくれたのは、お姉さんが後押ししてくれたりしたからなのだということが良くわかる。
弟を取られた、とか思わないのかな、なんて不思議だった。
お姉さんがお茶を用意してくれるというので、その間私は彼の部屋にお邪魔していようと思って二階に上がる。
そしてそこで、私は信じられないものを見た。
彼が、見たこともない女をベッドの上で押し倒しているところだった。
彼は驚愕の表情で、女はやっちまった、みたいな顔をしていた。
咄嗟のことに頭が混乱する。
怒ってもいい場面だ。
なのに言葉が出てこなかった。
怒りよりも先に、悲しいという感情が湧いた。
このままいたら泣いてしまいそうだ。
彼の前で泣くなんて、情け無い真似はしたくなかったので、帰るとだけ言って私は階下に降りた。
玄関に置いた鞄を乱暴に掴んで、靴を履く。
背後でお姉さんの気配がしたが、構わず彼の家を飛び出した。
一体あれは何だったのだろうか。
幻でも見たのであれば、それで良い。
寝不足だし、あり得ないものの一つや二つは見てもおかしくない、なんて自分をごまかしながら歩く。
あれは幻なんかじゃない。
幻なら彼はあんな顔をしない。
人が走ってくる気配がして、私は咄嗟に身を隠した。
案の定彼だった。
どんな顔をして会ったら良いのか、わからなかった。
彼が実は浮気してる、なんて認められたら、生きていけない。
様々な思いが私の中で交錯して、彼の後ろ姿をそのまま見守っていた。
すると、同じ学校の女子生徒の肩を掴んで話しかけているではないか。
あの子……副委員長?
確か野崎とかって……。
まさか、野崎さんにまで……?
もうすっかりと頭に血が上って、私は彼に歩み寄ることにした。
彼と野崎さんが話していて、野崎さんが私に気づく。
そして野崎さんはそそくさと逃げていった。
彼の様子から、彼が野崎さんと浮気をしていたとかではないことはわかった。
しかし、さっきの女は別だ。
何者なのかもわからない。
親密なのか、そうじゃないのか。
一瞬のことだったし、呑気に見物をなんてとても思えなかったし。
彼は色々言っていたが、頭に入ってこない。
結局私は、為す術も泣く泣き崩れてしまった。
せき止めていたはずの涙が溢れ、止まらなかった。
彼は、全部話すからとりあえず場所を変えようと提案してきた。
確かに人通りがまだあるこの道で話すのは邪魔だし、人目も気になる。
何より私が自分の意思で涙を止められず、それを人に見られるのはいやだったので提案に乗ることにした。
彼の話は要約すると、こんな感じだった。
そこの球場から飛んできたボールが頭に直撃して、その後から食べ物も飲み物も全部排泄物に見える様になってしまった。
プールに行った時にさっきの女が姿を現して、自分が原因であると明かしたのだと。
正直、彼が何を言ってるのかわからなかった。
だって、それなりにちゃんとご飯だって食べてた。
昨日だって、お寿司一緒に食べてたけどそんな嫌そうな顔してなかった。
私ならきっと耐えられないし、なのに何で彼はそんな平気そうな顔をしてるのか、わからなかった。
それに、さっきの女にしたって何で押し倒す必要があったのか。
何もかもわからなかった。
私は食べることが好きだ。
美味しいものを食べていると幸せな気分になるし、場合によってはストレス解消にだってなる。
そんな私を見ていることも、苦痛じゃなかったのだろうか。
私が排泄物を食べている様に見えて逆に興奮でもしたのだろうか。
しかしそんな特殊な性癖がある様には全然見えない。
ますます私は訳がわからなくなった。
混乱して、私は彼を責めた。
そして、私たちは初めてケンカをした。
ケンカをして、やっぱりそれでも、仮に彼がおかしいんだとしても、私は彼が好きなんだと思った。
だから、私は彼に、一緒にいていいのかと聞いた。
他の女子が排泄物を食べているところも見てるけど、なんて言われてさすがにカッとなって、脅しをかけてしまった。
今の精神状態なら平気でやってしまいそうな自分が怖い。
ケンカのあと、私は彼に抱きついた。
彼が力強く私を抱きしめてくれた。
手を放さないで、とロマンチックな囁きをして、私は彼の急所を突いた。
さすがにこれは放してしまっても仕方ないか、と思いながらも彼を責める。
泣きそうになりながら彼は言い訳をしたが、私は許すことにした。
帰りたくないと駄々をこね、彼に私の意図を汲ませる。
明日は休みだし、もうがっつりとねっとりと、私は彼と絡み合いたい。
そのことで頭がいっぱいになった。
押し倒されて、めちゃくちゃにされたい。
そうしてくれないのであれば、もう彼を殺して私も死ぬ。
それくらいの覚悟で今夜は臨む。
彼が家に電話して、私が泊まる許可を得てくれて、私も自宅に連絡を入れる。
お母さんは許可してくれたが、わがまま言ったでしょ、と図星を突かれた。
彼に電話を代わる様に言われたので、彼に電話を渡した。
わがままでも何でも、もう彼がほしくて仕方ない。
あとで責められても構わない。
彼を私のものにできるなら、どうなっても構わない。
彼のことしか、もう頭になかった。
駅ビルで、換えの下着を彼に選んでもらって購入した。
意外にも彼は、私にピンクが似合うと言ってくれた。
発情してるのがバレたのだろうか。
彼の家では夕飯をご馳走になった。
彼のお母さんが作るものはうちのお母さんが作るものとは違って、一般的な感じがする。
うちのお母さんはどちらかと言うと和風のものが多く、料亭なんかで出てきそうなものが多い。
私が沢山食べる子なのだということを、おそらく彼はお母さんに伝えてくれたのだろう、量はかなり多目だった。
しかしそれを私が苦にすることなくぺロリと平らげたことで、彼の家族を驚かせたことだろうと思う。
お父さんからは、しきりに彼の何処が良かったのか、なんて聞かれたが……全部に決まってる。
嫌いなところなんてとりあえず、今のところはない。
これから出てくるとしても、許容できる自信はある。
お風呂を借りて、今夜こそと念入りに体を清める。
一瞬、ちょっとくらいは臭い子を演出してみても、なんて思ったりしたが昨夜知られてしまっているのだから今更だと思いなおす。
やはり初めての夜ならば清い体で挑みたい。
お風呂から上がると彼は自室にいるのか、居間にはいなかった。
お姉さんが私の部屋くる?なんて言ってくれたので是非見せてもらうことにした。
……なんていうか凄かった。
片付けとか整理整頓という概念はきっとないんだな、って思った。
簡単に言えば、めちゃくちゃに散らかっていた。
そろそろ彼の部屋に、と思ってお姉さんの部屋を出たところでお母さんとすれ違う。
布団を用意してくれたみたいだった。
いよいよその時が近づいているのだと、胸が高鳴るのを感じた。
彼はベッドを使えって言ってくれたけど、私が飛び込みで来ている立場な以上、そんなわけには行かない。
それに……寝る時間あるのかどうかも怪しかったし、正直どっちでも良かった。
彼がお風呂に入ってる間、部屋を漁ったりしないでくれと言われたが、あれはきっと振りだ。
漁れ、と彼は言ったに違いない。
ならばと私はベッドの下を漁る。
先日見たエッチな本が出てくる。
パソコンの検索履歴もこっそりチェックすると、無修正動画サイトが出てきたりしてちょっと驚いた。
割とマニアックな趣味をお持ちの様で……。
さすがにここまでは出来るかわからないけど、それでも彼が望むのであれば、とイメトレに励んだ。
お風呂から上がった彼が、私に経験者なのかと聞いてきた。
彼には私がそう見えるのかと一瞬頭が熱くなる。
昨日のアレでそう思ったのかもしれない、と考えて少しクールダウンする。
明かりを消すと、一瞬視界が真っ暗になるがすぐに目が慣れてくる。
彼は私の着ているものを脱がした。
下着だけはそのままで、下着を堪能したかったのかもしれない。
そしてそのまま、彼は私の秘所に口をつけた。
敏感な場所を強く吸われて、思わず嬌声が漏れる。
しばらくそうされていると、膝から力が抜けてしまって、へたり込んだ。
そんな私を、彼はとうとう素っ裸にした。
見てため息を漏らしている。
やはり彼にも思うところはあるのだろうか。
実は、何となく気分が盛り上がってしまって、お風呂で下半身の毛を全部剃ってきた。
彼はそれにも驚いていた様だった。
とても丹念に胸を愛撫されて、これもまた私を興奮させた。
胸で感じるのなんてそんなに、なんて思っていた私は、彼にされるなら割とどんなことでも気持ちよくなれるのではないかと思い始めていた。
そして私も、彼をよくしてあげたいと思い、彼のその剛直に手をかける。
口で、慣れないながらも懸命に奉仕をする。
少ししか舐めていないのに、彼はもう達してしまいそうだというので、仕方なく中断する。
私の中で果てたいということなのだろう。
避妊具をつけようとする彼に、その程度の覚悟なのかと問うと、彼はそのままする決意をしてくれた。
とうとう来るべき時が来た。
ずっと待ち焦がれた、その瞬間。
たった数日のことなのに、幾星霜にも感じられたその瞬間。
どんだけ飢えてるんだって話なんだけど、私にしてみたら長かった、というだけの話。
彼の先端が少し埋もれた程度なのに、予想だにしていなかった快感が体を巡った。
まだその部分へは達していないのに、既に貫かれたかの様な錯覚に陥った。
正直彼のは大きい。
すごいきつそう、というか私もちょっとだけ苦しい。
馴染んでほぐれてくればまた違うのかもしれないが、正直今のまま出し入れされたら泣いてしまいそうだ。
やがて彼が意を決してぐいっと腰を入れ込んできた。
躊躇のないその一刺しで、私は処女で無くなった。
同時に彼も童貞ではなくなったわけだが、瞬間的に思わず彼の背中に思い切り爪を立ててしまった。
心の中では、正直「オゴゴゴゴ……」と呻いている。
だが声に出せば彼は萎えてしまうかもしれない、と必死で声に出すのを我慢した。
痛むかと聞いてくる彼に、私は痛いけど嬉しい、と答える。
見栄を張っているといわれればそれまでだが、嬉しいという気持ちもちゃんとある。
痛いばかりではもちろんない。
いや、めちゃくちゃ痛いし苦しいのは変わらないんだけど。
そう思う一方で、体は更に疼きを覚え始める。
私ってこんなにもはしたない子だったのか、と少しショックだが、同時に彼をここから喜ばせることが出来る、と更に嬉しくなった。
それを伝えると彼は驚いていたが、私は構わず腰を動かす。
声を抑えていたつもりだったが、次第に我慢できなくなって私は恥も外聞もなく喘いでしまった。
それを危険と感じた彼は、そのまま唇を塞いでくれたのだが、それが更に彼の限界を近づかせる結果となった様だ。
しかし我慢しているのか、なかなか発射しない。
とにかくたっぷり出してほしい。
どういう感覚なのか、この身で感じてみたい。
好奇心が勝ち、彼に出す様言う。
出さなければちょん切る、と脅して、更に腰の動きを早めてあげた。
すると私の中で彼の剛直は更に膨らんできて、とうとう彼は私の中に欲望を吐き出した。
昨日もかなり出したはずなのに、今回も物凄い量を出している。
勢いよく発射して、脱力した彼の頭を胸に抱く。
きっとおっぱい好きだよね。
正直疲れはあるし、寝不足も響いている。
にも関わらず、体はまだ彼を求めて止まなかった。
もう一回、とリクエストするも、彼はそんなにすぐは無理だと泣き言を言う。
こんなこともあろうかと、お父さんの部屋から秘密のお薬をくすねてきている。
……ちょっと前にお父さんとお母さんがしてるの、見ちゃったし。
口移しでそれを彼に飲ませ、私は中からあふれ出す彼の欲望を処理する。
ふと彼のを見ると、既にビクビクいい始めていた。
こんなにも効果があるものなのか……もっとくすねてこようかな。
それを見て我慢できず、彼もこのまま動かすのは危険と判断して私が跨ってひたすら獣の様に腰を振った。
何回発射しても、彼の剛直は萎えることなく、抜かずの……何発だっけ。
数えてなかったけど、相当な回数出させてしまった気がする。
後半はお互いに大事なところが痛くなってしまって、私も体力の限界がきて終わりにしようということになった。
この時もう既に朝の六時になっていた。
どんだけ頑張ってたんだろう、本当……。
この後お姉さんが乱入してきてあっさりバレて、彼のお母さんにもバレてしまって、私はかなり恥ずかしい思いをする。
彼なんかはもっとだろう。
彼がシャワーを浴びている間に、お姉さんからちゃんと大事なところのケアをする様に言われた。
傷には違いないし、そのまま放置するのはちょっと危ない、とのことだった。
さすがに眠くなって、起きたら私の家に行く約束をしたが、彼はちゃんと覚えててくれてるだろうか。
ここで私の意識も途切れた。
初めての、幸せな睡眠かもしれない。
私は身長が低い。
高校一年生になってもまだ一五〇センチしかない。
昼の学食というのはいわば戦場みたいなもので、私みたいな小さいのは人の波に飲まれてたちまち埋もれてしまう。
そしてまごまごしている間に食べたいものなんかすぐ売り切れてしまって、泣く泣く大して食べたくも無い、値段と味の釣り合わないものを食べなければならなくなる。
しかし、その日だけは違った。
「パン?何パン?甘いのとしょっぱいのでいい?」
こんな小さくて見失っててもおかしくない私に目を留めて、声をかけてくれた人がいた。
咄嗟のことに声が出ず、ただうんうんと頷くしかできなかったが、その人は人の波をかきわけて、メロンパンと焼きそばパンを買ってきてくれた。
袋を手渡されて、小さくありがとう、と言うが聞こえていただろうか。
お金を渡そうともたついている間に、彼は再び人の波の中へと消えて行ってしまった。
私はそんな彼に惹かれて、すぐに彼のことを調べて回った。
聞いたこともない、珍しい苗字だった。
名前も、あんまり馴染みが無い。
この世知辛い世の中で、あんなにも温かみを持った人に出会えるなんて思って居なかった私は、何とかして彼に近づきたかった。
私の家庭環境を知る人間はこの学校にも少なく無い。
私の所属するクラスの人間は全員知っている。
彼が違うクラスでよかったと思ったが、何かの拍子に知られてしまう懸念がある。
私はすぐに、クラスメイト一人一人に口止めをして回ることにした。
やってることはやや汚い気がするが、それでも彼に幻滅されたくない。
怖いなんて思われたくない。
もしかしたらもう他に好きな女の子がいたりするかもしれない。
それでも、私は彼から目が離せなかった。
幸い、彼と接点のあるクラスメイトがいないこともあって、快くみんな内緒にしてくれる、とのことで大して骨が折れることもなかった。
一年生の間はクラスが違い、接点も無いためひたすらストーカーの様に気配を殺して彼を影から見た。
気づかれていないと思って油断していたら、彼に気づかれてしまったことがあった。
「えっと、あの時の女の子……だよな。俺に何か用?」
やってしまった。
私の初恋はこんなところで終わるのか、と思った。
「え、えっと……」
答えに困っていると、そういえば食堂での代金を払っていない、ということを思い出す。
あの時のことを改めて礼を言って、財布を取り出す。
「そんなの、いいって。いくらだったか覚えてないし。それより、あれからちゃんと食べられてるの?」
めんどくさそうとか、そういうのではなく、彼はそんなことか、みたいな感じで言っていた。
私は名乗りもせずつけ回していたことを少し恥じた。
「そうか、結城さんて言うのか。気にはなってたんだ」
社交辞令かもしれないのに気になってた、という一言のみをピックアップして、私の乙女脳がフル稼働した。
この人も、私のこと気になってたの?
私、この人のこと好きでいていいの?
曲解もいいところだが、私の脳みそはその時既に、自分にとって都合の良い解釈しかできなくなっていた。
それから何かにつけて彼に話しかけに行ったり程度だが密かなアプローチが始まった。
私みたいな小さい人間は、こうでもしないと存在すら認識してもらえないんじゃないかなんて自虐的な思考が生まれたのだ。
まずは私という人間を認識してほしい。
彼に願うのはそればかりだった。
二人で出かけたりというのはまださすがに気が引けて、クラスに押しかけたり放課後に偶然を装って話しかけたりが精一杯の私だったが、それだけでも十分幸せだった。
彼もそうだといいな、と密かに思っていたけど、そんなことは聞けるはずもない。
だが、嫌がったりしている様子は無いので、私は勝手に彼も楽しんでくれてるのだと思い込むことにした。
「結城さんは食べるのが好きなんだな。あの時、もっとパン買ってあげたら良かったな」
好きな食べ物について熱く語っていた時、彼はそんなことを言ってくれた。
餌付けなんかされたら、もうずっと離れられなくなってしまう。
一生ついていきます、なんて重い子だと思われたら生きていけない。
「じゃあ今度、何か食べにでも行く?」
彼がそう言ってくれたが、これは社交辞令なのだろうと勝手に解釈して叶うことはなかった。
何てもったいないことをしたのだろう、と思う。
彼は物事にこだわりがないのか、本を読む以外ほとんど適当だ。
ご飯も適当に食べてるし、誰かと話しているときでも、生返事をしていることがほとんどだった。
しかし、私と話しているときだけはちゃんと返事をするし、考えて喋ってくれたりもする。
これは勘違いしてもいいのかな、なんて希望が湧いてきた。
学年が上がって、二年生になると私は彼と同じクラスになることができた。
小躍りして喜んで、これで毎日言い訳しないで一緒にいられる、なんて楽天的に考える。
事実、お昼を一緒に食べたり放課後に二人で雑談したりと、接点は急激に増えた。
この頃には私は浮かれきっていた。
彼も何となく、私との会話を楽しんでくれている素振りを見せてくれている気がして、私は張り切って彼に話しかけた。
そんなある日、異変が起きた。
朝早くに登校してきて、フラフラとしている。
目がどこかうつろで、明らかに元気がない。
栄養が足りてないのかな、なんて思って甘いものでも、と思って鞄を漁っていたらいきなりスクワットとか始めて元気アピールされた。
普段の彼らしからぬ行動だった。
あまり追求されたくないのか、と勘繰ってしまうが、追及したら彼が離れていってしまいそうで、私は諦めて見守ることにした。
見守っていたら、具合が悪くなったみたいで保健室に行ってしまい、私はお昼までの時間を一人寂しく過ごすことになってしまう。
昼休みに食堂で彼を見かけて、いち早く声をかけた。
カレーの気分だったので、今日はカレーにしようと思う、と告げたところ、彼の様子が激変した。
あれはカレーなんかじゃない、とか言い出して、彼がそこまでカレーに熱意を持っていたのかなんて思ったのもつかの間、いきなり彼が倒れてしまった。
パニックになりかけたが何とか意識を強くもって、私は救急車を呼んだ。
私もついていきたかったが、家族でないから、という理由でそれは許されなかった。
結局そのあと彼は二日間の入院をしたという。
そこまでひどい何かがあったというのに、私は少しも気づかずのほほんと過ごしていたことを後悔した。
彼が退院して翌日、登校してきたときは抱きつきたくなるくらい嬉しかった。
もう、彼があんなことにならない様に、私は今まで以上にちゃんと見守ろうと誓った。
お昼には献身的にカレーをあーんしてあげて、そしたらラーメンを箸ごとくれた。
元気になってほしくて、栄養でもつけてもらおうと食事に行こうと提案する。
誘う時はそれはもう心臓がバクバク言って、断られたらどうしようと思ったものだったが、周りの視線やらに負けた彼が私を下校に誘ってくれた。
ちなみに話題に困ったのか、唐突に下ネタを言われた時はどうしようかと思った。
その時にちゃっかりと連絡先も交換して、週末にご飯を食べに行くことが決まった。
家に帰ったらずっと一人だった私は、最愛の人という話相手を得た。
忙しくても暇でも、彼はちゃんとメールの返事をしてくれる。
どんなくだらない内容でも必ずちゃんとした返信をしてくれる彼のことを、私はもっともっと好きになっていった。
そして迎えた週末。
彼はあまり乗り気でない様だった。
だって、顔にそう書いてある。
彼は食べるのがあまり好きではないのだろうか。
私の調べによれば、彼には嫌いなものなどない。
今日だって、男だったら大喜び間違いなしのデカ盛りメニューの店を選んだ。
まぁ、女の子である私でも大喜びで食べるんだけど。
二人で違うものを注文して、私は唐揚げをおすそ分けしてあげた。
そしたら、彼は海老天とかぼちゃ、サツマイモのてんぷらをくれた。
何で私の好物を知ってるんだろう。
ますます彼のことが好きになる。
自分のことながら、チョロい女だと思う。
食べ終わって会計は、最初私が奢るつもりでいたのに、彼も譲らなかったので半分こすることにした。
二人で半分こっていいよね。
店を出たところでカップルが仲睦まじげに食べ物を半分こしてかじりあってるのを見て、私は彼とのそういうことを連想した。
すごく、いい。
出来れば今すぐでもしたいと思った。
しかし彼は恨めしげな目でそのカップルを、睨む様に見ていた。
カップルとか見るのが苦手なのかと聞くと、そうだと彼は言った。
意外だった。
男の子って大半は恋愛に興味があるものだと決め付けていたこともあって、彼がそういうことに興味を持っていないことが。
しかし、恋愛には興味があるのだと彼は言う。
いい人がいるのかと聞いてみると、それはまだ、という。
私にも、ちょっとくらいならチャンスがあるかもしれない。
そう思うと居ても立ってもいられず、私は半端な時間だと思ったが先に帰ることにした。
これからの彼の攻略法を練っておきたかったのだ。
断じてトイレが恥ずかしいから、などという理由ではない。
家で色々考えていたら、母が不思議そうな顔で私を見た。
「何だか楽しそうね」
そう嬉しそうに言う母の顔が印象的だった。
翌週、彼を週末にある祭りに誘った。
彼は二つ返事で了承してくれて、私は粗方の位置を知ってもいたので、彼の家に迎えに行くことにした。
彼は最初、それを渋っていた。
魔王がいるから、とか何とか。
きっとエッチな本とかあるんだろうなぁ、と予想はできた。
しかし私だってエッチなサイト見たり、たまにエッチな本立ち読みしたりすることくらいある。
男の子がそういうの見てガス抜きしないといけないメカニズムなのも、本で読んだりして知っていた。
だから、もし見つけても見ない振りするよ、と言っておいた。
当日、浴衣を母に着付けてもらう。
「いい人でも、できた?」
母は嬉しそうだ。
髪型も普段と違う感じで浴衣に合わせてくれた。
私は明言はしなかったのだが、母は何となく察した様だった。
「上手く行くと、いいわね」
今までこんな話をしたことはなかったのに、母はそれでも快く送り出してくれた。
気合いを入れなおして、私は彼の家に向かう。
彼の家で私を待っていたのは、魔王ではなく彼のお姉さんだった。
まるでお人形さんか何かを見るかの様なお姉さんの視線。
私もまた、お姉さんをすごい綺麗だと思ったし、正直こんなお姉さんほしいと思った。
私たちは一気に意気投合したのだが、彼は苦い顔をしていた。
お姉さんとお話でも、なんて思ってたら彼は真っ先にお姉さんを追い出しにかかる。
私が少し甘え気味に、話したいと言うと、少しだらしない顔になったのは気のせいだろうか。
お姉さんとの会話が盛り上がるにつれ、彼の顔色が悪くなっていく。
彼は私を彼の部屋に案内してくれた。
男の子の部屋に入るのは当然初めてなのだが、やはり落ち着かない。
異性を嫌でも意識させられる気がした。
彼に促されて彼の机にある椅子に腰をかける。
その時、机に置いてあるものの違和感に気づいた。
こ、これは……こういうのが、彼の好みなのか。
ため息とともにページをめくると、彼が光の速さでその雑誌を回収してしまった。
予習が全然できなくて不満はあったが、彼の部屋だし意思は尊重してあげないといけない。
もし彼が野望をむき出しにして襲ってきたら、なんて妄想をしてしまいそうになるが、まだそんな段階じゃないと自分を諌める。
そんなとき、彼がお姉さんから童貞奪われそう、みたいなことを言った。
私は二人の仲のよさを実際に見ていたし、言い知れぬ危機感に襲われて、つい我を忘れて彼に逆壁ドンしてしまった。
少し怯えて子犬みたいになっている彼は、少し可愛く見えた。
それからお姉さんの昔の話なんかを聞いて、私たちは出かけることにした。
ここまできてビビッてられるか、と思い立って、私は手を繋ぎたいと提案する。
明らかに動揺して、手汗など気にしている彼だったが、彼の手だったらたとえ自家発電直後でも構わないと思った。
寧ろ推奨。
彼は力強く私の手を握ってくれた。
温かくて、何時間でも繋いでいたいのは私の方だった。
会場につくと、色とりどりの飴だとかカキ氷だとか、美味しそうな食べ物がたくさん並んでいる。
一方の彼はと言うと、難しい顔で出店を眺めていた。
私は見てるだけでは我慢できず、買いに行くことにした。
彼を待たせてしまうことにはなるが、今日も沢山食べてもらおう。
そうすればきっと、今すぐじゃなくてもいつかは元気になるよね?
彼と二人で食べる出店のご飯は、格別だった。
彼は頑張って沢山食べてくれたと思う。
私が残りを引き受けようとして、アクシデントが起きた。
焼きそばのパックが地面に落ちてしまった。
浴衣を汚したりということはなかったが、受け取ろうとした時にバランスを崩した私の肩を、彼は掴んで支えてくれたのだ。
彼がこんなにも積極的に、私に触れたのは初めてなんじゃないだろうか。
思わず心臓が跳ねた。
一瞬見つめあう形になったのに、言うに事欠いて彼は、
「口の周りにソースついてる」
なんて意地悪なことを言った。
ムードぶち壊しじゃん、もう!!と心の中で怒りが湧きそうになったが、意地悪には意地悪を。
とって、とねだってみると、彼はティッシュを取り出そうとした。
そういうのはエッチの後ででも使えばいいと思う。
「手、放しちゃうの?」
私はわかっていながらこんなことを言った。
そのままでも取る方法、あるんだよ、と。
彼は明らかに狼狽して、目を泳がせていた。
赤くなっているのが暗がりでもわかった。
しかし、決意したのかそのまま顔を近づけてきた。
これは予想外だった。
けど、言いだしっぺがこんなところで逃げるわけにいかない。
何より彼の決意を踏みにじる様なことはしたくなかった。
もう少し……もう少し……と思ったところで、子どもの冷やかしが入って彼の頭が冷えた様だった。
子どものしつけくらいちゃんとしてよね……。
我に返った彼からティッシュを借りて、私はフリーズした。
パッケージに欲求不満そうな女の人のイラストと、人妻ダイヤルの文字。
何個か電話番号が書いてある。
彼の趣味ではない、と頭でわかっていても聞かずにいられなかった。
私とのメールなんかじゃ、やっぱり満たされないのかな、って。
私の中の元々自信のない部分が顔を見せ始めてしまった。
理不尽な文句を、散々言ってしまった。
やれ顔文字使ってくれないだの、絵文字使ってくれないだのと、普段そんなこと考えてもないのに。
楽しくて仕方ないという気持ちが先行しているはずなのに、今日だけは何故か私のわがままな部分がじっとしていてくれなかった。
つい、彼の気持ちが知りたくなって、先走ってしまう。
私とのメールを楽しんでくれているのか、とか。
彼は、毎日ワクワクソワソワしてると言っていた。
本当なら、こんなに嬉しいことは無い。
だけど、今日はこれだけで満足できなかった。
とうとう、聞いてしまう。
本当なら、私から好きです、って言おうと思っていた。
だけど、口から出た言葉は、彼を誘導するものだった。
私のこと、好きなのかと。
彼は勢いで答えてしまった様で、相当に慌てていた。
けど、全くの見当違いということでも無い様で、彼はもう取り繕うのを諦めていた。
私も、次の段階に進みたくて仕方なく、その場にあったゴミを手早くまとめる。
これで邪魔するものはもう無い。
彼との距離を詰めて、彼の腕にしがみついて、私も好きだと伝える。
好きだと言わせてしまったので、トドメになる一言は私から言うことにした。
「だから、私と付き合ってくれる?」
彼は何が起きたのか理解していなかった様だが、そのあと正気を取り戻した彼は喜んで、と言ってくれた。
その瞬間、目の前の光景全てがばら色に見えた気がする。
彼と、私がお付き合いすることになるなんて。
彼に、こんなにも大事にしてもらえるなんて。
お母さんの祈りもちゃんと通じたんだって。
いつの間にか私たちの周りには見物人がいて、私たちの様子を見ていた様だった。
だけど、ここで引き返すことは出来ない。
何より、確かなものがほしかった。
口の中はまだたこ焼きのソースの味が残ってる。
だけど、このままでもいいから、彼と……キスがしたかった。
どうしても、今すぐ。
私はわがままだ、と前置きした上で、彼にキスをねだってみる。
これは、達成されないだろうと予感していた。
いくら彼でも、そこまでの行動力を持ち合わせていないだろうから。
どうにもできなそうだったので、じゃあ私がする、と前置いて彼の肩をがっちりと掴んで、二人の距離がゼロになった。
キスをする少し前、お姉さんの声が聞こえた気がした。
ごめんねお姉さん、きっと彼のこと大事なんだろうけど……私がこれからはもっと大事にするから。
心の中で謝っておく。
家に帰って余韻を楽しみつつ、お母さんに恥ずかしながらの結果報告をすると、自分のことの様に喜んでくれた。
いつでもいいから、是非家に連れてきなさい、と言われた。
それからしばらくは、下校デートが中心で私が場所を選ばずキスをせがんだから彼はすごく困ったりもしていたと思う。
夏休みに入ったら、きっともっといっぱい会える、なんて思っていたけど、最初の二日くらい、彼はお誘いもくれなかった。
私も何だか意地になってしまって自分から誘ったら負け、とか訳のわからない縛りを自分に課していた。
すると突然電話が鳴る。
珍しい。
普段はメールで連絡がくることがほとんどで、電話での会話など片手の指で足りるくらいしかしたことがない。
お姉さんに何か言われたのかな。
せっかく電話してくれたのに、彼は私の名前を呼んでくれない。
付き合い始めて一ヶ月近く経とうというのに、まだ慣れない。
困った彼氏に、私は意地悪をした。
「結城さんなら、今もう一人うちにいるよ。お父さんだけど。代わる?」
すると彼は慌てて私の名前を呼びなおした。
ちゃんと呼んでくれないなら、今度のデートにはお父さんを同行させる、なんて言ったらめちゃくちゃに狼狽していた。
実はプールか海には絶対行きたいと思っていて、先日こっそりと水着は購入しておいた。
その為結局プールに行こうと提案して、また私は彼の家まで迎えに行くことにした。
さすがに暑かったしちょっと汗ばんでしまったけど、プールに入るから大丈夫か、なんて思った。
今日もお姉さんは家にいたけど、彼はさっさと私を連れ出してバス乗り場に向かう。
行きのバスの中でまた、名前を呼んでもらう様にお願いしてみた。
思い切り照れながら真帆、って呼んでくれる彼の顔は茹でダコみたいで美味しそうに見えた。
大事な時にそんなんじゃ困るよ、なんて言ったらもう野獣みたいな顔になってて、男の子なんだなぁって思った。
そんな彼が愛おしく感じて、バスの中なのにそっとキスをする。
プールに着くと、彼はバスを降りるときに手を差し伸べてくれた。
こういうの自然にやってくれるところはポイント高い。
大事にされてるなって実感できる。
彼はさっと入場券を二人分買って、一枚を私に渡した。
お金を払おうとしたらそそくさと更衣室に逃げ込まれてしまった。
なら私はお昼を買ってあげたら釣り合い……取れないなぁ。
本当に困った彼氏だ。
今日の為と言っても過言ではない、用意してきた水着を着て、彼の待つプールへ。
出来るだけ可愛らしいものをと思って選んだつもりだったが、効果覿面だった。
何というか目が釘付けになっていて、見つめているなんていう表現が生ぬるく感じた。
軽く準備運動をして、私たちは流れるプールに入る。
彼は下半身が困ったことになったみたいだったので、気を遣って先に入ることにした。
程よく冷たい水が心地よく、私はどんどんと泳いでいたのだが……その時ちょっと困ったことが起きた。
水着を見せるという目的に心を奪われすぎて、紐の結びがゆるかったことに気づかなかった。
結果、流れるプールで私だけでなく水着の上が流されてしまう。
このままじゃ男の人たちの欲望のはけ口に……なんていうバカな妄想をしていると、彼が私の様子に気づいてきてくれた。
事情を話すと、またも下半身事情がおかしくなりそうになっていたが、探そうとしてくれた。
実はもう見つけてあるので、彼の手を文字通り借りて、手ブラをさせた。
密着していればイチャついているカップルに見えるだろうから、と。
私には男の子の気持ちなんてわからない。
仮にバミューダパンツの中で彼のアレがつっかえ棒みたいになってしまっているとして……お尻に何かあたった。
まぁ、この状況でそうならないのなんて熟練のセクシー動画男優くらいじゃないかと思う。
生理現象だし、今は突っ込まないでおく。
そう、今はね。
水着が浮いているところまで二人で密着しながら歩いて、漸く彼は手ブラから開放された。
水に潜ってこっそり彼の下半身を見ると、案の定だった。
こんにちはしてないだけマシかな。
少し泳いで、水から上がってご飯にすることにした。
私が財布を持って買いに行く。
こういうところで食べるご飯もなかなか……味ではなくて、雰囲気の問題だけど。
それに彼と一緒なら何食べてもきっと美味しい。
二つのトレーにてんこ盛りにご飯を買って彼の元に戻ると、彼は眠っていた。
興奮しすぎて疲れちゃったのかな。
先に食べてようかとも思ったが、食い意地が張ってるなんて思われたらちょっと嫌なので待つことにする。
時間にして二、三分くらいで彼は目を覚ました。
様子が少しおかしかったけど、エッチな夢でも見てたのかな。
食事を終えて、しばらく遊んでその日は解散になった。
送ってくれると言ってたけど、さすがにまだちょっと心の準備ができてないので遠慮しておいた。
母に今日の成果を報告する。
手ブラのことなんかは伏せておいたが、それでも慈しむ様な視線で私を見て、嬉しそうだった。
小さい頃から心配ばかりかけていた私だったが、やっと子どもらしい喜ばせ方ができたのだろうか。
課題が思っていたよりも多くて、消化しないとまた後々面倒なことになるので、私は一人で全部片付けた。
彼はちゃんと終わらせたのだろうか。
メールで確認をすると、ぼちぼちやっている、とのことだった。
出来れば夏の間にひと夏のアバンチュール……なんてちょっと古い?
とか思ってたが、夏の間にエッチなことはできなかった。
二人で汗だくになってお互いの汗を舐めあって、なんて過激な妄想が膨らんではいたのに、二人でいてもいざとなると勇気が出なかった。
ならばと私は一人勉強に勤しむ。
何の勉強かって?
それは……もちろん大事な時のお勉強。
見ていて興奮して、自家発電に耽ってしまうことも多々あって、半分くらいしか頭に入らないけど……それでも大事な時の役に立てばいいなって思った。
秋になって、私たちは文化祭の実行委員会になった。
二人で立候補して、準備を着々と進める。
後で慌てたりなんて私の性に合わないので、任されたことはさっさと済ませる。
私たちが任されたのは予算やらの擦り合わせ。
これについては非常に簡単だった。
代表の大半は私の家のことも、過去に色々暴力沙汰を起こしていたことも知っていたので……暴力沙汰?また今度機会があったらね。
まぁ、そんなわけでちょっと真剣な顔をして話をしたらあっさり了承してくれた。
彼は不思議そうな顔をしていたが、私は女の子同士の話だから、と嘘をついた。
この日、私は密かに行動を起こす決意をしていた。
二人で大人に……有体に言えばエッチなことをしよう、と。
だから適当な事情を取り付けて、彼を駅前までつれてきた。
何もなしにいきなりというのも芸が無いので、適当に文具を買って駅ビルを出た。
裏通りに出て、ここから先に行けば大人の街なんだという私の呟きに、彼は私の中の女を意識した様だ。
もちろん、これもわざとだが彼はお金の心配をしている。
察しが良くて嬉しい限りだ。
何やら葛藤があるのか、彼はぼーっとしていたので私は返答を待たずその手を取って、裏通りを歩きだす。
頭の悪そうな三人組の男が、邪魔臭く広がって歩いているのを避けて通る。
しかし、彼がそいつらにぶつかってしまった。
人に迷惑をかけるのが生きがいだとかカッコいいだとか思って居そうな、自分の存在意義をそんなことでしか見出せない連中なのだろうと思った。
彼は潔くぶつかってしまったことを謝るが、三人組は想像通りの頭の悪い文句を述べる。
面倒なことになってしまった。
彼がたまりかねて三人組に食って掛かる。
私に逃げろなんて言っていたが、さすがにそんなわけに行かない。
それに彼がケンカ慣れしてる様にも見えない。
どう見ても無謀だ。
私が助けてしまえば話は早いのに、私はここで彼に本性を見せることを躊躇ってしまった。
それが、彼に怪我をさせることに繋がってしまい、私は酷く後悔した。
見た目通りにゲスは男たちは、私にその矛先を向けた。
こうなってしまったらもう、仕方ない。
せめて彼の前でだけは可愛い彼女でいたかった。
そんな思いまでもふみにじったこの男どもに、わからせてやることにする。
「私の彼氏にこんなことして、生きて帰れるなんて思ってないよね?」
殺すつもりはもちろんなかったが、彼に負わせた痛みの倍以上は痛みを知ってもらおうと思った。
一人は肩から腕が二回転くらいするまで捻ってやって、一人は前蹴りからの踵落とし。
これくらいやれば十分か。
完全に縮み上がった残りの一人に、次会ったら殺すと脅しをかけて負傷した二人を連れて帰らせた。
彼もあんな私を見て、少々縮み上がってしまった様だ。
大いに計画が狂ってしまった。
あいつらがいなかったら、今頃は違う方面の汗を流していたかもしれないのに、こんな無駄なことに……。
ともかく彼をそのままにしておくのは危険だと思い、傷の手当がしたかった。
私はもう、ここまで本性を晒してしまったので諦めて近いということもあるし私の家に来てもらうことにした。
居間で手当てをしている間、彼は私の家を見て部屋の中で驚愕の表情を浮かべていた。
私の素性を知って、まさかこんな家の子だとは思って居なかったのだろうということがわかる。
私の素性についてぽつりぽつりと語り、彼に惹かれたきっかけになった話もした。
彼もそのことについては覚えてくれていた様だった。
そんな話をしていると、お母さんが居間に入ってきた。
彼は恐縮して挨拶をしていた。
私が彼の怪我について話すと、母は別方向の心配をした。
「じゃあ、もう?」
もう、何だ。
まだだけど何か?
心の中で悔しい思いがひしめく。
お母さんに、そんな話は、と言って止めたが、母はこんなことを言う。
「ああ、ごめんなさいね。でも、空太郎くんはそんなの、あんまり気にしてない様に見えるわよ?」
私は知られてしまったという事実にばかり囚われて、彼をよく見ていなかったのかもしれない。
彼を見ると、確かに軽蔑したりと言う様子はなかった。
母をして、砂糖吐きそうなくらい甘酸っぱい、と言わしめる様な彼の決意を聞いて、私は自分が恥ずかしくなった。
自分の体裁だのばかり頭にあった私と、精一杯私を愛してくれようとしている彼。
私はこの時、彼の前で可愛い彼女でいることをやめることにした。
お母さんが私の小さい時の話なんかを彼にする。
誘拐されそうになった話とか。
居間はもうそこまでトラウマでもないが、小学校の頃なんかはそのせいで人間不信になったのを思い出す。
そして母が頭を下げて、彼に私を頼むと言った。
さすがに驚いたが、私も彼によろしくされたい。
だから黙って見ていた。
口八丁な母はそのまま泊まって行く様に彼に言う。
彼は戸惑っていたが、私も泊まって行ってほしいというと、家に電話をして許可を取ってくれたのだ。
私がこんなに素晴らしい彼氏を連れてきたお祝い、ということで両親は寿司を取って彼をもてなした。
挨拶のすぐ後に露骨な下ネタで歓迎しようとした父を嗜めると、父は大きな杯を用意させた。
お酒を少しだけ注いで、彼と私に飲む様に言う。
飲み終わって、父はこれで夫婦だな、などと浮かれたことを言う。
いい加減恥ずかしいからやめてもらいたい。
食事が済んで、お父さんは酔いつぶれてそのまま机に突っ伏して寝てしまった。
彼の前でそういうだらしないのはやめてほしかった。
彼にお風呂に入ってもらって、私もその後で入浴して、色々と念入りに洗う。
予定は狂ってしまったけど、結果オーライ。
きっと彼だって、そういうことを意識はしているはずだ。
彼が通された客間に、私は忍び込んだ。
なるべく音がしない様に、と思ったがふすまの音をさせてしまってひやりとする。
彼はまだ寝入っていなかった。
彼の枕元に立って、彼を見下ろす。
目、開けてくれないかな、なんて思いながら彼を見る。
するとすぐに目を開けて、彼も私を見た。
一緒に寝たい、と言うと彼は少し考え込んでいた。
もちろん寝るだけで済ませるつもりはない。
私の中に滾る欲望を、彼にぶつけたい。
彼にもぶつけてほしい。
おそらくは私の目に、そういう邪な思いが映ってしまっていたのだろうと思う。
彼はそんな私の思いに気づいている。
泣き落としに近い形で、私は彼にうんと言わせた。
焦ってはいけない、と思いながら布団にもぐりこんで彼に触れると、彼の体温が心地よかった。
胸に頬を寄せてみると、すごい勢いで心臓がドクドク言ってるのが聞こえる。
やっぱり彼も緊張しているのだとわかる。
彼に、今日守ってくれようとしたご褒美と称してキスをする。
今までは、唇を合わせるだけの軽いものだった。
だけど今日これからは、もっと濃厚な関係になりたい。
そんな意味を込めて、舌を絡めることを提案する。
もちろん拒否権など与えない。
なのに何故か彼は舌と聞いてお腹を鳴らしていた。
焼肉の牛タンの話なんかをされて拍子抜けしてしまった。
食べられないけど、と私のタンで我慢してもらうことにした。
彼は私に幻想を持っている節がある。
私を綺麗なものだと思っている。
可愛くいるための努力はしているつもりだが、それでも女の子だって汚いことくらいある。
ずるいしエッチなことだって考えるし憧れる。
そのことを彼に確かめる。
体育のあった日の学校帰りの革靴の匂いとか嗅いだら一瞬でそんなのぶっ壊れる、と言うと、何やら想像したみたいだった。
なのに嫌な顔ではなかったのが少し気になる。
とにかくずるくてエッチな私は、彼にがっちりと組み付いて舌を絡めた濃厚なキスをした。
正直動画なんかでの見よう見まねだったが、上手くできたかわからない。
「もっと、私の味を覚えて……私も空くんの味、覚えるから」
私は彼を焚きつけるため、恥ずかしいなと思いながらもこんなことを言ってみた。
深く長いキスを重ねるうち、私の体も疼きを覚えるのがわかる。
彼がほしい。
少しくらい痛みを伴っても彼の欲望の赴くままに、かき回されたい。
そんなことを考え始めていた。
けど、彼は流されて抱いたりはしない、と言った。
どういうことなのか、イマイチ理解できない。
まさかとは思うが、これからセックスをしましょう、なんていちいち宣言してからじゃないとしない、なんて言うつもりなのだろうか。
私の中の疼きが強いこともあって、一瞬はイラつきを隠せない私だったが、彼はすぐに代案を出した。
出した、というとおかしいかもしれないが、彼は私の下着の中に手を入れ、疼いているその部分を、弄り始めた。
思いもかけない奇襲に、思わず声が漏れてしまう。
私の中の女の部分が、覚醒する。
多分、この時にはもう完全にメスの顔をしていたに違いない。
彼の手を存分に使って、自らを慰めろと彼は言った。
もう、手でも何でも良かった。
彼に触ってもらえるなら、それだけで良かった。
恥ずかしいと言う思いに反して体は素直な様で、彼の手に大事な部分を強く押し付ける。
私の反応を見て、彼は反応が強まった場所を把握した様で、執拗にその部分を刺激してきた。
はしたない嬌声をあげながら、私はその行為に没頭する。
やがて、頭が真っ白になって、彼の見ている前で私はだらしなく果ててしまった。
私が達したのを見届けて、彼はトイレに、などと言っていた。
そんな嘘が通じる相手だと思っていたのか、と私は彼を引き止める。
一人で処理してすっきりするつもりだったのかもしれないが、そうは問屋が卸さない。
彼を私の前に座らせて、私は彼のガチガチになった部分を扱いた。
動画では割と激しく扱いたりしてるのを見たが、何処まで強くしていいのかわからなかったので、なるべく痛くない様に。
拙い手つきで、私なりに一生懸命に頑張ったつもりだったが、彼は反撃してくる。
さっき達したばかりの私は、彼が果てたすぐ後で絶頂を迎えた。
処理をして、気まずい雰囲気の中二人で布団に入った。
なにしろ、お互いの手を使って自家発電に勤しんでいたのだ。
恥ずかしさは倍増だ。
しかし彼に抱きついてみると、彼も抱き返してくれたので、私たちはそのまま抱き合って眠った。
時間は午前三時になろうとしていた。
六時頃、私は予め設定しておいたアラームで目を覚ます。
昨夜の行為の余韻とでも言うのか、少し体がだるい。
当然寝不足でもあると思う。
だけど、私は簡単にシャワーを浴びて彼と私二人分のお弁当を作った。
母が途中から手伝ってくれて、お弁当は思ったよりも簡単に出来上がった。
七時を過ぎて彼が起きて来て、母と何やら話していた。
二人で学校に行くために家を出て、少ししてやっぱり昨夜のはなかったことに、なんて思った。
あれは性行為ではあるが、いわばオナニーの見せ合いっこみたいなものだ。
あんなのはカウントしたらよくない気がして、彼にそう提案しようとした。
すると彼も言いたいことがある、ということで一緒に言うことにした。
「「昨夜のことはやっぱり恥ずかしいから、無かったことにしよう」」
少しもずれることなく二人で同じことを言って、思わず笑ってしまった。
そのあと話題を切り替えるためか、彼は私の食べる量についての話をしてきた。
食べた分の質量は何処に?みたいなことを聞かれてさすがにこれは答えるのが恥ずかしかった。
女の子だって排泄くらいする。
その為の器官だってあるわけだし。
じゃなかったら今頃は部屋から出るのさえ苦労する様なおデブちゃんになってるだろうし、きっと彼は好きになってなんかくれてないと思う。
そういうことを、ぼかしぼかし言っておく。
それから、その辺のバカップルみたいなことをしながら学校に行って、委員会に出るがやることがなくて私たちはそのままクラスの手伝いに行った。
これまたやることがなかったので、彼の家に行きたいと提案した。
お姉さんに会いたい、と建前では言っておく。
もちろん、昨日の雪辱を果たすために決まっている。
そんな私の考えに気づいたのか、彼は観念してすぐに了承してくれた。
彼の家に着いて、彼は着替えてくる、と言って部屋に向かった。
私はお姉さんと少し話をした。
「どう?愚弟は」
お姉さんはこんなことを言うが、決して憎からず思っていることは明白だった。
二人の絆はこう見えてなかなか強い。
私なんか、本来は入り込めなかったんじゃないかと思う。
それでも彼が私を好きになってくれたのは、お姉さんが後押ししてくれたりしたからなのだということが良くわかる。
弟を取られた、とか思わないのかな、なんて不思議だった。
お姉さんがお茶を用意してくれるというので、その間私は彼の部屋にお邪魔していようと思って二階に上がる。
そしてそこで、私は信じられないものを見た。
彼が、見たこともない女をベッドの上で押し倒しているところだった。
彼は驚愕の表情で、女はやっちまった、みたいな顔をしていた。
咄嗟のことに頭が混乱する。
怒ってもいい場面だ。
なのに言葉が出てこなかった。
怒りよりも先に、悲しいという感情が湧いた。
このままいたら泣いてしまいそうだ。
彼の前で泣くなんて、情け無い真似はしたくなかったので、帰るとだけ言って私は階下に降りた。
玄関に置いた鞄を乱暴に掴んで、靴を履く。
背後でお姉さんの気配がしたが、構わず彼の家を飛び出した。
一体あれは何だったのだろうか。
幻でも見たのであれば、それで良い。
寝不足だし、あり得ないものの一つや二つは見てもおかしくない、なんて自分をごまかしながら歩く。
あれは幻なんかじゃない。
幻なら彼はあんな顔をしない。
人が走ってくる気配がして、私は咄嗟に身を隠した。
案の定彼だった。
どんな顔をして会ったら良いのか、わからなかった。
彼が実は浮気してる、なんて認められたら、生きていけない。
様々な思いが私の中で交錯して、彼の後ろ姿をそのまま見守っていた。
すると、同じ学校の女子生徒の肩を掴んで話しかけているではないか。
あの子……副委員長?
確か野崎とかって……。
まさか、野崎さんにまで……?
もうすっかりと頭に血が上って、私は彼に歩み寄ることにした。
彼と野崎さんが話していて、野崎さんが私に気づく。
そして野崎さんはそそくさと逃げていった。
彼の様子から、彼が野崎さんと浮気をしていたとかではないことはわかった。
しかし、さっきの女は別だ。
何者なのかもわからない。
親密なのか、そうじゃないのか。
一瞬のことだったし、呑気に見物をなんてとても思えなかったし。
彼は色々言っていたが、頭に入ってこない。
結局私は、為す術も泣く泣き崩れてしまった。
せき止めていたはずの涙が溢れ、止まらなかった。
彼は、全部話すからとりあえず場所を変えようと提案してきた。
確かに人通りがまだあるこの道で話すのは邪魔だし、人目も気になる。
何より私が自分の意思で涙を止められず、それを人に見られるのはいやだったので提案に乗ることにした。
彼の話は要約すると、こんな感じだった。
そこの球場から飛んできたボールが頭に直撃して、その後から食べ物も飲み物も全部排泄物に見える様になってしまった。
プールに行った時にさっきの女が姿を現して、自分が原因であると明かしたのだと。
正直、彼が何を言ってるのかわからなかった。
だって、それなりにちゃんとご飯だって食べてた。
昨日だって、お寿司一緒に食べてたけどそんな嫌そうな顔してなかった。
私ならきっと耐えられないし、なのに何で彼はそんな平気そうな顔をしてるのか、わからなかった。
それに、さっきの女にしたって何で押し倒す必要があったのか。
何もかもわからなかった。
私は食べることが好きだ。
美味しいものを食べていると幸せな気分になるし、場合によってはストレス解消にだってなる。
そんな私を見ていることも、苦痛じゃなかったのだろうか。
私が排泄物を食べている様に見えて逆に興奮でもしたのだろうか。
しかしそんな特殊な性癖がある様には全然見えない。
ますます私は訳がわからなくなった。
混乱して、私は彼を責めた。
そして、私たちは初めてケンカをした。
ケンカをして、やっぱりそれでも、仮に彼がおかしいんだとしても、私は彼が好きなんだと思った。
だから、私は彼に、一緒にいていいのかと聞いた。
他の女子が排泄物を食べているところも見てるけど、なんて言われてさすがにカッとなって、脅しをかけてしまった。
今の精神状態なら平気でやってしまいそうな自分が怖い。
ケンカのあと、私は彼に抱きついた。
彼が力強く私を抱きしめてくれた。
手を放さないで、とロマンチックな囁きをして、私は彼の急所を突いた。
さすがにこれは放してしまっても仕方ないか、と思いながらも彼を責める。
泣きそうになりながら彼は言い訳をしたが、私は許すことにした。
帰りたくないと駄々をこね、彼に私の意図を汲ませる。
明日は休みだし、もうがっつりとねっとりと、私は彼と絡み合いたい。
そのことで頭がいっぱいになった。
押し倒されて、めちゃくちゃにされたい。
そうしてくれないのであれば、もう彼を殺して私も死ぬ。
それくらいの覚悟で今夜は臨む。
彼が家に電話して、私が泊まる許可を得てくれて、私も自宅に連絡を入れる。
お母さんは許可してくれたが、わがまま言ったでしょ、と図星を突かれた。
彼に電話を代わる様に言われたので、彼に電話を渡した。
わがままでも何でも、もう彼がほしくて仕方ない。
あとで責められても構わない。
彼を私のものにできるなら、どうなっても構わない。
彼のことしか、もう頭になかった。
駅ビルで、換えの下着を彼に選んでもらって購入した。
意外にも彼は、私にピンクが似合うと言ってくれた。
発情してるのがバレたのだろうか。
彼の家では夕飯をご馳走になった。
彼のお母さんが作るものはうちのお母さんが作るものとは違って、一般的な感じがする。
うちのお母さんはどちらかと言うと和風のものが多く、料亭なんかで出てきそうなものが多い。
私が沢山食べる子なのだということを、おそらく彼はお母さんに伝えてくれたのだろう、量はかなり多目だった。
しかしそれを私が苦にすることなくぺロリと平らげたことで、彼の家族を驚かせたことだろうと思う。
お父さんからは、しきりに彼の何処が良かったのか、なんて聞かれたが……全部に決まってる。
嫌いなところなんてとりあえず、今のところはない。
これから出てくるとしても、許容できる自信はある。
お風呂を借りて、今夜こそと念入りに体を清める。
一瞬、ちょっとくらいは臭い子を演出してみても、なんて思ったりしたが昨夜知られてしまっているのだから今更だと思いなおす。
やはり初めての夜ならば清い体で挑みたい。
お風呂から上がると彼は自室にいるのか、居間にはいなかった。
お姉さんが私の部屋くる?なんて言ってくれたので是非見せてもらうことにした。
……なんていうか凄かった。
片付けとか整理整頓という概念はきっとないんだな、って思った。
簡単に言えば、めちゃくちゃに散らかっていた。
そろそろ彼の部屋に、と思ってお姉さんの部屋を出たところでお母さんとすれ違う。
布団を用意してくれたみたいだった。
いよいよその時が近づいているのだと、胸が高鳴るのを感じた。
彼はベッドを使えって言ってくれたけど、私が飛び込みで来ている立場な以上、そんなわけには行かない。
それに……寝る時間あるのかどうかも怪しかったし、正直どっちでも良かった。
彼がお風呂に入ってる間、部屋を漁ったりしないでくれと言われたが、あれはきっと振りだ。
漁れ、と彼は言ったに違いない。
ならばと私はベッドの下を漁る。
先日見たエッチな本が出てくる。
パソコンの検索履歴もこっそりチェックすると、無修正動画サイトが出てきたりしてちょっと驚いた。
割とマニアックな趣味をお持ちの様で……。
さすがにここまでは出来るかわからないけど、それでも彼が望むのであれば、とイメトレに励んだ。
お風呂から上がった彼が、私に経験者なのかと聞いてきた。
彼には私がそう見えるのかと一瞬頭が熱くなる。
昨日のアレでそう思ったのかもしれない、と考えて少しクールダウンする。
明かりを消すと、一瞬視界が真っ暗になるがすぐに目が慣れてくる。
彼は私の着ているものを脱がした。
下着だけはそのままで、下着を堪能したかったのかもしれない。
そしてそのまま、彼は私の秘所に口をつけた。
敏感な場所を強く吸われて、思わず嬌声が漏れる。
しばらくそうされていると、膝から力が抜けてしまって、へたり込んだ。
そんな私を、彼はとうとう素っ裸にした。
見てため息を漏らしている。
やはり彼にも思うところはあるのだろうか。
実は、何となく気分が盛り上がってしまって、お風呂で下半身の毛を全部剃ってきた。
彼はそれにも驚いていた様だった。
とても丹念に胸を愛撫されて、これもまた私を興奮させた。
胸で感じるのなんてそんなに、なんて思っていた私は、彼にされるなら割とどんなことでも気持ちよくなれるのではないかと思い始めていた。
そして私も、彼をよくしてあげたいと思い、彼のその剛直に手をかける。
口で、慣れないながらも懸命に奉仕をする。
少ししか舐めていないのに、彼はもう達してしまいそうだというので、仕方なく中断する。
私の中で果てたいということなのだろう。
避妊具をつけようとする彼に、その程度の覚悟なのかと問うと、彼はそのままする決意をしてくれた。
とうとう来るべき時が来た。
ずっと待ち焦がれた、その瞬間。
たった数日のことなのに、幾星霜にも感じられたその瞬間。
どんだけ飢えてるんだって話なんだけど、私にしてみたら長かった、というだけの話。
彼の先端が少し埋もれた程度なのに、予想だにしていなかった快感が体を巡った。
まだその部分へは達していないのに、既に貫かれたかの様な錯覚に陥った。
正直彼のは大きい。
すごいきつそう、というか私もちょっとだけ苦しい。
馴染んでほぐれてくればまた違うのかもしれないが、正直今のまま出し入れされたら泣いてしまいそうだ。
やがて彼が意を決してぐいっと腰を入れ込んできた。
躊躇のないその一刺しで、私は処女で無くなった。
同時に彼も童貞ではなくなったわけだが、瞬間的に思わず彼の背中に思い切り爪を立ててしまった。
心の中では、正直「オゴゴゴゴ……」と呻いている。
だが声に出せば彼は萎えてしまうかもしれない、と必死で声に出すのを我慢した。
痛むかと聞いてくる彼に、私は痛いけど嬉しい、と答える。
見栄を張っているといわれればそれまでだが、嬉しいという気持ちもちゃんとある。
痛いばかりではもちろんない。
いや、めちゃくちゃ痛いし苦しいのは変わらないんだけど。
そう思う一方で、体は更に疼きを覚え始める。
私ってこんなにもはしたない子だったのか、と少しショックだが、同時に彼をここから喜ばせることが出来る、と更に嬉しくなった。
それを伝えると彼は驚いていたが、私は構わず腰を動かす。
声を抑えていたつもりだったが、次第に我慢できなくなって私は恥も外聞もなく喘いでしまった。
それを危険と感じた彼は、そのまま唇を塞いでくれたのだが、それが更に彼の限界を近づかせる結果となった様だ。
しかし我慢しているのか、なかなか発射しない。
とにかくたっぷり出してほしい。
どういう感覚なのか、この身で感じてみたい。
好奇心が勝ち、彼に出す様言う。
出さなければちょん切る、と脅して、更に腰の動きを早めてあげた。
すると私の中で彼の剛直は更に膨らんできて、とうとう彼は私の中に欲望を吐き出した。
昨日もかなり出したはずなのに、今回も物凄い量を出している。
勢いよく発射して、脱力した彼の頭を胸に抱く。
きっとおっぱい好きだよね。
正直疲れはあるし、寝不足も響いている。
にも関わらず、体はまだ彼を求めて止まなかった。
もう一回、とリクエストするも、彼はそんなにすぐは無理だと泣き言を言う。
こんなこともあろうかと、お父さんの部屋から秘密のお薬をくすねてきている。
……ちょっと前にお父さんとお母さんがしてるの、見ちゃったし。
口移しでそれを彼に飲ませ、私は中からあふれ出す彼の欲望を処理する。
ふと彼のを見ると、既にビクビクいい始めていた。
こんなにも効果があるものなのか……もっとくすねてこようかな。
それを見て我慢できず、彼もこのまま動かすのは危険と判断して私が跨ってひたすら獣の様に腰を振った。
何回発射しても、彼の剛直は萎えることなく、抜かずの……何発だっけ。
数えてなかったけど、相当な回数出させてしまった気がする。
後半はお互いに大事なところが痛くなってしまって、私も体力の限界がきて終わりにしようということになった。
この時もう既に朝の六時になっていた。
どんだけ頑張ってたんだろう、本当……。
この後お姉さんが乱入してきてあっさりバレて、彼のお母さんにもバレてしまって、私はかなり恥ずかしい思いをする。
彼なんかはもっとだろう。
彼がシャワーを浴びている間に、お姉さんからちゃんと大事なところのケアをする様に言われた。
傷には違いないし、そのまま放置するのはちょっと危ない、とのことだった。
さすがに眠くなって、起きたら私の家に行く約束をしたが、彼はちゃんと覚えててくれてるだろうか。
ここで私の意識も途切れた。
初めての、幸せな睡眠かもしれない。
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同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
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