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幕間 その1 ウーカルの仲間達
六話 エント族 千年聖樹 精霊 リンドンの至誠 (3)
しおりを挟む翌朝から、ウーカルさんは俺を持って、外に出た。
初めての『狩り』だったんだが、それはまぁ、凄まじいモンだった。 いや、オカシイだろ。 只の兎人、それも魔法に特化した魔術師でもない、まだ若い娘が、いきなり紡いだのが【探知】術式? この術式は上位魔法の一つだぞ?
それも、かなり凝った造りの術式で、普通の魔術師でも、発動に苦労するような繊細なモノだった。 いや、それを運用する? マジで? 有り得ん。 聞いてみた。
〈ウーカルさん。 それ…… 探知術式ですかい?〉
「うん、そう。 危険の無いようにって、狩りをするときには、必ず描けってウーさんに言いつけられているんだよ」
〈……なんなら、わっちがやりますよ?〉
ほら、一応ウーカルさんの守護職を言い渡されているだろ? こんな事でもちゃんと遂行しとかないと、『魔力』を食べる資格は無くなっちまう。 だから進言してみた。
「ほえ?」
間の抜けた答えが返って来た。 あのね、ウーカルさん。 あんた、判ってんの? 他人に魔力を供出するって云う意味。 自身の中で紡ぐ魔力は、まさに自分自身。 あんた、身を分け与えてんだよ? 大丈夫か? よく訳の分かっていないウーカルさんに再度、俺の置かれた状況を説明してみる。 理解してるかな?
〈ウーカルさんに魔力を分けて貰ってばかりじゃ、なんか悪いし、それにウーカルさんを護る事を、あの魔人に”誓約”しているんでッ!〉
「そ、そう? なら、やってみてくれる? で、あたしにどうやって伝えるの?」
〈そりゃ、ウーカルさんの魔力を貰っているから、『繋がり』はあるんで、それに乗せて、状況をお知らせしますんで〉
「へぇ、そんな事…… 出来るんだ。 便利だね」
” 便利だね ” って、あんた…… 其処かいッ!! そこなんだ…… あんたにとっちゃ、『魔力』を分けるって事は、本当に些細な事でしか無いんかい! はぁぁ…… 規格外…… 『隠れ家』の記憶が云う、『ウーカルは規格外』って、この事か…… 護らんと。 この非常識に常識やら良識を植え付けんとッ! 無意識に規格外の力が振るわれたら、周りが迷惑するぞ?
〈そりゃね。 出来ますよ。 なんだかんだ言って、【念話】の通りも良いんですし〉
「あぁ、そうっか。 リンドンってば、頭の中に話しかけてくるんで、普通にお話してたっけ」
〈そりゃ、森の中ですし、静かにしなきゃならんですね。 けど、なんの疑問も無く、普通に受け入れて呉れちゃってますからね、ウーカルさん〉
「まぁね。 うち、変な人ばっかりだから、案外 驚かなかったね。 んじゃ、宜しく!」
ウーカルさんは、にこやかに微笑み、俺に周囲の警戒を任せてくれた。 ウーカルさんが、” 見える ” 範囲はきっと増大するに違いない。 なにせ、霊体である俺が魔法を発動しているんだ、そうでなくてはオカシイ。 細かい事まで、意識さえ向ければ、手に取るように判るようにした。 【鑑定】術式を付与したからな。 術式を綴る時に、柄を持つ手から、ウーカルさんの魔力を啜った。
目の前が真っ白に白濁し、途端に周囲の情景が何倍も鮮明になった。 いや、まて、コレ……
――― ぐハッ!
なんだ、この純粋な上に高圧縮された『魔力』はッ! ちょっと啜っただけで、その辺の魔物が持っている『魔力』の総量を軽く超えたぞ? なんだ、なんだ! 充足する『魔力』にクラクラしながらも、魔法術式を紡ぎ、展開し、起動して、ウーカルさんに結果を送る。 めちゃめちゃ喜んでるな…… 俺が困惑してると云うのに……
「リンドン!! 凄いよ!! ほんと、凄い! 遠くまで良く見えるし、良く状況が判る!!」
〈ウーカルさん…… 貴女の魔力の質だったら、こんなの当たり前…… なのに? 魔法……下手っすか?〉
「う~ん、どうなんだろ? 気が付いていると思うけど、あたしの両手の魔力放出口は潰されているから、まともに魔法陣を紡げないんだ。 ちょろちょろ魔力じゃ、ウーさんの使うような大きな魔法は使えないしね」
確かに、そうなんだが…… それは、判るんだが…… いや、だからこそか。 上手く使えない『魔法』。 けれども、魔力回復はその辺の大型魔獣よりも上。 使うよりも溜まる方が多いんだから、嫌でもそうなるか……
〈……そうですか。 そうですよね。 こんなに痛んでいたんじゃ、そうなりますかね。 それでも、繊細な魔力操作は出来てますよ? それが、判らんのです〉
「あぁ、ウーさんに鍛えられたから。 ほら、家の魔道具って、ウーさんが作ったから、それを使うのに、必要だったし。 最初は、水玉から水を出すのにも苦労したんだよ…… まぁ…… ねぇ…… そんな感じ」
〈うむ…… 生活系は魔術は、出来ると。 大きな魔法陣は紡げないと。 攻撃系の魔法は結構大きな術式を組み上げるから…… えっ? でも、あの時やってませんでした?」
「あの時? あぁ、リンドンを”へし折った”時の事?」
〈ええ、【結界】やら、【魔力反射】やら、重層して幾つも幾つも発動していましたし…… ウーカルさんは魔法が得意なのかなと……〉
「それ、多分、ウーカルさん。 あたしの中のもう一人の御仁。 あの人なら遣りかねない。 普段は眠っているんだ。 あんま、起きて来てほしくない。 だって、あの人が起きると、血生臭くなるんだもん」
ウーカルさんの中の”ウーカルさん”。 あの人ならやりかねない。 妖魔並みの御仁だから。 そうか、そう云う事か。 今はウーカルさんの中で ” 眠っている ” ウーカルさん。 はぁ…… 面倒な人だな…… 当人も、ウーカルさんには目覚めて欲しくないってか? なんじゃそれ? 判らなくも無いけどな…… ウーさんは、アノ人が起き出せば、世界の理が崩れるって…… そう云っていたじゃないか。 極力、眠ったままで居て貰うのが『吉』って事だな。
〈……そ、そうっすか。 なんとなく…… 理解しやしたッ! そうですよね。 姐さんは、優しい人ですもんね〉
「ん? 姐さん? なにそれ?」
思わず、そんな事を口走った。 ウーカルさんの中に、ウーカルさん。 ややこしいし、俺にとって、護るべきなのは、目の前の兎人の女の子。 道化としての立場もあるし、此処は一つ、姐さん呼びで。 ウーカルさんの真名はウーカルだけ。 そんな人の名を、不用意に呼ぶのは、この『黒の森』では、余りにも危険。 何処で、魔人の魔導士が聞いているか、判ったもんじゃない。 真名で縛られたら、対処にかなり苦労するからな。
それもあって、愛称を付けるんだ。 けどな、ウーちゃんとかカルちゃんと云えんだろ? だから、道化として、姐さん呼びになるのさ。 いいかな。 姐さん。
〈ウーカルさんの中に ” ウーカルさん ” が居るんで、ちょっと判り難くて…… 『姐さん』って呼んで、構わないっすか?〉
「ん~ まッ、いいか!! いいよ、リンドン。 あんたが呼びやすいように呼んで。 なにかあった時に、直ぐに伝えてくれるんなら、呼びやすい方がいいもんね!」
〈姐さん…… 有難うございます! よし、よく見るぞ!〉
「はははは、変な奴ッ!」
いや、変な…… って、どういう意味ですか! あんたは、変と云うよりも、厄介な人なんですよ!! 判ってますか! 姐さん!! ハハハと笑う姐さんの顔を見つつ…… 盛大な溜息が出そうになるんだ。
これが、最初で、最後では無いと思い知らされるのは、この後すぐだった。
―――― ―――― ――――
十分な周辺の状況を伝えた。 多分、今までより、はっきりと『良いモノ』と『良くないモノ』を、姐さんは、判別出来たと思う。 只さぁ…… あんたやっぱりオカシイよ。 危険だって判ってて、近寄っただけでも、かなり危ない毒草やらを…… 色々と採取していくんだ。 見てて、ハラハラするんだよ。
訳が判らないって。 何のために、『警戒して』って云ってると思ってるんすか!
ニコニコしたまま、そんな俺の心配を跳ね除け、『狩り』と『採取』を、続ける姐さん。 罠を仕掛けてある場所に到着して、またもや、にんまりと笑みを浮かべる。 魔獣で大きい奴。 ネブ=ドロン大猪とかいう奴が、罠に掛かっているのが見えた。
「ネブ=ドロン大猪が掛かってる。 やったね!」
〈でかいっすね、姐さん〉
「そうでもないよ? 大きいのは大きいけど。 リンドン、出番だよ」
〈なんでやります? 火炎ですかい? 雷撃ですかい?〉
「ん? 魔法じゃないよ? こうすんの」
発動条件を考えて、大協約に抵触しない攻撃魔法の準備を始めていた俺は、一瞬呆けた。 気配を消して、罠に掛かって ブモブモ 云ってるネブ=ドロン大猪の死角に入って、俺を躊躇いも無く『一閃』する姐さん。 穂先の戦斧の部分でネブ=ドロン大猪の首が綺麗に剪断された。
なんの前触れもなく、繰り出される強襲攻撃。 アレだけの魔力持ちなのに、いきなりの力技。
いわゆる中の人な俺に、心の準備もさせず、音よりも早く振り回し、攻撃に移ったウーカル。 まぁ、普通、叫ぶわな。 絶叫するわな。 穂先に魔法を纏わせる隙すら無いわな。 完全に混乱したよ。
〈ぎゃぁぁぁぁぁ!!〉
不思議そうな顔をして、絶叫した俺を見詰める姐さん。 えっ? って感じ。 ネブ=ドロン大猪の首はあっさりと剪断して、吹き出す血潮には触れないように、自然体で回避ステップを踏んだのは、もう体に染みついた動きでもあるんだろう。 何も言えない…… 文句も出ない…… けど、けど、一言、言って欲しかった!
〈ね、姐さん!〉
「なに?」
〈い、いきなりはッ!! わ、わっちは!!〉
「ハルバードって奴の調子を見るのに、一番いい方法だよ? うん、とってもいい! 戦斧は切れ味抜群だね! 仕掛けてある罠を何か所か巡って、槍とハンマーも試してみたいッ!!」
〈わ、判りました。 なんで、姐さん…… 魔法が苦手か…… 戦闘力……あるんすね〉
「ん? 兎人族だよ、あたし。 身体能力は、魔法よりも物理に振ってるし、鍛えたもん」
俺が誤認してたって事か。 姐さんが『狩り』に行く装束は、まごう事なき魔導士装束。 足元は強固なブーツに、色んな護符が縫い付けられている茶色のパンツ。 その上に魔導士のローブを着込んでいるんだ。 当然戦闘魔導士だと思うじゃないか。 まさか、戦士だとは…… 思う訳無いじゃないか!
〈……着てる服、魔導士の装束ですぜ?〉
「これは拾った奴。 野良着にするのにちょうど良かったからね。 ほら、【隠形】の術式が符呪されて居るしさ」
〈……そ、そうっすか。 姐さんは、物理特化……物理特化…… よし、刻み込んだっすよ〉
「じゃぁ、ネブ=ドロン大猪を解体して、枝肉にしてから、罠を仕掛けなおして次! 次、行こう!!」
〈はいな、姐さん!〉
姐さんは、首を落としたネブ=ドロン大猪を、奇麗に解体していた。 いやマジで? 自分の身体よりもでかいんだぞ? 上手く毒血を避けて、四肢を切断して、『魔法の鞄』に突っ込んでいた。 惜しいのは、内臓。 アレには滋養が相当に含まれる。 千年聖樹だった頃、幹の周りで潰えた魔獣の骸が、一番最初に土にかえるのが、その部分だった。
アレは良いものなんだ。
今まで捨ててた? 勿体ない。 可食部なんだよ、内臓って。 腐りやすく、毒の部位も多いけど…… それを懇切丁寧に『思念』で姐さんに送った。 理解してくれたようだ。 本当に嬉しそうに、でかい葉っぱに、解体した内臓の可食部を包んで、一緒に『魔法の鞄』に突っ込んでいた。
血もね…… 空き瓶に入れ、回収した。 毒も採取している感じだったから、そうする様に進言した。 使えるモンは、なんでも使うのが信条の姐さんだからな。 実際、きっつい毒なんだよ、アレの血液は。
―――――『狩り』は、順調に進んだらしい。
先回りして、色んな事を伝えたから、姐さんは、念には念を入れて、影からのバックアタックを仕掛けていた。 罠に掛かった獲物以外にも、結構多くの魔物と相まみえた。
そして、その全てに、掠り傷一つなく『勝利』した。
『魔法の鞄』も結構一杯になったようだな。 けど、アレも異常だよな…… 入りすぎじゃね?
ほくほく顔で、帰路に付く姐さん。 途中、色んな木の実を採取してた。 帰り道は、魔物を見つけても、狩らない。 聞いてみると、
” 必要な分だけはもう狩ったからね。 森の恵みは、過剰に取ってもいい事ないんもん ”
とか宣う。 あぁ、コレは、ボボールの教えか。 そうだろうな。 森の保全は、千年聖樹が精霊様から請け負った『使命』だもんなぁ……
植物系の物は、帰り道でもザックザックと採取していった姐さん。 まぁ、力一杯採取したって、個人の採取量なんか、森全体からすれば微々たるモンだし、それはお構いなし。 ……なんだそうだ。 植物系の知識は、樹人族の俺からしてみれば、同胞の性格みたいなもん。 香辛料に使えそうなベリー類やら、今までは姐さんが『怖くて採れなかった』キノコ類なんかも、詳しく効能やら可食やら教えてみた。
なんか物凄く喜んでいるな。 う~ん、謎だ。 あのドライアドのエリーゼから聞いてる筈なんだがな。
いや、そうでも無いか。 エリーゼは自分の興味があること以外は、あんまり…… だもんな。
―――― 森の多彩な恵みに感謝を。 精霊様の息吹に、尊崇を。
『森の恵み』は、この森に棲む生きとし生けるモノの全ての命の糧と成る。 森の恵みに尊崇と感謝の祈りを以てして、採取したら精霊様方だって、悪い気はしない。 うん、しないな。 だから、それを姐さんにも教えたよ。 森に暮らすモノの『常識』としてな。
「リンドン、ありがとね」
〈どうしたんです? 姐さん〉
「あたし今まで、森の恵みを受け取ってなかった。 リンドンのおかげだよ」
〈……いえいえ。 わっちは、姐さんと御一緒出来て、嬉しいすっよ。 こんなにも簡単に移動できて、森の中を見て回れるなんて、夢の様っす。 一か所に縛られた、長い時…… もう、こんな風に森を感じる事なんて無いと思ってました。 お礼を云うのは、わっちの方です。 姐さん! これからも、宜しくお願いします!! 全力で、姐さんを護りますから!〉
「あはッ! 嬉しいねぇ…… リンドンも仲間になったね。 あたしの大切な仲間だよ」
にこやかに微笑み、しっかりとハルバードの柄を握り込む姐さん。 握り込んだ部分から、想いも掛けない程の魔力が俺に流れ込んで来た。 身体が熱く、フワフワした感じがする。 それに…… 姐さんが俺に伝えた事柄。 ”リンドンも仲間になったね。 あたしの大切な仲間だよ ” の言葉は、俺の心に染みた。 脳裏に浮かんだのは……
大変な場所で発芽して、生きる事が戦いだった場所の事。
廃龍の墓所に強大な魔術師が来て、その役割を変更し、俺の生活の糧を根こそぎ持って行った事。
仲間に助けを求めても、言を左右に断られ続けた事。
誰も悪くは無い、仕方の無いことだと、そう思おうとして…… でもやはり、恨み辛みを溜め込んでいった事。
そして、姐さんが引導を渡しに来た事。
そんな姐さんを排除しようと、姐さんの一番嫌な記憶を蘇らせ、脳裏に叩き込んだ事。
その結果、アノ人が起き出して…… 俺を切り倒した事。
薄れる意識の中で、こんな強い方ならば、俺がこんなになった根源の『廃龍の墓所』を潰してくれるんじゃないかっていう淡い期待を持ってしまった事。 そして、アノ人がそれを『違えられぬ約束』と捉え、実際に『廃龍の墓所』を ” 元の状態 ” に、戻し『封印』してくれた事。
グルグルと記憶の中の出来事が脳裏に浮かび上がり、そして、消えていく。 霊体の俺が涙を流していた。 心に温かい感情が宿った。
〈あぁ…… 姐さん…… ありがてぇ…… ありがてぇ……〉
ある意味…… この時、俺は、姐さんを本気で護ろうと、心に誓ったのかもしれない。 誓約の実行者として。 ウーカルを守護する、千年聖樹の霊体として…… 自身の在り方を定義したのかも…… しれない。
――――
ボボールにへばり付く、『隠れ家』が見えて来た。 食材は大量に仕入れた。 いきなりは家に入らんらしい。 ボボールの根っこにある、食材庫の洞に狩ってきたブツを入れ保管する。
別に取り分けられた、毒系統の拾得物は、別の所に持っていくようだ。
危険な毒だらけだから、厳重な保管庫が必要だしな。 まぁ、エリーゼが外に何かしら作っている筈だから、其処にでも持って行くのだろう。 ……ん?
ん? 隧道? 精霊ノームの濃密な息吹が感じられるぞ? って、どこまで降りるんだ? ひえぇぇ…… なんだ此処……
姐さんが行きついた小さな小屋。 その壁に有った扉を開けると、テラスがあり、その向こうに巨大な洞穴が見えた。 大きな声で、姐さんは 『 友達 』を呼び出した。
「レルネー!! 遊びに来たよ~~~! ちょっと来て~~~」
声が地下大空洞に響く。 眼下の地下湖の湖面が、ザパァァァって盛り上がって、その上に一人の少女が立っているのが見えた。
見えちゃいけないモンが、俺の【鑑定】に、流れて行った。
『妖魔毒沼蛇』の ” レルネー ” 玉座の如く持ち上がっている。 地底湖の水は、凄まじい程の『毒水』。 古の毒の女王。 その姿が現れた土地は、毒沼に沈み、何人も住む事能わず…… 【鑑定】に映るのは、そんな危険な文字、文字、文字、の数々。
…………言葉が出ない。 伝説級の最凶生物が…… なんでまた、千年聖樹が居る『黒の丘《黒の聖域》に居るんだ? もう、本当に訳が分からん。
姐さんは、俺をその妖魔に紹介した。
お互い、どう挨拶していいのか判らなかった。 判らなかったが、姐さんが上手く話を繋いでくれた。 無くては成らない『友人』と、得難い素敵な『得物』だと。
方や伝説になっている、独沼蛇、方や千年聖樹の霊体。 『黒の森』が、闇深い場所であっても、此の取り合わせが顔を合わせる事なんか無い。 一つの奇跡が起こったと思う。
いや、マジで……
悠久の時を生きて来た独沼蛇と、千年聖樹の霊体が出逢えば、知識と知恵の交歓と成るのは、間違いない。
無言で絡ませる視線に、念話が乗る。 高速で交わされる、己が状況、互いの想い、そして、ウーカルに対する思いも…… いや、それだけじゃ無いんだな、これが。 自身の持つ悠久の知恵や知識も、高速で交歓されるんだ。 欠けたるを埋め、満ちたるを分け与える。 ……受け取る方が多かったのは、ご愛敬……
『世界の理』の何たるかを探究する、そんな『深淵の思考』を交歓する事が出来るのが、此の取り合わせなのかもしれない。 それに……
俺や、レルネーは心に誓ったものが有る。
譲れない、祈りにも似た誓いが有る。
レルネーは『友誼』。 俺は…… リンドンたる俺は『至誠』。 目的は同じ。
『 ウーカルの守護 』
この共通認識は、『念話』でレルネーと高速意思疎通した結果だ。 あぁ~ この毒蛇…… ウーカルを愛しているぞ。 マジで? その心根の健気さに…… 俺は貰い泣きしそうになったのは、内緒だ。
ボソッと姐さんが、言葉を漏らす。 高速思念会話を交わす俺達を不思議そうに見詰めながら……
『……間に居るのが、何の変哲も無い、兎人族の白子ってのがね。 はぁ…… あたしも、なんか特別な存在だったら、いいのになぁ…… 普通でありきたりの、只の兎人族の女なんだもんね。
よし、いい女になるぞ!』
思念が交錯する。 いや、待てウーカル姐さんッ! 声無き思念が、バルコニー一杯に響き渡った。
――― ウーカルの何処が、普通なんだ????
――― 誰が、ありきたりの兎人族なんっすか???
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龍槍 椀 拝
出発進行(笑) 吹き出しました。
ウーカルさん、親父ギャク誰の影響?
ウーカルさんの教育係は、エリーゼ姉さんとボボール爺さん です。 エリーゼ姉さんは、生活して行く上で、必要な事。 ボボール爺さんは、黒の森(ガイヤの森)の事と、森の約束事。 でした。 千年以上生きている樹人族のボボール爺さんにとって、ウーカルさんは小さな小さな赤子も一緒。 とても、愛して大切に育てておりました。
如何せん、途轍もない老人の為、親父ギャク炸裂しております。 ええ、全てはボボール爺のせい。 ウーカルさんへ強い影響を与えておりますです!
感想、ありがとう御座いました!
楽しんで頂けると、幸いです。
ウーカルさん、可愛い!
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コメント有難く存じます。 お話が膨らみ過ぎないよう、兎さんのお話を綴っていきたいですね。
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