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幕間 その1 ウーカルの仲間達
第一話 妖魔人族 ウルフガングの憂鬱 (4)
しおりを挟むウーカルが目覚めた後、奴が云う通り二人して『廃龍の墓所』へと向かう。
話に聞いていた通りの惨状が其処にはあった。 回収できるものは全て回収する。 これも、奴との約束だった。 折れた千年聖樹の幹も回収した。 墓所に入り、云われた通りに進む。
惨状が玄室の中に展開されていた。 アイツなら…… おかしくは無い。
ただ、相対して立っているだけでも、相当な圧迫感が有ったんだ。 攻撃に転じれば、絶大な戦闘力を発揮するであろう事は、想像に難くない。 いや、当然と云えば当然か。 ウーカルはその惨状に怯えて、盛大にお漏らししていたがな。
何故だか、妙な諧謔味を感じ笑みが頬に浮かぶ。 かつてない、心の変化に、戸惑いつつも最奥へ、最奥へと歩みを進める。
奴が云っていた通り、ウーカルは『鍵』でもあった。 最奥の神域に到達するのには、ウーカル自身の魔力が必要だった。 手前の玄室には、封じられ滅せられた『廃龍』が鎮座していたのは、驚き以外何もなかった。 ウーカルの手槍が、『封印の護符』の代わりに頭骨に付き立っていたのには、もう、言葉も無かったがな。
ちょいちょいウーカルとも話をしていたが、突然ウーカルの脚が止まる。 今までにない不安げな表情を浮かべている。 【恐怖】をまともに喰らった人族の様な表情だ。
なんだ、なんだ?
此処は怖い場所だが、心が潰れるような、そんな事は無かった筈だ。 ウーカルはポロポロと涙が溢れて止まらなず、行き場を失った幼子の様に立ち竦んでいた…… だから、困惑した。
「ウーカル?」
思わず、声を掛けた。 ウーカルはボロボロと涙を零しながら、俺に言葉を紡ぐ。 心の中にある『怖れ』を、言葉にして、俺に語り掛けて来たんだ。
「う、ウーさん。 あ、あたし…… バケモノなの? トンデモ無い、バケモノなの?」
「えぇ? ……お前、何言ってんの?」
「だって…… だって…… 普通の兎人族は、こんな事出来ないもん」
そうか。 そう云う事か。 内に秘めたもう一つの人格に恐怖したんだな。 さもありなん。 俺だって奴の事は『恐怖』の対象に違いない。 しかし、奴はウーカルの守護を強く願う精霊だ。 そして、ウーカルを乗っ取る事は絶対にない。 つまり、ウーカルは……
「…………何を勘違いしているのかは知らんが、ウーカルは兎人族のイイ女なんだろ? 『楽しい事』が大好きで、『苦しい』のとか『痛い』のとかが大嫌いな、そんな兎人族の女だろ? そんでもって、俺たちの仲間なんだろ? なんも、変わりゃしねぇよ。 アイツが云うに、アイツの魂が、ウーカルの中に偶々入っちまったってさッ。 『忌み子』なんかにしてしちまって、申し訳ないってさッ。 そんなお前を苛むモノがいたら、誰だって殲滅してやるってさッ! だから、お前はお前。 化け物なんかじゃねぇよ」
「う、ウーさん……」
「行くぞ。 最奥の聖域に。 まぁ、アイツが色々と上書きしたらしいから、すんなりと辿り着ける筈だからな…… って、おい、ウーカル! どうした?」
「うわぁぁぁぁん!! ウーさん!! ウーさん!! あたしが仲間でいいの!! ホントにいいの?!」
「……バカ。 当たり前だろ。 ウーカルはウーカルだ。 そうだろ? 馬鹿言ってないで、行くぞ。 お前は、なにも心配する必要は無い。 お前は、俺たちの仲間なんだからな。 例え誰がお前の中に眠って居ようとな」
「ウーさん……」
憂いを取り除けた結果か、ウーカルは突然俺に抱き着いてきて、唇を合わせ深いキスを交わそうとした。 いや、待て、俺の体液は強毒なんだぞ? 人族はおろか、獣人や魔物すら耐えられんもんなんだぞ? 判って居るのか? 腰のポーチに手をやり、解毒のポーションを取り出そうとするんだが、強くウーカルが抱きしめ、俺の動きは止めてしまう。 手のやり場は、ウーカル自身にしかない。 放そうとするんだが、何を勘違いしたのか、ウーカルはさらに激しく唇を合わす。
ウーカルの暗赤色の瞳が、赤く輝く。 それは、まるでルビーの様に…… 上気した表情で、唯々、歓喜の表情を浮かべている。 何がそんなに嬉しかったのか…… 俺には……
――― 理解できなかった。
やがて、ウーカルは唇を放し、やや放心状態にも関わらず、にこにこと途轍もなく機嫌のよい表情を浮かべている。 いや、まさか…… アレだけの体液交換したんだ。 マジでヤバいぞ……
「お、おい、ウーカル。 お前…… 大丈夫か?」
「アイアイ!! ウーカルは、元気いっぱいで、とっても幸せ者なのです!!」
「そ、そうか…… なら、いいんだが。 どっか具合の悪い所は無いか?」
「無いよッ!! なんか、身体の内側から力が湧いてくるんだよ!!」
「……そうか。 なら…… いいか」
ニコニコと機嫌のよいウーカル。 見た感じは何処にも支障はない。 全く…… 規格外にもほどがある。 耐毒性にも…… と いうよりも、毒無効の体質なのか? それにしても…… まぁ、それは、また後で考えるか。 あぁ…… それで、ヒュドラーとも友誼が結べたのか…… 成程な。
――――― § ―――――
ウーカルを伴い、さらに奥に進む。 神域での出来事は、まぁ、なんだ…… 予定通りという結末。 人知を超えた宝物の数々は、奴の管理下にある宝物であり、それ以外に手を出せば、どうなるかは…… まぁ、想像する事さえ無駄だな。 神域の鉄壁の護りに風穴を開けて、ウーカルを護る為に貸し出してくれた数々の宝物は、俺にとってもお宝という以外に表現しようも無い。
転移術式をウーカルが発見して、その中に宝物を入れる。 森の隠れ家の広場に繋がっているらしい。 まぁ、想定内だがね。 奴が帰り道の事を考えて用意していたんだろ。 神域の鉄壁の守りの風穴って奴だ。 有難く利用させてもらう事にした。
帰りの道は、恙なく、何事も無く。
開けた玄門は、きちんと封じた。 此処は人の来る場所では無い。 更に云えば、許可されたモノ以外、誰も入るべきでは無い。 世界の理の英知と知恵の実。 現世の人には大きすぎる恩恵に違いない。 これらを使うべき者が居るとすれば、世界を救う者だろうな。
待てよ? とすると…… いやいや、能天気なウーカルが? マジ? 有り得んぞ!! 有り得ん!!
混乱しつつも、隠れ家に帰る。
暫くは、俺が得た感情に戸惑う事になるだろう。 なってたって、これほどウーカルに興味が出て来たんだ。 ボケ兎に関して…… いろんな感情が動くのが判る。 判るだけに困惑が深くなる。 いったい、ウーカルって何もんなんだ? 此処まで心を掻き乱されるのは…… 正直面白くない。
しかし、誓約は誓約。 それも、精霊と直接に結んだ誓約でもあるんだ。
事象を避けず、見直す事も又、俺にとっては誓約の一部になっている。
だから、余計に憂鬱ににもなろうってもんだ。
名状しがたい感情が、仲間への ” 情愛 ” であると、認識できるまで……
自分の得体の知れない感情に振り回される……
――― そんな日々を過ごす事になった。
全く、ウーカルめ。 能天気な表情を浮かべやがって。 こっちの身にもなりやがれってんだ!!
はぁ…… 憂鬱だ。
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