ウーカルの足音

龍槍 椀 

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第二幕 廃龍の墓所と相棒

九話 新しい手槍。 ウーさんが交わす『契約』

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 あれから…… 




 何日か過ぎたよ。 『廃龍の墓所』のお仕事が全部終わって、お家に帰ってからね。

 あの後さ、お家に帰ったら、ボボール爺さんの足元の中庭に、大量の荷物が置かれてて、あの場所・・・・から転送されてきたものだって、ウーさんが認識した途端、あの人、物凄い勢いでボボール爺さんに新たな『倉庫』作らせたんだよ。

 使ってなかった、うろの一つを、強固な防壁の魔法を使って、倉庫にしてたよ。

 そんで、その中に『お宝』を全部、放り込んでから、ウーさんは書斎に籠って出てこなくなったんだよ。 まぁ、静かでいいけど、ご飯とか持ってかないと、喰ってくれないから、ちょっと面倒。

 『廃龍の墓所』でのお仕事は、これでお終い。 後は、” 土産話・・・ ”を皆にするだけだよね。

 だから、ボボール爺さんにも、きちんと ” お仕事は終わったよ ” って、伝えたんだ。 ボボール爺さんは、とっても優しい目をして、頭を撫でてくれたんだ。



「よくやってくれた。 ほんに良くやってくれた」

「えへへへ。 お仕事の終了確認・・・・は、ウーさんも一緒だったから、間違いないよ」

「そうじゃの。 その辺は心配はしとらん。 同じ樹人族の者が迷惑を掛けてしもうたな」

「そんな事、無いよ。 あの場所で育っちゃったのが、そもそもの原因だもの。 それに、もう、廃龍は居ないよ。 墓所だって、厳重・・に封鎖されたんだよ。 ウーさんがね。 だいぶ大きな魔法を使ったみたい」

「そうじゃったか」

「アイアイ」

「ご苦労じゃったな。 それで、あ奴は?」

「切り倒した。 その先は、判んない」

「そうか…… 逝ったか。 かわいそうな事だとは思うんじゃが…… 仕方あるまい」

「そうだねぇ…… 仕方ないよねぇ……」



 切り倒したあの千年聖樹は、もう…… この世にはいないだろうし、あたしが何かできる訳でも無いしね。 まぁ、冥福を祈る位かな。 そんなこんなで、無事 ボボール爺さん依頼も出来完了できたし、普通の生活に戻ったわけよ。




 ^^^^^^



 お家での家事は、問題ないんだけどね。 ただ、狩りがやりにくくなったんよ。 罠を仕掛けるのはいつもの事なんだけど、手槍が壊れちゃって、あの場所の封印の一部に成っちゃったから、あたしの手元に無いんだよ。 代わりに使っている手斧なんだけど、失った手槍と比べたら、そりゃねぇ……

 ずっと使っていた手槍だから、愛着もあったし、なにより手に馴染んでいたんだ。 なにせ、槍の柄はボボール爺さんの落ち枝だったし、槍の穂先はウーさんの宝箱をあさった時に出て来た『過去遺物ちょっと良い物』なんだよッ! 何か強い力が宿っていたらしくてね。

 力を込めて『突いた・・・』だけで、ワイルドボア辺りなら、一発で仕留める事が出来たんだ。 それに、今の手斧…… 柄が短い上にバランスも悪い。 斧頭だって、人族の鍛えた鋼鉄製って事で、イマイチ ” 強靭さ・・・ ” が、足りない。 何か獲物をブチ倒すたびに、研がないと切れ味が物凄く鈍るんだ。

 ほら、危ない事はしないって、「約束・・」させられたじゃん。 あたしが森に狩りに入る時に、出来るだけ危険を避ける様に言いつけられているのは、仲間家族達の総意なんだって。 だから、それを無視するような動きは出来ないんだよ。 だって、怒られたくないし、悲しませたくもないもん。

 けどねぇ…… 手斧じゃねぇ…… 獲物に、『止め』を刺す時には、どうしたって接近戦に成っちゃうんだよ。



     困った困った……
 


 何度か『狩り』をやって、何度か困った事になったなと思った。 なにせ、手斧と手槍じゃ使い方がまるで違うんだもの。 距離感とか、仕留め方とか。 思ったね、手斧って『投げる』武器じゃないんだろうかってね。

 だって、獲物からちょっと離れたところから、一杯力を込めて投げた方が、打ち据えるより確実に大きなダメージを与えられるんだもん。

 レルネーの所に行って、ちょっと愚痴ったよ。 ねぇ、やっぱり装備する武器は、手に馴染んだモノがいいに決まってるもん。 レルネーは、ちょっとばかし困った顔をしてから、あたしに言ったんだ。



「私は別に困らないから、良く判らないわ」

「ん? どいう事?」

「だって…… 私が隠れて近寄っただけで、普通は死ぬもの」

「あっ、あぁぁ…… そう云う事かぁ……」

「ウーカルが特殊過ぎて、なんか、わたし普通の蛇人になった気分になるのよ。 それで、ウーカルとお話した後、寝床に帰ってから…… 判らされるのよ」

「何を?」

「寝床の周りには、生きたモノは居ないって事。 寝てる間は意識的に毒物の放射は抑えられないから……」

「そうかぁ…… そうだよね。 だから、レルネーは武器持たないんだよね」

「そうね。 『必要が無い』…… って事ね。 それで、ウーカル。 『廃龍の墓所』では、大丈夫だったの? あそこは、本能的に近寄っちゃいけない場所…… って、思ってたけど」

「アイアイ。 問題は無かった。 あの千年聖樹に嫌な思い出を見さされただけ」

「そう…… 相変わらず規格外ね。 本当に」

「そう? そうかな? あたしは弱っちいよ? 仲間家族の中じゃダントツに」

「……認識の違いね。 まぁ、貴女がそう思うなら、そうなんだろうけど……」

「そうだよ。 それで、今、あたし困ってるんだもの」

「武器の事ね」

「アイアイ。 ほんと、どうしていいのか…… 判んないよ」



 愚痴るだけ愚痴って、レルネーを困らさせるだけ困らせて、ちょっとスッキリした。 ボボール爺さんの倉庫にある、拾った武器を調べっかな? 手槍に成りそうなモノ有るかも知んないし……



 ^^^^^


 ウーさんの倉庫拾ったもの入れを漁っても、良い物は無かったかよ。 穂先に出来るようなモノも、柄に出来そうなものも、無かったんだよ。 鋭さが足りないのとか、ただ重いだけのとか、そんなのばっかり。

 人族の鍛冶屋って、どんだけなのよ。 ここに有る武器だって、人族の間では相当な ”業物 ”って事で、拾ってきてるはずなんだけどなぁ……

 でもさ、この黒の森ガイアの森じゃ、普通の武器じゃ役に立たないってウーさんも云ってたしなぁ…… どっすっかな?

 そんなこんなで、手斧を以て狩りの毎日。 ある日、罠にかかった獲物に留めの一撃を加える為に、かなり近寄ったんだよ。 んでさ、ほいっと手斧を叩きつけたんだけどさ、うまく致命を与えられなくてね、反撃されちゃったんだよ。 まぁ…… ねぇ…… 

 腕に怪我を負っちゃったんだ。 骨折はしてなかったけど、肉が削れたよ。 慌てて傷薬のポーションを振りかけて、どうにかなったけど、危なかった。 皆には内緒ね。だって、知れたら『狩り』を禁止されちゃうもん。 凹みに凹みまくって、お家に帰還。 獲物はちゃんと持って帰ったよ? 罠の近くでちゃんと解体して、枝肉にして『魔法の鞄』に突っ込んでね。


 ほんと、疲れちゃった。 自分に合わない武器って、マジで困る。 ほんとにどうすっかなぁ……


 ちょっと痛む腕を気にしながら、晩御飯の用意をしてたんだ。 珍しくウーさんが書斎から出来てきて、何時もの席に座っとった。 まぁ、出て来てくれたら、面倒なくていいもんね。 他の連中はみんなお仕事中。 お家に居るのは、ウーさんと、ボボール爺さんと、ビラーノ、エリーゼ姉さん、あたしの五人。 豪勢なお肉料理は今夜はしない。

 だって、植物系二人に、お肉はあんまり食べないビラーノだもの。 その代わり、ボボール爺さんに教えてもらった『聖なる泉』から汲んで来た「一番水」が有るからね。 植物系の二人には、何よりの御地租そうらしい。 ウーさんは食べ物にはうるさくないし、まぁ、こんな所。 怪我したところが痛いから、簡単にすむもので済ませた。

  ――― すまんな。

 食後のまったりした時間に、ウーさんがあたしに声を掛けて来たんだ。



「ウーカル。 怪我したな」

「へっ? え、い、いやいや。 ないよ? 大丈夫だよ?」

「見え透いた事云うな。 ……手持ちの武器が合わないんだろ」

「う…… うん。 まぁ、ね。 手槍はとっても良かったから。 長い間使って、相当ボロになっていたけど、しっくり来てたんだよね。 倉庫で見繕った手斧は、やっぱりね……」

「……本来なら、キツイお仕置きと、狩りの禁止を言い渡すべきなんだが、強くも云えないな。 なにせ、あの『廃龍』を滅するのに使ったんだ。今じゃ、あの骨の亡骸を封印する呪印の一部に成っちまってる。 ……そこでだ、ウーカルよ。 新しいお前の得物を作ってみた。 使うか?」

「えっ? 手槍なの?」

「そうだが、ちょっと違う。 槍の穂の形状が違う。 手槍として使う分には、問題ないがそのほかの機能も追加した。 まぁ、人族の間で儀礼用の見栄えの良いのがオリジナルだな」

「へぇ…… 『儀礼用』って事は飾り?」

「使う者が使えば、相当に使える形状だな」

「なんなの、それ?」

「”ハルバード”と云う。 本来は長柄の武器だ。 まぁ、槍と斧と本来はピックが複合した形状だが、お前に合わせて、ピックの代わりにハンマーを付けてみた」

「ん? そんな事出来るの?」

「あぁ。 魔法鍛冶で作る分には、どんな形状でも生成は可能だしな」

「えっ! ウーさんが作ったって事?」

「おかしいか? 俺は、魔導士としては相当な階位を持っているんだ。 当然魔法鍛冶だって、問題なく使える。 まぁ、対象が対象だけに相当時間はかかったがな」

「対象?」

「あの宝物庫の中に有った。 持って帰った宝物の一つだな。 インゴットだったが、ウーカル用に使うには、ちょっとばかり高価な素材だけどな」

「ほうほう。 それで、何を使ったの?」

「”オリハルコン ” のインゴット。 ハルバードの穂先を作るのに十分な量が有ったし、なんなら、まだ余分もある」



 お、オリハルコン?! マジで? 魔法金属の中でもかなり希少な素材だよ? 鉱床は山の奥深く、相当深い場所でしか生成しないし、迷宮なら深度150階層以下の場所でしか見つからないってモンだよ? たしか、そんな事がウーさんの書斎の本に書いてあったよ。 そんなバカみたいな宝物をあたしの得物にしてくれたの?!



「ボボール爺さんの依頼の完遂報酬だと思えばいいんじゃないか」

「そんな高価な報酬が有ってたまるもんか! それに、完遂したのあたしじゃ無いしッ! ウーカルさんだったし!!」

「まぁ、そうだが、事情をし習いモノから見れば、お前がやったんだぜ」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

「受け取るのか、受け取らないのか、どっちだ?」

「受け取るよ、勿論! 得物で困ってたんだしッ!!」



 ウーさんに抱き着いてね、思いっきり ぶちゅ~~ って唇を合わせる。 うん、これ、あたしの知ってる、最高のお礼。 あたしに出来る、最高のお礼なんだよ。 アハハハ! ウーさん目を白黒させていやがんのッ!

 ウーさんの書斎に場所を移動して、そのブツを受け取ったんだ。 長さは手頃な長さ。 前の手槍よりちょっと長いけど、問題は無い。 重そうな穂先だったけど、持ち上げるとそうでもなかった。 バランスを取るために、石突に魔石が仕込んであった。これも前と同じ。 【灯火】とか、便利魔法を付与してあるって。 前とおんなじ。 



 ――― いや、嬉しい。 本当に嬉しい。 マジで嬉しい。



 ウーさんに抱き着いてね、思いっきり ” ぶちゅ~~ ” って唇を合わせる。 うん、これ、あたしの知ってる、最高のお礼。 あたしに出来る、最高のお礼なんだよ。 アハハハ! ウーさん目を白黒させていやがんのッ! でも、ウーさんは、受け入れてくれた。 あたしの気持ち、ちゃんと、受け入れてくれたんよ。



  ――――― § ―――――



 夜だったけど、ちょっと外に出て、振り回して見た。

 うん。 いいよ、とってもいい。 手に吸い付く様な、そんな手ごたえ。 余りにも”しっくり ”くるんで、思わず二度見。 なんだコレ? それに、ハルバードって云うんだっけ、この穂先。 『突く』、『切る』、『叩く』ってのが一つに纏まってて、状況対応の幅が広がる広がる! 

 うん、これで、危険なく狩りが出来るよ!!

 大事な得物は、お部屋に持って行って、磨いてから置き場を作って掛けて眠りに付いたんだ。 良い狩りが出来そうだよね。 うん、良い夢が見れそう。

 夜半。 急に目が覚めた。 おっかしいなぁ。 あたし、一旦眠ったら朝まで起きないんだけどなぁ……



〈  ……我の許可なく、我を手にする者は、何者ぞッ  〉 



 誰かがあたしの頭の中に話しかけてくる。 『音』に成らない声が、頭に響く。 寝起きの頭にはちょっと辛い。 と云うか、あたし、寝起き悪いんだよね。 ご機嫌になるのにちょっと時間が掛る。 なのに、声なき声の恫喝紛いの言葉。 つまり、滅茶苦茶不機嫌になった。 その声なき声が有る方向を探る。

 貰った手槍の置き場から、その「思念」は流れてきている。 やけに張り切った、強い殺気を伴った、声なき声。 人の寝床にいきなり侵入して、何やってくれてんの?



「誰かは知らんが、いきなり殺気なんぞ出しやがって…… へし曲げるぞッ!」



 機嫌の悪いあたしの声は、低く唸るように聞こえるらしい。 いや、まぁ、肚から声が出たのは確かなんだよね。そこに、さらさら慈悲の音は無い。 何時でもへし曲げる準備は整っている。 拳を握り、ベキバキ鳴らす。



「い、いや、待って! う、ウーカルさん? えっ? な、なんで、此処に? 待って、待って!! いきなりなんて、そんな無茶な!!」

「誰だ、言い訳なんざ聞きたくない。 乙女の寝室に侵入して、いきなりの恫喝。 どう考えても、お前が悪い。 ん? 手槍の中から? ……お前、誰だ?」

「わ、わっちです! ほら、ウーカルさんにへし折られた、千年聖樹ですッ!! リンドン=ウエイスト=ディスケット=スクラップ=ミレニ=ホリトリ っていいますッ! あ、あの……」

「なげぇ…… リンドンでいい?」

「はいッ!! わっちはリンドン。 リンドンっす!!」

「で、なんで、あたしの部屋に居るの?」

「へい、そうでした」

「なんか、性格変わった?」

「い、いや、長い事、不自由してたんで…… それに、今はもう、わっちを虐めるモノなんて無いっすからね」



 滲み出る様に、貰った手槍から白い靄が滲みだして来た。 なんだか、ぼんやりとした靄で、存在感が薄っすいのよ。 でね、その影が床に座り込んで、話を始めよった。こりゃ長くなるな。私だってまだ眠い。

   ――― 要点だけ話せ要点だけ!

 リンドンが云うには、貰った手槍の柄が、あのブチ折った千年聖樹の幹の成れの果て。 滅茶苦茶圧縮されてはいるけど、あの折れた幹を加工したもんだそうだ。

 でね、そこはやはり樹人族。 たとえ折れたとしても、幹には『魂』が宿ったんだって。 今は、地面から離れているから、直接、地面から魔力は吸えないし、もう樹人族と云えない形をしている。 私の手槍の柄になったからなっ!

 珍しい事だけど、樹人族がいいよって言ってくれれば、枝くらい貰えるのだけど、こいつは切り倒されたから、幹を加工されて作られたらしい。だから、こいつは、正確に言うと樹人族じゃぁ無い

 すんごく珍しいらしいけど、千年以上生きた樹人の魂は、精霊になるんだそうだ。 ボボール爺さんが云ってたんだどね。 リンドンも爺さんと同じくらい年取ってるって話だったよね…… だから、軽く千年を超えている。 つまり、この柄の中に精霊が寝てるって事。

 ハッキリ言って、死に消滅しにかけてる、”千年樹 ”が、『此処』に居るって事。 いつ中からこいつが出れ来て寝首を掻かれるか判ったもんじゃない。 ちょっと怖い。 切り倒される前、こいつの特殊能力で、忘れたい記憶を無理矢理思い出さされたよね。そん時に「ウーカルさん」が起きちゃった。良くも悪くも、あの記憶が鍵になってたんだね。



 ―――― そんで、リンドンはへし折られた。



 リンドンはウーさんと『あたしの守護誓約』を結んだって言ってるけど、どーも信じられない。 切り倒されて、根っこも完全破壊されてたから、もう、どーやっても元には戻れないからね。普通、恨むよね。私だったら呪うレベル。 でも、そんな相手に守護誓約してる。 うううん…… 訳わかんない。

 一通りの話を聞いた。 『あたしの守護誓約』ってのは、ちょっと意味が分かんないけど、それもウーさんとリンドンの間に結ばれた約束だから、あたしには関係ないかな。 知らなくていい事は深くは効かないいい女なんだよ、あたしは。

 でもね、ちょっと気になって居る事もあってね、聞くべきことは効くもんだなって、考えた。



「廃龍の墓所…… つまりはリンドンの立っていた場所じゃぁ、魔力の吸収が出来なくて、育てなかったって聞いたよ? どんなことに成ってたんだ? 事情が良く見えなくてね。 お願いされたから云ったけど、まぁ、恨まれてるって、あたしが思うのは其処なのよ」

「いやいやいや、恨んでなんかいないっすよ。 ……そうなんすよね。 近くに『廃龍の墓所』が出来上がって、自然魔力のほとんどが、あの墓所に吸われててですね・・・」

「エント族なら、動けただろ?」

「いや、その動く為の魔力も持っていかれるんすよ」


 なんか、悲しい事に成ってたんだなぁ…… ご飯が無いか、あっても自分を保つためにギリギリか。 ほんと、良く餓死しなかったよな、リンドン……


「最初からこんなんじゃ無かったんですよ。 あそこに生まれて、最初の五百年くらいは良かったんです。そこに、あの魔術師が来て、墓所封印してからおかしくなり始めて、気が付いたらご飯が無い状態……」

「それは、きついね」

「一族の者に助けを求めても、危険だから誰も来てくれなくてねぇ……」

「それも、そうだ。行ったら動けなくなるんだったら、誰もいかねぇよな」

「懇願の連絡とっても、今は無理とかそんなのばっかで…… 段々悪態の連続になってたんですよ」

「まぁ、気持ちは判らんでもないよな」

「このまま枯れちゃうのかなぁ とか思いながら、細々と食い延ばしていたんですよね。 そしたらウーカルさんが来たんですよ。 助けかなぁって思ってたら、切り倒しに来たって…… なんかムカついちゃって…… いつも他の動物にしてるように、記憶をちょこっと覗かせてもらって、一番嫌な事思い出してもらいました」

「二度と近寄れんように、其処に近寄ると嫌な事思い出すって覚えさせるわけだ…… なにそれ、効果的な手段だけど、遣られる方にとっちゃ、最悪」



 生き残る為とは言え、人の傷口に塩を刷り込むような事はなんか許せんよね。 ほんとにムカついた。雰囲気が伝わったのか、リンドン、マジ謝りして来た。



「すんませんッ! すんませんッ! 本当にすんませんッ!! でも、そうするしか方法がなくって……」

「結果、『ウーカルさん』に切り倒された」

「まさか、あんなにお強いとは…… 思ってませんでした!」

「そうなんだ…… でも、今の『ウーカル』じゃないよそれ」

「へっ?」

「『ウーカルさん〇〇〇〇〇〇』は、私の中に居る、もう一人の私。普段は寝てる」



 いきなりのネタ晴らし。 でも、本当の事だから言っておくんだ。 だって、秘密は良く無いし、私自身、『噓吐き』が嫌。リンドンの反応は予想してたのとは違ってた。



「そ、そうなんですか…… いや、でも俺っちにとっては、ウーカルさんは一人ですから!」


 うすい靄の癖に、朗らかに笑うリンドン。 えっと、ちょっと疑問。 疑わしい事が有ったら聞いておくに限るね。 だって、これから長い間一緒に居る事になるんだもん。


「……なんで、恨まないの?」

「……ウーカルさんには、お願い〇〇〇聞いてもらったから……」



 ちょっと、興味が沸いた。 こいつ何考えてたんだ?



お願い・・・?」

「そうですよ。 俺っちをこんなにした『廃龍』と『廃龍の墓所』を、ぶっ壊してくれってお願いしたんっすよ」

「あぁ、それで、『ウーカルさん』あの墓所ぶっ壊したんだ」

「そうですよ。だから、あの魔人が、ウーカルさんを護る誓約をしろって言って来た時、二つ返事で了承したんっす」



 成程ね…… そうか、そうだったんだ。 そんな事情あったんだ。 あたしがやったわけじゃないけど、ウーさんが言う様に、外から見たら、あたしがしたとしか言えないもんなぁ…… えっと、今リンドン、なんてった? ちょっと聞き捨て出来ない言葉が有った様な気がしたから、聞い・・てみた。


「魔人? 誰?」

「此方の凄腕の魔術師で、この槍を作られた方ですけど?」

「魔人って、どういう事?」

「だって、あの人、人族じゃありませんぜ? これでも、わっちは、鑑定関係の魔法には通じてる方っすよ。 なにせ動けなかったから。 そういう事で、やっぱ視る・・でしょ、契約を結ぶ相手の事。 そしたら、見えた種族が妖魔族。 つまり、魔人って事っすよ」

「ふ、ふーん、そういう事。 判った……  そうだ、リンドン、お前ご飯は如何してるの? あたし、此処の食事係だから、気になってね。 で、どうなんよ?」

「へっ? ご飯ですか? いや、別にもう、こんな姿に成ってしまったから・・・」

「精霊の姿になっても、何かしらいるんじゃない?」

「……まぁ 水と純粋な魔力が有れば……」

「そしたら、そんな靄みたいな姿でなく、もっとはっきりとした姿になれる?」

「ええ、まぁ なれますよ」

「そんじゃぁさぁ、朝晩に水で洗って、私がリンドンを使う時に、私から魔力を啜るってのは如何かな?」

「え?えええ? いいんすか? そんな事して。 結構吸いますよ俺っち」



 ほら、あたし、両手の魔力放出口が半分壊れてるから、体の中に魔力が溜まりまくるんだよ。 前々から、ウーさんに如何にかしろって言われててね。 どうにも出来なかったから、困ってたんだ。



「うん、ウーさんが言うには、私、かなり魔力を貯め込んでいるらしいだ。 何事も過ぎるってのが良くないらしくてさ、このままじゃいけないそうなんだ。 魔法を使えばいいんだけど、簡単な魔法しか使えないから、ちょっと困ってたんだよ。 余りまくっている分を啜って貰えれば、あたしも有難いんだけどね」

「……俺っちには、滅茶苦茶いい条件っすよ?」

「『あたしの守護誓約』をウーさんと結んでくれたんよね? じゃぁ私からも御返ししたいし・・ダメかな?」

「嬉しいっす。感激っす! よろしくお願いします!!!」

「うん、よろしく。 それで、一つお願い」

「なんでしょうか?」

「私が寝てるときは、邪魔しないで欲しい」

「了解っす!」

「即答かい…… 素直なのは、あたしと同じだけどねッ! ほんとにお願いね」



 私は、それだけ言ってから、寝落ちした。疲れてたんだもん。仕方ないじゃん! お日様が昇ったら、リンドンと狩りに出てみようかな。 頼りになりそうな相棒が出来たかどうか、確かめたいしね。 



    ふぁぁぁ~

         まだ、眠いや。 

         リンドン、絶対に起こすなよ。

         いいな、これ、マジだからな。

         振りじゃねぇぞ。 








          お休み!!


 




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