ウーカルの足音

龍槍 椀 

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第二幕 廃龍の墓所と相棒

六話 気が付けば、そこは お家

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 ふわふわとした感覚だったんだ。


 あたしは、ピョン ピョン 跳んでたんだ。


 あったかな感じの、柔らかい園で。 いい匂いもしてるし、なんだか、心がポカポカしてるんだ。 




 ピョンピョン跳んで、心地いい上昇と落下を全身で感じているんだよ。 うん、まるで、なんでも出来るって、そう思えるほど、心が軽かったんだ。

 視界に入る全部が白く輝いていたし、新緑の森の香と、空を切る風の音。 心は軽く、何時までも、何時までも跳んでられるような、そんな感じね。

 楽しくて、楽しくて、声を上げて笑ってたんだ。

 始まりは良く判らんけど…… 楽しい時間は、続かないのは知っている。 やがて終わりが来る事は、判ってたよ。 なんでもそうなんだよ。 始まりが有れば、終わりは来るもんね。

 段々と身体が重くなって来て、脚を動かしても、跳べず歩けず…… 視界が狭まり、黒く塗り潰されるんだ。 楽しい時間は終わりって事だね。 でもさ、温かいのと、いい匂いは無くならないんだ。 

 いや、ドンドンと強くなっていく、感じがするんだよね。 視界が優しい闇に閉ざされ、縛り付けられるような感覚だけど、怖くは無いんだ。 だって、誰かに抱きしめられている様な感じなんだもん。

 静かに、音も無く、身体が沈み込む。 何かに取り込まれる感覚。 でも、そこは、昏い場所では無く、暖かい場所。

 う~~~~ん!

 何かの外枠に、ピタリとあたしは嵌り込む・・・・んだ。 途端に耳に声が聞こえるんよ。




「おはようさん」

「アイアイ。 よく眠りましよ」

「そうかいな。 まぁ、深く眠っていたからねぇ。 どないや、調子は?」

「絶好調! 夢の中は、本当に夢の園だったよ。 温かくって、真っ白で、いい匂いがして、全力で走って風が気持ちよかった」

「そうなんやね。 ウーカルは根っからの兎人族やからね」

「アイアイ。 それで…… ウーカルさん? あの後…… どうなったの?」

「あの後か? まぁ、御察しの通りやで。 精神世界から抜け出るんに、あの時の再現を噛ました。 里は全滅、男も女も切り刻んだら、あっちの想定を超えたんやろね、突然精神世界が崩壊したんよ。 ざまぁ無いね。 で、まぁ、起き出して、『お仕事』完遂しておいたさかい」

「そ。 そうなんだ。 酷い事に成ったみたいね」

「ウーカルを苛んだ奴は、まぁ、そうなるわな。 さて、交代や」

「アイアイ」

「暫く寝るけど…… ウーカルにとっては、『残念・・』なお知らせがある」

「アイ?」

「今度の事で、更にうちとの繋がりが強くなってしもうたんよ」

「……アイ」

「でな、眠りが浅さくなるんよ」

「…………アイ」

「ウーカルが呼んだら直ぐに出られるくらいやし、ウーカルが恐怖の感情を持ったら、呼び起こされるくらいにな」

「そ、それは…… 危ないんではないかい?」

「まぁ、そうやね。 けど、ウーカルにとっては、ええ事でもあるんや。 危害を受ける確率が落ちる。 それとな……」

「な、何かな? ウーカルさん」

「ウーには、伝えた。 うちが、ウーカルの中に居るって事。 ちゃんと、『話』をしたんや」 

「グフッ…… そ、それで…… ウーさんは?」

「アイツも変な奴やさかいなぁ…… まぁ、自分でお聞きな。 そんじゃ、寝るわ。 身体、還すさかい…… むにゃむにゃ…… おやすみぃ~」




 そう云って、ウーカルさんは眠ったんよ。 ぼんやりとした感覚が、急にパキンって戻ったんよね。 揺すぶられるような感じ。 ビクンって身体が跳ねる。 周囲の様子が何となくわかるのは、多分、あたしが、あたしの中に帰って来たって事ね。

 温かいモノに包まれているって感触は、まぁ、間違っていなかったよ。 そこは、あたしの部屋。 毛布にくるまって、丸くなってベッドの上にねてたんだもん。 視界に入るのは何時もの部屋の感じ。 箪笥があって、テーブルがあって、魔法灯が小さく灯っていて、窓のにはビラーノが作ってくれたカーテンが掛かっているんだ。

 ただ、いつもと違うのは、テーブルについてる椅子に人影が有った事。 普通、誰も入らないんだよ、個々に貰ってる部屋には。 まぁ、あたしが掃除に入るから、あたしはみんなの部屋にははいるけど、他の人が入る事は無いって事だけどね。

 ボボール爺の目は…… ん、有るね。 このスケベ爺ィめ! まぁいいや。 ゆっくりと身体を興して、その人影が誰かなって見てみるんだ。 予想ではエリーゼ姉さん。 意識無くして、気が付けば自分の部屋って事は……

 多分、ウーカルさんが自力で帰って来たんだろうな。 普段のあたしとは違って感じだから心配してくれてんかな? 眼をこすりながら、椅子に座っている人影の方を見てみるんだよ……




「目が覚めたかウーカル」




 違ったよ! なんてこった、コレ、男の人の声…… つうか、ウーさんの声。 はぁ? なんで、そこに居るんだ?




「アノ魔人というか、何と云うか…… 物凄い奴がお前を乗っ取って、此処まで帰って来た」

「ウーカルさん? ……あたしの中に眠っている人だよ」

「ウーカルさん? そう呼べとアイツが言ったのか?」

「アイアイ。 そう呼んでくれって」

「そうか。 アイツが言うには、お前の『仕事』を肩代わりして終わったとさ」

「うん…… 夢の中で、ウーカルさんにそう云われた」

へし折った・・・・・とさ。 弱っているとはいえ、千年聖樹をボキッと折ったと…… 伐り倒すんじゃ無くて…… 折った●●●とか抜かしやがった。 まぁ、アイツなら出来るだろうけどな」

「アイアイ。 トンデモナイ人です。 ま、前に…… お勉強が辛くって、此処を抜け出した事あったじゃん」




 あたしが、話題を変えて変な事を口走ると、ウーさんこっちを見て、なんか困った顔をしてたんだ。 突然、話題を替えたのが原因じゃ無さそう。 多分…… あたしが話そうとした事に、心当たりが有るから、そんな顔をしたんだろうね。 けど、ウーカルさんの話なら、此れが一番いいからする。




「あたしが生まれたと思える、兎人族の里まで逃げたんよ…… そんとき……」

「あぁ…… 逃げた事あったな」

「アイアイ…… でね、そこで、やっぱりあたしは「忌み子」って事で、滅茶苦茶に乱暴されて、吊るされそうになったんだ。 ウーさんには言ってなかったけど、その時、初めて、ウーカルさんに出会った。 あたしの中で寝てたって云ってた。 そんで…… 助けてくれたんだけど……」

「……一時期噂になった、魔人の蹂躙か。 兎人族の里が丸々一つ、殲滅されて、住人が一人残さず殺されたってやつ…… あれが、ウーカルさんとやらの仕業ってことか?」

「アイアイ…… あたしが物凄く困った事に成ったら、起きるんだって。 そんで、あたしに危害を加えた奴等に対しては容赦しないって……」

「ほう…… 俺たちがウーカルに施していた「お勉強・・・」は、お前にとっては、『危害・・」では無かったって事か?」

「アイ。 それは、あたしが生きていく為に…… この森で生きていく為に必要な事だったから…… だと、思う」

「ふん…… そう云う事か。 成程な、アイツの思考が何となくだが、判った」





 ウーさんなんか一人で納得し寄ったよ。 ぼんやりとなんか考えているんだろうな、片肘をテーブルに乗っけて、頬杖ついてた。 でも、視線はあたしに向けたまんま…… なんだかなぁ……

 あっ! 装具を脱いだ覚えが無いよ! 汚いよ! 臭いよ! 汚れちゃった、シーツも毛布も洗わないと!!

 自分の寝姿に慌てて起き上がって、ベッドに腰かけて自分の姿と、ベッドを見てみるんだ。 ベッドは、まぁ、綺麗なまま。 ん???? 自分の姿を良く見ると、装具は外されてて、下履きだけ…… 胸当てすらねぇよ…… ほとんど、素っ裸だよ!




「ウーさん!! あたしの装備は! 剥いだの?」

「ウーカルさんとやらがな。 脱ぎ散らかしたからエリーゼが纏めて下のデッキに持って行ってある」

「ふぁ! 謝んなきゃ!」

「まぁ…… な。 取り敢えず、部屋に戻って爆睡かましてたから、その辺は、深くは話さなくてもいい。 でだ」

「アイ」




 妙に真剣な目をしたウーさんが、あたしに向かって口を開く。 説教かな? 文句かな? なんにせよ、嫌な予感がするんだ……



「もう一回、『廃龍の墓所』に行くぞ。 全く、五日間も寝込みやがって…… アイツの言葉が本当だとすれば、ちょっと確認する必要もあるからな」

「???」

「お前も行くんだよ。 ……要は、『仕事』の後始末ってやつ。 俺の仕事も終わったから、此処を離れられるしな」

「……アイアイ。 で、何時?」

「お前の準備が整い次第。 まぁ、ニ、三日は体力を戻さんとな。 しっかり喰って、寝て、準備しろ」

「……アイ」




 ウーさんは立ち上がると、部屋を出ようと扉に向かうんだ。 部屋から出る前に、ちょっとだけ立ち止まって、小さくあたしに云うんだよ。





「無事に戻って良かった。 みな心配したんだぞ」

「アイアイ…… ゴメン……」

「ボボール! 聴いてんだろ。 もう、無茶な依頼は受けんな。 お前んとこの若い衆には、ボボールから厳重に抗議しとけよ」




 覗いてたボボール爺さんがちょっとだけ実体化して…… 済まなさそうに頷いとった。



 はぁ…… 帰ってこれたんだ……



 ボボール爺さんの元に……

       ツリーハウスに……

             みんなの元に……




        ウーさんの家に……



   ―――― 生き残れたんだ ――――






         良かったァ……






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