ウーカルの足音

龍槍 椀 

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第一幕 ウーカルの日常

⑥-5 御家の掃除は何時も大変  あと始末

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 お家の居間に戻っても、みんなは居なかったんだ。 変だなぁって思っていると、談話室の方でゴニョゴニョ声がするんだ。 おっ、そっちか。 談話室は、冬場のみんなの居場所なんだ。

 他のお部屋が、ボボール爺さんの幹にへばり付いているツリーハウスに対して、談話室だけは、幹の中に有るんよ。 ボボール爺さんは、ウロを利用したって言ってたっけ。

 まぁ、お家の一番奥深くにあるお部屋って事よ。 みんなは其処に居たんだ。 ニコラが祭壇を準備して、なんかお祈りしてた形跡があるね。 あぁ、『言上げ』って言ってたアレね。

 精霊様や神様に、お願いして、『御言葉』を貰うって奴。 たしか…… 『託宣ハングアウト』とか云う、『御言葉●●●』ね。 あたしは聞いた事無いけどさッ!


   ――― まぁいいや。



「ただいまぁ~~」

「おう。 お疲れ」

「ウーさんの云う通り、蟲を投げ込んで来たよ」

「話はアルとエリーゼから聞いた。 良くやった。 一週間後に、これからどうするのかを決める」

「そっかぁ~ あっちの外側、見てこようか?」

「うむ…… それも、必要か。 白蟻人族の生き残りが、外に出ていても厄介だしな。 狩りのついででいいから、頼めるか?」

「アイアイ。 見るだけでいい? アイツ等と遣り合うのは、ちょっと勘弁してほしいから」

「あぁ、見るだけだ。 遣り合いそうになれば逃げろ。 まぁ、陽の光の有る場所には出て来んだろうがな」

「なんせ、白蟻人族だから?」

「まぁ、そう云う事」




 ウーさんを取り囲む様に、みんな居てたんだ。 やっと、ホッと一息付けるね。 ボボール爺さんを喰おうなんて無茶する奴も多分消えたし、大協約約束事は、護られたんだもんね。

 さてと、談話室に居るんなら、みんなに黒茶でも淹れようかな? 疲れちゃったよね。 気を揉んでいたんでしょ? わかるよ…… じゃぁ、台所に行ってきま~す!




 ―――――




 その日は、早めに眠ったんだ。 疲れちゃったんだもん。 次の日からは、またいつもの毎日なんだもん。 朝早く起きて、水汲みに行って、朝御飯作って、洗濯して、掃除して…… ってね。

 まぁ、今回の事も、ボボール爺さんの大掃除って事にしとこ。 ちょっと、大掛かり過ぎたけど、なんとかお掃除●●●は、終わったしね。

 ちょっと、寂しくなっちゃったのは、ニコラの休暇が終わっちゃったこと。 遠いんだよ、ニコラの行ってる場所は。 朝御飯を食べ終わったら、ニコラがウーさんに云うんだ……




「次は年明けの前に戻るわ。 あっちも、ほっとけないし」

「そうだな…… エウリカント神聖王国も政争●●が激しくなってきているからな。 下手にガイアの森に入られるのも、不味い…… 今回は、合力を願う所だったが、『願い』出さなくて、よくなったしな」

「まったくよ。 獣人族も人族も隙を見せると、何処までも利益を得ようと図々しくなるのよね。 ほんと、嫌に成っちゃうわ」

「南方の国には、野心を持って貰いたくないしな」

「ええ、判っているわ。 上手く誘導するし、その為にあんな場所に身を置いているんだもの。 カルちゃん!」



 突然、名前を呼ばれて、ちょっとびっくり。



「アイアイ」

「お部屋、綺麗にしてくれて嬉しかった。 帰って来たって思えるもの。 ありがとね」

「アイアイ。 それが、あたしのお仕事だもん。 みんなが気持ちよく暮らせるようにするのよ」

「精霊様の御加護が、カルちゃんに有ります様に」

「ニコラ、ありがと」




 おネエ狐●●●だけど、ホントにいい人なんだよね。 胸がポカポカするよ。 お昼前には、出発するって。 なんだか、ちょっぴり、哀しくなるな。 ニコラの部屋はちゃんと掃除しとこ。 いつ帰って来ても、いいようにね。




 ―――― ☆ ――――




『狩り』のついでに、白蟻の国の城門を外側から見てみたんだ。 近いしね。 大きく回り込んで、辺りを伺いながら、慎重に進んで行ったんだ。 地べたを行くと、万が一って事が有るから、大木の枝から枝を伝ってね。

 で、見えたのが、大きく崩れた崖。 ボボール爺が聳え立ってる丘の南西方向の崖に成ってる場所なんだけどね、まるで裂けたみたいに、崖に亀裂が入っているんだよ。

 その下には、大量の瓦礫が散乱してて、さらに、外側に有っただろう、蟻人の街が半壊してた。 白蟻じゃないよ、黒頭の奴らの。 アイツ等は、ここら辺でちょくちょく見かける種族だから、別に変じゃ無いんだけど……


 アッ、違った。


 崩れ落ちた城門の方から這い出てきたらしい、白蟻人族を集団でぶっ殺しとるよ。 あ”~~~~ 下剋上か。 強く支配して、奴婢労働力として搾取し続けていたからなぁ…… 白蟻人って奴は。 アルは、そんな事言ってたよなぁ~

 黒頭の奴等も、もう散ってるしなぁ~ 残った奴って、恨み全開なんだろうなぁ~




 嫌だ、嫌だ…… さっさと、逃げよっと。




 外側の様子は、いつもの『黒の森』だって、そう云おう。 強ければ、力づくで、弱ければ、それなりに知恵を絞って集団でって…… 弱肉強食の日常だったってね。 生き残りも多分あの大空洞の中から出れないね。 それにさ、芋蟲達が喰っちゃってる筈だし、残ってても、怯え、隠れるくらいしか出来んのじゃ無いか? 多分……


 狩りの獲物も集まったし、明るい内に帰ろうっと。




         ――――




 一週間はアッという間に過ぎ去ったんだ。 いつもの日常、いつもの家事をこなしてたらね。 狩りに行って、御洗濯して、掃除して、ご飯作って、何事も無い日々。 で、そんなこんなで一週間。 エリーゼ姉さんと、アルが連れ立って、大空洞の様子を見てきたんだよ。



「片付いた…… と、云えるかな? 少しは残っているが、ほぼ全滅だ、ウー」

「残っては居ても、穴倉の奥深くに引きこもっていてね。 良く見えなかったわ。 芋蟲たちも活動を止めていたわ」

「そうか…… 虱潰しに見つけるしか無いか……」



 居間で報告を受けていたウーさん。 まだ、なにか困った事があるのか、眉を顰め眉間に深い皺を刻んでいるんだよ。 ボボール爺さんも同じ。



「生き残りが、どうなるかじゃな。 集まって、もう一度…… などと考えているやもしれんな。 虱潰しは、難儀じゃな」

「地中深くに潜むからな、あの蟻共は」



 へぇ~ 全滅に追い込まないと、後から厄介事になるんだ。 こりゃ、困ったね。



「エリーゼ。 芋蟲達の活動は止まったと云っていたな」

「ええ、そうよ、ビラーノ」

「只、止まっていたか?」

「えっ? アル、どうだったかしら?」

「活動を止めて、狭い瓦礫の間に身を隠す様に潜んでいたな…… そう云えば」

「ふむ…… 繭になるか。 あそこで羽化するのは、少々問題がある。 幻惑毒蝶オオハマダラ蝶は、『宵闇の魔力』には魅了されないし、何より腐敗屍蟻白蟻人を、捕食しない。 地蜘蛛に回収させるか」



 ウーさんも物憂げな表情を浮かべ、ビラーノ言葉に頷いとったよ。 へぇ~ 繭かぁ。 どんなんだろ? ビラーノの事だから、何かするんだと思うけど、何だろうなぁ~ 興味津々だよ。

 えっと、今の問題は、あの大空洞の下の方にある、細かい坑道やら隠し部屋やらに、白蟻人達が逃げ込んで再起を図るってんだろ? えっと、こういう時、どうしたっけ?

 蟻人の巣の後始末…… 巣の再起が出来ん様にする方法っと。 

 うーんと、えーっと…… あぁ、アレが使えるなぁ。 大空洞ってのが、ちょっと違うけど、基本一緒でしょ。 頭を悩ませているみんなに、ちょっと言ってみる。



「エリーゼ姉さん。 一つ質問!」

「なに、カルちゃん」

「裏庭の池の所まで隧道トンネル伸ばせる?」

「ええっと、ノーム様が開いて下さった隧道?」

「アイアイ。 出来れば、ボボール爺さんの根から離して」

「お願いしたら、多分…… カルちゃんが何時も敬虔な祈りを精霊様、神様に捧げているから、大丈夫だと思うわ」

「それと、あの食獣葛リフィシアナの移植。 崩落した城門の周辺にいける?」

「それなりに水場があれば。 アレは毒沼地が植生だから、水場に毒草があれば、なんとかイケるわ」

「それなら、大丈夫。 ウーさん。 お家の排水問題も一緒に片付けよう! これからも延々、ウーさんの失敗作やらお家の排水やら、狩りで捕った獲物の要らない強毒の所とか、色々出るじゃん。 食獣葛リフィシアナだって、万全とは言えないんでしょ? だったら、あの大空洞に流してしまおう。 排水が強毒なんだもん。 解毒しようにも、それ相応の設備やら薬草やら、稀少な素材が必要なんでしょ? ボロボロになった白蟻人の王国じゃ、解毒薬の生成なんて出来る? あたしは、出来ないと思うんだよね」




 あたしとエリーゼ姉さんの会話を聞いていたアルが、ボソッと呟く。



 ” エグい事考えるな、ウーカルは。 確かに有効な手立てではある。 ヤツ等も生きていくには水が必要だしな。 その水に毒を入れちまえって…… 悪辣な人族でも、なかなか其処までせんぞ? ”



 あたし、耳は良いんだ。 よく、聞こえとるよ? アル。 誰が、悪辣か! 狩りの時の後始末の応用だよ。 蟻人の巣を除去するには、水没させるのが一番手っ取り早いんだよ。 毒水であれば、更に良し! それと、一緒!




「やってみるか…… エリーゼ、ウーカルの云った隧道の事、地の精霊 ノーム様に『祈願●●』出来るのか?」

「え、えぇ。 大丈夫だと思うわ」

「そうか。 ビラーノ。 繭の回収は必要な事だから、先にそれを頼む。 お前の眷属の地蜘蛛に願えるか」

「ウー、勿論だ。 なかなかに希少な繭。 ただで毒水に水没させるのは、少々惜しい。 早速、取ってこさせよう」

「エリーゼ。 池の水は、そのまま流せ。 もう、浄化する必要は無い。 食獣葛リフィシアナの移植も、準備してくれ」

「はい。 崩落した城門に水位が到達して、中の水が外に流れ出したら、その辺りに移植するわ。 えっと、それまで……」

「あたしの『魔法鞄』の中に入れとく?」

「そう願えれば、有難いわ。 きっと、そう長い間じゃないもの。 移植するなら、カルちゃんの『魔法鞄』に一時避難させておくべきね」

「アイアイ」




 大協約森の約束を破った、腐敗屍蟻白蟻人の行く末は、黒い森のことわりが潰した。 種族諸共、昏い闇の中に落とされた。 二度と陽光を見る事は無いね。 それに、アイツ等は異常進化した連中。 この世界に居ては成らないって、そう、神様が言ったんだ。


 そう、思う事にするよ。


 この黒の森ガイアの森は、弱肉強食の森。 でも、強い者は畏れを持たないといけない。 森の|大協約『約束』は、その最たるモノ。 自分たちが生きる世界を護る為にね。 

 森が無くなったら、生きて行けないもんね。

 だから、アイツ等を哀れんだりしない。

 悲しんでもやらない。




 ―――― ☆ ――――




 裏庭の池から、水が落ちる。 池の底が抜けて、毒々しい色の水が吸い込まれて行く。 ノーム様が新しい隧道を引いてくれて、一直線にあの大空洞に向かっている。 その中を毒水が駆けて行くんだ。



 ウーさんも、手持ちの『本当にヤバい毒』を、捨ててた。

 エリーゼ姉さんも、保管庫宝物入れから、手に余る毒を投げてた。

 ボボール爺さんも、長年積もった老廃物を捨ててた。

 ビラーノも、要らない素材を廃棄していた。

 アルは…… う〇こ、してた…… 汚ぇな。



 最後に、ウーさんは、水が抜けた後に出来た窪地と大穴に、【水球】の巻物スクロールを使って、大量の水を流してた…… 薄めたって、強毒は強毒に違いないもんね。 こうして、あの大空洞は毒水で水没した。

 大掃除の後始末って感じかな? 最後は水で流して、さっぱりするんだ。

 そうそう、最初の隧道と坑道はそのまま残してあったんだ。 

 定期的に見て、ホントに白蟻人が湧いて無いか確認するって……

 沸かないといいな。 あんな、大掃除……










         ……二度と、ゴメンだね。








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