ウーカルの足音

龍槍 椀 

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第一幕 ウーカルの日常

⑥-1 御家の掃除は何時も大変 前編

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 お日様が昇る前に起き出して、身支度を済ませた後、台所に向かうのは、何時もの行動。 家に居る人たちの朝御飯の準備だ。 夜遅い人も、早々に寝ちゃう人もいるけど、まぁ、だいたい同じ時間位に朝御飯だけは食べてくれるんよ。 それが、その人たちにとって、本当に朝御飯かどうかは、この際考えない。


 ――― まだ、薄暗い中起き出すのには、理由があるのよね。


 だいたい、この家の住人達は自由勝手とか云うか、我儘放題というか、自由人ばかりだから、ご飯を一緒に食べるなんて習慣は無かったんよ。 でも、まぁ、あたしが居候を始めてから、エリーゼ姉さんとボボール爺さんがあたしを育てる為に、一応、それまでの自由気ままから少し変わったんよね。

 お二人さんは、植物系の魔人さんだから、普通のご飯は食べないんだ。 それに、大体お日様の出ている時間にしか活動しない。 特にエリーゼ姉さんはね。 ボボール爺さんは、起きてるんだか寝てるんだか、良く判らないけど、エリーゼ姉さんは、お日様の出入りと共に生活してるんよ。

 あたしの事を一番気にかけて、一番世話してくれたのはエリーゼ姉さん。 だから、あたしの生活時間もエリーゼ姉さんと同じようなモノなんだ。

 でね、お日様が出る前に置き出すのは、エリーゼ姉さん達の食事を用意する為。 植物系の魔人さん達のご飯は主に、栄養満点で精霊様の祝福を受けた水が最良なんよ。


 ――― 此奴が厄介なのよ。 


 このガイアの森には、沢山の精霊様がいらっしゃるけど、栄養満点の湧き水の有る場所はそうは無い。 一番近くの場所は、お家から歩いて四半刻離れた場所にある、『黒水の霊泉』って云う場所。 お気に入りなんだよね、二人の。

 でもね、汲み置きはお気に召さないんだ。 どうやら、時間が経てば栄養が抜けるだけでなく、精霊様の祝福も薄らいで行くらしいのよ。 だから、毎朝汲みに行く事に成るの。

 まぁ、あたしが狩りに出ちゃったときは、絶食したり、ウーさんの水玉から出した水に、エリーゼ姉さんの薬草園から摘んだ薬草を溶かし込むらしいんだけどね。 以前は、それで賄ってたけど、あたしがココに棲み始め、物心ついて動ける様になった辺りで、お願いされる様になったんだ。

 居候だし、お手伝いできるんなら嬉しいしね。 だから引き受けたんよ。

『黒水の霊泉』への道はもう何度も何度も通ったから、何処に何が居るかも知り尽くしているし、霊泉に住まわれる精霊様とも、顔見知りになっているから、そんなに時間は掛からんようになったもんね。 最初の頃は、祈祷の聖句をつっかえつっかえしか唱えられなかったから、時間が掛かって仕方なかったんだよ。

 さてっと、今日も ひとっ走り行ってきますか。 そんなに遠くじゃ無いし、軽装備を着込む必要も無いからね。 指さし確認は、大事な儀式!



 水筒良し。 ブーツ良し。 手槍良し。 



 行ってきま~~す!



 ――――



 いつも通り『黒水の霊泉』から、冷水を水筒に入れて帰って来たら、今度はあたしたち用のご飯作り。 パンの実とお肉の燻製。 野菜に果物。 具沢山スープもね。 幾つかの料理を作って大皿に盛って、居間のテーブルに持っていくんだ。


 朝御飯を並べ終わったら、お外も明るくなってくるからね。


 エリーゼ姉さんとボボール爺さんには、大きめのカップを用意して、そこに『黒水の霊泉』から取って来た冷水を入れておく。 勿論、お変わり自由。 ポットに余分を ”ぶっこんどく” と、勝手に入れてくれるからね。 さて、準備は終わった。



「みんなぁ~~~ ご飯の準備終わったよ~~~ お腹空いたよ~~ 早く来てよぉ~~~」



 大声で、叫ぶように皆を呼ぶ。 呼ばないと、来ねぇもん。 、家に居る人たちが、ぞろぞろと自分たちの魔窟から這い出す様に出て来やがる。 ボサボサの頭のウーさん。 何時も身嗜みが良いビラーノとエリーゼ姉さん。 まぁ、ボボール爺さんは、何時もおんなじ長いローブを着て、足音もさせずやって来るんだ。

 爺さんの本体はこのツリーハウスがくっ付いてる千年聖樹だから、アレは霊体らしい。 エント族って、自身の現身うつしみって云うのを幹から出し入れできるんで、そうしてるんだって。 ようわからんけど、一緒に食卓に並べるなら、それはきっと、良い事なんだよね。

 さて。皆が来たから食べよう!! 食事は命の輝き! 生あるものを戴く事で、命を繋ぐ大切な儀式。 神様と精霊様に、今日も十分な食事を頂ける事に感謝の祈りを捧げる



 ” 食卓に並ぶ、命を戴ける幸せに感謝を! 命の恵みを分け与えて下さった神様と精霊様に賛美の祈りを! 命を頂きます!! ”



 口の中で聖句を繰り、手を組んで祈る。 それから、食べるんだ!! 今日は、レッドボアの燻製だぜ! 美味いんだ! さぁ! 喰らおう!!!




 ―――― ☆ ――――



 食事が終わって、お片付け。 エリーゼ姉さんが手伝ってくれた。 その後は、御掃除。 片付けからの流れでね。 汚す事に関して言えば、『黒の森ガイアの森』で、最高峰な家の男衆。 あちこちに散らばった私物を、各人の部屋に放り込み、みんなで使う場所の掃除をして行くんだ。

 結構広いんよ、みんなで使う場所っていっても。 ホウノって草の先っちょを集めた箒で埃やらゴミやらをバルコニーから掃き出して、雑巾に柄を付けたモップで拭き上げたら、気持ちいいお部屋の出来上がり。


 それを、いろんな場所でするんだ。 御不浄もそうだし、台所もそう。 居間だって、談話室だってそう。 沢山あるクッションも、掃除ついでに干し物ロープに引っ掛けなきゃならんしね。 お日様できちんと乾かしたら、とってもいい匂いするんだもん。 まだ、『温熱石』が入っていない暖炉も、今の内の掃除しとかなきゃね。



 ―――― 後は、あたし使っている ” お部屋 ”。 自室って事ね。
 


 大きくなってから、ボボール爺さんが用意してくれたんだ。 ちゃんと、鍵の掛かるドアだってある。 この家の中で、人族系の女の子は私一人だから、エリーゼ姉さんがボボール爺さんに掛け合ってくれたらしいんだ。 別に気にして無いんだけどな。 心遣いには、大いに感謝してるけどね。

 女の子は、色々と人目を気にしなきゃならないらしいんだ。 それが、『イイ女』への道らしいんだ。 化け烏のアルもそう云ってたね。 それに、ちょっと遠出して、獣人族の街まで買い出しに行くときは、『人族の常識』とやらが、必要だからって。

 滅多に行かないけど、そう云う機会も有るだろうからってね。 ウーさんもそれには同意してた。 別にあっち方面には、行く事は無いと思うんだけど、大人の云う事は聞いておいた方が良いのは理解している。 前に、飛び出した事が有るんだけど、その時にはエライ目に会ったからね。

 でもさ、いくら”鍵が掛かる扉ドア” が、有るって云っても、ココは千年聖樹ボボールの内懐。 エロ爺ぃにとっちゃ、体内と一緒。 つまり、覗き放題。 なんか視線感じる時もあるんよ。 それも、着替えの最中とか、ほら…… 兎人族の女の子には色々ある時とか……

 ま、家主の特権って奴かな? はぁぁ~~~ 諦めよ……

 
 このツリーハウスのお約束で、『個人の部屋』は、各『個人』がするって事に成ってるんよ。 あたしが全部纏めてやる? 嫌だね、あんな魔窟やら腐海を掃除するなんて。 定期的にシーツの交換やら、枕の天日干しとかはするよ? だって、ビラーノが可哀想じゃん。 せっかくの綺麗な布が汚れ放題になるなんてね。 その他の細かい掃除なんかは、まぁ、ボボール爺さんから、頼まれたらやるんだけどね。 部屋に支障が出そうな感じに成ったらね。

 そりゃ、ボボール爺さんの調子が悪くなるような事が有ったら一大事だからね。

 この前、ウーさんの書斎を掃除したのは、その為。 あんま、やりたくない。 危ないんだもん。 下手に手を触れたら、『呪い』とか、『脱魂』とか色々ね…… 耐毒性は有るけど、他の耐性なんて持ってないもん。 ウーさんの部屋だけじゃ無いんだよ、” 危ぶね~ ” のは。 ぶっちゃけ、ビラーノの部屋以外は、マジ、部屋に入りたくも無いんだよ。 ありゃ、マジで魔窟、腐海の様だよ。 魔人の巣って感じだよ? ホントだよ? だから、あんま、手を出さないんだ。



 自分の部屋の掃除は丹念に。 だって、汚れた部屋で寝起きするの嫌じゃん。 なんか疲れが取れない感じがして。 ベッドのシーツも取り替えて、洗濯籠にいれておく。 窓を開けて、空気も入れ替える。 戦利品棚の色んな角やら牙やらも磨いておくよ。 本棚も埃を払って、拭き掃除しておくんだ。 手に入れた『本』やら、新聞の切り抜きを張り付けたノートやらは、いつでも取り出せるようにしておくんよ。 それにさ、本が増えて行くのを見ると、なんか『賢く』成った気がするじゃん!

 みんなに、ボケ兎って云われているけどさッ!!

 い、いつの日か、見返してやる~~~ カルカルカル~~~~


 



 ――――― ☆ ―――――






 お部屋を綺麗にして、ほっとしたのは お昼を廻ってから。 お昼ご飯は、各人が適当に食べてくれるから、あたしは知らない。 あたしも、パンの実と朝の残りの具沢山スープをお皿に掬ってお昼にしたんだ。

 今度は、居間のテーブルじゃ無く、台所のテーブルで、頂くんだ。 まぁ、こっちの方が落ち着くと云うか何と云うか、馴染んでるって云うか……  あたしの『居場所』だもんね。 

 ご飯は、椅子に座って、頂くんだよ。 洗い物も少なくて済むし、別段、特別な事もしないしね。 バリバリ喰って、お腹が膨らんで、幸せな気持ちに成った後、食後の黒茶を自分の分だけ入れて、ホッと一息。

 外で狩りやら採取をする時と違って、まぁ、気を張らずにゆったりできるもんね。 ボボール爺さんの中じゃ、危険な事なんて起こらないし、ビラーノが千年聖樹の生えてる丘全体に、結界の張糸を結んでるから、結構強い魔獣だって侵入する事は、出来ないもんね。


 安心、安全っと!


 さて…… 午後は繕い物針仕事でもすっかな? いろんな布製品が有るし、草臥れたクッションも沢山。 そろそろ中身の入れ替え時期だから、そっちも始めないとね。 それと、自分の装具も草臥れて来てるんよ、今着てる部屋着もね。 装具やら普段着なんかは、最初から森で拾ってくる・・・・・モンだから、相応に草臥れとるんよ……


 あぁ……


 ビラーノの布で作れたらな…… きっと、素敵な服が出来るんだろうなぁ…… 憧れちゃうなぁ~ そんな贅沢は、言えないもんなぁ~ こっそり、目を盗んで、遣い潰したカーテンとかシーツとかで、パッチワークしたろうかしら? 

 ウーさんが読んでる新聞の広告にそんな感じの事が書いてあったから、試してみようかしらん? まぁ、何にしろ針仕事が待ってるな……

 黒茶の入っているカップを手に持って、そんな事を考えつつ 『ボボ~』 ってしてたんよ。 床から、突然ボボール爺さんが湧き出して来やがった。 珍しく、あたしを揶揄からかうでも無く、ちょっと、眉を寄せ不快な表情・・・・・を浮かべながらね。


 そんで、あたしの前の椅子に腰を落とすと、口を開き言葉を紡ぐんだ。




「ウーカル……」

「何かな? ボボール爺」

「痒い……」

「ほぇ? 何処が?」

「足が痒い……」

「はぁ?」

「足が痒いんじゃ」

「マジ?」

「あぁ」

「ウーさんの所業悪事?」

「違う…… と思うがの」

「マジ?」

「あぁ…… 本当じゃ」

「た、大変だぁぁぁ~~~~」





 樹人族エント族の足って云えば、根っこだよね? 巨木を支える、深く広く広がった根っこ。 そのどれかが、何かに喰われたらか、腐ったか。 どちらにしても、このツリーハウスにとっては由々しき事なんだもん。 


 あたしには判るよ。 伊達に植物達姉さん、爺さんに育てられて居ねぇもん。 


 ボボール爺さんが言葉にするほどって事は、かなりヤラレテいるって事なんだもん。 げ、原因を特定しないと!!



「こないだ作った排水の落ち口の池の辺り?」

「いや…… 違うんじゃよ。 其処じゃないの。 アノ池はエリーゼが細心の注意を払いながら造営穴掘りしよったよ。 影響はないの。 それに、浄化用の草だって、ウーカルよ、お前が採取してきたんじゃろ? 良く毒気を吸い上げて居ぞ?」

「そうなんだ。 けど、何処かの根が傷んでいる事は、間違いないんでしょ?」

「あぁ、その通りじゃよ……」

「大体の方向は?」

「あっちじゃ」




 指し示すのは、バルコニーの方。 つまりは南西方向に有る根って事よね。 どうしよう…… 地中の事だから、あたしにはどうする事も出来ないよ? 地面に薬液ブチ撒くくらいしか思いつかないもん。 根が腐り落ちて、最悪聖樹が倒れちゃうよ……


 ね、姉さんに相談しよう!!


          事は重大事!!


       早速、姉さんに会いに行こう!!












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