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第一幕 ウーカルの日常
⑤ 炊事と洗濯は、お風呂の後で!
しおりを挟む暫くの間、狩りに行っていたんで、お家のお仕事が、た~んと溜まっているんだよ。
まぁ、自業自得ってヤツさ。 でも、いっぱいお肉も狩れたし、大王蜂の王族蜂蜜も取ってこれた。 自分的には結構満足しているんだ。
家のみんなも、獲物の量と内容にとっても喜んでくれたんだ。 うん、喜んでくれたよ? ホントに……
取り敢えず、外のデッキで解体作業。 どうせ後で洗濯しなきゃならんから、装具はそのままで解体したよ。 丸ごと『魔法鞄』に入れてきたから、新鮮なままだった。
血抜きから、皮剥ぎ、枝肉まで、一連の作業が楽に出来た。 野外でやると、吊るす場所から探さないといけないし、水も沢山使えないし、周囲に危険があるかもしれないから、時間短縮の為に内臓とかも捨てて埋めてたんだけど、ココじゃキッチリ安全に処理できるから、全部使える。
好い事尽くめだ! ほんと、この『魔法鞄』を拾ってよかったよ。 余すところなく森の恵みを受け取れるんだ。 ほんと感謝だよ!!
肉とか皮とかを幹の根元の保管庫に突っ込んで、一息付けた。 保管庫には、ウーさんが【時間遅延】の魔法を符呪してるから、新鮮なまま置けるね。 でっかい『魔法鞄』だと思えばいいかな。 まぁ、あたしの優れモノの『魔法鞄』よりも、『遅延時間』は少ないけどね。 まぁ、全部使っちまうくらいまで、新鮮なままなんだ。
――― ウーさん、やりおる。
でね、小汚くて臭いまま居間に戻って、ローテーブルの端っこにちょこんと座る。 其処にはウーさん、エリーゼ姉さん、ボボール爺さん、ビラーノなんかが勢揃い。 狩りのお話をしなくちゃなんない。 お外の様子を、お話する処までが、『狩り』なんだよ。
で、一通りの事をお話したよ。 隠すと面倒な事に成るし、本当に隠したい事を隠すには、それ以外をまるっとお話するのが、効果的。 森の様子とか、魔獣と出会った頻度とか、どっちに向かって行ったのかとか…… レヌレーと会って来た事以外は正直にお話するんだ。 本当に隠したい事以外は、全部まるっとお話するのが吉。 言い淀むと、根掘り葉掘り聞かれるんだもん。 そして、全てをゲロらされる。
ほんと、それは避けたい。 だって、また、” お友達 ” の レヌレー とお話したいんだもん。
大王蜂の巣の中にどうやって入ったかは、この人達が納得できるように、捏造したよ。 ほら、麻痺毒だって、結構優れモノだし。 あの巣の大きさなんて、ウーさん達は知らないんだし、どのくらいの麻痺毒が必要だったなんて、判りっこないもん。 その上、あたしがどんだけの麻痺毒を持ってたか、みんな知らないしね。
けどさ、身に付けた軽鎧に沁みついた『毒気』に気が付いたウーさんに、書斎に引きずり込まれ、何処でそんな毒気にあたったのかしっかりと聴取された後、めっちゃ怒られた。 それでもレヌレーと会ってた事は黙っていたよ。 うん、もし喋っちゃったら、二度とあそこには行けないから。
まぁ【追跡】も掛けられていなかったから、あたしが何処に行ってたかなんて、あたしがゲロらない限り、判りっこないしね。 森の中を彷徨って、あちこちで狩りをしていたから、毒草が生い茂る丘に近づいた時に匂いが染みついたんじゃない? なんて誤魔化したよ。
なんか納得いかない顔してたけど、とにかくそれで押し通したんだ。
さて、ウーさんから解放されたら、お家のお仕事が待ってるよね。 洗濯とか、掃除とか、ご飯作りも。 まぁ、でもお外から帰ってきたら、まずは『お風呂』だよね。 自分が汚いままだと、なんか遣り辛いし、臭いのは嫌だしね。
ほら、イイ女になれって化け烏のアルにも云われてるし。
臭い女ってどうかと思うもん。 毒気の臭いとか、魔獣の血臭とか、自分の汗の臭いとか、ボロの軽鎧の饐えた匂いとか…… 色々ね。 さぁ、お風呂、お風呂っと!!
千年聖樹ボボール爺さんの幹の中に、お風呂場も有るんだ。 ウーさんのお家自体は、ボボール爺さんの幹の仲程にへばり付いているツリーハウスもどきなんだけどね。 お風呂は何故か幹の中に有るんよ。
水の通りが良いからとか何とかボボール爺ィは云ってたけど、アレ…… 違うね。 あたしがまだ小さい頃、エリーゼ姉さんがあたしを外で水浴びさせていた時、桶から溢れ落ちる水に流されて、危うく下のデッキから地面に転げ落ちそうになってから、作ったんだっけ。
―――― それ以来、幹の中にお風呂が出現したんよ。
まぁ、あたしの安全の為とも云ってたけど、もう、十分に大人になってる筈なのに、なぜかお風呂の位置は変わりないんよ。 それに、なんだか、視線を感じる時も有るんよ。
そう、ボボール爺さんの視線。 うん、覗いてるねッ! まぁ、減るもんでも無いし、見たきゃ見ればいいと思うし…… なんかされる訳でも無いから、いいか? いや、良くねぇよ!! エロ爺ぃめッ!!
でも、暖かなお湯が使えるのは、幹の中のお風呂だけなんだもんなぁ…… チッ、仕方ないか。
――――― ☆ ―――――
そうお風呂、お風呂! っと。 いや、その前にボロの軽鎧は、下のデッキで脱いで来なくちゃね。 アレは別で洗わないと、お風呂場に持って行くとびっくりするくらい、お風呂が汚れるもんね。 取り敢えず、デカい桶に水張ってその中に付け込んどくか。
サイカチの実を一緒に入れて置いたら、泡が立って血脂も落ちるし、ちょっといい匂いにもなるから。 まぁ、後から油脂を塗り込んどかないとカチンコチンになっちゃうね。 手持ちの油脂は魔獣由来だから、ちょっと臭いけど…… 仕方ないね
手っ取り早く、装具を毟り取る様に剥がして、デカい桶に入れる。サイカチの実を握り潰してから、一緒に放り込む。 そんで、壁際にある蛇口に手を添えて、ゆっくりと魔力を注ぎ込む。
ジャバァァァ って感じで水が落ちて来る。
うん、良し良し。 でも、コレ、どうなってんの? 何時も使っているけど、水球がボボール爺さんの幹の上の方に有るんだろうなぁ…… まぁ、使えるから、どうなってるか知らなくても問題無いっちゃぁ問題無い。
ネブ=ドロン大猪の毒血を被った時みたいに全部脱ぐ必要は無いから、下着とシャツと綿入れズボンは履いてるよ? 全裸じゃないよ? だから、別段なにも気にせずお家の中に入るんだ。
炊事場を通り抜け、廊下を歩いて突き当り。 其処がお風呂。 水場はかためて作ってあるってボボール爺さん言ってたっけか…… あぁ、だから御不浄も近くに造ってんのか。 排水は纏めて幹から出して、木管の中を通ってこれまた一所に集めて、下にバシャーだもんね。
狩りから帰ってきたら、エリーゼ姉さんの裏庭に小振りの池が出来てたね。 あそこに流れ落ちる様にしたらしい。 周囲に食獣葛が、いっぱ~い植わっていたね、そう云えば。 あれだけ植えたら、排水も楽に浄化出来るね。 まぁ、危険植物だから近寄らんとこう。
引き戸を開けて、脱衣所に入る。 蔓で編んだ籠の中に、今着ている物全部脱いでぶち込んどく。 もう一つの引き戸を開けてお風呂場に。 デカい風呂桶がデデンと鎮座しているのさ。 蛇口は二つ。 片方が水。 もう片方がお湯。 結構熱い奴。
両方の蛇口に手を当てて、魔力を流す。 これ、最初はあんまりうまくいかなかったけど、今じゃイイ感じの温度に一発で決まる。 桶に湯を取り、掛け湯。 まぁ、流れ落ちるお湯が汚ったねえのなんのって。 さっそく、サイカチの実をグチャって潰して、備え付けのオルの葉っぱで作ったタオルにゴシゴシと擦り付けるんだ。
ボコボコ泡立ててから、身体を洗う。 それはもう、ピッカピカになるまでね。 頭から足の先まで。 ゴシゴシ、グシグシ洗うんだ。 何回か桶に湯を取って、濯いで、またゴシゴシ。 そのうち、泡が白くなるんだ。 そんだけ、汚れてたってこったよ。
風呂桶一杯に湯が張れたんで、最後の濯ぎのあと、身体を風呂桶に沈める。 湯気が物凄いから、窓を開けて外の空気を入れるんだ。
ほえぇぇぇぇ 気持ちええなぁ~~~~
ゆっくりと手足を伸ばして、凝り固まってる肩をぐりぐりと廻してっと。 フゥ~~ 極楽、極楽!!
眼を瞑って、イイ感じの温度のお湯を堪能する。 ピチャン、ボチャン なんて、水音だけが聞こえる。 身体の中に在った澱の様な疲れがお湯に溶け込んで行くような気がするね。
物凄く気持ちいいのに、なにやら視線を感じる。 勿論、引き戸は閉じたままだし、開いた感じもしない。 ついでに人の気配もない。 でも、視線だけは感じる。
またかよ…… ボボール爺さん。 覗いてやがんな? 視線の元はっと…… あそこか。
――― ソレッ!!
お湯の中に漬けている手で水鉄砲を作って、視線の元に向かって ピュ って、掛けてやったんだ。
” ウオッ! ”
ほらね。 エロ爺め。 自業自得だ! まぁ、でも、あたしは居候。 それ以上の反撃はしないでおくよ。 多分…… ゆっくりしすぎて、心配してくれたんだろう…… って、好意的に受け取っとくよ。 けど、覗くな!
お風呂から上がって、とんでもねぇ事に気が付いた。 着替えを持って来てねぇ…… あちゃぁ~~ まっ、いいか。 どうせあたしの裸見たって、な~んも反応せん人達ばっかだもんね。 酷い事する様な人、いないもんね。 だったら、さっさと自分の部屋に行くか。 脱ぎ散らかした下着とか入っている籠もって云ったら、ちょっとは目隠しになるだろうしねッ!!
―――――――
洗濯は何時もの通り。 お部屋に戻って、家で着る用のちょっとマシな奴を着込んでから、始めたんだ。 あたしの物だけじゃ無く、みんなモノもね。 ついでにお家にあるモノも。
このお家の布製品は全部ビラーノが作っているんよ。 ウーさんと契約を結んでいる、「高位闇蜘蛛族」の ” ビラーノ ”がね。 糸を紡いで、それを織って布にしているんだ。
闇蜘蛛の糸はビラーノの意思で、柔らかくも硬くも成る。 繰り出す糸に魔力を載せると、特別な糸になるってそう云ってたね。 ……確か、細さは眼に見えない暗く細く、硬度は鋼鉄よりも固いって。 かなり体力を使うから、滅多には繰り出さないって言ってたね。
そんなビラーノが織ってくれた布は、エリーゼ姉さんの手によって染められて、シーツとかカーテンとか、クッションカバーとか、布巾とかいろいろ使わせて貰っているんだ。 結構いい感じなんだよ? わたしもお針子の真似事して、ウーさんがどっかの街から取り寄せている新聞に乗っかってる『広告』とやらの絵に似た物を作ってたんだ。
カーテンとかクッションカバーとかがソレね。
で、汚す事に定評のある、この家の住人達が居る訳ヨ。 なんだかんだで汚す訳ヨ。 だれも洗濯なんぞしないから、だんだんと薄汚れる訳ヨ。 あたしが来る前は、汚れたら捨てて新しくしてたとかなんとか……
ビラーノの作る布はとても丈夫な上、綺麗なんだよ? エリーゼ姉さんの染付は色んな意味で、美しいんだよ? それを使い捨て?
―――― 有り得んッ!!
てなわけで、あたしが洗濯を始めたんだ。 汚れ落としに悪戦苦闘していたあたしを見かねてか、エリーゼ姉さんがそんなあたしに、サイカチの実をくれたんだ。 このサイカチの実、とても優れモノ。 手に持ってグチャって潰して、身の中にある果汁が水に触れると泡立つ。 それが実に良く汚れを落としてくれるんだ。
毒性も無いし、汚れは落ちるし、脂も分解してくれる。
洗濯やらお風呂には持って来いなんだ。 溜まっている洗濯モノも結構量が有るから、今日は一日洗濯バッカリになりそうだけどね。
―――――
デッキから見て、ボボール爺さんの一番下の大枝の先に、ガッチリと固定してある滑車があるんよ。 デッキに固定されている滑車との間に、長~~~いロープが掛かっているんよ。 化け烏のアルがどっかの街で ” 便利そうだから ” って、狩って来てくれた『洗濯挟み』なる逸品。 木製の角棒に、グルグルが真ん中にくっ付いてるやつ。 魔道具か? って聞いたら、商工ギルドで売ってる、便利道具だそう。 別に符呪されて居る訳でも、それ自体が魔道具でもないって。
でも、ホントに便利よ。 ロープに引っ掛ける鉤がくっ付いているのもいいよね。 街って、本当に何でもあるんだねぇ…… でね、ピンチに洗った洗濯物を吊るして、ロープに掛けていくんよ。 何枚も何枚も。 デカいモノから、小さなのまで。 反対側のロープを手繰って、ズンズンとね。 そしたら、ロープに並んで吊るされた洗濯物が、ズラ~~って感じで並んで大枝の先までね。 ズラ~~ってね。
滑車は一個だけじゃ無く、並んで五つ。 ちょっとずつ離して設置してあるんよ。 だから、全部で五本、ロープが渡っているよ。 今回は洗濯モノ多かったから、三本使った。 バルコニーに入る日の光がちょっと遮られるけど、まぁ、そんな事は微々たる不具合。
お日様の光を一杯に浴びた洗濯物は、とっても気持ちよくイイ感じになるんだもん。
さてと、後は乾くまでほっとく。 で、デッキの水場を綺麗にしようと、蛇口から水を出そうと魔力を手から出したんだ。
ポチョン……
あれ? あるぇ? あれるぇ? 何で出ないんだ?? こりゃ、変だ。 どっか詰まったか? 慌てて居間に駆け込んで、ゴニョゴニョ何か話しているウーさんとボボール爺さんに話した。
「ウーさん。 水が出ない」
「ん? なんだと?」
「判んないけど、水が出ない。 さっきまで洗濯で使ってた。 使えてたんだよ。 でも、今は出ない」
「なにか、やらかしたか?」
「どうーして、あたしのせいに成ってるんだヨ! いつも通り、いつもと同じくらいしか魔力を紡いでないよ。 というより、あたしの発出魔力じゃ、絶対壊れんって云ってたのウーさんじゃん!!」
「ん~ まぁ、そうか。 ボボール。 なんか、考えられるか?」
「……直接みてみんと。 アレは上段の枝の間に設置してあるんじゃろ? 儂の感覚では、途中の木管には、なんも異変は無いからの」
「そうか…… ウーカルよ、ちょっと頼みだ」
「アイアイ」
「ボボール爺さんの上段、二百二十三枝から二百二十五枝の間に、水球の魔方陣を設置してある。 割と大きめの水球が浮かんでいる筈。 それが、ちゃんと稼働しているか見て来てくれ」
「え~~ あんな高い所に行くの?」
「お前が一番、身軽で今いる者の中で適任なんだよ」
「……アイアイ」
水が使えんのは、ちょっと面倒な事に成るから、仕方ないよね。 仕方ないけど、高いんだよ…… 落っこちたら死んじゃうよ。 でもまぁ、ウーさんに云われたんじゃ仕方ないし…… 根性決めて、行かないとね。
ツリーハウスの屋根に上って、そこから幹伝いに上へ上へと登るんだ。 ちょいとした道具も使う。 鉤爪ロープなんだけどね。 これも、森に入って来た人族の奴等の落とし物。 拾っただけだよ? 奪ってないよ? 見殺しにしただけで…… だって、アイツ等、森で大きな火を使うんだもん。 助ける必要無いもん……
人族のお馬鹿さん達、森に入るのはいいんだけど、決まり事を護らないから、あんまり好きじゃない。 でも奴等の持ち物…… 便利道具が多いんだよね。 手先が器用で、色んな事考えて、道具を作るから、そうなるんだろうね。 まぁ、あたしには関係ないし、使えるモノは使うだけだしね。
手鉤ロープで、上の枝、上の枝へと渡っていくんだ。 だんだんと枝も幹も細くなって、頼りなくなっていく。 あたしの体重を支えて呉れんのか、コレ? 葉っぱも疎らになって、お日様の光と青空がその間に見え隠れする頃……
ウーさんの言ってた場所に到着。
デカい水玉が浮いてた。 枝と幹に護符が張ってあって、魔方陣を展開してた。 ふ~~ん、こうなってんのか。 水玉の下に漏斗があって、そこに水が落ちる事に成っとるね。 で、漏斗を見るとカラッカラ……
ありゃ? おかしい。 つまり、水玉から水が落ちてないってこったよね。 で、水玉を見上げて……
ヒィィィ!!
な、なんか居る!! なんか居るよぉぉぉ!! ヒレの付いた脚が一杯生えた、黒茶に光る甲殻を持ってる蟲が、水玉の中から覗いとるよぉぉぉ~~ アイツかぁぁぁ!! アイツが、水玉の中で、踏ん張っとるから、水が落ちないのかぁぁぁ!!!
うぎゃぁぁぁ アレが浸かった水でお風呂入ってたのかァァァァ!!! ばっちぃ、ばっちぃ!! うわぁぁぁん!!! く、駆逐してやる!!! 手鉤ロープをブンブン廻して、ソイツに投げつけたんだ。
ボチャン
ガキッ
水玉に入って、頭に鉤爪が引っ掛かる。 踏ん張っているから、こっちも体重をかけてウリャァァ!! って、引っこ抜く。 突然の事で、ソイツも慌てたんだろうな。 案外抵抗なく水玉から引っこ抜けた! そのまま空中に投棄!!
セリャァァ!!
蟲は大きく弧を描いて、落っこちて行ったんだ。
フリョ~フリョ~ 鼻からも口からも息が盛大に漏れる。 うげぇ~ マジであれの浸かってた水を使っとったんかぁ~~ ふと、水玉を見ると、調子よく魔方陣が稼働し始めたのか、ポコポコポコって、湧き出してたよ。 輝く水色って感じだねぇ~ 表面が見る間に波打って、受けてある漏斗に水を落とし始めたんだよ。
はぁ~ よかったよかった。 もうちょっと様子を見よう。 また、あんな蟲が湧いたら困るもんね。 変な蟲が周りの枝やら、幹やら、葉っぱに居ないか確認して……
異常は見つからなかったから、えっちらおっちら下って行ったんだ。
―――― ☆ ――――
「アレが水球の中に居たのか?」
「アイアイ。 びっくりだよ、ウーさん」
バルコニーから、下の広場をウーさんと並んで眺めてた。 デカい蟲だったよ。 いやほんとに。 ヒレ付きの足が何対も付いたデカい蟲。 あんなのが入っていたら、そりゃ水玉から水は出んよね。
「『水疱蟲』じゃの。 あの水球、聖水でも沸くのか、ウーよ」
「いや…… たんなる水球の魔方陣だ。 ……というより、千年聖樹から魔力を貰ってるから、それが魔方陣を変質させたんじゃねぇか? 有り得る事だ」
「変質……か。 良い事なのじゃろ?」
「まぁ、聖水を呼び出せるんだから、良い事なんじゃね?」
「そうじゃの。 水球の様子は、どうじゃった、ウーカルよ」
なんか、良く判らん事を、くっ喋ってる『お二人』さん。 まぁ、見た事は、伝えとくか。
「ポコポコ水が湧き出して、表面は波打って、水球から滴ってたよ。 水は漏斗に吸い込まれとった。 表面は…… なんかとっても潤ってた。 そう云えば、水が輝いている? みたいな」
「そうか…… だ、そうだ、ウーよ」
「間違いないな。 『聖水』が、湧き出した」
「ふむ…… それを使ったらどうなる?」
「ボボール、調子は?」
「悪ぅないの。 洗われて行く感じもあるの」
「そう云う事だ。 『聖水』つうやつは、『魔を減じ光と成す』と云われるけど、まぁ、微弱の回復ポーションって所か。 悪霊なんかは、嫌がるか昇天するが、生き物であったら、まず問題は無い。 聖水と云っても、只の水だし、『千年聖樹の息吹』が吹き込まれても、この辺りのモノには、別段問題は無い。 ここらのモノにあっては、常に、ボボールの影響下に有るからな」
「そうさの。 まぁ…… そうさの。 ビラーノの言って、網を掛けて貰おうか。 『聖水』を目当てに、近寄って来る奴も居ろうて」
「それが良い。 水球の魔方陣を再設置するのは骨が折れる」
「よかろう…… 儂から伝え置く」
「頼んだ」
おーい。 お二人さん! 二人で納得しとらんで、アレどうするか言って呉れよ! 広場にベチャって成ってる、あの蟲!! なんで、あたしを見る!! なんで、目を逸らせる!! つまり、あたしにどうにかしとけって事なんか!!
渋々…… 本当に渋々、広場に降りて潰れた蟲の側に立つ。 まぁ、気持ち悪い蟲だね。 どうしようか?
「あら、水疱蟲?」
「エリーゼ姉さん。 コレ、どうしよう」
「どうしようって…… もう死んじゃってるわよ?」
「埋める?」
「勿体ない」
「えっ?」
エリーゼ姉さんは、何の戸惑いも無く潰れた蟲に手を出した。 硬そうな甲殻をメキメキ剥がして、解体して行くんだ…… 中から透き通ったお肉を取り出して云うのさ。
「とても栄養が有って、ゆでると真っ白になって、美味しいわよ? 水疱蟲は、聖水の中に生息していて、中々お目に掛かれない希少昆虫でね、それにここ迄大きくなる個体はなかなか無いの。 ほら見て、こんなに取れた」
「えぇっと…… 食べられるの?」
「人族や獣人族、魔族なんかは、王侯や高位貴族でもめったに食べられない御馳走よ? 今晩、調理して、頂きましょう。 さぁ、カルちゃんも取って!」
うぎゃぁぁ!! そ、そうなんだ!! ま、まぁ、蜂だって喰うし、芋虫だって喰うけどさぁ……
―――― ☆ ――――
泣きながら解体して……
エリーゼ姉さんの指導の元……
なんとか調理して………………
―――― 美味しく、頂きましたッ!!!!
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