710 / 714
エピローグ
エビローグ その日の空は蒼かった。 ー 彼らの道標 ー
しおりを挟む
大森林ジュノーに森の王国ジュバリアンは再興された。 しかし、『原初の森』と化した美しく脆弱な大森林ジュノーは、未だ『障壁結界』により、外界と隔絶し内側の様相を知る事は難しい。 周辺諸国との接点は、居留地の森のみと成り、未だ硬く『障壁結界』が人族の侵入を拒んでいる。
そんな森の王国ジュバリアンから、居留地の森を開始、提案が行われた。
大森林ジュノーを取り囲む、大小 八か国との協約を結びたいと。
後年、『森の大協約』と呼ばれる、人と獣人の『和平』と『共存』の道を模索する、崇高な理念を持つ大協約の嚆矢であった。 呼びかけに応じたのは、隣接三カ国である、ファンダリア王国、マグノリア王国、ゲルン=マンティカ連合王国。 また、三カ国に国境を接する五カ国も、各国の招待で参集する事と成った。
その仲介をしたのが、南の大洋を隔てた ベネディクト=ペンスラ連合王国、ルフーラ=エミル=グランディアント上級王太子であった。 参加八カ国と商いを通じ、強い繋がりを持つ彼が、隣接三カ国に伝えらえた、『ジュバリアン王国からの提案』を各国に伝え、その利を説き、参加を促した。
その陰には、強く上級王太子妃の進言があったとも伝えられる。
紆余曲折、長時間に渡る協議と会合の数々を乗り越え、一同が顔を揃えると云うところまでは、合意に至った。 後に云う、『大協約連合会合』である。
会場と成った場所は、特にジュバリアン王国とは、因縁、縁深い、ファンダリア王国が設定され、初回会議は王城外苑にて挙行される事と成る。
参加国数、八カ国と 傍聴者、一カ国。 世界的に見ても前代未聞の、壮大な大会合と成るのは必至であった。 当然、その調整には、多大な労力が必要とされた。 大森林ジュノーに隣接する三カ国は、その労力の多くを受け持ち、大協約連合会合の理事国と成るに至った。
―――― 初回の会合。
そんな膨大な労力に見合う合意を得ようと、理事国、及び 参加各国は情報収集に総力を挙げる事と成っる。 平穏と安寧の中の静かな闘争が始まったとも云える。 各国首脳陣は、大協約連合会合の協議内容に、自国の未来を賭けて万全の準備を模索していた。
そんな中、ファンダリア王国、王都ファンダル、王城コンクエストムに二羽の『白い鳩の便』りが届く。
一羽の行く先は、
ファンダリア王国 国王ウーノル=ランドルフ=ファンダリアーナ陛下に。
もう一羽は、
ロマンスティカ=エラード=ノリステン宮廷伯夫人へ。
その『白い鳩の便り』に何が綴られていたかは、定かでは無いが、受け取った二人の貴人の相貌に、周囲の者達が驚くほどの『笑み』が浮かんでいたのは、彼らの近くに侍る者達の、各種の記録の中に刻み込まれていた。
――――― § ――――― § ――――
ファンダリア王国
王都ファンダル 王城コンクエストム。
麗らかな春の日の深夜。
ようやく執務を終えた ウーノル=ランドルフ=ファンダリアーナ国王が、疲れた身体と精神を癒す為に、『王の間』に帰り着く事が出来た。 忙しいのは、今に始まった事ではないが、ここ最近は常にも増して、多忙を極めている。
戦乱の気配が遠退き、それに代わる『国際政治』の季節がやって来たからであった。 ジュバリアン王国の提案を受け、『大協約連合会合』の準備を進める中、幾多の国々がファンダリア王国と友好的に…… そして、自国に有利に手を結ぼうと、様々な策謀を仕掛けているからでもあった。
国内の事に付いては、絶大な権力を掌握するニトルベイン大公家が、その能力の限りを尽くし、様々にファンダリア王国内に手を伸ばす国外勢力の浸食を防いでいる。
また、そんな国々に対し、予防的、段階的に諜報関係者が暗躍させ、此方の弱みを見せぬ様に動き回る外務の長も、精力的に動き回っていてくれる。
力を背景とする『睨み』を必要とする国々に対しては、ファンダリア王国軍全軍の指揮権を存分に発揮するフルブラント大公が、その職務を忠実に堅実に行い、要らぬ騒動を未然に防いでいた。
そんな王国の行動全てを担保する財務は、若きミストラーベ大公率いる財務の実務集団が堅実な施政を護り、王国民から信頼を得るに至っている。
王弟オンドルフ=ブルアート=ファンダリアーナ殿下は、ウーノル王が第一王子を得た事によって、グランリーブラ大公家の名跡を興し、臣籍降下された。 『不磨の大典』を起草され、今では法務大官として、法による統治に精力的に、その能力を発揮し、国王を良く補佐し、王国の良心とまで謳われるに至る。 その陰には、伴侶たるベラルーシア=フォースト=グランリーブラ大公夫人の絶大な献身があると云われる。
国王であるウーノル王の役割は、そんな五大 大公家の者達を率い、ファンダリア王国を正しく真っ直ぐに誰の誹りも受けない『正道』を選に歩む事。 重圧は、摂政に任ぜられた時から、すでに重くその双肩にかかっている。 それを担う覚悟は付いてはいたが、時に挫けそうな場面にも遭遇した。
―――― しかし、彼はもう孤独な王では無い。
愛する王妃と、何ものにも代えがたい、王子、王女が存在するのだから。 『王の間』に帰り着き、侍従達が下がると、王妃 アンネテーナ=ファル=ミサーナ=ファンダリアーナは女官達を下がらせながら、柔らかく、にこやかに出迎えた。
王の間。
豪華な調度品。 ゆったりとしたソファーに二人で腰を下ろす。 柔らかな香り豊かなフレーバーティーが、ローテーブルの上に用意されていた。 着衣の首元を緩めつつ、深くソファーに身を預けるウーノル王を、微笑みと共に見詰めながら、王妃アンネテーナは言葉を綴る。
「お疲れさまでした、陛下」
「いや、本当にな。 子供たちは?」
「アレクシードは王太后様と、エスカリーゼルは王伯母様の御部屋に」
「暫しの間では有るが、預かって貰えたか」
「はい。 嬉々として…… ですわね。 あの子達も、とても嬉し気でしたわ」
「……そうか。 少々妬けるが、同道は出来ぬしな。 では、明朝の出立は……」
「陛下の執務の目途が付き次第」
「それは、終わった。 エスコ―=トリント練兵場への通達は?」
「既に。 オフレッサー卿が、御自分で手配したと。 なんの問題も無いとの事。 ワイバーンの着陸場所も既に確保してあるとの事でした。 予行演習にもってこいだとも。 本当にあの方は……」
「ふむ…… たしかにな…… 宿将たるべき者は、用心に用心を重ねる者だよ、アンネ。 ベネディクト=ペンスラ連合王国の使節団本体は、まだ……」
「はい、ダクレール辺境伯領、港湾都市ブルーザの沖にて、ご停泊中に御座います。 極秘で、上級王太子妃のみが、此方に。 極秘裏に通達が御座いました。 此度のお運びは、『私的』なモノ故、華美な出迎えは不要との事で……」
「相変わらず、精力的な御方だな」
「まさしく。 特に、此度は…… さもありましょう。 だって、『お茶会』の情報を掴まれたんですもの。 無茶や横車は、いくらでも。 そういう方ですわ。 事、あの子に関しては。 それは幼少の頃から、存じております」
「ハハハ。 そうか。 そうだったな。 ハンナ上級王太子妃殿下は、その身分をかなぐり捨てて、ご来訪になると…… と云う事か」
「御意に。 ……夜も更けてまいりました。 明日は、早朝から移動に御座います。 お休みになっては?」
「アンネ。 色々と雑事を押し付け済まない。 もっと、ゆっくりとした時間を取れれば良いのだが」
「……陛下。 ……いえ、ウー。 わたくしは、十分に幸せですわ。 貴方と時を一緒に歩めるのですもの。 それだけで…… それだけで十分」
柔らかなアンネテーナの表情を見るウーノル。 彼女の両方の手をそっと握る。 絡み合う視線。 やがて、影は一つに重なり、軽く啄むように唇を交わす。 アレだけの才気を見せ、アレだけの覇気を漲らせ、精力的に政務を熟す若き王は……
この部屋の中では……
この部屋の中だけは……
妻を愛してやまない、一人の男であった。
「アンネテーナ。 我が唯一。 愛しているぞ」
「はい」
――― § ――― § ――――
ファンダリア王国 南部辺境域、ダクレール辺境伯 領都グレイスムーアの南部 港湾都市ブルーザ。 その沖合……
商業国家 ベネディクト=ペンスラ連合王国の使節団が座乗する、ワイバーン搭載母艦 龍の巣。 護衛するは、快速大型魔法動力帆船「テーベル」。
ワイバーン搭載母艦 龍の巣の司令官室には、上級王太子ルフーラ=エミル=グランディアント と、その妻 上級王太子妃ハンナ=ダクレール=グランディアントが、ゆったりとした長椅子に座り歓談している。
仲の良い上級王太子夫妻は、ベネディクト=ペンスラ連合王国の王族の中でも、特に人々に愛され敬われている。そんな彼らが、ダクレール辺境伯領の沖合に乗り込んできているのは、大協約連合会合への出席のため。
大人数の官僚たちが参加しているため、御召艦として通常使用する『テーベル』では、人員を収容しきれない為、船室に余裕のあるワイバーン搭載母艦 龍の巣を御召艦としたと、そう公布されている。
その報告は、既にダクレール辺境伯にも通達されており、その証拠に港湾都市ブルーザの沖合に停泊する船の周囲には、ダクレール領の海軍戦力が周辺護衛の任に当たっている。
星が降るような夜空。 晴れ上がり、波静かな夜の調べの中、多少の酒精を入れた二人は、互いに顔を見合わせながら、言葉を交わす。
「拙達の御子達は、おとなしくしているだろうか?」
「リッカ上級王妃様、リット第一王家王妃様のご指導ご鞭撻を真摯に受ける様にと、伝えております故、大丈夫かと」
「…………あの子らだぞ?」
「…………沢山、お土産を持ち帰らねばなりますまいね」
「リッカ上級王妃には、『大協約連合会合』の成功。 リット母上には、ジュバリアン王国との『交易条約』の締結が、一番の土産となろうな。 子供達には…… まぁ、珍しい物をダクレールの義父上にお願いしようか」
「はい、左様に。 『大協約』の大会合に先立ち、様々な方々と交渉に当たりましたので、そちらの方に関しては、大筋では問題は無いかと。 多少、会合で紛糾する事も御座いましょうが、それはルフーラ様の采配にていかようにも?」
「困難な事を、サラッと云う。 憎らしい事を云うのは、この愛らしい口かッ……」
少々拗ねる様に、そして、愛してやまない妃に、自身の愛を捧げる様に、唇を重ねるルフーラ。 それにも理由があった。 自身の唯一たる、ハンナ上級王太子妃が単身、先行して王都ファンダルへと向かうと云うからだった。
「本当に…… 先に、行くのか?」
「はい。 わたくしの都合で、あちらに捻じ込みましたので」
「『お茶会』と、云ったな」
「はい。 是非とも参加したく。 無理を通しました」
「拙には判らぬが、その理由は奈辺に有るのだ?」
「……わたくしの、心に『けじめ』を付けに。 後悔をしない為に。 あの日…… あの方では無く、あなたの名を口にした、わたくしは、まだ、あの方の専属侍女であります故」
「……そうか」
「……はい」
「もう、すでに許されているのでは無いのか? 拙はハンナと行動を別にするのは、少々……」
「申し訳御座いません、あなた。 しかし、必要な事なのです。 これから…… 未来永劫、心を『あなたを愛する事』で満たす為…… あの方の傍から、あなたに本当に嫁す為に必要な事なのです。」
「……そうか。 それならば是非も無し。 飲み込もう。 所で、どうやって無理を押した? 特に、あの外務の羅刹と、宮廷狐を」
「ドワイアル大公閣下に関しては、大森林ジュノーから参られる、ジュバリアン王国の代表様の情報を。 現在の代表様は蛇人族で、一見魔物と間違われますが、獣人の種族が一つです。 元のジュバリアン王国十二王族の一つでもあり、災厄の間は深く地中に難を逃れておられたとか。 細々とした情報は、公的なモノ、個人的なモノを含め、閣下に御渡ししております」
「蛇人族……か。 拙も気を引き締めねばな」
「穏やかで、御優しい方ですわよ。 エスカリーナ姫様とも深く交流がおありになるそうです」
「う、うむ。 そうか。 お逢いする事を楽しみに…… せねばな」
「はい。 それと、宰相様ですが、此方は『搦手』を使用しました」
「搦手?」
「ええ。 ノリステン公爵様は、それはそれは手強い相手。 内務、財務に関しては、一筋縄ではいかない御方。 しかしですね、あなた。 彼には一つ心配事が有るのです」
「なんだろうか?」
「ふふふ…… わたくし達ですのよ」
「拙等? あの方にとって、拙など脅威になるような程でも無いと思うのだが……」
「わたくし達では無く、ベネディクト=ペンスラ連合王国と云う巨大商業国家にですわ。 世界は戦乱の季節を脱しました。 人々は安寧に平和に暮らし始めたのです。 その日の生活に汲々とする事なく、思う存分自由に稼ぎ、各人の其々の『生』を謳歌し始めたのです。 そして、様々な文化が花開き始めました。 金穀を以て、遠く離れた異国の産物も手に入れる事が出来ましょう。 歌謡演劇も又、吟遊詩人だけの物では無くなります。 美しい反物、美味しい食事。 人々は、命の危険に怯えることなく、生きる事が出来るのです。 あなた…… そうなれば、人は何を思うのでしょう」
「挙って、新しい物を手に入れようとするかな? そうか…… 商いに関しては、我が国は『一日の長』があるか」
「はい。 ファンダリア王国は、まだまだ軍事が優先する国家。 よって、物流や交易に不安な点も依然多く、その点を宰相閣下は見通されて居られるのです」
「それで?」
「ファンダリアという国は、経済を回す多くの役割を有る準男爵家に依存していると、そう云えます。 我らがその準男爵家を喰わないかと、ご心配なのです。 安心の材料に、彼の準男爵家との友好を、さらに深めました。 ダクレール領のイグバール商会との繋がりを強くしたのもその準備に御座いましてよ。 さらに、準男爵様の頭痛の種を一つ、取り去って上げましたの」
「ほう、何だろうか? 拙は知らぬぞ?」
「情報は生き物です。 常に更新せねば、商機を失いますので。 ……ファンダリア王国、王都聖堂教会に於いて、一人の若き戦闘神官が、その神官の籍を抜き、精霊の御意志の番人の一員となられました。 彼は、居留地の森の『番人の拠点』に有り、番人様方だけでは無く、獣人族の方々をも癒して居られるようです」
「ふむ…… 確か、『森の聖者』ユーリ殿であったか。 その話は知っている。 しかし、それと、どう繋がる?」
「ええ、準男爵家…… グランクラブ卿の愛娘フルーリー様が、失踪されたのは?」
「それも、知っている。 グランクラブ卿が、相当に慌てていると報告にあった。 ……ハンナ、突き止めたのか?」
「はいッ♪ 我らが仲間の獣人族の商い人が、『番人の拠点』にて、フルーリー商会の看板を確認いたしました。 ……見ている方が恥ずかしくなるくらい、初々しい若夫婦だそうですよ」
「…………グランクラブ卿の渋い顔が思い浮かぶ」
「御令嬢は思い切った事をなさいましたが、グランクラブ卿も若い頃は相当危ない橋も渡られたとか。 色々と暗躍されておられましたからね。 ……それで、卿に伝えましたの」
「何を?」
「『居留地の森』の獣人商人は、フルーリー嬢をとても好ましく思っております と。 ベネディクト=ペンスラ連合王国のキャラバンも、商いに御協力いたしますわ と。 なにより、彼の地に於いて、『森の賢者』の慈しみは、獣人族の方々にとっては、なくては成らぬ程の物と成っていると。 安全で、心豊かに、商いに邁進するでしょう と」
「…………そうか。 グランクラブ卿の頭痛の種が消えそうな話であるな、それは。 それで、卿は?」
「はい、わたくしの言葉に耳を傾けて下さり、フルーリー嬢の安全を確信して下さりました。 そして、わたくしに問われたのです。 『対価は』と」
「そこで、すかさず…… か。 ハンナらしいな」
「重鎮お二人の御推薦を頂き、『お茶会』に参加する事が出来ましたの。 ……少しは、やるようになったでしょ、あなた」
「確かにな。 あぁ、まさしく、拙の妃だ。 喜ばしい事だ。 この小憎らしい事を云うのは、この口かッ!」
ルフーラ上級王太子はもう耐えられぬと、ハンナ妃を横抱きに抱え、その愛らしい口元に幾度も、幾度も唇を落とす。 ハンナ妃も抗うことなく、ルフーラ上級王太子に応える様にその背に手をしっかりと回し、自身の愛情の在りかを伝える。
「愛しいあなた…… 愛しております。 で、でも、わたくしは、夜明け前には出ます…… あぁ、あなた…… わたくしの最後の我が儘です。 お許しください」
――― § ―――― § ――――
ファンダリア王国 王都ファンダル。 王城コンクエストム城下の貴族街。 ニトルベイン大公邸からは距離の在る、貴族街の端にある、重厚でいて洒落た佇まいの比較的小ぶりな御邸。
ニトルベイン大公家の小さなタウンハウスとであったと云う。 今は、ノリステン宮廷伯爵家の御屋敷。 そこに住まうは、宰相家ノリステン公爵が三男であり、宰相府 情報局 情報分析室に所属する……
――― エドワルド=バウム=ノリステン宮廷伯であった。
小さいと云う、言葉が当てはまるのは、ニトルベイン大公家の別邸であったが故。 貴族の感覚でも十分な広さと、なにより非常に硬い護りの【結界】が施されているからであった。
情報分析室に所属し、筆頭情報分析官であるクラークス伯爵の指導の下、その道に精通する様になったエドワルドが心を休める場所としては、申し分の無い御邸でもある。 元の主人であった、彼の妻女も彼を受け入れる事に、なんの戸惑いも無かったと云う。
ニトルベイン大公家の者達はその事を驚きを以て受け入れたが、それもその筈。 元の主人、現在はノリステン宮廷伯夫人には別の顔が有るからであった。
王宮魔道院 特務局 第一位魔術士。
王太后フローラル殿下の護衛魔術士。
二つの肩書は、ファンダリア王国の中でも、燦然と輝きウーノル王にとっても『重要な意味』を持つ役職でもあった。 また、ノリステン宮廷伯婦人には、二つ名を持つ。
―――― ニトルベインの魔女。
公然とは語られぬ、その名を口にする者は、相応の覚悟を持たねば、明日の命すら保証されない。 敢えて、その名を口にする者は…… 様々な意味において、彼女と敵対する者達であり、彼女が泳がせている者達でもあると…… そう、彼女の夫は鬱っそりと、彼の上司に告げた事があった。
御邸の奥。 夫婦の居室。
そこで語られるは、王国の闇の中に有るモノ。 ウーノル国王に於いても、全てを知る事は無いと云われる、王国の暗部。 しかし、王国民に安寧を齎せる為には必要な…… 暗渠でもあり、敢えてその闇の中にその身を置く覚悟を決めた者達でもあった。
暖かく、柔らかな春の夜。 今日の夫婦の居室は、いつもとは違った。 二人の間には、馥郁たる香りを漂わせる、フレーバーティーが供せられ、彼ら以外の使用人たちは既に払われている。 二人だけの時間でもあった。
「ティカ、ノーラは大公翁に預けたのか?」
「ええ、あなた。 ニトルベイン大公翁が、まるで、何の力も持たぬ御爺様の様に、あの怖い顔に満面の笑みを載せ、お引き受けして下さいましたわ」
「それは…… また……」
「既に隠居願いを提出され、大公位も御継嗣様に御譲りに成られました。 一介の爺でしかないのだと、とう申されましたのよ、あの方が」
「まさか……だったね。 あの時は」
「ええ。 でも、その御気持ちは判りますの。 長きに渡り、その双肩に光も闇も背負われてきたのです。 そして、十分にその役割を担える後継も育てられました。 あとは、真に心を捧げた、獅子王陛下へのご報告だけが、大公翁の御宸襟にある重要な事柄なのでしょう。 なにかの折に、お聞きしました。 もういいのですかと」
「それで?」
「『後は若い者たちが紡ぐべきなのだ』、と。 『光と闇を見続けて、その結論に至ったのだ』、と。 今は曾孫をどこまでも甘やかす、爺でいたいのだと。 あの狸がですわよ。 本当に驚きましたわ」
「……ノーラも、大公翁には懐いている。 君の資質を大いに受け継いでいるからか、それとも……」
「市井の爺の様に、手放しで幼子を…… 自身の血脈を受け継いだ、可愛い曾孫娘を、ただただ慈しみたいと、そう仰っておられました。 ニトルベインの家の者とは思えぬ程、柔らかな笑みを頬に乗せて。 あのような大公翁を見た事は御座いませんでしたので、少々……」
「それが…… 多分…… ブロンクス=グラリオン=ニトルベイン と、云う方の本質なのかもしれないね」
「ええ、同意いたしますわ。 何処か…… 遠くに…… 胸の奥深くに…… 封じていた感情を取り戻されたのかも。 獅子王陛下にお逢いに成る前の、柔らかな御心なのかも、知れませんわね」
「あぁ…… 彼の御仁も、『人』であったのだと、そう思う」
「ええ……」
二人は、カップを持ちあげ、口に含む。 柔らかな視線を交わし、微笑む。 この静かな時間を愛おしむ様に、噛みしめる様に。 カップを下ろし、おもむろにエドワルドは言葉を紡ぐ。
「……私も、その『お茶会』に、本当に出席しても、よいのだろうか?」
「ええ、そういうお約束ですもの。 互いのパートナーを伴いと。 貴方は、わたくしの伴侶では御座いませんの?」
「いや、その…… なんだ…… 御同席するのが、余りにも……」
「陛下は貴方を頼りにされておられますし、義妹は気にしない…… と云うよりも、興味津々なのです。 わたくしが、伴侶と定めた方に」
「えっ? それは、どういう意味だい?」
「『ニトルベインの魔女』の伴侶ですもの。 わたくしが心を預ける方ですもの。 義妹も心配しておりますのよ、多分」
「それは…… 『見定められる立場』と云う事かい?」
「オホホホ…… 嫌ですわよ、そんな。 違いますわ。 きっと、お願いされるのでは?」
「何をかな?」
「わたくしが、心を失わぬ様に…… 一心に愛を捧げて下さいと」
「そんな事は、云うまでも無いのに……」
「そうね、あなたは仰いましたものね。 わたくしが居なければ、この世界すら必要無いのだと」
「それは…… ちょっと、恥ずかしいな」
「誇られませ。 『ニトルベインの魔女』の心を溶かした『お言葉』なのですから」
「……あぁ、そうだね。 誇りにしよう。 ノーラがこの世に生を受けた、『言葉』でもあるしね」
「ええ、あなた。 明日は、早くに出る事になりましょう。 エスコー=トリント練兵場へ向かわねばなりません。 少々距離が御座いますし、あの子が来る前に、出迎えの準備もせねばなりませんもの」
「第四軍 第一及び、第四師団がその任に当たると聞くよ。 オフレッサー侯爵閣下が、気合を入れておられたので、警備については問題は無いと思う。 まして、陛下が出向かれるのだからね」
「そうね…… その辺りは心配していないの、正直なところ。 わたくしが心配しているのは、あの子が何をやらかすかよ」
「……まぁ、そうだね。 練兵場の人払いを願われていたからね。 大きな魔物か何かで、お運びに成られるのかな?」
「色々と有るのよ、きっと。 王都から離れたエスコー=トリント練兵場を指定するのには理由が有る筈。 思い浮かぶのは、王都の結界に歪みを齎さないようにと云う配慮かも知れない。 つまりは、何らかの大規模魔法を使用する可能性も有るわ。 それが、何かは判らないけれど」
「そうか…… あの方は、稀代の魔術師でもあらせられるからね」
「あの子は魔術師というより…… 魔導師と云った方が適切かもしれないわ。 もう、この世界の理で測る事はしないって、そう決めているのですもの。 異界の知恵を知識を存分に習得している彼女は、この世界の魔術師の範疇では捉えられないわ。 異界の魔人が…… あの知恵者が、彼女の師でもあるんですものね」
「そうか…… いよいよもって、私の矮小さを見せつけられている気分になるよ」
「大丈夫。 大丈夫よ、あなた。 だって、彼女は、エスカリーナは、どこまで行っても、エスカリーナでしかないんだもの。 きっと、御顔を見れば、あなたのそんな気分も吹き飛んでしまうわ。 ええ、きっとね」
二人の間に流れる、静かな時間。 『お茶会』に想いを馳せ、激動の時代に想いを馳せ、静かに、静かに言葉がロマンスティカ=エラード=ノリステン宮廷伯夫人の口から漏れる。
「エスカリーナ…… 貴女が生まれた奇跡に、精霊様方に、感謝を捧げるわ」
そんな森の王国ジュバリアンから、居留地の森を開始、提案が行われた。
大森林ジュノーを取り囲む、大小 八か国との協約を結びたいと。
後年、『森の大協約』と呼ばれる、人と獣人の『和平』と『共存』の道を模索する、崇高な理念を持つ大協約の嚆矢であった。 呼びかけに応じたのは、隣接三カ国である、ファンダリア王国、マグノリア王国、ゲルン=マンティカ連合王国。 また、三カ国に国境を接する五カ国も、各国の招待で参集する事と成った。
その仲介をしたのが、南の大洋を隔てた ベネディクト=ペンスラ連合王国、ルフーラ=エミル=グランディアント上級王太子であった。 参加八カ国と商いを通じ、強い繋がりを持つ彼が、隣接三カ国に伝えらえた、『ジュバリアン王国からの提案』を各国に伝え、その利を説き、参加を促した。
その陰には、強く上級王太子妃の進言があったとも伝えられる。
紆余曲折、長時間に渡る協議と会合の数々を乗り越え、一同が顔を揃えると云うところまでは、合意に至った。 後に云う、『大協約連合会合』である。
会場と成った場所は、特にジュバリアン王国とは、因縁、縁深い、ファンダリア王国が設定され、初回会議は王城外苑にて挙行される事と成る。
参加国数、八カ国と 傍聴者、一カ国。 世界的に見ても前代未聞の、壮大な大会合と成るのは必至であった。 当然、その調整には、多大な労力が必要とされた。 大森林ジュノーに隣接する三カ国は、その労力の多くを受け持ち、大協約連合会合の理事国と成るに至った。
―――― 初回の会合。
そんな膨大な労力に見合う合意を得ようと、理事国、及び 参加各国は情報収集に総力を挙げる事と成っる。 平穏と安寧の中の静かな闘争が始まったとも云える。 各国首脳陣は、大協約連合会合の協議内容に、自国の未来を賭けて万全の準備を模索していた。
そんな中、ファンダリア王国、王都ファンダル、王城コンクエストムに二羽の『白い鳩の便』りが届く。
一羽の行く先は、
ファンダリア王国 国王ウーノル=ランドルフ=ファンダリアーナ陛下に。
もう一羽は、
ロマンスティカ=エラード=ノリステン宮廷伯夫人へ。
その『白い鳩の便り』に何が綴られていたかは、定かでは無いが、受け取った二人の貴人の相貌に、周囲の者達が驚くほどの『笑み』が浮かんでいたのは、彼らの近くに侍る者達の、各種の記録の中に刻み込まれていた。
――――― § ――――― § ――――
ファンダリア王国
王都ファンダル 王城コンクエストム。
麗らかな春の日の深夜。
ようやく執務を終えた ウーノル=ランドルフ=ファンダリアーナ国王が、疲れた身体と精神を癒す為に、『王の間』に帰り着く事が出来た。 忙しいのは、今に始まった事ではないが、ここ最近は常にも増して、多忙を極めている。
戦乱の気配が遠退き、それに代わる『国際政治』の季節がやって来たからであった。 ジュバリアン王国の提案を受け、『大協約連合会合』の準備を進める中、幾多の国々がファンダリア王国と友好的に…… そして、自国に有利に手を結ぼうと、様々な策謀を仕掛けているからでもあった。
国内の事に付いては、絶大な権力を掌握するニトルベイン大公家が、その能力の限りを尽くし、様々にファンダリア王国内に手を伸ばす国外勢力の浸食を防いでいる。
また、そんな国々に対し、予防的、段階的に諜報関係者が暗躍させ、此方の弱みを見せぬ様に動き回る外務の長も、精力的に動き回っていてくれる。
力を背景とする『睨み』を必要とする国々に対しては、ファンダリア王国軍全軍の指揮権を存分に発揮するフルブラント大公が、その職務を忠実に堅実に行い、要らぬ騒動を未然に防いでいた。
そんな王国の行動全てを担保する財務は、若きミストラーベ大公率いる財務の実務集団が堅実な施政を護り、王国民から信頼を得るに至っている。
王弟オンドルフ=ブルアート=ファンダリアーナ殿下は、ウーノル王が第一王子を得た事によって、グランリーブラ大公家の名跡を興し、臣籍降下された。 『不磨の大典』を起草され、今では法務大官として、法による統治に精力的に、その能力を発揮し、国王を良く補佐し、王国の良心とまで謳われるに至る。 その陰には、伴侶たるベラルーシア=フォースト=グランリーブラ大公夫人の絶大な献身があると云われる。
国王であるウーノル王の役割は、そんな五大 大公家の者達を率い、ファンダリア王国を正しく真っ直ぐに誰の誹りも受けない『正道』を選に歩む事。 重圧は、摂政に任ぜられた時から、すでに重くその双肩にかかっている。 それを担う覚悟は付いてはいたが、時に挫けそうな場面にも遭遇した。
―――― しかし、彼はもう孤独な王では無い。
愛する王妃と、何ものにも代えがたい、王子、王女が存在するのだから。 『王の間』に帰り着き、侍従達が下がると、王妃 アンネテーナ=ファル=ミサーナ=ファンダリアーナは女官達を下がらせながら、柔らかく、にこやかに出迎えた。
王の間。
豪華な調度品。 ゆったりとしたソファーに二人で腰を下ろす。 柔らかな香り豊かなフレーバーティーが、ローテーブルの上に用意されていた。 着衣の首元を緩めつつ、深くソファーに身を預けるウーノル王を、微笑みと共に見詰めながら、王妃アンネテーナは言葉を綴る。
「お疲れさまでした、陛下」
「いや、本当にな。 子供たちは?」
「アレクシードは王太后様と、エスカリーゼルは王伯母様の御部屋に」
「暫しの間では有るが、預かって貰えたか」
「はい。 嬉々として…… ですわね。 あの子達も、とても嬉し気でしたわ」
「……そうか。 少々妬けるが、同道は出来ぬしな。 では、明朝の出立は……」
「陛下の執務の目途が付き次第」
「それは、終わった。 エスコ―=トリント練兵場への通達は?」
「既に。 オフレッサー卿が、御自分で手配したと。 なんの問題も無いとの事。 ワイバーンの着陸場所も既に確保してあるとの事でした。 予行演習にもってこいだとも。 本当にあの方は……」
「ふむ…… たしかにな…… 宿将たるべき者は、用心に用心を重ねる者だよ、アンネ。 ベネディクト=ペンスラ連合王国の使節団本体は、まだ……」
「はい、ダクレール辺境伯領、港湾都市ブルーザの沖にて、ご停泊中に御座います。 極秘で、上級王太子妃のみが、此方に。 極秘裏に通達が御座いました。 此度のお運びは、『私的』なモノ故、華美な出迎えは不要との事で……」
「相変わらず、精力的な御方だな」
「まさしく。 特に、此度は…… さもありましょう。 だって、『お茶会』の情報を掴まれたんですもの。 無茶や横車は、いくらでも。 そういう方ですわ。 事、あの子に関しては。 それは幼少の頃から、存じております」
「ハハハ。 そうか。 そうだったな。 ハンナ上級王太子妃殿下は、その身分をかなぐり捨てて、ご来訪になると…… と云う事か」
「御意に。 ……夜も更けてまいりました。 明日は、早朝から移動に御座います。 お休みになっては?」
「アンネ。 色々と雑事を押し付け済まない。 もっと、ゆっくりとした時間を取れれば良いのだが」
「……陛下。 ……いえ、ウー。 わたくしは、十分に幸せですわ。 貴方と時を一緒に歩めるのですもの。 それだけで…… それだけで十分」
柔らかなアンネテーナの表情を見るウーノル。 彼女の両方の手をそっと握る。 絡み合う視線。 やがて、影は一つに重なり、軽く啄むように唇を交わす。 アレだけの才気を見せ、アレだけの覇気を漲らせ、精力的に政務を熟す若き王は……
この部屋の中では……
この部屋の中だけは……
妻を愛してやまない、一人の男であった。
「アンネテーナ。 我が唯一。 愛しているぞ」
「はい」
――― § ――― § ――――
ファンダリア王国 南部辺境域、ダクレール辺境伯 領都グレイスムーアの南部 港湾都市ブルーザ。 その沖合……
商業国家 ベネディクト=ペンスラ連合王国の使節団が座乗する、ワイバーン搭載母艦 龍の巣。 護衛するは、快速大型魔法動力帆船「テーベル」。
ワイバーン搭載母艦 龍の巣の司令官室には、上級王太子ルフーラ=エミル=グランディアント と、その妻 上級王太子妃ハンナ=ダクレール=グランディアントが、ゆったりとした長椅子に座り歓談している。
仲の良い上級王太子夫妻は、ベネディクト=ペンスラ連合王国の王族の中でも、特に人々に愛され敬われている。そんな彼らが、ダクレール辺境伯領の沖合に乗り込んできているのは、大協約連合会合への出席のため。
大人数の官僚たちが参加しているため、御召艦として通常使用する『テーベル』では、人員を収容しきれない為、船室に余裕のあるワイバーン搭載母艦 龍の巣を御召艦としたと、そう公布されている。
その報告は、既にダクレール辺境伯にも通達されており、その証拠に港湾都市ブルーザの沖合に停泊する船の周囲には、ダクレール領の海軍戦力が周辺護衛の任に当たっている。
星が降るような夜空。 晴れ上がり、波静かな夜の調べの中、多少の酒精を入れた二人は、互いに顔を見合わせながら、言葉を交わす。
「拙達の御子達は、おとなしくしているだろうか?」
「リッカ上級王妃様、リット第一王家王妃様のご指導ご鞭撻を真摯に受ける様にと、伝えております故、大丈夫かと」
「…………あの子らだぞ?」
「…………沢山、お土産を持ち帰らねばなりますまいね」
「リッカ上級王妃には、『大協約連合会合』の成功。 リット母上には、ジュバリアン王国との『交易条約』の締結が、一番の土産となろうな。 子供達には…… まぁ、珍しい物をダクレールの義父上にお願いしようか」
「はい、左様に。 『大協約』の大会合に先立ち、様々な方々と交渉に当たりましたので、そちらの方に関しては、大筋では問題は無いかと。 多少、会合で紛糾する事も御座いましょうが、それはルフーラ様の采配にていかようにも?」
「困難な事を、サラッと云う。 憎らしい事を云うのは、この愛らしい口かッ……」
少々拗ねる様に、そして、愛してやまない妃に、自身の愛を捧げる様に、唇を重ねるルフーラ。 それにも理由があった。 自身の唯一たる、ハンナ上級王太子妃が単身、先行して王都ファンダルへと向かうと云うからだった。
「本当に…… 先に、行くのか?」
「はい。 わたくしの都合で、あちらに捻じ込みましたので」
「『お茶会』と、云ったな」
「はい。 是非とも参加したく。 無理を通しました」
「拙には判らぬが、その理由は奈辺に有るのだ?」
「……わたくしの、心に『けじめ』を付けに。 後悔をしない為に。 あの日…… あの方では無く、あなたの名を口にした、わたくしは、まだ、あの方の専属侍女であります故」
「……そうか」
「……はい」
「もう、すでに許されているのでは無いのか? 拙はハンナと行動を別にするのは、少々……」
「申し訳御座いません、あなた。 しかし、必要な事なのです。 これから…… 未来永劫、心を『あなたを愛する事』で満たす為…… あの方の傍から、あなたに本当に嫁す為に必要な事なのです。」
「……そうか。 それならば是非も無し。 飲み込もう。 所で、どうやって無理を押した? 特に、あの外務の羅刹と、宮廷狐を」
「ドワイアル大公閣下に関しては、大森林ジュノーから参られる、ジュバリアン王国の代表様の情報を。 現在の代表様は蛇人族で、一見魔物と間違われますが、獣人の種族が一つです。 元のジュバリアン王国十二王族の一つでもあり、災厄の間は深く地中に難を逃れておられたとか。 細々とした情報は、公的なモノ、個人的なモノを含め、閣下に御渡ししております」
「蛇人族……か。 拙も気を引き締めねばな」
「穏やかで、御優しい方ですわよ。 エスカリーナ姫様とも深く交流がおありになるそうです」
「う、うむ。 そうか。 お逢いする事を楽しみに…… せねばな」
「はい。 それと、宰相様ですが、此方は『搦手』を使用しました」
「搦手?」
「ええ。 ノリステン公爵様は、それはそれは手強い相手。 内務、財務に関しては、一筋縄ではいかない御方。 しかしですね、あなた。 彼には一つ心配事が有るのです」
「なんだろうか?」
「ふふふ…… わたくし達ですのよ」
「拙等? あの方にとって、拙など脅威になるような程でも無いと思うのだが……」
「わたくし達では無く、ベネディクト=ペンスラ連合王国と云う巨大商業国家にですわ。 世界は戦乱の季節を脱しました。 人々は安寧に平和に暮らし始めたのです。 その日の生活に汲々とする事なく、思う存分自由に稼ぎ、各人の其々の『生』を謳歌し始めたのです。 そして、様々な文化が花開き始めました。 金穀を以て、遠く離れた異国の産物も手に入れる事が出来ましょう。 歌謡演劇も又、吟遊詩人だけの物では無くなります。 美しい反物、美味しい食事。 人々は、命の危険に怯えることなく、生きる事が出来るのです。 あなた…… そうなれば、人は何を思うのでしょう」
「挙って、新しい物を手に入れようとするかな? そうか…… 商いに関しては、我が国は『一日の長』があるか」
「はい。 ファンダリア王国は、まだまだ軍事が優先する国家。 よって、物流や交易に不安な点も依然多く、その点を宰相閣下は見通されて居られるのです」
「それで?」
「ファンダリアという国は、経済を回す多くの役割を有る準男爵家に依存していると、そう云えます。 我らがその準男爵家を喰わないかと、ご心配なのです。 安心の材料に、彼の準男爵家との友好を、さらに深めました。 ダクレール領のイグバール商会との繋がりを強くしたのもその準備に御座いましてよ。 さらに、準男爵様の頭痛の種を一つ、取り去って上げましたの」
「ほう、何だろうか? 拙は知らぬぞ?」
「情報は生き物です。 常に更新せねば、商機を失いますので。 ……ファンダリア王国、王都聖堂教会に於いて、一人の若き戦闘神官が、その神官の籍を抜き、精霊の御意志の番人の一員となられました。 彼は、居留地の森の『番人の拠点』に有り、番人様方だけでは無く、獣人族の方々をも癒して居られるようです」
「ふむ…… 確か、『森の聖者』ユーリ殿であったか。 その話は知っている。 しかし、それと、どう繋がる?」
「ええ、準男爵家…… グランクラブ卿の愛娘フルーリー様が、失踪されたのは?」
「それも、知っている。 グランクラブ卿が、相当に慌てていると報告にあった。 ……ハンナ、突き止めたのか?」
「はいッ♪ 我らが仲間の獣人族の商い人が、『番人の拠点』にて、フルーリー商会の看板を確認いたしました。 ……見ている方が恥ずかしくなるくらい、初々しい若夫婦だそうですよ」
「…………グランクラブ卿の渋い顔が思い浮かぶ」
「御令嬢は思い切った事をなさいましたが、グランクラブ卿も若い頃は相当危ない橋も渡られたとか。 色々と暗躍されておられましたからね。 ……それで、卿に伝えましたの」
「何を?」
「『居留地の森』の獣人商人は、フルーリー嬢をとても好ましく思っております と。 ベネディクト=ペンスラ連合王国のキャラバンも、商いに御協力いたしますわ と。 なにより、彼の地に於いて、『森の賢者』の慈しみは、獣人族の方々にとっては、なくては成らぬ程の物と成っていると。 安全で、心豊かに、商いに邁進するでしょう と」
「…………そうか。 グランクラブ卿の頭痛の種が消えそうな話であるな、それは。 それで、卿は?」
「はい、わたくしの言葉に耳を傾けて下さり、フルーリー嬢の安全を確信して下さりました。 そして、わたくしに問われたのです。 『対価は』と」
「そこで、すかさず…… か。 ハンナらしいな」
「重鎮お二人の御推薦を頂き、『お茶会』に参加する事が出来ましたの。 ……少しは、やるようになったでしょ、あなた」
「確かにな。 あぁ、まさしく、拙の妃だ。 喜ばしい事だ。 この小憎らしい事を云うのは、この口かッ!」
ルフーラ上級王太子はもう耐えられぬと、ハンナ妃を横抱きに抱え、その愛らしい口元に幾度も、幾度も唇を落とす。 ハンナ妃も抗うことなく、ルフーラ上級王太子に応える様にその背に手をしっかりと回し、自身の愛情の在りかを伝える。
「愛しいあなた…… 愛しております。 で、でも、わたくしは、夜明け前には出ます…… あぁ、あなた…… わたくしの最後の我が儘です。 お許しください」
――― § ―――― § ――――
ファンダリア王国 王都ファンダル。 王城コンクエストム城下の貴族街。 ニトルベイン大公邸からは距離の在る、貴族街の端にある、重厚でいて洒落た佇まいの比較的小ぶりな御邸。
ニトルベイン大公家の小さなタウンハウスとであったと云う。 今は、ノリステン宮廷伯爵家の御屋敷。 そこに住まうは、宰相家ノリステン公爵が三男であり、宰相府 情報局 情報分析室に所属する……
――― エドワルド=バウム=ノリステン宮廷伯であった。
小さいと云う、言葉が当てはまるのは、ニトルベイン大公家の別邸であったが故。 貴族の感覚でも十分な広さと、なにより非常に硬い護りの【結界】が施されているからであった。
情報分析室に所属し、筆頭情報分析官であるクラークス伯爵の指導の下、その道に精通する様になったエドワルドが心を休める場所としては、申し分の無い御邸でもある。 元の主人であった、彼の妻女も彼を受け入れる事に、なんの戸惑いも無かったと云う。
ニトルベイン大公家の者達はその事を驚きを以て受け入れたが、それもその筈。 元の主人、現在はノリステン宮廷伯夫人には別の顔が有るからであった。
王宮魔道院 特務局 第一位魔術士。
王太后フローラル殿下の護衛魔術士。
二つの肩書は、ファンダリア王国の中でも、燦然と輝きウーノル王にとっても『重要な意味』を持つ役職でもあった。 また、ノリステン宮廷伯婦人には、二つ名を持つ。
―――― ニトルベインの魔女。
公然とは語られぬ、その名を口にする者は、相応の覚悟を持たねば、明日の命すら保証されない。 敢えて、その名を口にする者は…… 様々な意味において、彼女と敵対する者達であり、彼女が泳がせている者達でもあると…… そう、彼女の夫は鬱っそりと、彼の上司に告げた事があった。
御邸の奥。 夫婦の居室。
そこで語られるは、王国の闇の中に有るモノ。 ウーノル国王に於いても、全てを知る事は無いと云われる、王国の暗部。 しかし、王国民に安寧を齎せる為には必要な…… 暗渠でもあり、敢えてその闇の中にその身を置く覚悟を決めた者達でもあった。
暖かく、柔らかな春の夜。 今日の夫婦の居室は、いつもとは違った。 二人の間には、馥郁たる香りを漂わせる、フレーバーティーが供せられ、彼ら以外の使用人たちは既に払われている。 二人だけの時間でもあった。
「ティカ、ノーラは大公翁に預けたのか?」
「ええ、あなた。 ニトルベイン大公翁が、まるで、何の力も持たぬ御爺様の様に、あの怖い顔に満面の笑みを載せ、お引き受けして下さいましたわ」
「それは…… また……」
「既に隠居願いを提出され、大公位も御継嗣様に御譲りに成られました。 一介の爺でしかないのだと、とう申されましたのよ、あの方が」
「まさか……だったね。 あの時は」
「ええ。 でも、その御気持ちは判りますの。 長きに渡り、その双肩に光も闇も背負われてきたのです。 そして、十分にその役割を担える後継も育てられました。 あとは、真に心を捧げた、獅子王陛下へのご報告だけが、大公翁の御宸襟にある重要な事柄なのでしょう。 なにかの折に、お聞きしました。 もういいのですかと」
「それで?」
「『後は若い者たちが紡ぐべきなのだ』、と。 『光と闇を見続けて、その結論に至ったのだ』、と。 今は曾孫をどこまでも甘やかす、爺でいたいのだと。 あの狸がですわよ。 本当に驚きましたわ」
「……ノーラも、大公翁には懐いている。 君の資質を大いに受け継いでいるからか、それとも……」
「市井の爺の様に、手放しで幼子を…… 自身の血脈を受け継いだ、可愛い曾孫娘を、ただただ慈しみたいと、そう仰っておられました。 ニトルベインの家の者とは思えぬ程、柔らかな笑みを頬に乗せて。 あのような大公翁を見た事は御座いませんでしたので、少々……」
「それが…… 多分…… ブロンクス=グラリオン=ニトルベイン と、云う方の本質なのかもしれないね」
「ええ、同意いたしますわ。 何処か…… 遠くに…… 胸の奥深くに…… 封じていた感情を取り戻されたのかも。 獅子王陛下にお逢いに成る前の、柔らかな御心なのかも、知れませんわね」
「あぁ…… 彼の御仁も、『人』であったのだと、そう思う」
「ええ……」
二人は、カップを持ちあげ、口に含む。 柔らかな視線を交わし、微笑む。 この静かな時間を愛おしむ様に、噛みしめる様に。 カップを下ろし、おもむろにエドワルドは言葉を紡ぐ。
「……私も、その『お茶会』に、本当に出席しても、よいのだろうか?」
「ええ、そういうお約束ですもの。 互いのパートナーを伴いと。 貴方は、わたくしの伴侶では御座いませんの?」
「いや、その…… なんだ…… 御同席するのが、余りにも……」
「陛下は貴方を頼りにされておられますし、義妹は気にしない…… と云うよりも、興味津々なのです。 わたくしが、伴侶と定めた方に」
「えっ? それは、どういう意味だい?」
「『ニトルベインの魔女』の伴侶ですもの。 わたくしが心を預ける方ですもの。 義妹も心配しておりますのよ、多分」
「それは…… 『見定められる立場』と云う事かい?」
「オホホホ…… 嫌ですわよ、そんな。 違いますわ。 きっと、お願いされるのでは?」
「何をかな?」
「わたくしが、心を失わぬ様に…… 一心に愛を捧げて下さいと」
「そんな事は、云うまでも無いのに……」
「そうね、あなたは仰いましたものね。 わたくしが居なければ、この世界すら必要無いのだと」
「それは…… ちょっと、恥ずかしいな」
「誇られませ。 『ニトルベインの魔女』の心を溶かした『お言葉』なのですから」
「……あぁ、そうだね。 誇りにしよう。 ノーラがこの世に生を受けた、『言葉』でもあるしね」
「ええ、あなた。 明日は、早くに出る事になりましょう。 エスコー=トリント練兵場へ向かわねばなりません。 少々距離が御座いますし、あの子が来る前に、出迎えの準備もせねばなりませんもの」
「第四軍 第一及び、第四師団がその任に当たると聞くよ。 オフレッサー侯爵閣下が、気合を入れておられたので、警備については問題は無いと思う。 まして、陛下が出向かれるのだからね」
「そうね…… その辺りは心配していないの、正直なところ。 わたくしが心配しているのは、あの子が何をやらかすかよ」
「……まぁ、そうだね。 練兵場の人払いを願われていたからね。 大きな魔物か何かで、お運びに成られるのかな?」
「色々と有るのよ、きっと。 王都から離れたエスコー=トリント練兵場を指定するのには理由が有る筈。 思い浮かぶのは、王都の結界に歪みを齎さないようにと云う配慮かも知れない。 つまりは、何らかの大規模魔法を使用する可能性も有るわ。 それが、何かは判らないけれど」
「そうか…… あの方は、稀代の魔術師でもあらせられるからね」
「あの子は魔術師というより…… 魔導師と云った方が適切かもしれないわ。 もう、この世界の理で測る事はしないって、そう決めているのですもの。 異界の知恵を知識を存分に習得している彼女は、この世界の魔術師の範疇では捉えられないわ。 異界の魔人が…… あの知恵者が、彼女の師でもあるんですものね」
「そうか…… いよいよもって、私の矮小さを見せつけられている気分になるよ」
「大丈夫。 大丈夫よ、あなた。 だって、彼女は、エスカリーナは、どこまで行っても、エスカリーナでしかないんだもの。 きっと、御顔を見れば、あなたのそんな気分も吹き飛んでしまうわ。 ええ、きっとね」
二人の間に流れる、静かな時間。 『お茶会』に想いを馳せ、激動の時代に想いを馳せ、静かに、静かに言葉がロマンスティカ=エラード=ノリステン宮廷伯夫人の口から漏れる。
「エスカリーナ…… 貴女が生まれた奇跡に、精霊様方に、感謝を捧げるわ」
36
お気に入りに追加
6,841
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。