635 / 714
薬師と聖職者 精霊の至る場所
リーナを取り巻く因業
しおりを挟むクレアさんとスフェラさんとのお話合いで、少し事情が変わったの。
この地の小聖堂に於いて、聖壇を置かせてもらう事は ” 諦めた ” わ。 どうも、神官様達の権能が強く、さらに、「聖堂教会」の威信を何よりも大切にされている…… という事情が理解できたもの。
――― 精霊様への、祈りを真に理解されていないんだもの
真摯な祈りは、聖職者の領分で在り、市井の者達の祈りは取るに足りないものと、認識されているのよ。 更に言えば、この地を納める北方の貴族の方々も、それに同意されているわ。 聖堂教会に寄進をする事や、無償奉仕が絶えず行われているの。
いい事よ…… ” 本来の意味 ” でなら。
聖堂教会に差し出される寄進の金穀は民から絞り上げたモノ。 無償奉仕を強要されるのも、市井の民。 まるで金穀の高が、祈りの強さに繋がると云うかの様に……
この地では、” 貧者の一灯 ” と云う概念は存在しない。 貧しき者の祈りは、届かず、聖職者の祈りのみ精霊様に届くと…… そんな事がまかり通っているの。 あり得ない。 だから、何時まで経ってもこの地の御加護は薄いままなのよッ!
「街の治癒院に聖壇を置きます。 聖壇を魔力線で繋ぎ、真摯な祈りを以て、精霊様のお慈悲に縋る人々の祈りを力に変えます。 この地の聖堂教会も ” 真摯な祈り ” を捧げられているのでしょうが、それだけでは不十分なのです。 民に、祈りを広げましょう。 皆の心に祈りが宿れば、純粋な魔力を大量に得られるでしょ? ナジールさんにご連絡を。 結節点は、この街の北側の外れにある古い祠とします。 シルフィー、覚えていて? 街に入る前に、ちらりと見た 祠 なんだけれど?」
「はい、リーナ様。 いずれの精霊様の 祠 か判りませんが…… 調べておきましょう」
「お願いするわ。 ……そうとなれば、街の薬師処に赴かねば。 明日のお薬にも困っていると、そう聞き及び魔ます。 お薬を大量に供給しておかねばなりません。 ……パーレさん、いける?」
「既に、荷馬車を一台、エリオット小聖堂より動かしました。 都合、二台の馬車は準備できております。 リーナ様の馬車も、荷馬車も、すでに此方にあります。 何時でも出発できますし、ご要望が有れば、荷馬車の荷を解くことも滞りなく。 リーナ様の御意思のままに」
「ありがとう。 まだ、この街からは出ませんよ、パーレさん。 やるべき事は山ほどあるのですから。 だから、始めましょう。 この地に祈りによって、精霊様の御加護を勧請する為に。 この地の民に精霊様の祝福と慈愛をもたらす為に。 クレアさん。 スフェラさん。 あなた方は、今まで通り、情報の収集をお願いします。 出来れば、貴族の動向や、聖堂教会の意向等も、調査して可能でしょうか? 宜しいですか?」
「「 はい、勿論で御座います! 」」
そうと決まれば、グズグズなんてしてられないわ。 時間は有限なの。 この瞬間にも、病に苦しむ人が大勢いるし、手遅れに成るかもしれない。 準備は整いつつあるもの。 二台の馬車には、沢山の魔法草も積み込んであるんだし、お薬の錬成方法も私は知っている。
だから、行動をしなくてはならないの。
^^^^^
私は街にある薬師処を廻り、本当に必要とされている医薬品の数々を聞き取っていく。 流行り病も、この地では起こりかねないし、土着の風土病だって有るんですもの。 万病に効く薬なんて有りはしない。 だから、予測される症状に適したお薬の錬成を始めたの。
熱冷まし、胃薬、腹痛薬、傷薬…… 風土病に対しても、積み込んであった、この地方では希少な魔法草を用いて、薬効の高い特効薬の錬成も済ませたわ。 何にも増して、体力回復ポーションの大量錬成は必要な事よ。 ほとんどの病は、患者さんの体力が減少して、病魔に勝てずに容体を悪化させるんだもの。
―――― いうなれば、軍の補給線と同じ。
頑健な身体でも、体力を失うと戦う力が失われてしまうわ。 常に体力温存に力を割くべきなのよ。 清潔なベット。 滋養ある食べ物。 清冽な水。 『公衆衛生』の概念を持って貰わねば、良く成る者も悪化するわ。 だからね、用意できる物は何でもするの。
簡易お風呂も、幾つも設置したわ。 そう、あの、「核」抜き青スライムを基本としたお風呂よ。 あれ、とっても使い勝手がいいのよ。 治療院に置いて、患者さんの清潔を保つようにお願いしたわ。 ついでに洗濯用にも同じ物を設置したのよ。
使い方次第なのよね、結局。 洗濯するにしても、放り込んでグルグル回すだけで済むんだもの。 簡単で、綺麗になるわ。 余分なモノは、青スライムが吸収してくれるんですもの。 肝心の魔力は、聖壇からちょっぴり拝借しているの。 皆が祈りさえしてくれれば、ずっとこの先も使えるしね。
勿論、「身体大変容」に関しても、聖壇に符呪した【解呪】と、【浄化】が、良い仕事をしてくれるわ。 北域の其処此処の空間に漂う、薄っすらとした「異界の魔力」も吸い込んで浄化出来る様に、イグバール様の魔法術式も組み込んである。
だから、聖壇は金色の光の粒を纏い、漂い、昇華しているのよ。
聖壇の設置後、私が起動をした後は、市井の人々の祈りだけが、その魔力の源になるんですもの。 良くなった人、苦しみから逃れられた人、家族を失わずに済んだ人。 精霊様の慈しみに救われた方々が、口々に感謝の祈りを捧げられるわ。
とても……
そう、とても麗しい光景なの。 真摯な祈りが集まると、精霊様もお慶びに成る。 そして、加護を分けて下さるの。 ……願わくば、この光景が普遍の物となり、北域に精霊様の御加護が行き渡りますように。
この街、バルバロイは、北部辺境域中部領域の中でも、屈指の大きさを誇る街なの。 その規模は、北部辺境の幾多ある御領の領都にも引けを取らないわ。 中核となるのは、聖堂教会のエリオット小聖堂。 小聖堂とは名ばかりの、大きな大きな聖堂よ。
このバルバロイの街を内包する領地の御領主様も、聖堂教会の威光は無視できないし、するつもりないわ。 巡礼の方々も数多く、さらに、聖堂門前の街はそんな方々相手の商売で成り立っても居るんだもの、その税収たるや他領の領主様方が羨むほど。
だからと云っては何なんだけど、この地の聖堂教会…… 引いては聖職者様方の言葉はとても強い。 精霊様に帰依されているとはいえ、” 人族 ” の方々。 そこには様々な思惑も絡むのよ。 いくら、北方ヴォラス大聖堂、北部大管区 教区長 ヴァンケリオ=タイラル=シワーヴェ大司教の ” 権威 ” が有ろうとも、そう易々とは彼の威光を反映できるわけでもなく……
――― つまり、私の為すべきことを邪魔する方々も居るって事。
バルバロイの街。 有力な商人の方々は、皆さん聖職者様へ多額の寄進を差し出し、その影響力を維持しているの。 そこに、ほぼ無償でお薬を配り歩く私が突然出てきたんだから、彼らにとっては目の上の ” タンコブ ” よね。
商人の方々が抱え持っていた、希少で高価だった幾多の薬品が、突然潤沢に流通して値段も街の子供たちが買えるくらいにしか設定していないから、そりゃ慌てるわよね。 薬師所や治癒院で、それまで断れれていた、中位以下の民が、無制限に受け入れられ、惜しげもなく医薬品を投与されていくんだもの。
まして、聖職者さん達しか癒せないと云われていた「奇病」が、街の治癒院で快癒し始めたんだものね。
忙しく飛び回る、私を捕まえようと、いろんな手を使って商人の方々が、動き始めているのよ。
囲い込んで、彼らの利益の為に薬を錬成させ、死ぬまで働かせようとか、飼い殺しをするために、どこかに軟禁しようとか……
わたし、ちょっと狙われているのかもしれない……
10
お気に入りに追加
6,836
あなたにおすすめの小説
天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される
雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。
スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。
※誤字報告、感想などありがとうございます!
書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました!
電子書籍も出ました。
文庫版が2024年7月5日に発売されました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。