その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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薬師と聖職者 精霊の至る場所

リーナを取り巻く因業

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 クレアさんとスフェラさんとのお話合いで、少し事情が変わったの。



 この地の小聖堂に於いて、聖壇を置かせてもらう事は ” 諦めた ” わ。 どうも、神官様達の権能が強く、さらに、「聖堂教会」の威信を何よりも大切にされている…… という事情が理解できたもの。



 ――― 精霊様への、祈りを真に理解されていないんだもの



 真摯な祈りは、聖職者の領分で在り、市井の者達の祈りは取るに足りないものと、認識されているのよ。 更に言えば、この地を納める北方の貴族の方々も、それに同意されているわ。 聖堂教会に寄進をする事や、無償奉仕が絶えず行われているの。



 いい事よ…… ”  ” でなら。



 聖堂教会に差し出される寄進の金穀は民から絞り上げたモノ。 無償奉仕を強要されるのも、市井の民。 まるで金穀の高が、祈りの強さに繋がると云うかの様に……

 この地では、” 貧者の一灯 ” と云う概念は存在しない。 貧しき者の祈りは、届かず、聖職者の祈りのみ精霊様に届くと…… そんな事がまかり通っているの。 あり得ない。 だから、何時まで経ってもこの地の御加護は薄いままなのよッ!




「街の治癒院に聖壇を置きます。 聖壇を魔力線で繋ぎ、真摯な祈りを以て、精霊様のお慈悲に縋る人々の祈りを力に変えます。 この地の聖堂教会も ” 真摯な祈り ” を捧げられているのでしょうが、それだけでは不十分なのです。 民に、祈りを広げましょう。 皆の心に祈りが宿れば、純粋な魔力を大量に得られるでしょ? ナジールさんにご連絡を。 結節点は、この街の北側の外れにある古い祠とします。 シルフィー、覚えていて? 街に入る前に、ちらりと見た 祠 なんだけれど?」

「はい、リーナ様。 いずれの精霊様の 祠 か判りませんが…… 調べておきましょう」

「お願いするわ。 ……そうとなれば、街の薬師処に赴かねば。 明日のお薬にも困っていると、そう聞き及び魔ます。 お薬を大量に供給しておかねばなりません。 ……パーレさん、いける?」

「既に、荷馬車を一台、エリオット小聖堂より動かしました。 都合、二台の馬車は準備できております。 リーナ様の馬車キャリッジも、荷馬車も、すでに此方にあります。 何時でも出発できますし、ご要望が有れば、荷馬車の荷を解くことも滞りなく。 リーナ様の御意思のままに」

「ありがとう。 まだ、この街からは出ませんよ、パーレさん。 やるべき事は山ほどあるのですから。 だから、始めましょう。 この地に祈りによって、精霊様の御加護を勧請する為に。 この地の民に精霊様の祝福と慈愛をもたらす為に。 クレアさん。 スフェラさん。 あなた方は、今まで通り、情報の収集をお願いします。 出来れば、貴族の動向や、聖堂教会の意向等も、調査して可能でしょうか? 宜しいですか?」

「「 はい、勿論で御座います! 」」




 そうと決まれば、グズグズなんてしてられないわ。 時間は有限なの。 この瞬間にも、病に苦しむ人が大勢いるし、手遅れに成るかもしれない。 準備は整いつつあるもの。 二台の馬車には、沢山の魔法草も積み込んであるんだし、お薬の錬成方法も私は知っている。

 だから、行動をしなくてはならないの。




 ^^^^^



 私は街にある薬師処を廻り、本当に必要とされている医薬品の数々を聞き取っていく。 流行り病も、この地では起こりかねないし、土着の風土病だって有るんですもの。 万病に効く薬なんて有りはしない。 だから、予測される症状に適したお薬の錬成を始めたの。

 熱冷まし、胃薬、腹痛薬、傷薬…… 風土病に対しても、積み込んであった、この地方では希少な魔法草を用いて、薬効の高い特効薬の錬成も済ませたわ。 何にも増して、体力回復ポーションの大量錬成は必要な事よ。 ほとんどの病は、患者さんの体力が減少して、病魔に勝てずに容体を悪化させるんだもの。



 ―――― いうなれば、軍の補給線と同じ。



 頑健な身体でも、体力を失うと戦う力が失われてしまうわ。 常に体力温存に力を割くべきなのよ。 清潔なベット。 滋養ある食べ物。 清冽な水。 『公衆衛生』の概念を持って貰わねば、良く成る者も悪化するわ。 だからね、用意できる物は何でもするの。

 簡易お風呂も、幾つも設置したわ。 そう、あの、「核」抜き青スライムを基本としたお風呂よ。 あれ、とっても使い勝手がいいのよ。 治療院に置いて、患者さんの清潔を保つようにお願いしたわ。 ついでに洗濯用にも同じ物を設置したのよ。

 使い方次第なのよね、結局。 洗濯するにしても、放り込んでグルグル回すだけで済むんだもの。 簡単で、綺麗になるわ。 余分なモノは、青スライムが吸収してくれるんですもの。 肝心の魔力は、聖壇からちょっぴり拝借しているの。 皆が祈りさえしてくれれば、ずっとこの先も使えるしね。

 勿論、「身体大変容メタモルフォーゼ」に関しても、聖壇に符呪した【解呪デカース】と、【浄化ピュワリファイ】が、良い仕事をしてくれるわ。 北域の其処此処の空間に漂う、薄っすらとした「異界の魔力」も吸い込んで浄化出来る様に、イグバール様の魔法術式も組み込んである。 

 だから、聖壇は金色の光の粒を纏い、漂い、昇華しているのよ。 

 聖壇の設置後、私が起動をした後は、市井の人々の祈りだけが、その魔力の源になるんですもの。 良くなった人、苦しみから逃れられた人、家族を失わずに済んだ人。 精霊様の慈しみに救われた方々が、口々に感謝の祈りを捧げられるわ。


   とても……


 そう、とても麗しい光景なの。 真摯な祈りが集まると、精霊様もお慶びに成る。 そして、加護を分けて下さるの。 ……願わくば、この光景が普遍の物となり、北域に精霊様の御加護が行き渡りますように。


 この街、バルバロイは、北部辺境域中部領域の中でも、屈指の大きさを誇る街なの。 その規模は、北部辺境の幾多ある御領の領都にも引けを取らないわ。 中核となるのは、聖堂教会のエリオット小聖堂。 小聖堂とは名ばかりの、大きな大きな聖堂よ。

 このバルバロイの街を内包する領地の御領主様も、聖堂教会の威光は無視できないし、するつもりないわ。 巡礼の方々も数多く、さらに、聖堂門前の街はそんな方々相手の商売で成り立っても居るんだもの、その税収たるや他領の領主様方が羨むほど。

 だからと云っては何なんだけど、この地の聖堂教会…… 引いては聖職者様方の言葉はとても強い。 精霊様に帰依されているとはいえ、” 人族 ” の方々。 そこには様々な思惑も絡むのよ。 いくら、北方ヴォラス大聖堂、北部大管区 教区長 ヴァンケリオ=タイラル=シワーヴェ大司教の ” 権威 ” が有ろうとも、そう易々とは彼の威光を反映できるわけでもなく……



 ――― つまり、私の為すべきことを邪魔する方々も居るって事。



 バルバロイの街。 有力な商人の方々は、皆さん聖職者様へ多額の寄進を差し出し、その影響力を維持しているの。 そこに、ほぼ無償でお薬を配り歩く私が突然出てきたんだから、彼らにとっては目の上の ” タンコブ ” よね。

 商人の方々が抱え持っていた、希少で高価だった幾多の薬品が、突然潤沢に流通して値段も街の子供たちが買えるくらいにしか設定していないから、そりゃ慌てるわよね。 薬師所や治癒院で、それまで断れれていた、中位以下の民が、無制限に受け入れられ、惜しげもなく医薬品を投与されていくんだもの。

 まして、聖職者さん達しか癒せないと云われていた「奇病」が、街の治癒院で快癒し始めたんだものね。



 忙しく飛び回る、私を捕まえようと、いろんな手を使って商人の方々が、動き始めているのよ。


 囲い込んで、彼らの利益の為に薬を錬成させ、死ぬまで働かせようとか、飼い殺しをするために、どこかに軟禁しようとか……






 わたし、ちょっと狙われているのかもしれない……




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