その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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薬師と聖職者 精霊の至る場所

疑念の正体

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 バルバロイの街に到着したのは、次の日の夕刻。



 珍しく、幾日も続く晴天で、夕焼けがとても美しい時間に到着できたわ。 目指すは、エリオット小聖堂。 北部辺境域の小聖堂の中でも、大きな小聖堂なの。 シルフィー情報でね、そう教えてもらっていたわ。

 シルフィーのお話通り、その小聖堂は大きかったの。 大聖堂程の大きさではないんだけど、きちんとした伽藍をもった、正規の聖堂だったわ。 敷地の中には修道院、孤児院、治癒院、薬師所なんかを併設している、本格的なモノ。

 そして、このエリオット小聖堂の最高位の方は、エルグリッド=ノーマン司教。 北部辺境域では、ヴォラス大聖堂におわします、北部大管区 教区長 ヴァンケリオ=タイラル=シワーヴェ大司教様に次ぐ高位の神官様なのよ。 お話をシルフィーに聞いた時には、驚いたわ。

 そんな高位の方に、薬師錬金術師リーナの生存が知られてしまったら…… 王都の方々にも『お話』が、通ってしまうかもしれない。 ちょっと怖かったの。




「リーナ様。 北部辺境域に於いて、リーナ様の行く道を遮る聖堂教会の者はおりますまい。 貴女が、放浪の薬師として成した事は、深く神官様達に刻まれております。 そして、シワーヴェ大司教様に於かれても、リーナ様の行動になんら掣肘を加える方では御座いません」

「どうして? あの方も又、王都聖堂教会には……」

「ゆえにです。 もし、王都にリーナ様の所在が知られ、その動向に対し何らかの制約を加えられるならば、北部大管区の心ある神官様方は、それこそ王都聖堂教会に対し反旗を振るわれかねませんもの」

「???」

「長く捨て置かれたと、そう感じておられるのですよ、北部辺境域の神官様方は。 まともな神官も寄越さず、この地の貴族方々と、何とか精霊様の御加護を仰いでいたと云うのに、国王陛下の北伐の宣下で更に追い詰めてくる。 そんな国王陛下に何も言えなかった本領聖堂教会に対して、思う所も有るのでしょう。 シワーヴェ大司教様が、その憤りや鬱憤を引き受けておいでです。 やっと…… やっと、差し伸べられた、精霊様の御手先。 そんな貴女をこの地から引き離すような真似は決して為されないでしょう?」

「…………でも、私は北の荒野に向かうのよ? なのに?」

「ええ、それは、彼らも知り得ぬ事。 しかし、リーナ様はその前に、この病んだ北部の大地を、癒しておいでです。 聖堂教会から派遣されてきた、神官や聖堂騎士達が為し得なかったことを、為しているのです。 さらに、多くの傷つき、病んだ者達へ、医薬品を下げ渡されている。 薬師の誓いを真摯に守っておいでなのです。 北部辺境域に入り、リンダンのナーリン小聖堂、グラーフの街の小聖堂、クグロッティの街の小聖堂、アネバルの街の小聖堂
 に於いて、治癒所で、薬師所で、そして、小聖堂会堂で、何人の方々に未来をお渡しに成られました? プーイ達が、どれ程の地域に魔力線を敷設しましたか? この地の神官様方は、その事を、お分かりなのでしょう」

「つまり……」

「リーナ様の、この地にての動向は、全て神官様達の胸に収められております。 本領には、未だ詳細な情報は伝えられた形跡は御座いません」

「そう……なの」

「はい。 ご安心を。 何としても、我らがリーナ様をお守りし、リーナ様が為される事を補佐して参ります」

「お礼を言うわ。 有難う、シルフィー。 ……聞いているのでしょ、ラムソンさん。 ラムソンさんも、本当にありがとう。 心強くあります」





 ふぅぅぅ って、息が漏れるの。 そうね。 その通りかもしれない。 荒れた北の地に於いて、これだけ派手に動いているのにも関わらず、王都からのご連絡が無いのも、シルフィーが云った通りかもしれない。 私から、ウーノル王太子にご連絡をするって云う約束は、今、一時保留しているんだもの。


 だって、アレは、” 人族 ” の薬師錬金術師リーナが結んだ約束。


 「原初の人」プリメディアンとなってしまった私。 この姿で、ウーノル王太子を含め、王都の皆さんに合わせる顔を持っていないんだもの。 今の私の立場は、かなり不安定でもあるのよ。 第四〇〇特務隊の指揮官職だって、私が私で無いのなら、手放すべきなんだもの。

 でも、みんな傍に居てくれている。 指揮官だからとか、義勇兵だから、とか、そう云った形式に囚われていないって…… ラムソンさんが言ってくれたのよ。 

 夕闇が迫る頃、エリオット小聖堂に到着したわ。 きっと、各地の神官様方からご連絡が入っていたのか、誰も誰何することも無く、馬車は小聖堂の垣根の内側に迎え入れたのよ。 魔法灯火が小聖堂を照らし出していてね…… とても美しかったわ。

 小聖堂の厩に馬車は誘導されて、止まったの。 馬丁さんも、気さくな方で嬉しかったわ。 こうやって、気軽にお話できる人たちは、とても大切だと思うの。 身構えることも無く、感情のままにお話が出来るのだから、とても、『楽』なのよ。




「寒さもようやく落ち着きましたね。 馬さん達の調子は如何?」

「はいぃ。 この子達も寒さには弱いんで、冬を大過なく越せた事に精霊様に感謝申し上げる毎日でごぜいます」

「そうですね。 昨今の厳しい北の事情では、馬さん達のお世話も大変だったでしょう?」

「勿論、それはありますなぁ。 けんど、司教様が皆を助けて下さるんで、何とかなってますだよ」

「司祭様には感謝を捧げないといけませんね。 馬さん達の事、宜しくお願いします」

「お預かりします。 力強い、良い馬だ。 よしよし。 では!」




 馬を曳かれて厩に向かわれる。 きっと、大切にしてくださるって、そう感じられたわ。 ペガサスって言わなくっても…… 大丈夫よね? まぁ、見た目は普通の馬さんなんだし…… 背には、グリーニーもエイローも乗っているし…… ね。

 私たち四人は、馬車が置かれた倉庫に居たの。 そう、ちょっと気になることが有ったから。 本来なら、直ぐにエルグリッド=ノーマン司教にお会いして、滞在の御許可を戴かないといけないんだけれど、その前に確かめたいことが有るのよ。

 持ってきた、聖堂騎士の装備と装具。 どうも、嫌な予感がするの。 【詳細鑑定】で見ても、黒く「異界の魔力」がこびり付いて、これを浄化しないと、このまま持ち運ぶ事も、ノーマン司祭様にお渡しすることも不味いと思うから……ね。

 そして、引っ掛かっているのは、辛うじて言葉を発することが出来た聖堂騎士の最後の言葉。 ” 何を飲ませた ” って、そう口にした事。 飲ませたって事は、口にするモノだから、装備は一旦別にして、装具…… それも、雑嚢やポーチ類を探るの。 



 装備に関しては、別途用意した、【清浄浄化メンダリクピュリファリオン】の魔法陣の上に置くわ。 早々に浄化してしまわないと、周りに汚染が広がる可能性だってあるんですもの。 



 ごそごそと、十六人分の装具を点検するの。 水袋とか、携帯食とかは、関係なさそう。 でね、漏れ出す「異界の魔力」が強かったのが、薬品袋。 傷薬とか、体力回復薬とか、ポーション類が納らている袋なのよ。 軍でも標準装備として携帯しているわ。

 でもね、やっぱり聖堂騎士の装備は、軍の装備とは比べ物に成らないくらい豪華なのよ。

 入っている医薬品類なんか、ちょっとお目に掛かれないくらい、高価なモノばかりよ? 高級高位の体力回復ポーションが出てきた時なんか、” あぁ、やっぱりね ” って、感想しか出てこなかったもの。 探っていくと、特に「異界の魔力」を強く感じるポーション瓶が一本出てきたの。

 途轍もなく危ないわ。 しっかりと紡ぎだした【封印】を、その瓶に施すの。 漏れ出していた「異界の魔力」が薄くなった。 やはりこれが元凶の様ね。




「シルフィー、残りのモノは全てあちらの魔法陣の上に」

「御意に」

「ラムソンさん。 馬車キャリッジの荷台を開けるわ。 それと、これを運んでいた荷馬車の浄化も。 先に馬車の浄化を致します」

「了解した」




 流石にこんな ” 汚れたモノ ” を運んでいた荷馬車は、ちゃんと浄化しておかないと、荷物が汚染されかねないものね。 一応はそれなりの封印を施しては居たけれど、念には念を入れないと!



 荷馬車の荷台の床に【清浄浄化メンダリクピュリファリオン】を打ち込んで、起動。



 一部漏れていた「異界の魔力」は、これで浄化出来るわ。



 さて、問題の変なポーションね。 魔鬼オーガがでるか、魔蛇ナーガが出るか……






      慎重に見てみないとね……








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