その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

文字の大きさ
上 下
621 / 713
薬師と聖職者 精霊の至る場所

彷徨える、異邦の戦闘神官 と、放浪の薬師リーナ

しおりを挟む


 
  走り来る ” 脅威 ”。



 神官戦士バトルクレリック様方の纏う、精霊様の息吹が見えるの。 とても、強く守護されておられるわ。 そうね、彼らも又、精霊様の御意志を以て、戦われる方々ですものね。 



 手に持たれているのは、聖戦棍ホーリーメイス



 遠目に見てもそれと判るのは、持ち手の部分が長いからなの。 つまりは両手武器。 聖職者さんだから、装具は布製の白いチュニック。 首から下げられるストラは、腰で一つになっているわ。 お色は…… えっと…… 見知ったお色では無いうえ、ストラに刻まれている紋章も、記憶にないものばかり。 詳細が見え始めるほどに、疑問が次々と湧き上がるの。

 だって、装備、装具の統一感が全くないうえ、頭上の御帽子もそれぞれに違うんだもの…… 一体、どういった集団なの?  聖戦棍ホーリーメイスを掲げ、こちらに掛けてくる、そんな方々。 私も迎撃する。 一層の緊張感が湧き上がる。


 前方の聖堂騎士、後方の神官戦士。

 まさに取り囲まれた状態ね。 これは…… ここで、本当に網を掛けていたというの? シルフィーが色々と情報を集めて来てくれたけど、こちらの情報も漏れていたの?

 もし、そうなら……


 ――― きっと、この襲撃の狙いは、私。 



 罠の口は閉じた…… って事なの? 用意周到に策を練られ、この地で朽ちる様に整えられていた? まだ、まだ、私には、為すべきことが有るの。 

 喰い破らなくては……

 断じて、こんな場所で朽ちる事など…… 精霊様の御意志に反するわッ!!





 ―――― 何としても、何としても!!!








   ^^^^^






 精霊魔術に精通した方々の、精霊魔法に、私の魔力で紡いだ防御が利くのかな? 相手は聖職者さん達だから、相当…… 厳しいかも? 緊張の面持ちで、そんな彼らを半目で見るの。

 走り込んでこられた一団の、多分一番偉い方が、唐突に、大きなお声で私に語り掛けられるの。 その声は、威厳に満ち、慈愛に富み…… 何よりも、精霊様の息吹を感じさせるものだったのよ。





「旅の方! 難儀されておられるかッ! 我ら、精霊の御意志の番人レコンギスタル! 精霊の聖名に於いて、悪逆非道の輩を退治んッ! おぉぉ、そこな方、精霊の息吹を纏われるかッ! ならば、尚の事、御守りせねばッ!! 各員、横陣展開、段列三段。 暴虐非道の輩より、この幼子を護り以て精霊様の威光を示さんッ!!」





 走ってきたのは、およそ三十人の聖職者の方々。 見れば、本当にバラバラの装具なの。 持っている、聖戦棍ホーリーメイスも、ファンダリアの聖堂教会の物とは形が違う。 それに、ストラに刻まれた、教会の紋章も…… ファンダリア王国の聖堂教会の物では無いの。


 えっ? 誰? この方々?


 馬車を通り越して、押されつつある、ラムソンさん達と馬車の間に入って、三段の横陣を張られるのよ。 後ろも振り返らず、さらに、大声で皆さんを鼓舞されるのよ。





「さても、さても、この精霊の加護薄きこの大地。 我ら精霊の御意志の番人レコンギスタル、妖気を払い、この地に精霊の息吹を齎さん。 民を襲い、その命の糧を奪う暴虐、悪辣、非道の数々。 精霊様の手先となり、打ち払わん! いざ、精霊の同胞はらからよ、我らの誓い、顕現させよ!」





 手に持っておられる、聖戦棍ホーリーメイスの先端。 槌頭メイスヘッドが、揺らぐ精霊様の息吹に包まれていくの。 きっと、衝撃力の増大の様な付加効果を与えられたのね。 魔法にも同じような、補助魔法バファーと呼ばれるものが、沢山あるんだもの。


 ―――【身体強化】なんて、その最たるものね。


 向かう気迫が、その方々に漲るの。 その背には、まさしく神官としての威厳と矜持が浮かび上がっているのよ。 ラムソンさん達も、ちょっと驚いているわ。 突然二個小隊ほどの神官戦士が、馬車を護るように展開したんだもの…… 


 それよりも慌てたのが、あちら側。


 ラムソンさん達に翻弄されていた事に相当苛立ちを覚えられていたのか、咆哮を上げて吶喊の姿勢に隊列を組みなおされたのよ。 大きく迂回されて、隊列を立て直し、紡錘形に整え、一気呵成にこちらに向かって襲撃を掛けられたのよ…… 戦場の華。 この地形に一番あった、攻撃方法を企画された事が手に取るように理解できるわ。



      ―――― 騎馬突撃 ――――



 アレをされたら…… いくらラムソンさんでも、どうにもならない。 下手に残ったら、それこそ、騎兵大槍キャリバランスの、餌食になりかねないわ。 丘の上から戦場を俯瞰できる私だから、そのことに気が付いたの。 だから、私は、咄嗟に叫んだの。 





「ラムソンさんッ!! 退避ぃぃ!! 二時方向、全力駆け足ッ!! シルフィー! 援護ッ!」





 その声が聞こえたのか、ラムソンさんは即座に退避を開始。 行き足の付いた騎兵突撃ならば、突然の進路変更はどんなに優秀な騎士さんでさえ、至難の業よ。 それが、聖堂騎士ならば…… 無理ね。 でも、私の前の壁は、取り払われるのよ。

 馬車の周りの【重防御】は、三重に掛かっている。 でも…… でもね、戦闘神官バトルクレリック様方は、その内側には居られないの。





神官戦士バトルクレリックの方々ッ!! 逃げてください!! 無為に命を散らす愚かな行動は、精霊様はお許しに成られない。 精霊様がお手先、薬師錬金術師リーナが付し願いますッ! 精霊様の聖名に於いて、退避されませ!」






 驚きを以て、神官様のお一人が振り返るの。 そして、精霊様の息吹を纏って馬車の傍に立つ私を見て、息を飲まれた。 大きく目を見開かれるの。 沢山の年月を経られたそのお顔。 皺がとても深く、長い間戦野に立たれた人独特の陰影が、浮かび上がっているわ。 そして、私の紡ぎだした言葉が、とても信じられないと…… そう云う感情に覆われているの。




「早く!! 既に、敵はそこまで駆けております。 聖堂騎士達の、” 騎兵突撃チャージ ” に突かれては、神官戦士様の防壁でも持ちはしません。 進路を開けてください。 ここには重防御障壁を三枚立ててあります。 わたくしの安全は、わたくしが図ります。 だから、早く!!! 早く退避をッ!!」





 必死の叫びに、驚きを隠せないも、言葉の真実は、彼らを突き動かすのよ。 だって、彼らも又、精霊様の御手先。 精霊様が彼らの命を奪うような事は命じられないわ。 それは、彼ら自身がよくわかっているはずだもの。 もう、直ぐ手前まで、聖堂騎士達の吶喊は迫っている。 突き動かされるように、神官戦士バトルクレリックの皆さんは、その進路を開けて下さったの。


 ここからが、私の本気。


 いつでも、いらっしゃい。 防壁の強度は最高に上げてあるんだもの。 だから…… だから…… 抜かれるような事は、無いわッ!! ええ、その筈。 その筈よ。 一抹の不安があるのは確か。 あのラムソンさんと、シルフィーが止めきれなかったのよ。 何かあるわ。 きっと、なにか……

 その何かが私の不安を掻き立てる。

 だから、余計に他の人たちは巻き込めない。 だって…… 私が ” 目的 ” なんでしょ? 




 《 私の排除 》




 ……だものね。 でも、なんだか、とても雲行きが怪しい。 あのラムソンさんとシルフィーが押されたのも、合点が行かない。 この精霊騎士団の方々、なにか……




       ―――  ――――




 嫌な予感がするの。 なにかとても…… 言葉では言い表せない、そんな…… 嫌な予感が。 戸惑いと、困惑が私を混乱に導くの。


  この重防御でいいのか?

    本当に、これで、事足りるのか?


 状況がとても…… 怪しく…… 確信が持てなくなってきたの。 そんな時、遥か空の彼方から…… まるで、私を鼓舞するような、そんな獣の咆哮が降り注いできたの……









 ケェェェ~~~~~~!!














しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:859pt お気に入り:10,037

王家の影である美貌の婚約者と婚姻は無理!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,261pt お気に入り:4,439

君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,878pt お気に入り:1,842

六丁の娘

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:4

召喚されたのに、スルーされた私

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:5,599

妖精のお気に入り

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,746pt お気に入り:1,103

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,488pt お気に入り:12,054

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。