575 / 713
北辺の薬師錬金術士
シルフィー と エスト
しおりを挟む人には、得手不得手ってあると思うの。
それが如実に現れているのが、私の大切な朋である、二人の ” 元暗殺者 ” である……
” シルフィー ” と ” エスト ” の二人の事よ。 ファンダリア王国の……
北部辺境域に於いて、『 疾風の影 』の二つ名を持つのは、シルフィー。
西方辺境域に於いて、『 古き暗殺者一族の目と耳 』 なのが、エスト。
その道の方々には、その名が轟く二人なのよ。 そんなトンデモナイ人達が、私についてくれているの。 まったく、精霊様の御采配には驚くばかりよね。
西方辺境域、北部領域を歩き回っている間、二人の為人を比べてみたの。 ほら…… 出来る事、出来ない事を見極めるのは、” 指揮官 ” のお仕事でもあるでしょ? 高い能力を誇る二人でも、やはり、得手不得手はあるのよ。
森猫族であるシルフィーは、夜目が効き、対人戦に於いて無類の強さを誇るわ。 側に居てくれるだけで、安心感と云うか、護られている感は、凄いのよ。 ほら、暗殺者ギルドのギルドマスターに、毒物に対して見地が不足しているって、指摘されたでしょ? あれ以来、時間が有れば私の毒物辞典を熟読しているのよ。
大丈夫だって! 私は薬師なんだから、そっちは気にしなくてもいいからぁ……
鼠人族のエスト。 臆病と表現できるくらい、用心深いの。 そして、彼女の専門職は、諜報。 良く見える眼を持ち、良く聞こえる耳を持っている彼女。 常に退路を用意して、深く忍び、情報を取得する職人さんよ。 勿論、シルフィーにも劣らない位の戦闘力は有るわ。 でも、そういった事態に成らない様に、うまく立ち回るのが彼女。
軍に於ける、『正面戦力』と、『支援部隊』の関係に似ていると思っていたの。
でも…… 本人たちの敵愾心というか、負けられないって云う意識というか……
好敵手心が、とても強いのよ。 表面上は何でもない風を装っているのだけど、その実…… 結構、遣り合っているのは知っているわ。 でもね、そうは云っても、やはり、互いが互いの能力を認めている事は間違いない。
シルフィーの方が、ちょっと突っかかる…… 的な感じかな? 多分、エストの方が少しお姉さんになる。 時々、健康診断の為に診察した時、彼女の大体の年齢は把握しているから、そう云える。 それは、精神的にも少し余裕を持てる、理由かしら?
そんなエストは、情報の取り扱いとか、人に紛れての情報収集とか、勿論、暗殺者ギルドの ” 重鎮 ” でもあるのだから、” その手 ” の能力は、ずば抜けているの。 でも、一つ……
得意では無い事が有るわ。
――― それが、魔道具に関しての事。
使う事は十分すぎるくらい出来る。 それは、知っているわ。 でも、魔道具本体の構造とか、改造なんてことは知らない。 盗聴用の魔道具も有るのだから、別に本体を改造する事は必要無いもの。
お魚を綺麗に捌ける厨房師が、手にする『刃物』を ” 鍛造する ” 事が、出来ないのと同じことよ。
半面、私と長く行動を共にして、私が符呪師でもあった為か、シルフィーは そっちの知識を存分に吸収しちゃったのよ。 勿論、魔石や魔法紙に術式を打ち込む事は出来ないわ。 符呪の技術は教えていないんだもの。 でも、それを ” 魔道具 ” に仕立てる事は出来るくらいの 『 知識 』 を、得ちゃったの。
彼女達の得手不得手が、ここに来て表に現れちゃったのよ。
^^^^^
ポーチから、かなり小型の魔法通信機を取り出す。 コトリと、テーブルの上に置くの。 これも、私とシルフィーの合作よ。 魔力供給は本来は私から。 ここに魔力線を繋ぐ事によって、相手が魔力通信機を持ってさえいれば、馬車で一日くらいの距離で在れば、即時、同時通話が可能なの。
でも、まぁ、制約も大きいわ。
だって、魔力線が無かったら…… そして、その魔力線に私と同調出来る魔力が満たされていなかったら、会話は成立しないもの。 だから、普段は使っていないの。 使える局面も無かったしね。
コレを使っていたのは…… そう云えば……
――― 王都だったわね。
ティカ様の地下施設と、第十三号棟の間に設置していたのよ。 先触れとか面倒だし、いらっしゃらなかったら、困るしね。 ティカ様の地下施設の方には、会話記録できる術式を組み込んでおいたので、あちらに行く前に、” 何刻に行きます ” って、吹き込んで置く為にね。
ティカ様も感心して下さった、ちょっとした、魔道具。 設置以降、あちらにお伺いするのがとても楽になったのよ。 だって、通常の方法で頻繁にお伺いなんて、立てられないでしょ?
――― そんな魔道具。
それが、眼の前にあるのよ。
「これに、魔力の動力線を繋げて欲しいわ」
「……リーナ様の魔力を使用するのではなく、この地の魔力を…… ですか?」
「ええ、「命の泉」で、確かめたの。 この地の魔力は私との同調にも問題は無いわ。 とても、通りが良いのよ」
「左様に御座いますか。 では、此処まで引っ張って来た、魔力線と、この地の動力線を繋ぎましょう。 ……お借りします」
不思議そうにエストが、シルフィーの手元をみていたの。 私がやってもいいんだけれど、この小型の魔力通信機はシルフィーが組上げた物だから、その作者にお願いする方が確実で信頼出来るんだものね。
ちょっと、分解して、改造の準備をしていたの。 それが終わったら、受信専用のこの村の魔法通信機に接続されている『動力線』の方を分岐して、ゴソゴソと小型魔力通信機に接続していたわ。
フンフン…… そうするのか。 勉強になるわ。 わたしなら、強引に魔方陣に直結させるんだけど…… 用心深いというか…… 安定性重視というか…… エストはと云うと、シルフィーの細かな細工に、完全に混乱していたのが、わかっちゃったけどね。
シルフィーが隠して敷設していた、西方辺境域からの『魔力線』を繋げば、魔道具としての『魔法通信機』は完成。 ちょこっと分解したところを、組み直してから、シルフィーは振り返って私を見てから、清々しい程の笑顔に成ったわ。
「出来ました。 後は、通信機を起動させれば、この地の魔力が魔力線に供給されます。 かなり細い魔力線ですが、大丈夫だと思われます。 魔力線はリーナ様の御手製ですから、強度は並みのモノではありませんから」
「ありがとう。 助かったわ」
「お役に立てて、幸いです」
ゆっくりと頭を下げるシルフィー。 ……見たわよ。 目を伏せる前に、エストに自慢気な 「 視線 」を、投げたの。 その視線を受けたエスト、ちょっぴり悔しそうな表情を浮かび上がらせていたのもね。 シルフィーとエストの中でどんな遣り取りが有ったのかは……
……見なかった事にしておくわ。
二人とも、大切な私の仲間ですもの。 そうよ、人には向き不向きが有るんですものね。 じゃぁ、今からはエストが得意とする事を始めるわ。
「エスト。 お願いが有るわ。 これを使用して、暗殺ギルドのギルドハウスに連絡を。 私がお話したいと、そう云っているって、お伝えして。 貴女が知っている極秘符丁で、秘話通信をお願いしたいの」
「は、はいッ! リーナ様!」
途端に浮かんでいた、悔しそうな表情が掻き消えるの。 で、今度はシルフィーがちょっぴり悔しそう。
だ~か~ら~ なんで、そんな表情に成るのよッ!
目まぐるしく変化する、ちょっとした仕草を、シルフィーとエストは交わすのよ。 暗殺者ギルドの人達の符丁なんて知らない。 だから、何を互いに言っているのかは…… 判らない。 判らないなりに、彼女達の間で、何かしらの落し処があったのか…… 符丁はピタリと止まるの。
そんな ” 会話 ” している間にも、エストは小型通信機に取り付き、起動を始めていたわ。 西方辺境域に伸びる魔力線にこの地の魔力を流し、満たして行くの。
通信開始の前段階。
そっと…… そして、 確実に……
細い通信線の中に、
―――― 『 火 』の属性を帯びた魔力が流れ込んで行ったわ。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
6,842
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。