その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北辺の薬師錬金術士

シルフィー と エスト

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 人には、得手不得手ってあると思うの。



 それが如実に現れているのが、私の大切な朋である、二人の ”  ” である……

 ” シルフィー ” と ” エスト ” の二人の事よ。 ファンダリア王国の……



 北部辺境域に於いて、『 疾風の影 』の二つ名を持つのは、シルフィー。
 西方辺境域に於いて、『 古き暗殺者一族の目と耳 』 なのが、エスト。




 その道の方々には、その名が轟く二人なのよ。 そんなトンデモナイ人達が、私についてくれているの。 まったく、精霊様の御采配には驚くばかりよね。 

 西方辺境域、北部領域を歩き回っている間、二人の為人を比べてみたの。 ほら…… 出来る事、出来ない事を見極めるのは、” 指揮官 ” のお仕事でもあるでしょ? 高い能力を誇る二人でも、やはり、得手不得手はあるのよ。

 森猫族であるシルフィーは、夜目が効き、対人戦に於いて無類の強さを誇るわ。 側に居てくれるだけで、安心感と云うか、護られている感は、凄いのよ。 ほら、暗殺者ギルドのギルドマスターに、毒物に対して見地が不足しているって、指摘されたでしょ? あれ以来、時間が有れば私の毒物辞典を熟読しているのよ。


 大丈夫だって! 私は薬師なんだから、そっちは気にしなくてもいいからぁ……


 鼠人族のエスト。 臆病と表現できるくらい、用心深いの。 そして、彼女の専門職は、諜報。 良く見える眼を持ち、良く聞こえる耳を持っている彼女。 常に退路を用意して、深く忍び、情報を取得する職人さんよ。 勿論、シルフィーにも劣らない位の戦闘力は有るわ。 でも、そういった事態に成らない様に、うまく立ち回るのが彼女。


 軍に於ける、『正面戦力』と、『支援部隊』の関係に似ていると思っていたの。


 でも…… 本人たちの敵愾心というか、負けられないって云う意識というか……

 好敵手ライバル心が、とても強いのよ。 表面上は何でもない風を装っているのだけど、その実…… 結構、遣り合っているのは知っているわ。 でもね、そうは云っても、やはり、互いが互いの能力を認めている事は間違いない。

 シルフィーの方が、ちょっと突っかかる…… 的な感じかな? 多分、エストの方が少しお姉さんになる。 時々、健康診断の為に診察した時、彼女の大体の年齢は把握しているから、そう云える。 それは、精神的にも少し余裕を持てる、理由かしら?

 そんなエストは、情報の取り扱いとか、人に紛れての情報収集とか、勿論、暗殺者ギルドの ” 重鎮 ” でもあるのだから、” その手 ” の能力は、ずば抜けているの。 でも、一つ……


 得意では無い事が有るわ。


 ――― それが、魔道具に関しての事。


 使う事は十分すぎるくらい出来る。 それは、知っているわ。 でも、魔道具本体の構造とか、改造なんてことは知らない。 盗聴用の魔道具も有るのだから、別に本体を改造する事は必要無いもの。

 お魚を綺麗に捌ける厨房師が、手にする『刃物』を ” 鍛造する作り出す ” 事が、出来ないのと同じことよ。

 半面、私と長く行動を共にして、私が符呪師でもあった為か、シルフィーは そっちの知識を存分に吸収しちゃったのよ。 勿論、魔石や魔法紙に術式を打ち込む事は出来ないわ。 符呪の技術は教えていないんだもの。 でも、それを ” 魔道具 ” に仕立てる事は出来るくらいの 『 知識 』 を、得ちゃったの。


 彼女達の得手不得手が、ここに来て表に現れちゃったのよ。



 ^^^^^


 ポーチから、かなり小型の魔法通信機を取り出す。 コトリと、テーブルの上に置くの。 これも、私とシルフィーの合作よ。 魔力供給は本来は私から。 ここに魔力線を繋ぐ事によって、相手が魔力通信機を持ってさえいれば、馬車で一日くらいの距離で在れば、即時、同時通話が可能なの。

 でも、まぁ、制約も大きいわ。 

 だって、魔力線が無かったら…… そして、その魔力線に私と同調出来る魔力が満たされていなかったら、会話は成立しないもの。 だから、普段は使っていないの。 使える局面も無かったしね。

 コレを使っていたのは…… そう云えば……



 ――― 王都だったわね。



 ティカ様の地下施設と、第十三号棟の間に設置していたのよ。 先触れとか面倒だし、いらっしゃらなかったら、困るしね。 ティカ様の地下施設の方には、会話記録できる術式を組み込んでおいたので、あちらに行く前に、” 何刻に行きます ” って、吹き込んで置く為にね。

 ティカ様も感心して下さった、ちょっとした、魔道具。 設置以降、あちらにお伺いするのがとても楽になったのよ。 だって、通常の方法で頻繁にお伺いなんて、立てられないでしょ?


 ――― そんな魔道具。


 それが、眼の前にあるのよ。




「これに、魔力の動力線を繋げて欲しいわ」

「……リーナ様の魔力を使用するのではなく、この地の魔力を…… ですか?」

「ええ、「命の泉温泉」で、確かめたの。 この地の魔力は私との同調にも問題は無いわ。 とても、通りが良いのよ」

「左様に御座いますか。 では、此処まで引っ張って来た、魔力線と、この地の動力線を繋ぎましょう。 ……お借りします」




 不思議そうにエストが、シルフィーの手元をみていたの。 私がやってもいいんだけれど、この小型の魔力通信機はシルフィーが組上げた物だから、その作者にお願いする方が確実で信頼出来るんだものね。

 ちょっと、分解して、改造の準備をしていたの。 それが終わったら、受信専用のこの村の魔法通信機に接続されている『動力線』の方を分岐して、ゴソゴソと小型魔力通信機に接続していたわ。

 フンフン…… そうするのか。 勉強になるわ。 わたしなら、強引に魔方陣に直結させるんだけど…… 用心深いというか…… 安定性重視というか…… エストはと云うと、シルフィーの細かな細工に、完全に混乱していたのが、わかっちゃったけどね。

 シルフィーが隠して敷設していた、西方辺境域からの『魔力線』を繋げば、魔道具としての『魔法通信機』は完成。 ちょこっと分解したところを、組み直してから、シルフィーは振り返って私を見てから、清々しい程の笑顔に成ったわ。




「出来ました。 後は、通信機を起動させれば、この地の魔力が魔力線に供給されます。 かなり細い魔力線ですが、大丈夫だと思われます。 魔力線はリーナ様の御手製ですから、強度は並みのモノではありませんから」

「ありがとう。 助かったわ」

「お役に立てて、幸いです」




 ゆっくりと頭を下げるシルフィー。 ……見たわよ。 目を伏せる前に、エストに自慢気な 「 視線 」を、投げたの。 その視線を受けたエスト、ちょっぴり悔しそうな表情を浮かび上がらせていたのもね。 シルフィーとエストの中でどんな遣り取りが有ったのかは……

 ……見なかった事にしておくわ。 


 二人とも、大切な私の仲間ですもの。 そうよ、人には向き不向きが有るんですものね。 じゃぁ、今からはエストが得意とする事を始めるわ。





「エスト。 お願いが有るわ。 これを使用して、暗殺ギルドのギルドハウスに連絡を。 私がお話したいと、そう云っているって、お伝えして。 貴女が知っている極秘符丁で、秘話通信をお願いしたいの」

「は、はいッ! リーナ様!」





 途端に浮かんでいた、悔しそうな表情が掻き消えるの。 で、今度はシルフィーがちょっぴり悔しそう。


 だ~か~ら~ なんで、そんな表情に成るのよッ!


 目まぐるしく変化する、ちょっとした仕草を、シルフィーとエストは交わすのよ。 暗殺者ギルドの人達の符丁なんて知らない。 だから、何を互いに言っているのかは…… 判らない。 判らないなりに、彼女達の間で、何かしらの落し処があったのか…… 符丁はピタリと止まるの。

 そんな ” 会話 ” している間にも、エストは小型通信機に取り付き、起動を始めていたわ。 西方辺境域に伸びる魔力線にこの地の魔力を流し、満たして行くの。



 通信開始の前段階。


    そっと…… そして、 確実に…… 



           細い通信線の中に、





  ―――― 『 火 』の属性を帯びた魔力が流れ込んで行ったわ。





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