その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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汚濁の根源 異界の魔力

リーナの処遇

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「内々にではありますが、リーナ、貴女の事について、いくつかの事柄が合意に達しておりますわ」

「内々…… ですか……」


 ゆっくりと黒茶を飲むティカ様の口から零れ落ちる言葉に少し、たじろぎを感じつつも、やはり、安ど感が広がるのよ。 だって、そうでしょ? いきなり私が消えちゃったら、困る人も多いもの。 第四〇〇特務隊の事とか、第四〇〇〇護衛隊の方々の事とか…… それに、なにやら、王国上層部に於いて、私の事は ” 重要人物 ” と目されている節もあるのよ。

 きっと、それは……

 私がおばば様の直弟子で、「薬師錬金術士」と云うモノだから。 薬師と、錬金術士って、似て非なる者だから、その両方を兼ね備えている人って云うのは、結構珍しいらしいわ。 王国にもあまり居ないって、そう云われている。 

 まぁ、理由は簡単なのよ。 錬金釜を使用せず、中位クラスの薬剤を錬成するには、「光」か「闇」の属性の保持者しか出来ないんだもの。 だいたい、「光」とか、「闇」の属性保持者が少ない上に、その中で薬師に成ろうって人がこれまた少ないから、周囲が狙ってそう指導しない限り、「薬師錬金術士」なんて産れてはこないものね。

 私の場合は、市井で暮らす為の、生活の手段に一番最初に選んだのが、偶々 「 薬師 」 だった。

 まだ、王都のドワイアル大公家の御邸に居る頃から、前世の記憶を元に、「お薬」やら、水飴…… いいえ、シロップね、アレを錬成して、お小遣い稼ぎをしていたんですもの。 ハンナさんにお金の管理はして貰ってはいたけれどもね。

 すべては、自分の為。 逃げ出す算段を付ける為。 逃げ出した後で、まともな生活が出来るようにする為……

 その為に身に着けようと、勉強した事なんだもの。 他の「光」と「闇」の属性持ちの人達とは違う・・ものね。 おばば様の「百花繚乱」で、術式を磨いて、薬師としての経験も積んで、どうにか、薬師として独り立ちする事が出来たの。 

 その時に、おばば様から、「薬師錬金術士」を名乗りな って、そう仰って下さったから…… ね。 まぁ、その事で、この国の人達から重要視されてちゃっているよね。 一介の庶民の薬師が、王太子妃殿下の筆頭薬師なんて、間違っても起こりようも無い事が、周囲に何の疑問も無く受け入れらるくらいに、「薬師錬金術士」の称号は…… ね。

 だから、あまり、勝手に動く事は出来なくなったの。 一人で出奔すると、それこそ、大事になるのは、火を見るより明らかなんだもの。 きっと…… 所在を確かめる…… いいえ、掴む為に広域指名手配とか、下手をすれば、「捕縛状」なんかが、王太子府か宰相府辺りが出して来ると思うの。

 国家の損失とかなんとか、そういう理由を付けてね。

 それに、そんなモノが発せられたりしたら、私の周りに居る人たちにも迷惑が及ぶのよ。 どうして、留め置けなかったのか、何故、勝手に出奔させたのかってね。 だから、上層部の方々が色々な思惑とか、制度とか、法とかを駆使して、私を王国に繋ぎ留めつつ、王都から出られる様にして下さるのを待つしか無かったの。

 ―――― 意思は示したわ。

 それに、精霊様との契約だって皆さんご存知なんだもの。 それを無視して、王都に留め置こうとしても、神官長パパパウエル猊下以下、聖堂教会の ” 心ある人達 ” から、睨まれてしまうわ。 王都から出られる事は決定事項なの。 

 だから、ティカ様のお言葉に私は震えたのよ。

 喜びにね。



「リーナは、薬師として辺境に向かいます。 軍属である事には変更は有りません。 殿下は軍属からの籍を抜きたい所存では御座いましたが、エルブンナイト=フォウ=フルブランド大公閣下が頑強に拒否されましたのよ? 最後には、第四軍 軍団長であらせられる、エントワーヌ=オリビス=オフレッサー侯爵閣下が前線よりお戻りになり直訴までする始末。 貴女、相当可愛がられているわ」

「も、勿体なく……」

「それでね、辺境に赴く際、「薬師」としての立場で向かう事には最終的には同意されたのだけど、決して軍籍は抜かないって事で落ち着いたの。 ……第四〇〇〇護衛隊は解隊されるわ。 ええ、オフレッサー侯爵閣下が、プーイを呼び出され、彼女達「義勇兵」の意思を確かめらたのよ」

「えぇ? では、彼女達は森にお帰りになるですか?」

「まさか。 「義勇兵」はファンダリア王国と目的をいつにする存在でしょ? その忠誠心が、ファンダリアでは無く、貴女個人に有ると、そうプーイは宣言したの。 オフレッサー侯爵閣下は、さもありなんってご納得していたって。 だから、軍組織として、第四〇〇〇護衛隊は解隊されて人員は、第四〇〇特務隊に編入される事に成ったの。 そして、もう一つ」

「はい…… 何で御座いましょう?」

「第四〇〇特務隊は、第四軍直轄からその所属を、第四軍指揮官直属と変更されたわ」

「えっ? その…… つまり…… それは……」

「ええ、そうよ。 形の上では、軍籍を抜かないけれど、貴方は王太子殿下直属の特務隊となったの。 国王陛下より、ウーノルは第四軍の指揮権を移譲されているもの。 これにより、貴女の部隊は、軍部よりの命令を受領する事は無くなった。 貴女の直属の上司は、ウーノル只一人。 まぁ、苦肉の策ね。 王宮薬師院の方々の横槍を交わす必要もあったものね」

「王宮薬師院…… 調剤局の事ですか?」

「ええ、あちらはあちらで貴女を囲い込む事を狙って居たのよ。 ライダル卿辺りが色々と動いてらしたわ。 その思惑を叩き潰したって所。 さもなくば、王都より出す事が難しくなりそうなんだもの。 なにか理由を付けて、足止めをしようとね。 でも、ウーノルを始め、あの時、王太子府に居た方々は、それを良しとしなかったって事。 特に、「聖堂教会」の神官長パパ様方が、貴女を辺境にへと、頑張って下さった。 狙いは…… そうね、民への慈しみ。 貴女本来の目的とは違うのだけど、それは事実、そうなるでしょうね」

「そうだったのですか……」

「ええ、そうよ。 貴女が動くときには、第四〇〇特務隊の面々と一緒。 貴方だけの臣下とも云えるわ。 あえて、それを認めたのは、貴女が向かう先が厳しい場所だから。 王都を出て、北の荒野に向かう貴女の安全を、何としても図りたいと云う意思なのよ。 魔導院も同意したわ」

「えっ? 魔導院がですか? 何故、そこに、魔導院が?」

「あら、忘れちゃった? 貴女、一応魔導院の魔術士の登録もされているのよ? 記章貰っているでしょ?」

「あっ! あぁぁぁ…… そうでしたね。 そう云えば……」

「それでね、軍属事務官のお二人には、新たな命令が下ったわ」

「クレアさんとスフェラさん…… 彼女達は女性で事務官でした。 荒野にお連れするのは…… その……」

「判っているわ。 彼女達がどんなに望もうとも、それは、死と同義語なんですものね。 だから、貴女方にはリーナの後方支援をして頂きます。 かつての伝手を伝って、北の情報を纏めリーナに送る。 任地は北部辺境域 北限の辺境伯のご領地」

「えっ? そ、それは……」



 ティカ様の御言葉に思わず絶句してしまった。 彼女達を御実家に帰すの? 精神的外傷がまたぶり返す可能性が大きいわ。 いえ、必ずそうなる。 折り合いなんて、付けられそうにないモノ。

 顔色を無くす、クレアさんとスフェラさんを視界に入れつつ、私は困惑したの。

 どうしよう……

 ティカ様は、事情をご存知とは仰っては居たのだけれど……

 それは、ちょっと……

 マズいと思うのよ。





 そんな、私の想いを間違いなく見透かしたように、ティカ様は微笑み、そして……





 机の上に、二枚の 『 白面 』 を置いたの。






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