521 / 713
汚濁の根源 異界の魔力
リーナの処遇
しおりを挟む
「内々にではありますが、リーナ、貴女の事について、いくつかの事柄が合意に達しておりますわ」
「内々…… ですか……」
ゆっくりと黒茶を飲むティカ様の口から零れ落ちる言葉に少し、たじろぎを感じつつも、やはり、安ど感が広がるのよ。 だって、そうでしょ? いきなり私が消えちゃったら、困る人も多いもの。 第四〇〇特務隊の事とか、第四〇〇〇護衛隊の方々の事とか…… それに、なにやら、王国上層部に於いて、私の事は ” 重要人物 ” と目されている節もあるのよ。
きっと、それは……
私がおばば様の直弟子で、「薬師錬金術士」と云うモノだから。 薬師と、錬金術士って、似て非なる者だから、その両方を兼ね備えている人って云うのは、結構珍しいらしいわ。 王国にもあまり居ないって、そう云われている。
まぁ、理由は簡単なのよ。 錬金釜を使用せず、中位クラスの薬剤を錬成するには、「光」か「闇」の属性の保持者しか出来ないんだもの。 だいたい、「光」とか、「闇」の属性保持者が少ない上に、その中で薬師に成ろうって人がこれまた少ないから、周囲が狙ってそう指導しない限り、「薬師錬金術士」なんて産れてはこないものね。
私の場合は、市井で暮らす為の、生活の手段に一番最初に選んだのが、偶々 「 薬師 」 だった。
まだ、王都のドワイアル大公家の御邸に居る頃から、前世の記憶を元に、「お薬」やら、水飴…… いいえ、シロップね、アレを錬成して、お小遣い稼ぎをしていたんですもの。 ハンナさんにお金の管理はして貰ってはいたけれどもね。
すべては、自分の為。 逃げ出す算段を付ける為。 逃げ出した後で、まともな生活が出来るようにする為……
その為に身に着けようと、勉強した事なんだもの。 他の「光」と「闇」の属性持ちの人達とは違うものね。 おばば様の「百花繚乱」で、術式を磨いて、薬師としての経験も積んで、どうにか、薬師として独り立ちする事が出来たの。
その時に、おばば様から、「薬師錬金術士」を名乗りな って、そう仰って下さったから…… ね。 まぁ、その事で、この国の人達から重要視されてちゃっているよね。 一介の庶民の薬師が、王太子妃殿下の筆頭薬師なんて、間違っても起こりようも無い事が、周囲に何の疑問も無く受け入れらるくらいに、「薬師錬金術士」の称号は…… ね。
だから、あまり、勝手に動く事は出来なくなったの。 一人で出奔すると、それこそ、大事になるのは、火を見るより明らかなんだもの。 きっと…… 所在を確かめる…… いいえ、掴む為に広域指名手配とか、下手をすれば、「捕縛状」なんかが、王太子府か宰相府辺りが出して来ると思うの。
国家の損失とかなんとか、そういう理由を付けてね。
それに、そんなモノが発せられたりしたら、私の周りに居る人たちにも迷惑が及ぶのよ。 どうして、留め置けなかったのか、何故、勝手に出奔させたのかってね。 だから、上層部の方々が色々な思惑とか、制度とか、法とかを駆使して、私を王国に繋ぎ留めつつ、王都から出られる様にして下さるのを待つしか無かったの。
―――― 意思は示したわ。
それに、精霊様との契約だって皆さんご存知なんだもの。 それを無視して、王都に留め置こうとしても、神官長パウエル猊下以下、聖堂教会の ” 心ある人達 ” から、睨まれてしまうわ。 王都から出られる事は決定事項なの。
だから、ティカ様のお言葉に私は震えたのよ。
喜びにね。
「リーナは、薬師として辺境に向かいます。 軍属である事には変更は有りません。 殿下は軍属からの籍を抜きたい所存では御座いましたが、エルブンナイト=フォウ=フルブランド大公閣下が頑強に拒否されましたのよ? 最後には、第四軍 軍団長であらせられる、エントワーヌ=オリビス=オフレッサー侯爵閣下が前線よりお戻りになり直訴までする始末。 貴女、相当可愛がられているわ」
「も、勿体なく……」
「それでね、辺境に赴く際、「薬師」としての立場で向かう事には最終的には同意されたのだけど、決して軍籍は抜かないって事で落ち着いたの。 ……第四〇〇〇護衛隊は解隊されるわ。 ええ、オフレッサー侯爵閣下が、プーイを呼び出され、彼女達「義勇兵」の意思を確かめらたのよ」
「えぇ? では、彼女達は森にお帰りになるですか?」
「まさか。 「義勇兵」はファンダリア王国と目的を一にする存在でしょ? その忠誠心が、ファンダリアでは無く、貴女個人に有ると、そうプーイは宣言したの。 オフレッサー侯爵閣下は、さもありなんってご納得していたって。 だから、軍組織として、第四〇〇〇護衛隊は解隊されて人員は、第四〇〇特務隊に編入される事に成ったの。 そして、もう一つ」
「はい…… 何で御座いましょう?」
「第四〇〇特務隊は、第四軍直轄からその所属を、第四軍指揮官直属と変更されたわ」
「えっ? その…… つまり…… それは……」
「ええ、そうよ。 形の上では、軍籍を抜かないけれど、貴方は王太子殿下直属の特務隊となったの。 国王陛下より、ウーノルは第四軍の指揮権を移譲されているもの。 これにより、貴女の部隊は、軍部よりの命令を受領する事は無くなった。 貴女の直属の上司は、ウーノル只一人。 まぁ、苦肉の策ね。 王宮薬師院の方々の横槍を交わす必要もあったものね」
「王宮薬師院…… 調剤局の事ですか?」
「ええ、あちらはあちらで貴女を囲い込む事を狙って居たのよ。 ライダル卿辺りが色々と動いてらしたわ。 その思惑を叩き潰したって所。 さもなくば、王都より出す事が難しくなりそうなんだもの。 なにか理由を付けて、足止めをしようとね。 でも、ウーノルを始め、あの時、王太子府に居た方々は、それを良しとしなかったって事。 特に、「聖堂教会」の神官長様方が、貴女を辺境にへと、頑張って下さった。 狙いは…… そうね、民への慈しみ。 貴女本来の目的とは違うのだけど、それは事実、そうなるでしょうね」
「そうだったのですか……」
「ええ、そうよ。 貴女が動くときには、第四〇〇特務隊の面々と一緒。 貴方だけの臣下とも云えるわ。 あえて、それを認めたのは、貴女が向かう先が厳しい場所だから。 王都を出て、北の荒野に向かう貴女の安全を、何としても図りたいと云う意思なのよ。 魔導院も同意したわ」
「えっ? 魔導院がですか? 何故、そこに、魔導院が?」
「あら、忘れちゃった? 貴女、一応魔導院の魔術士の登録もされているのよ? 記章貰っているでしょ?」
「あっ! あぁぁぁ…… そうでしたね。 そう云えば……」
「それでね、軍属事務官のお二人には、新たな命令が下ったわ」
「クレアさんとスフェラさん…… 彼女達は女性で事務官でした。 荒野にお連れするのは…… その……」
「判っているわ。 彼女達がどんなに望もうとも、それは、死と同義語なんですものね。 だから、貴女方にはリーナの後方支援をして頂きます。 かつての伝手を伝って、北の情報を纏めリーナに送る。 任地は北部辺境域 北限の辺境伯のご領地」
「えっ? そ、それは……」
ティカ様の御言葉に思わず絶句してしまった。 彼女達を御実家に帰すの? 精神的外傷がまたぶり返す可能性が大きいわ。 いえ、必ずそうなる。 折り合いなんて、付けられそうにないモノ。
顔色を無くす、クレアさんとスフェラさんを視界に入れつつ、私は困惑したの。
どうしよう……
ティカ様は、事情をご存知とは仰っては居たのだけれど……
それは、ちょっと……
マズいと思うのよ。
そんな、私の想いを間違いなく見透かしたように、ティカ様は微笑み、そして……
机の上に、二枚の 『 白面 』 を置いたの。
「内々…… ですか……」
ゆっくりと黒茶を飲むティカ様の口から零れ落ちる言葉に少し、たじろぎを感じつつも、やはり、安ど感が広がるのよ。 だって、そうでしょ? いきなり私が消えちゃったら、困る人も多いもの。 第四〇〇特務隊の事とか、第四〇〇〇護衛隊の方々の事とか…… それに、なにやら、王国上層部に於いて、私の事は ” 重要人物 ” と目されている節もあるのよ。
きっと、それは……
私がおばば様の直弟子で、「薬師錬金術士」と云うモノだから。 薬師と、錬金術士って、似て非なる者だから、その両方を兼ね備えている人って云うのは、結構珍しいらしいわ。 王国にもあまり居ないって、そう云われている。
まぁ、理由は簡単なのよ。 錬金釜を使用せず、中位クラスの薬剤を錬成するには、「光」か「闇」の属性の保持者しか出来ないんだもの。 だいたい、「光」とか、「闇」の属性保持者が少ない上に、その中で薬師に成ろうって人がこれまた少ないから、周囲が狙ってそう指導しない限り、「薬師錬金術士」なんて産れてはこないものね。
私の場合は、市井で暮らす為の、生活の手段に一番最初に選んだのが、偶々 「 薬師 」 だった。
まだ、王都のドワイアル大公家の御邸に居る頃から、前世の記憶を元に、「お薬」やら、水飴…… いいえ、シロップね、アレを錬成して、お小遣い稼ぎをしていたんですもの。 ハンナさんにお金の管理はして貰ってはいたけれどもね。
すべては、自分の為。 逃げ出す算段を付ける為。 逃げ出した後で、まともな生活が出来るようにする為……
その為に身に着けようと、勉強した事なんだもの。 他の「光」と「闇」の属性持ちの人達とは違うものね。 おばば様の「百花繚乱」で、術式を磨いて、薬師としての経験も積んで、どうにか、薬師として独り立ちする事が出来たの。
その時に、おばば様から、「薬師錬金術士」を名乗りな って、そう仰って下さったから…… ね。 まぁ、その事で、この国の人達から重要視されてちゃっているよね。 一介の庶民の薬師が、王太子妃殿下の筆頭薬師なんて、間違っても起こりようも無い事が、周囲に何の疑問も無く受け入れらるくらいに、「薬師錬金術士」の称号は…… ね。
だから、あまり、勝手に動く事は出来なくなったの。 一人で出奔すると、それこそ、大事になるのは、火を見るより明らかなんだもの。 きっと…… 所在を確かめる…… いいえ、掴む為に広域指名手配とか、下手をすれば、「捕縛状」なんかが、王太子府か宰相府辺りが出して来ると思うの。
国家の損失とかなんとか、そういう理由を付けてね。
それに、そんなモノが発せられたりしたら、私の周りに居る人たちにも迷惑が及ぶのよ。 どうして、留め置けなかったのか、何故、勝手に出奔させたのかってね。 だから、上層部の方々が色々な思惑とか、制度とか、法とかを駆使して、私を王国に繋ぎ留めつつ、王都から出られる様にして下さるのを待つしか無かったの。
―――― 意思は示したわ。
それに、精霊様との契約だって皆さんご存知なんだもの。 それを無視して、王都に留め置こうとしても、神官長パウエル猊下以下、聖堂教会の ” 心ある人達 ” から、睨まれてしまうわ。 王都から出られる事は決定事項なの。
だから、ティカ様のお言葉に私は震えたのよ。
喜びにね。
「リーナは、薬師として辺境に向かいます。 軍属である事には変更は有りません。 殿下は軍属からの籍を抜きたい所存では御座いましたが、エルブンナイト=フォウ=フルブランド大公閣下が頑強に拒否されましたのよ? 最後には、第四軍 軍団長であらせられる、エントワーヌ=オリビス=オフレッサー侯爵閣下が前線よりお戻りになり直訴までする始末。 貴女、相当可愛がられているわ」
「も、勿体なく……」
「それでね、辺境に赴く際、「薬師」としての立場で向かう事には最終的には同意されたのだけど、決して軍籍は抜かないって事で落ち着いたの。 ……第四〇〇〇護衛隊は解隊されるわ。 ええ、オフレッサー侯爵閣下が、プーイを呼び出され、彼女達「義勇兵」の意思を確かめらたのよ」
「えぇ? では、彼女達は森にお帰りになるですか?」
「まさか。 「義勇兵」はファンダリア王国と目的を一にする存在でしょ? その忠誠心が、ファンダリアでは無く、貴女個人に有ると、そうプーイは宣言したの。 オフレッサー侯爵閣下は、さもありなんってご納得していたって。 だから、軍組織として、第四〇〇〇護衛隊は解隊されて人員は、第四〇〇特務隊に編入される事に成ったの。 そして、もう一つ」
「はい…… 何で御座いましょう?」
「第四〇〇特務隊は、第四軍直轄からその所属を、第四軍指揮官直属と変更されたわ」
「えっ? その…… つまり…… それは……」
「ええ、そうよ。 形の上では、軍籍を抜かないけれど、貴方は王太子殿下直属の特務隊となったの。 国王陛下より、ウーノルは第四軍の指揮権を移譲されているもの。 これにより、貴女の部隊は、軍部よりの命令を受領する事は無くなった。 貴女の直属の上司は、ウーノル只一人。 まぁ、苦肉の策ね。 王宮薬師院の方々の横槍を交わす必要もあったものね」
「王宮薬師院…… 調剤局の事ですか?」
「ええ、あちらはあちらで貴女を囲い込む事を狙って居たのよ。 ライダル卿辺りが色々と動いてらしたわ。 その思惑を叩き潰したって所。 さもなくば、王都より出す事が難しくなりそうなんだもの。 なにか理由を付けて、足止めをしようとね。 でも、ウーノルを始め、あの時、王太子府に居た方々は、それを良しとしなかったって事。 特に、「聖堂教会」の神官長様方が、貴女を辺境にへと、頑張って下さった。 狙いは…… そうね、民への慈しみ。 貴女本来の目的とは違うのだけど、それは事実、そうなるでしょうね」
「そうだったのですか……」
「ええ、そうよ。 貴女が動くときには、第四〇〇特務隊の面々と一緒。 貴方だけの臣下とも云えるわ。 あえて、それを認めたのは、貴女が向かう先が厳しい場所だから。 王都を出て、北の荒野に向かう貴女の安全を、何としても図りたいと云う意思なのよ。 魔導院も同意したわ」
「えっ? 魔導院がですか? 何故、そこに、魔導院が?」
「あら、忘れちゃった? 貴女、一応魔導院の魔術士の登録もされているのよ? 記章貰っているでしょ?」
「あっ! あぁぁぁ…… そうでしたね。 そう云えば……」
「それでね、軍属事務官のお二人には、新たな命令が下ったわ」
「クレアさんとスフェラさん…… 彼女達は女性で事務官でした。 荒野にお連れするのは…… その……」
「判っているわ。 彼女達がどんなに望もうとも、それは、死と同義語なんですものね。 だから、貴女方にはリーナの後方支援をして頂きます。 かつての伝手を伝って、北の情報を纏めリーナに送る。 任地は北部辺境域 北限の辺境伯のご領地」
「えっ? そ、それは……」
ティカ様の御言葉に思わず絶句してしまった。 彼女達を御実家に帰すの? 精神的外傷がまたぶり返す可能性が大きいわ。 いえ、必ずそうなる。 折り合いなんて、付けられそうにないモノ。
顔色を無くす、クレアさんとスフェラさんを視界に入れつつ、私は困惑したの。
どうしよう……
ティカ様は、事情をご存知とは仰っては居たのだけれど……
それは、ちょっと……
マズいと思うのよ。
そんな、私の想いを間違いなく見透かしたように、ティカ様は微笑み、そして……
机の上に、二枚の 『 白面 』 を置いたの。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
6,842
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。