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北の荒地への道程
そして…… 北の荒地へ (10)
しおりを挟むウーノル殿下は大階段を上っているの。 その間中、ひっきりなしに、侍従の方々が、様々な報告を持ってこられていたの。 矢継ぎ早に、様々な指示を出されつつ、向かわれる先は…… そう、王太子府なのよ。
王太子府に入られたウーノル殿下と、その側近の方々。
お部屋の中は人で一杯に成りつつあるの。 ベネディクト=ペンスラ連合王国の御使者が見えられるので、その準備も始まっていたわ。
そんな中で、ウーノル殿下が御言葉を発せられるの。
「アンネテーナ。 こちらのシャルロッタ伯爵令嬢が、君に話があるそうだ。 ミレニアムからも聞いている筈だが?」
「はい、王太子殿下。 兄より、聞き及んでおります。 ドワイアル大公家の連枝の者が、殿下に直言したいと…… 申し訳ございません」
「規定により、それは無理だが、シャルロッタ伯爵令嬢は君の乳姉妹であったな。 伯爵令嬢の話は君が受けるように。 その話の内容は…… 北部辺境域の実情についていだと思われる。 ドワイアル大公が調べ上げている事とすり合わせる必要もある。 大切な情報だ。 伯爵令嬢の話を聞き、纏め上げ、報告書に…… 提出先は、外務大臣、国務大臣、軍務大臣、そして、私だ」
「御意に……」
ミレニアム様が、そこで声を上げるの。 きっと、先の御三方、及び、ウーノル殿下への報告書ともなれば、相当な現実を知る事に成ってしまう。 非情な現実を、アンネテーナ様がお聞きになり、心を痛める事を心配されたのよ。
「殿下、それは…… アンネテーナに報告書の作成をさせるのですか? それは、あまりにも……」
「ミレニアム。 兄として、アンネテーナの受ける衝撃を心配するのは理解する。 しかし、思い出せ。 今宵、大舞踏会に於いて、アンネテーナは正式に私の婚約者として定めらた。 つまりは、王太子妃となる。 更に、いずれはこの国の国母と成るのだ。 そうなれば、わたしと同じものを見、そして、同じ報告を聞く。 さらに、私が知らぬ事も、聞かねばならぬ立場と成る。 既に定まったのだ。 聡いアンネテーナは、理解していると思う。 私の隣に立つという意味を。 そして、私は確信している。 アンネテーナならば、十全に私の隣に立てると。 ミレニアムの心配は、人として、肉親として、大切な妹を思う兄として、当然とは思うが、彼女は既に一人の淑女、それも、未来の国母の道を歩み始めている。 理解して欲しい」
がっちりと、云われてしまったね、ミレニアム様。 そう、アンネテーナ様は、もう、王太子妃としての役目を負われてしまったの。 だから、非常な現実も直視しなければならないのよ。
ウーノル王太子殿下がそう望まれているもの。 お飾りの ” 王妃殿下 ” なんかにはさせないと、そう、仰っているのよ。 真意に気づいたミレニアム様は、恭しく胸に手を当て、頭を垂れられたわ。
「アンネテーナ。 王太子府の小部屋を使うか? それとも、王宮学習室の私室で話し合うか?」
「出来る事ならば、王宮学習室の方が良いと。 此処では、シャルロッタ伯爵令嬢が委縮してしまい、話さぬ事柄も御座いましょう。 父に…… いえ、外務大臣閣下に報告するだけの情報を聞き出すためには、わたくしの私的な空間の方が宜しいかと? 乳姉妹が、表敬訪問したと、そういう風を装えば、どなたにもご迷惑をお掛けしないと思われます」
「よし、判った。 アンネテーナを王宮学習室に。 護衛騎士に命じる。 絶対に、後宮関係者を入室させぬ事。 どうも…… 嫌な感じがする。 国王陛下にあれだけ愚かな、宣下をさせた者達が居るからな。 警備は厳重に。 ティカ。 魔方陣は稼働しているか?」
「殿下。 勿論に御座います。 王宮学習室の防御魔方陣は健在に御座います」
「宜しい。 では…… アンネテーナ。 頼んだ」
「御意に…… ベローチェ。 ご機嫌伺いに訪れてくれて、嬉しいわ。 殿下の御許可も出ました。 王宮学習室のわたくしのお部屋でお話をしましょう」
「アンネテーナ様。 有難うございます。 殿下のご配慮、アンネテーナ様のお心遣いに感謝申し上げます」
ウーノル殿下は一つ頷くと、護衛騎士たちに守られ、王太子府より退出する二人を見送ったの。 今度は、ルフーラ殿下の方を見やり、言葉を紡がれるわ。
「ルフーラ殿。 御使者の方をお迎えする前に、我らの方も準備をしたいと思います。 宜しいか?」
「人を待つと?」
「左様に。 国王陛下は、神官長パウレーロ猊下からの祝福を受けられなかった事に、かなりの衝撃を受けられた模様です。 今は後宮に向かっているとの事。 ” 親征 ” の、現実的な話は、明日以降となるでしょう。 陛下の側近でもあり、重鎮の方々にも、ここに集ってもらう事に致しました。 御使者の口上を、皆に直接聞かせたいのです。 宜しいか?」
「……ご配慮誠に、有難く存じます。 特別な報告となりましょうから、きっと、その方が良いと。 お待ち申し上げます。 先に使者と会う事、叶いませぬか?」
「控えの間をお使いください。 御使者を御通しいたします。 こちらの準備ができ次第、お知らせ申し上げますので、暫しお休み頂ければ」
「有難い事に御座いますな。 拙からも、感謝を。 では、暫し」
フルーラ殿下は、側近の方々を連れ、小部屋の方に移動されたの。 えっと…… そうねぇ…… 私は…… どうしたらいい?
ティカ様に、そっと耳打ちするの。
「ティカ様。 あの…… わたくしは…… 王太子府に居ても? これから、高位の方々が見えられるうえに、ベネディクト=ペンスラ連合王国の御使者の方も見えられる。 そんな大事に、わたくしが居ても?」
「リーナは、ここに居なさい。 貴女にも、関係のある話かもしれない。 なにか、予感がするのよ。 そう、様々な情報に裏付けられた予感がね。 それに、今、貴女が王城内を移動する事は、出来ないわ。 言われでしょ? 貴女も護衛対象なんだから。 護衛騎士隊の面々もかなりあちこちに出払っているもの。 それに…… 気に成るでしょ? 御使者が誰なのか」
うん…… そう……
ティカ様も気が付いていらっしゃるわ。 と、云うよりも、御存じなのかもしれない。 私は……気になるの。 ワイバーンで飛来され、バイコーンの馬車で王城に入られた、その御使者の事。 とても、とても…… 気になるの。 だって、そんな特級の移動手段が使える人なんて……
――― 異国に嫁がれた、あの尊き方 ―――
以外に……、
思い浮かばないんだもの。
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