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北の荒地への道程
そして…… 北の荒地へ (1)
しおりを挟むベローチェ様の腕を取られて、バルコニーに連れ出されたミレニアム様。
その後に続く私。 ついて来て欲しいと、そう仰っているんだもの、仕方ないもの。
ミレニアム様がそう仰ると言う事は、きっとベローチェ様が相当、性格が苛烈な方って事だと思うの。 一人では抑えきれないと言う事かな?
暴走気味のお嬢様と云う事? ティカ様のご様子を伺うと、頷きを以て許可下さったの。 たぶん…… 彼女の事を御存じなんだと思うの。
私の乳姉妹なんだけれど…… 全く、彼女の ” 事に関して ” の『情報』は、無かったの。
彼女もまた、秘匿されし ” お嬢様 ” なのかな?
えっと…… シャルロッタ伯爵は、ドワイアル大公家の御連枝と、そう覚えているんだけれど…… えっと…… 確か、アンネテーナ様と、私の ” 乳母 ” に成って下さったのって……
ドワイアル大公閣下の従妹様ッ!!
お、思い出したわッ! とても、大公閣下と近しい方だったの。 ポエット奥様とも友誼を結ばれていて…… お名前は…… ジェニエーレ=プリチェット=シャルロッタ伯爵夫人!
生まれたての私たちを、とても、とても、慈しんで、優しい笑顔で私たちを見詰めてくださったのよ。 アンネテーナ様と、私の傍らでお乳を飲んで、泣いて、眠っていたのが…… この素敵なお嬢様に?
十五年振りの、ごきげんよう! ですものね。
アンネテーナ様の周囲…… と云うよりも、ウーノル殿下の周囲は、ティカ様が固められていたから、私が暫くお側を離れても、問題は無いわ。 きっと、ティカ様も、私がミレニアム様と同行する事を望んでらっしゃるのかも?
―――― それほど、強力な ” お嬢様 ” なの?
^^^^^
満天の星空。 秋の風がゆったりと、舞っているの。 穀物の香りが、そこはかとなく漂う、秋の宵。 ” 威風の間 ” に併設されているバルコニーの上に、私たちは居たの。
ミレニアム様は、簡易的な【防音】の魔法を発動して、周囲に会話が聞こえなくしているの。 私?
わたしには、聞こえているわ。 だって、とっても簡易的な魔方陣なんだもの。 聞こえちゃうのよ。 簡易【防音】の魔方陣の中で、かなりの大声でお話に成っているのよ。
周囲から見ていると、ドワイアル大公子息が、伯爵令嬢に声を掛けているようにしか見えないわ。 でも、その会話の内容の剣呑な事、剣呑な事……
「ミレニアム様ッ! 北域の汚染は、既に中域にも届きつつあります。 さらに、強力な魔物もまた、出現し始めました。 御領の守備兵では、対処が困難になりつつあります。 北部辺境最北端の、スクートム辺境伯家の御領は、ほぼ全域が汚染区域に成りました。 領民は、中域、南域で難民として収容しておりますが、この先、中域にも汚染が進んでまいりますれば、彼らを抱える事も不可能になりますッ!」
「判っている。 スクートム辺境伯家の窮状は、王都でも話題に成っていた。 王太子殿下も、動かれつつある」
「そんな悠長な事をしている場合では御座いません! すでに、スクートム辺境伯領の全域と、御連枝の御領の多くの地域が汚染に沈んでおりますのよッ! 作物も育たず、水も毒と化し、人が生きていく事すら、困難で成りますのよ? 今、この時でさえ、時間が惜しいくらいにッ! 秋季大舞踏会など…… 北部の人間にとっては…… ウゥゥゥ」
密かな嗚咽が届くの…… そんなに酷い状況に成っているんだ…… 聖堂教会の聖堂騎士様方が、汚染地域の浄化に関わられていると…… そう、デギンズ枢機卿様は、公言されていたんだけれど…… その辺はどうなのかしら?
ミレニアム様も、その点が気に成っていたのでしょうね。 ベローチェ様の震える肩に手を伸ばされて、優しく優しく撫でながら、御言葉を発せられるの。
「聖堂教会の、聖堂騎士達が浄化を実施しており、一定の成果は出ていると…… デギンズ枢機卿からの報告が在った。 違うのか?」
キッと、ミレニアム様を睨みつけるように見るベローチェ様。 その瞳には、怒りの色が浮かんでいる。 息を吸い込み、叩きつけるようにミレニアム様に状況を伝えられたの。
「聖堂騎士? あいつらが何をしているか、王都の方々はご存じないの? 聖堂の聖名に於いて、物資の供出を強要し、来年の為の種すら奪っていくのよ? 女性への乱暴は後を絶たず、領都の役所には苦情や嘆願が山の様…… 聖堂教会に苦情を伝えても、土地の ”清浄” 任務をやめるぞと、そう脅される…… その ” 清浄 ” だって、効いているのか、効いていないのか…… それらしい事はしている様なの…… でも、それで、汚染が止められた…… 浄化したなんて話は、聞いたことが無いわ!」
「なんだとッ! そ、それは、誠か?!」
「嘘何て…… 吐かない。 どれだけの人が…… 何人の女性が…… 涙に暮れたか…… 判っているの? 北部領域に於いて、聖堂騎士は悪夢の象徴なのよ! 彼らの姿を見たら、街の女性や子供達は皆、家の奥深くに引き込んで震えて彼らが居なくなるのを、待っているのよッ! こんなバカな話ある? 人の助けの為の聖堂教会が、人を苛んでいるのよ!! その上、この頃、北部辺境領の聖堂都市 ”ソデイム と ゴメーラ ” に、協力と云う名の強奪が平然と行われているのよ! お父様も、お母さまも、頭を抱えているわ! 兄は…… あいつらに盾突いて、『大怪我』を、負わされたのよッ!!」
「なに?! ワズワース=コルネリアス=シャルロッタ子爵が、大怪我? そんな話は、来ていないぞ?」
「報告される訳は無いわ…… それだけ、北部辺境域では、聖堂教会の御威光が強いのよ…… 心ある神官様が、御兄さまの傷を癒してくださってはおられますが…… それも…… 限界が御座いますもの!!」
「命の危険はッ! ワズワース殿は、生きているのかッ!」
「ええ…… 生きてはいるわ。 膝を砕かれ…… 腕も…… 日常生活は大丈夫な程には、心ある神官様に、癒して頂いたわ…… だけど、二度と剣は振れなくなったわ…… フフフ…… 聖堂教会なんて…… 何が聖職者よッ!! 北部領域の者達は、もう、聖堂教会で祈りを捧げる事は無いわッ!!」
歪むミレニアム様の御顔。 そうね…… そんな事に成っていたなんて…… 大公家にも伝えられていなかったって事でしょ? つまり、彼の地の聖堂教会の威光はそれほどに強いって……事なのよ。
「グ、グゥ…… 此処で、待て。 アンネテーナを通じ、王太子殿下に話を通す。 すでに、王太子府には、情報は上がっては居ると思うが、北部辺境域の苦境と苦難を直接、王太子殿下にお伝えする」
「わたくしが、直接……」
「駄目だ。 それは、許されない。 お前には御前伺候の御許可は下されていない。ここで待て。 その間…… すまない、リーナ殿。 こいつが暴走しない様に、見張ってくれないか?」
突然の御指名…… えっと、グッと声を詰めて、ミレニアム様を見詰めるの。 眉を下げ多少顔を赤らめながら、私を見詰めてられるわ。 ……仕方ないわ。 お早くお戻りください。
「そこまで仰られるのは、少々、頭に来ますが…… 御義兄様の御言葉ですので…… お待ちしております。 で、でもッ! そちらの御方に、ご迷惑なのでは? えっと…… お名前は?」
やっと、自己紹介が出来るわ。 私に視線を向けられたベローチェ様の目が見開かれるの。 かなり…… 驚かれているのよ。
「リーナに御座います。 第四軍 第四〇〇特務隊 指揮官、薬師リーナに御座います」
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