その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北の荒地への道程

北の荒地への道程 大舞踏会 (9)

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 防御魔方陣の施されている場所に帰ると、同じようの戻られていた、アンネテーナ様がとても、初々し気に、恥ずかし気にされているのよ。




「アンネテーナ様、おめでとうございます」

「有難う…… リーナ。 嬉しいわ」

「アンネテーナ様の行く先に光を。 お祈り申し上げす」

「ええ、献身と責務を果たすべく、これからも研鑽を積みますわ」

「アンネテーナ様で有れば、素敵な王妃殿下と成られるでしょう。 そう、確信しております」

「そんな言葉は、云わないで。 でも、嬉しいわ」




 ニコリと微笑みあい、私は彼女の後ろに下がったの。 そう、彼女を含めた高貴なる方々の御身に危険が降りかからない様に、警戒を始めたのよ。  国王陛下が、王妃殿下の御手を取られ、王座から離れられる。 近衛侍従さまが、豪華なマントをお受け取りになるわ。 


 王笏は宰相閣下がお預かりに成られるの。


 手を合わされ、宮廷楽団様方の優雅な音楽に乗り、ダンスを始められるの。 お美しいお二人が踊られる姿は、流石、国王陛下と王妃殿下だと、感心するわ。 とても、楽し気に踊られるのは国王陛下。


 半面、王妃殿下は…… 


 ちょっと、不安気なご表情を浮かべられておられたの。 国王陛下から度々視線を外されておられ、その視線の先を見ると…… そこに居られたのは、表情を無にしているデギンズ枢機卿。 居られる場所は、パウレーロ猊下のお側。 でも、御随身の外側にその身を置かれておられたの。

 その様子は、まるで阻害されている人の様。 彼の側近たちは、かなりの人数が、新年祈願祭の事で役職を剥奪されたと聞くの。 だから、彼の影響力がかなり落ちているとも。 噂では、聖堂教会内部でかなりの粛清もあったと。

 デギンズ枢機卿様が所管されていた部署が、その部門ごと無くなったり、大きくその権能を制限された場所もあるらしいわ。

 噂の出どころは…… 王宮薬師院。 ほら、聖堂教会薬師処からの無茶な下級薬師の要求が無くなったって、そう人事局長のコスタ―=ライダル伯爵が仰っておられたもの。 つまりは、聖堂教会薬師処がその権能を著しく制限されたって事ね。 

 穿って見方なんだけど…… そうね、媚薬やら精力剤やらのイケナイお薬の製造元が、つぶされた。 そして、薬師処が目指していた、” エリクサー ” の調剤を断念したって事かしら? それとも……

 嫌な予感がするのよ。 あれだけ固執していた、” エリクサー ” の調剤を断念するはずはない物…… と云う事は、調剤する必要が無くなった…… 可能性が在るのよね。 入手先として一番に考えられるのは…… マグノリア王国 統一聖堂 かな?

 あそこなら…… いろいろと暗躍されているし、人体実験も辞さないって、そうシルフィーも言っていたものね。 ある程度の目途が立ったって事なのかしら? それを供与される王国側のデギンズ枢機卿の立場は……

 そうね、完全にしもべ状態になるわよね。 あちらの王家…… と、云うよりも、その背後で彼らを操っている、 マグノリア王国 統一聖堂の方々の強い手札となったって事かしら?

 彼を足掛かりに、国王陛下や、王妃殿下を取り込み、王国を弱体化させ、最後には侵犯を狙っている…… 宗教により王国を抑え、そして、神の王国を創る…… 

 そんな、暴挙を狙っていると…… シルフィーが、そして、ティカ様の ” 影 ” な人達が、教えてくれた事なの。

 だから、だからこその、この警備状況なのよ。 緊張感がとても強いの。 そして、取り込まれているであろう、デギンズ枢機卿の行動も、要監視対象なのよ。 でもね、パウレーロ猊下の御出ましと、そして、その強権で彼はとりあえず抑え込まれているわ。 猊下が居られる限り、彼は無茶な事を言い出せない。

 なかなかの策士がいらっしゃるようね。 誰が、彼の尊き御方を、この ” 威風の間 ” に、お呼びあそばされたのか。 体調の方は…… まぁ、『あの魔法』で…… 回復はされたわよ? 確かに、お元気には成られた。 でも、とってもご高齢なのよ?

 おばば様と一緒に戦野を駆け巡られ、戦塵をたっぷりと浴び、人が死んでいく絶望も、傷つき倒れていく様を見続けておられた方のなのよ? もう十分でしょうに…… 休まれて、然るべき御方なのに…… 

 ファーストダンスが終わり、王太子殿下は規範に乗っ取り、アンネテーナ様に御手を差し出されるの。 いよいよ、ボールルームに足をお運びに成るわ。 ……護衛船団方式の警護…… 今回もするのかしら?

 わたしには、その旨のお話は頂いていないわ。




「リーナ心配しないでね。 今回の司令塔は、護衛騎士の方々。 貴女が見事に統率した、学園舞踏会の護衛方式をモノにされているわ。 殿下も仰ったでしょ、貴女もまた、この舞踏会では護衛対象。 だから、貴女にはなんの負担もかけないわ」

「ティカ様…… 不安でなのです。 護衛騎士の方々は、【気配察知】は展開されていないはずですもの」

「そうね、その点はね。 だから、私の防御魔方陣に直接接続する権限を渡してあります。 そして、そこには、貴女の【気配察知】の情報も常に接続されておりますわ」

「わたくしの魔方陣の情報がティカ様の魔方陣を通じて、彼等に伝えられ、いかなる事態にも、対処されていると?」

「ええ、その通りよ。 だから、貴女は心配しなくてもいいの。 貴女同様、近寄る悪意には敏感に反応するわ」




 ティカ様の微笑みは、それはそれは、自信に満ちたもの。 そうね…… ティカ様がそう仰られるなら…… そうなのかもしれないわ。 私の感覚は鋭敏に研ぎ澄まされているし、なにかあっても、ティカ様にご報告していれば、問題も対処可能なのかな…… 

 そういうティカ様も、ボールルームに出られたの。 お相手はエドワルド=バウム=ノリステン子爵。 にこやかにお誘いに乗っておられたの。 ベラルーシア様もお出に成っている。 お相手は…… 


 ―――えっ?


 オンドルフ=ブルアート=ファンダリアーナ第二王子殿下なの? う~ん、それは…… ちょっと、ビックリね。 とても仲睦まじい様子なの。 何時の間に…… それをご覧になった、ウーノル殿下は、満足気に頷かれていたのよ。


 とんでもなく、いろんな思惑がこのボールルームに巻き起こっているって云う訳ね。


 ふぅ…… なんだか、胸が一杯に成って来たの。 私の知らないところで、幾つもの策謀が練られ、幾つもの対策が施され…… 陰謀と野望と光と闇が交錯する、この舞踏会が…… 目の前で開催されているって云う訳なのね。

 はぁ…… 出席は、したくなかった。 こんな姿で、この場に居たくなかった。 ただ、ただ、その想いだけが心に浮かび上がる。 そんな想いの源は、そう、楽し気に踊られている一組の高貴な方の御姿。



 ―――― マクシミリアン殿下と、公女リリアンネ殿下。


 尊き御方達の、” 笑顔 ” が……、” 微笑み ” が…… ” 交わされる視線 ” が…… とても、お似合いのその御姿が……  周囲の楽し気な雰囲気に溶け込んで、まるで王宮の花の庭園の様…… 私は…… その中にそっと咲く、” 山野の野草 ” ね。


 華やかな中では…… 落ち着かないの。 役割と、役目を果たしている…… それだけが心の拠り所ね。 もし、私の心が弱っていたなら、きっと、逃げ出していたかもしれないわ。 

 ―――愛して止まなかった人の、幸せそうな御姿を拝見するのは…… お隣に自分が立てなかった事に、心の奥底の前世の私の心が、痛みを発しているのだもの。

 気を張って周囲の気配を読んでいる私に、緊張の面持ちで声をかけて下さった方がいらしたの。



 なにをそんなに緊張しているのか…… 心なしか、少しお声も震えているのよ。




「リーナ殿! よ、よかったら…… 私と、一曲、踊ってもらえないだろうか?」




 ―――― ミレニアム様。



 何故、ドワイアル子爵とあろう、尊き御方が、私の手を取りダンスを願おうとされているのかしら?





 ” きょとん ” と、してしまった私。



 決して嫌では無いのだけれど……


 ミレニアム様の思惑が……

 奈辺に有るのか……


 

 理解しがたかったの。



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