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北の荒地への道程
北の荒地への道程 大舞踏会 (4)
しおりを挟むひとしきり、ルフーラ様とウーノル王太子殿下のお話が盛り上がり、花が咲く。
南方の方らしく、陽気に明るく振舞われるルフーラ様。 ウーノル殿下も、お話の間中、とても楽し気にされているわ。 心躍るような、海でのお話や、他国での商売のお話。 冒険者さんさながらに動き回られていたルフーラ様の御話は、とても興味深くウーノル殿下の御心を掴んで、離さなかったのかもしれないわよね。
なんだか、年相応の少年の様……
なんだかんだ言っても、ウーノル殿下はまだ御年十四歳。 心躍る冒険譚は、耳に心地いい筈なんだものね。 御年まで、王都ファンダルから一歩も外には出ていかれていないと、そうお噂されているウーノル殿下。 外の世界については、とても強く惹かれるものが在るのでしょうね。
私が王太子府に伺候した時でも、時折ではあるけれど、南方辺境領のお話をしきりに聞きたがってお出でになったもの。 実際にそこに暮らし、見聞きした者の話は、書籍による知識よりも、臨場感にあふれ、そして、個人的な体験でも、そこには真実が在るのだものね。
殿下は、強く…… そう、強く王城の外の世界に興味をお持ちなんだもの。
” 国は、国民の安寧を以て、その国体と成す。”
そう言って憚らない、ウーノル王太子殿下。 彼にとっては、王国各所のお話は、ただ聞くだけでも、有意義なものとなるの。 まして、国外の方々から見た、ファンダリア王国。 彼らの見識が優れていればいる程、王国の国民の生活を垣間見えるともいえるわ。
用心深く、全てを見通すような、そんなウーノル殿下。
情報の収集はお座成りになされるような方では無いわ。 すべては、国民の為、そして、ファンダリア王国の為に…… とね。 きっと、独占して、お話を聞きたかったに違いないわ。 そう思わせる為人なのよ、ルフーラ殿下って ” お方 ” はね。
^^^^^
そうは言っても、我が国の王太子殿下で有らせられるウーノル殿下。 その辺は判ってらっしゃるのか、周囲の側近とも言える方々の紹介をされていたの。 マクシミリアン殿下、公女リリアンネ殿下を筆頭に、並みいる高位の方々を御紹介あそばしていたわ。
そして、アンネテーナ様に関しては、 ” 我が妃となる者 ” とね。
丁寧にカーテイシーを捧げるアンネテーナ様。 その手を取り、口づけを一つ落とされるルフーラ様。 美丈夫のルフーラ様の仕儀に顔をほんのりと上気されるところが、アンネテーナ様らしいのよ。 これが、ポエット奥様ならば、顔色一つ変えずに、ただただ、淡々とその儀礼を受け入れられるわ。
小気味よい御言葉と共にね。
王妃教育が本格的に始まれば…… 女史が教育官に復職されれば…… きっと、こんな時の対応も、しっかりと教え込まれるのよね。 王城での王妃殿下となれば、その一挙手一投足にすべて ” 意味 ” が込められるのだもの。 特に、他国の御使者や、王侯諸侯とお会いになる時にはね。
虚々実々の駆け引きは、国内の貴族への対応とは、次元が違うのだものね。
大変出来の良い、アンネテーナ様ではあるけれど、あくまでもそれは、ファンダリア王国の王城内に限っての話。 前世でね、まだ、解任される前の女史に、口を酸っぱくされる程に、御教えを受けた言葉が脳裏を掠めるの。
” 王城に於いて、他国の者と相見える場合、そこは、他国も同じ。 すべての言動は、ファンダリアの国を、民を代表しての事と、そう心しなさい。 さもなくば、貴女の言葉一つで、幾多の者達の生活が脅かされる事となるでしょう ”
――― だったわ。 思い知るのは、王妃殿下の重責。 何よりも重く、何よりも大切にしなくては成らないのが、王国の体面であり、矜持。 侮られず、畏れられず、中庸を旨とし、諸外国の者達と渡り合うの。 アンネテーナ様…… 頑張って! 私の姉妹ならば、出来るわ! きっと出来る。 ポエット奥様の薫陶と、女史の御教育が有れば、オーガに金棒。
決して、誰にも後ろ指を刺されないような、そんな偉大で素敵な王妃殿下に、御成りに成られるから!
^^^^^
ニコニコと微笑み、そんな事を考えながら、その様子を見ていたの。 ティカ様もルフーラ様には警戒心を解き、この場所に立ち入る許可を防御魔方陣に与えた様ね。 だって、ルフーラ様が、ちゃんと、ウーノル殿下の御座所の防御魔方陣の内側に入っていたんですもの。
そっと、ティカ様の表情を伺うと、ティカ様と目が合ったの。 彼女はそっと頷いておられてわ。 私は前には出ないで、アンネテーナ様の影に隠れるように、していたの。 だって、私は高貴な方たちとは立場が違うものね。
なんで、そんな私に、気が付かれたのよ? ティカ様の眼鏡は、ちゃんと書けているっていうのに!
「……そこに、居られましたか、薬師リーナ殿。 いつぞやは、わが国民に対しての献身。 拙は、上級王太子として、感謝申し上げます。 貴女の ” 言 ” 無くば、第四王家に対する忠誠心から、命を失った者も多く出た事でしょう。 上級王陛下、並びに、上級王妃殿下からも、” よしなに ” との、御言葉、預かってまいりました」
「ルフーラ=エミル=グランディアント上級王太子殿下、お声がけ誠に持って勿体なく存じます。 上級王太子殿下様への直言、お許しいただければ幸いに御座います」
「許す。 いや、そうでは無くて、ダクレール領での頃の様に……な」
「勿体なく。 上級王太子殿下に立太子されたからには、かつての様にはお言葉を交わす事、叶いますまい。 何卒、ご容赦を」
「……堅いですね、薬師リーナ殿は。 確かに、ダクレールの港町では、ルフーラ=エミルトンではありましたな。 拙は、一介の商会の会頭でもありましたな。 しかし、感謝の念はどのような立場に立とうとも、変わりは御座いませんよ。 薬師リーナ殿」
じっくりと私を見詰めるその瞳には、すでに報告は受けているよって、浮かんでいたのよ。 そうね…… 彼とは、ダクレール領の街のカフェのバルコニーで、彼の本心を伺ったものね。 そして、「守護の護符」を渡したんだもの。
あの時の言葉は、覚えてらっしゃるようね。
” わたくしは、ドワイアル大公家の息女では御座いません。 一介の庶民となる、エスカリーナ ”
そして、そのエスカリーナは……、光芒の果てに消えたのよ。
だから、ここに居るのは、” 辺境の薬師錬金術師 リーナ ”
それだけは、違える事の出来ない、 ” 事実 ” として……
理解してらしたの。
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