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北の荒地への道程
北の荒地への道程(4)
しおりを挟む最初の検問所にやっと辿り着いて、馬車を降りるの。
行く先は、臨時に展開されている天幕。 下位の貴族さん達も、不満な面持ちで歩いてその場所に向かっているわ。 仕方ないよね。 規則で決まっているもの……
物々しい警備の中、天幕に到着、 出迎えてくれるのは、表情を消した、歩哨さんと周囲を油断なく見張っている兵隊さんの方々。 まぁ、すごい警戒態勢なのよ。 まぁね、不埒な者が王城に接近できない様にする為の検問所だからね。
そのうえ、ほら、居るのよ…… ” 強い闇 ” の、気配がするのよ。
それとなくだけど、シルフィーの警戒態勢が高くなっているのも、その証左。 どこの手の者かは判らないけれど、諜報、情報機関の者たちが配備されているわ。 今日の王都の警備は、王城直属の歩兵が担っているから…… 『王家の見えざる手』あたりかな?
「リーナ様。 害意は見られませんが、ご用心を」
「ええ、シルフィー。 ……王城に入るに際し、もって入る特別な物なんて…… 武器の携帯も許されているし…… 招待状……というか召喚状っていうか…… まぁ、御呼出しがあるから、心配はしてないけれど」
「左様でございます。 それにしても、物々しい警備ですこと」
流し目をくれるシルフィーの先に、男の人が一人。 まぁ……ね。 彼女が見知っている人だものね。 普通の、なんの特徴もない外見なんだけれど、纏う空気が違うのだものね。 アレかぁ……
「『王家の見えざる手』の第四位。 指揮官の階層に居る者です。 あの者がこの場所に出てくるのは、もはや異常としか……」
「それは、『疾風の影』 としての意見?」
「ええ…… そうですね。 驚きの方が、大きいです。 かなりの大物ですよ、あの方」
「なにか…… 情報が入ったのかもしれないわ。 神経を尖らして、その対処をしているって、そんな風にも取れるもの」
「リーナ様、今年の大舞踏会は、なにやら、いつもと違っております」
「そうね…… 私もその意見には、賛同する。 やはり、王太子殿下が、一年前倒しで、デビュタントされるのが、理由かもしれないし…… さらに、王太子妃候補とされている、アンネテーナ様が、正式にご婚約されるのかもしれないわね。 筆頭候補が取れるだけで、高位の貴族様方には、トンデモナイ衝撃が走るんだもの。 ほぼ、王太子妃…… つまりは、未来の国母が確定するんだものね」
” 状況 ” に、想いを巡らせる。 そんな所かもしれないわ。 ファンダリア王国の未来にとても大切なお二人だし、なにか事が有ればそれこそ、大問題になるんだもの。
ゆっくりと列が捌かれて行き、やっと、私たちの順番が巡って来たの。 かなり、時間を喰っているのは、下位の貴族様方の ” 贈り物 ” が問題になって、没収とか、一時預かりとかの処置をしなくちゃならないからね。 二番の検問からは、もうちょっと早くなるんだろうけど…… 最初の検問だったら、仕方ないよね。
歩哨の兵隊さんに見送られえて、天幕の中に入ると、明るい魔法灯火に出迎えられたの。 はぁ…… この明るさ…… 展開してある【探索】の魔方陣をごまかす為の物ね。 作りからして、王宮魔導院の魔術師さん製ね。 【限定詳細鑑定】の自動反応だものね、仕方ないわよね――――
” 見えちゃう ” のよ…… 魔方陣の詳細がね。
かなりの強度で紡がれているのは、一目瞭然。 きっと、警備の方の中に、有力な魔導院の魔術師さんがいらっしゃるのね。 そして、目を光らせていると…… 貴族の方の中には、【魅惑】やら、【魅了】の効果の付いた魔法具をつけてらっしゃる方も多いと聞くもの。 そんな物、王城内に持って入られたら、大問題に発展するものね。
ドレスコードの通達は出ているにも関わらず、そんな人たちも多いんだって……
―――― なんだかね。
結構な時間が消費されているの。 こんな事が後二回あるのよ。 きっと、指定された時間に間に合わないわよね、これって。 でもさ、今日いきなり命令が来て、ここまで来たんだから、上出来よね。 遅参する事は、とてもいけない事だけど、その原因を作ったのは、あちら側。
時間の余裕を下さらなかったのだもの。 それでも、お叱りを受ける様な事があれば、王太子殿下から頂いている、 ” 走り書き ” をお見せして、どうにかごまかそうと、そんな事を考えていたわ。 そうでもしないと…… ” 不敬罪 ” で、投獄されちゃうかも?
……さて、私の番が来たわ。 天幕の内側の、長机の前に立つの。 招待状を出して、テーブルに置く。 一応、ニコリと微笑んでおいたわ。 ちょっとでも、印象を良くしておきたかったし。
でね……
なんで、審問される官吏の方が、固まってらっしゃるの?
なんで、見る間に顔が真っ赤に染まっていくの?
なんで、口をアワアワさせているの?
よくわからない。 そのまま、微笑みとともに佇んでいると、やっと、官吏の方が再起動したのよ。 咳ばらいを二、三回してからね。 えっと…… どういう意味なのかしら? そんなに、庶民の薬師って、珍しいのかしら?
「ウォホン、 いや、失敬。 お持ちの御招待状は、こちらですか?」
「はい。 左様にございます。 王太子府よりの出頭命令となっております」
そう、問いに応えるの。 じっくりと見分する官吏の方。 わざとこちらに視線を向けない様にしているのが、なんだか不思議。 長机の上に施されている、照会用に紡がれた魔方陣の上に、その書状を載せると、書状の上に魔力で何やらが紡ぎ出されるの。
それを見た官吏の方が、目を剝くのよ。 信じられない様なモノを見たって感じでね。
そして、几帳の向こう側に声を掛けられるの。 出てこられた方は、王宮魔導院の記章をつけられた方。 そして、小声でゴニョゴニョと話されるの。 魔術師さんが、私に視線を向けるの。
そしたら、また、顔が真っ赤に染まるの。
―――― なんで?
でも、彼もまた、お仕事だからって、頑張って私に【探索】を掛けるの。 まぁね。 ジロジロみられるのは、いい気分じゃないけれど、身元というか、私本人という事を、確認しないわけにはいかないものね。
で、直ぐに視線を離されたわ。
「薬師リーナ殿。 ご命令が王太子府…… いいえ、王太子御本人からの物である事を確認いたしました。 御無礼の段、平にご容赦を」
「良いのです。 王城コンクエストムの警備に尽力されている方々に、頭が下がる思いでございますので。 それで…… わたくしはこのまま、検問を通る事が?」
「ご配慮、有難く…… 薬師リーナ様に於かれましては、” 中央の道 ” を御通行ください。 王太子殿下の御用命とあらば、最優先で御通し申さねばなりませぬ。 装備、装具も、そのままで。 薬師リーナ殿に置かれましては、任務に必要と、そう通達がございます。 王門まで、直接御通行ください。 尚、第二、および、第三検問での確認は必要御座いません。 王門で、この書状を見せていただければ、王太子府の侍従様がお出迎えになります。 こちらからも、ご報告いたしますので、お待たせは致しますまい。 王城 秋季大舞踏会をお楽しみください」
そう仰いながら、一枚の通行札を渡されたの。 大きな札ね……
にこやかに微笑みながら、受け取ったけれど…… そして、更にお顔が赤くなられた官吏さん。 よく理解できないわよね。
えっと…… どういう事? つまり…… 大公家とかの最高位の方々と同じ道を走っていいの? そりゃ…… 王太子殿下の御呼出しだから…… ちょっと混乱しつつも、丁寧に頭を下げて、天幕を出たのよ。
シルフィーも不思議そうな顔をしているわ。
私も同じような物ね。 何がいけなかったのかしら? これって…… 特権階級の横暴? それとも、何らかの配慮? よくわからないわ。 でも、これで、遅れずに登城できそうね。 貰った通行札。 この札があれば、直接王門に向かえるって事でいいのかしら? 御者をしてくれている、ラムソンさんにお渡しして…… 御者台に掲げるだけでいいのかな?
とりあえずは、云われるがまま、ラムソンさんに通行札を御者台に掲げてもらって、王通りの中央の誰も走っていない道を、走ってもらったの。
両側の馬車の列は延々と続いているのだけれど、それを横目に快適に早く進むのよね。ちょっと信じられないわよ。 その上、二番目の検問所も、三番目の検問所も、通行札を確認すると、警備の為に置かれていた、馬車止めの柵を除けて、皆さんが列を成して、頭を下げるのよ……
まるで、王族が乗る馬車にも匹敵する対処ね……
一体、書状から浮きあがたった、魔力で綴られた事の内容に何が掛かれた居たのか……
ちょっと、怖いわよね。
それでも、その通行札のおかげで、随分と時間の短縮になった事だけは、間違いは無いわ。 これで、遅れずに、登城できる。 遅れたら不味いものね……
王太子殿下の ” 御用命 ” なんだし……
私が、嫌々登城しているって事が…… 遅れる事で、伝わるのも……
王城、王太子府に集う皆様の立場や、権威、面目なんかを考えるに……
” この上も無く、問題になる ” だろうしね。
王太子殿下の ” 御用命 ” で、彼らこの国に君臨する者の ” 権威 ” を、守る為に頑張って時間通りに登城するのが、ファンダリア王国の国民の ” 義務 ” …… なんだよね。
―――― こんな事を考える私って、相当に ” 不敬 ” な態度のよね。
………………はぁ、
行きたくないわ……………… 王城になんて………………
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