その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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北の荒地への道程

お呼び出し

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 突然、ティカ様からの ” お呼び出し ” が、有ったのは、秋季大舞踏会の三日前。




 王太子府からも、王宮学習室からも、お呼び出しが無く、丸一日、王城外苑に於いて、第四軍の ” お仕事 ” を、していた日なの。

 王太子府も、宰相府も、まだ、わたしが秋季大舞踏会に『 護衛 』 として、出席させるかどうか、決めかねているみたいなのよ。 三日前なのにね。 

 理由は簡単。 秋季大舞踏会とあわせて、べネディクト=ペンスラ連合王国との通商条約が締結される運びとなった。 王太子府にあの日集められた人達が、あちらの ” 譲歩 ” の原因を知っているからなのよ。

 私が「穢れし森」に関する、何らかの情報を、あちらにお渡しして、そこから、あちら側の姿勢が急に軟化してね、ほぼファンダリア王国の草案通りに、『通商条約』の締結準備を終えたから。

 国家間の条約締結なんて、魑魅魍魎が百鬼夜行を何度も何度も繰り返すような、そんな交渉事。 それが、あっさりと、ファンダリア王国の望むままに確定したんだもの…… そりゃ、疑うよね。



 ――― 私が、”  ”、ベネディクト=ペンスラ連合王国に差し出したか……



 をね。

 彼の国にとって、喉から手が出る程、欲しかった情報で、まだ、ファンダリア王国が掴んでいないモノかも知れないと、そう疑われても仕方なかった。 一応、ティカ様がご一緒してくださったし、ティカ様の名声もあり、彼女が ” わたくしも知っている事ばかりを、お尋ねになりました ” って、そう証言してくださったから、私は拘束されていないのよ。

 ティカ様…… ” ――― わたくしも知っている事ばかり ――― ” って、それって…… 内容は言わずに、ウーノル殿下の前で微笑まれてね…… そう、ティカ様は嘘は言っていない。 ティカ様もよくご存知だし、あちら側も、確証が欲しかった事柄。



 私の素姓エスカリーナの生存ね。



 でも、他の人達は知らない。 だから、疑心暗鬼になるのよ。 特に財務関連の方々ね。 あまりにも、ファンダリア王国にとって有利な通商条約だったから。 ミストラーベ大公閣下は、小躍りして喜んでいるらしいし、ベラルーシア嬢も王国経済に関しては明るいから、ウーノル殿下のお側で、雀躍してるって。

 調査局の飢狼リベロット様と、次代の財務大臣アーノルド様のお二人が、とても、とても、警戒されているのよ。 それと、外務大臣で有らせられる、ドワイアル大公閣下叔父様もね。 外務的にはありえ無い程の ” 譲歩 ” だったんだものね。


 その譲歩を引き出したのが、私とあちら側の語らい…… 


 なんか、とっても怖い目で、皆さんが見てらしたのよ。 王城、王太子府にあれから何度か伺候したんだけど、その度にトンデモナイ視線を感じてたんだから……


 それに伴い、王宮学習室へのご訪問も、頻度が落ちたの。


 アンネテーナ様もお忙しいし、彼女の診察は月に一度で十分だしね。 王宮学習室での王妃教育のお供って言うのが、引っかかったらしいの。 あの場で、扱われる情報は、王国の秘事も多いからね。 ティカ様もご一緒されているから、《 ティカ様もご存知の事ばかり 》 って、そう云う事かも知れないって、一部の人達が考えるのも無理はないわ。

 と、云う事で王城から、少し距離が取れたの。 ウーノル殿下の周囲の方々の危機感から…… 物知らぬ、小娘が、国家機密を悪気も、意図もせず、駄々漏れにする可能性を潰すため…… って、所かしら?



 一応、準備だけは済ませてあるのよ。


  ………… 一応ね。



 このまま、出席不可……に、成らないかなぁ……

 なんて、思っていたの。 そんな中での、ティカ様のお呼び出し。 それも、三日前の今日ね。 先触れのお手紙を戴いたのよ。 いいえ、呼び出し状かな? 



 ” リーナ。 申し訳ないんだけれど、早めに ” 地下室 ”に来て下さらないかしら? わたくしに、時間を、下さらないかしら? お願いね ”



 走り書きにしては、とても流麗な文字が、私個人宛の秘匿紙に躍っていたの。 読んだ途端に、端から崩れ去るのよ、そのお手紙…… ほんと、ティカ様って…… 情報の隠滅に関して云えば、彼女の右に出る方は居ないと、そう思うのよ。


 結構、切羽詰った感じを受けたの。 だから、ご招待には応じるわ。 ええ、私に拒否権なんて無いものね。


 早めにって、ご指示があったから、急ぐ事にしたわ。 ” お仕事 ” を終えて、皆と一緒に第十三号棟に買える途中、私は何時もの食堂で、軽食のお弁当を買って帰ったの。 あちらのお部屋でも頂けるもの。 その旨は、クレアさんにもシルフィーにも伝えたの。

 シルフィーは付いてくる気、満々。 ラムソンさんもね。

 何時もの事だから、クレアさんに護衛隊の人達にことを頼んだの。

 第十三号棟に帰り着いて、秘密の地下通路の入り口から、ティカ様のお屋敷の地下室に向かうの。 あちらでの、『 護衛隊の訓練 』は、今日はお休み。 だから、私とシルフィー、ラムソンさんの三人で向かったのよ。




 ^^^^^




 この誰にも知られていない、王都の地下道。 王族でも知らないはず。 と云うのも、もともと、この地下道は、王都直下にあった、洞窟の一部。 ティカ様が地下の訓練施設と、魔法の鍛錬場を作られたときに、たまたま、洞窟の一部が露呈したのだそうよ。


 ―――― 中には、ウジャウジャと魔物が居たんですって。


 強さはさほど強くは無かった種類の魔物。 でも、数がとても多かったと、そうティカ様は仰っておられたの。 でね、そこからが、ティカ様らしいというか、無茶と云うか……

 まだ、ほんの子供だったティカ様は、自身の信頼できる方々を集め、鍛錬場を魔物闘技場モンスターハウス化されたのよ。 地下鍛錬場に入る事が出来る ” 一方通行 ” の魔法の扉を設置されて、洞窟内の魔物達を一定数、鍛錬場に進入させたの。

 そこで、彼女は攻撃魔法の鍛錬を行い、彼女の信頼できる ” 闇 ” の方々は、技の精度を上げていったのよ。 信頼できるお仲間さん達の中には、危うく殺されそうになったところを、ティカ様に助けていただいた方々も沢山いらっしゃるそうね。

 あの、地下施設に入ってこられる、ティカ様の”手”の方々。 どうりで、忠誠心熱く、強い筈よね。 そこで、ティカ様は攻撃系統の魔法を修めて行かれたのよ。 淑女の仮面を被りながらね。

 何年もそんな事を続けていれば、さしもの魔物達もその数を大きく減らしていくわ。

 そして、今度は、隙をみて、暇を見つけて、洞窟内の探索に乗り出されたのよ。 王都地下深くに存在した、その洞窟には、色々な種類の魔物たちが存在していたって、仰っておいでだった。 その殆んどをことごとく潰し、さらに厄介な魔物が居るらしい、深淵に向かう洞窟は、魔法の門で封じたんですって。



 ねぇ、ティカ様? 貴女は、一体 ” 何者 ” なのですか?



 ――― 安全が確認できた、地下洞穴は、そのまま、ティカ様のお忍びの経路に成ったのよ。 影の人達も、事、王都の中ならば、何処へなりとも速やかに移動できるようになったって、笑顔でそう仰られていたわ。 うん、あの地下施設でね……

 唖然としてしまったの。 そう、本当に唖然としてしまった。

 この地下道の事は、義父上様はもとより、ニトルベイン大公様だって、ご存じ無いって。 いいえ、一部は、ご存知なんだけれど、それも、ほんの少し。 全貌は、ティカ様のみ…… 今現在、ニトルベイン大公家が持っている、影達の中で、別格の扱いを受けているのが、ティカ様の手の方々。

 でしょうね…… だろうと、思ったわ。

 そんな、地下洞穴を繋げた道を、ティカ様は第十三号棟にまで、伸ばされていたの。 表を歩くよりも、遥かに安全で、他人の目や他国の間者さん達にも見えないこの経路は、私にとっても、とてもとても、心強いものでもあったわ。

 魔法灯火が続く、其の地下道を歩み、何故かちょっと焦りの雰囲気を醸しているティカ様の元に向かうの。 岩肌も綺麗に均されて、とても歩きやすいそんな地下道。

 私と、シルフィー、そして、ラムソンさんは、夕闇落ちた後の、静かな王都の町並みの下を歩いていったのよ。




      さて……




 なにを画策されておられるのか。

 人目に付かぬようにと、敢えて、そう仰られたティカ様。

 私には、わからない事情も彼女には、手に取るように知れる。

 だから、其の判断は、きっと……






 きっと、間違いの無い事だろうと、そう思うのよ。






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