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光への細い道
日常と、非日常 (1)
しおりを挟む日々の生活は、常に何かに追いかけられているような、そんな感じになってきたの。
自分の予定だけでなく、護衛隊の人達の訓練計画とか、シルフィー、ラムソンさんの二人の、戦力向上計画とか…… そんなモノも、考慮の対象になっていったからなのよ。
クレアさん、スフェラさんと私の三人で、行動計画表を作って、第十三号棟の一番奥の壁に貼り付けて、皆の名前を木札に書いて、今何処に居るか、何処に行こうとしているのかを、一目瞭然でわかるようにしたりね。
だってね、それぞれが、それぞれに成す事があって、その上、その成すべき場所がバラバラになってきているんですものね。 第四〇〇特務隊として、纏まりを持つ為には、必要な手順なんだものね。
^^^^^
第四軍、従軍薬師としてのお仕事も、かなり慣れて来たわ。 王城外苑の錬金室で、色々なお薬の練成は、とても楽しいの。 小型の錬金釜も調子いいしね。 かなりの術式を溜め込む事になったけれどもね。 もしね、もし、新たな薬師さんが、第四軍に配属さえれてね、薬品の練成に従事する事になっても、これで困らなくなる。
対外的には、大錬金釜は壊れた事になってはいるけど、此方も第四軍 軍団長…… 今はウーノル王太子殿下が居るから、補佐なんだけれど、エントワーヌ=オリビス=オフレッサー侯爵閣下に、内密って事で、正常に稼動できるようになっているって、報告したの。
―――― 侯爵閣下は、とても、お喜びになったのよ。
聖堂教会内部で、色々な動きがあったって、その時にお伺いしたわ。 なんでも、デギンズ枢機卿が著しく影響力を失って、神官長パウレーロ=チスラス猊下が、影響力を取り戻し、王都聖堂教会が以前ほど政に、口を出さなくなっているって。
デギンズ枢機卿様は、今でもガングータス国王陛下の側近ではあるのよ、でも、前ほどには、その発言力は無くなったわ。 他の側近の方々が、国王陛下のお側に侍り、枢機卿様の発言に対し不備を次々と指摘できるような体制に変更されたって。
さらに、後宮への伺候は、コレを禁じられ、後宮付き神官様は、別の枢機卿様が…… たまに、神官長チスラス猊下、御自ら伺候されるようになったって聞くわ。 まぁ、その間に、デギンズ枢機卿様がやってきた、色んな事なんかが、白日の下に晒されて、王都聖堂教会の大聖堂に激震が走った事は、まぁ…… ねぇ……
これに対し、ウーノル王太子殿下は、即決でお言葉を発せられたの。
” チスラス猊下の御心のままに、此れまでの事を糺せられれば、宜しかろう。 聖堂教会は、聖堂教会。 民の信仰の根源にして、精霊様への祈りの場。 王家、王宮がとやかく嘴を挟む事はなりますまい。 自浄は、出来ましょう。 なにせ、精霊様の御心に則し、人々の祈りを精霊様にお届けするのが、本来の役割。 ファンダリアの民、諸々の貴族、王家の者。 みな、猊下に期待しております ”
ってね。
そう、王国上層部は、聖堂教会に対して不介入を決め込んだのよ。 その代わり、聖堂教会の政い対する掣肘も一切考慮しないって、そう宣下されたってこと。 国王陛下は、側近にデギンズ枢機卿様が残るって事で、妥協されたようね。 これからは、主に国王陛下の御宸襟の安寧の為にご助言されると、そう云う事になった……
一部の人達には、火種を残したままにしたって…… そう、囁かれているんだけれどもね。
今、デギンズ枢機卿様を国王陛下から引き剥がすと、色々と不味い事が起こりそうなので、重監視の上行動を制限したほうが、得策だと…… そう、説得されたみたい。 オフレッサー侯爵閣下が苦笑いと共に、そんなお話をしてくださったの。 一介の薬師である私にね。
「薬師リーナ殿は、王宮に伺候される機会も有る。 こういった、有象無象の噂話も、あの魔窟では行動の指針となり得る。 だから、聞かせた。 いいな、薬師リーナ殿。 貴殿は、今や重要な人物になって居るのだ。 行動、言動には重々、慎重にな。 足元を掬われ、言われ無き罪を擦り付けられるやも知れぬからな」
「まぁ、オフレッサー侯爵閣下。 わたくしは、そのような大それたモノでは、御座いませんわ。 淡々と、粛々と、お薬を練成し、患者さま達を癒して行く。 それだけに御座います」
「王太子妃になられる方の、主務医務官に任じられていてもか?」
「適当な人材が…… いらっしゃらなかった。 いずれ…… 変更されるかと?」
「……王太子殿下に於かれては、その選択は無いであろうな。 王宮学習室を完全に管理下に置かれた殿下は、その中に信を置かれない者を入れるとは思えぬ。 人選が凄まじいからな。 ……薬師リーナ殿。 貴殿はその筆頭ともいえるのだぞ。 そこは、思い違いするな。 ドワイアル大公家の令嬢の身の安全に関して、貴殿は最後の防壁となりかねん」
「……その。 御買被りでは?」
「いや、違うな。 買被りではない。 現に、王宮学習室の医務官は、貴殿一人。 あとは、補助的に資格を取得している女官がその任に当たっている。 その者達もまた、信任厚き者達だからな。 殿下に於かれては、王宮薬師院も又、監視対象になっていると思われる。 まぁ、あんな事が有ったからな。 王宮薬師院に置いて、暗殺未遂とは…… 前代未聞だ」
「御意に……」
第四軍に於いても、そんな噂話が出回っているの。 と云うより、事実ね。 だって、王太子殿下は隠そうとは去れていなかったんだものね。 ……貴種の方々が、その身分はおろか、王国籍まで剥奪され、遊民として処刑されたあと、亡骸は一般集合墓地に埋葬って…… ね。
…… 十七名の命を懸けた戒め …… なんだか、遣る瀬無い。
それでも、これで、かなり大手を振って、大錬金釜を使った練成が可能になったの。 まだ、まだ、秘匿案件ではあるのだけれど、それでも、順次小型錬金釜の術式を移行できるわ。 大錬金釜の方が精度も高いし、なにより、多段での練成が可能なのよ。
取り扱いにちょっと、面倒な部分もあるけれど、それは、まぁ…… 上位の薬師ならば、どうにか…… できるかな? 起動時の莫大な魔力投入さえ実施できればだけどね。 其れだって、何人か集まれば不可能じゃないわ。 ただ、基本術式にかなり手を入れているから、その部分の更新なんかは、私しか出来ないけれどもね。
第四軍の従軍薬師としてのお仕事は、午前中だけ。 とっても忙しい日でも、午後三刻までとなっているの。 それから先は、兎人族の方々に準備練成を夕刻五刻まで、お願い出来ている。 皆さん、とても腕の良い方達ばかりだから、翌日の下拵えと云うか、準備は万全にして貰えるの。 とても、とても、感謝している。
第四軍…… 四つの師団。
前線で戦い……
練兵場で鍛錬を怠らない、強兵達。
少しでも、少しでも彼らの役に立てるなら。 そう、彼らの命が護られるならば、私のこの忙しさだって、決して無駄ではないわ。 医薬品、ポーション類、包帯とか湿布も…… 練成できる限り、私は続けるもの。
そして、後任の薬師さんが来たときに、その方に受け渡しが滞りなく出来るように準備するのも…… 第四軍、従軍薬師としての、私の役目。 命を懸けて、ファンダリアを護ると、頑張っている兵士さん達への、私が出来る唯一の事。 だから、手は抜かない。
――――― たとえ、私が居なくなっても……
北の荒野で、果ててしまっても……
第四軍の人達の任務は続くんだものね。
…… 絶対に手を抜かないわ。
それが、お約束だから。
大切な「 精霊様 」 との……
” お約束 ” 、なんだものね。
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