その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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光への細い道

リーナ、拉致られる!!

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 一層部分にまで、降りて来た私達。



 ティカ様は表玄関、私は騎士団の皆様の本拠地である、騎士団駐屯所に向かうはずだったの。 王城外苑への扉はそこにしか無いものね。 一緒に此処まで、降りて来てもらったお礼を、淑女の礼に載せて捧げるの。



「ティカ様。 今日はありがとうございました。 色々と、釈然としない事は御座いましたが、ティカ様のお心は、しっかりと受け取りました。 有難う御座いました」

「いいのよ、リーナ。 貴女にとって、許されざる事ですものね。 王家の威信。 貴族間の均衡。 ウーノル殿下の決断。 貴女は、そんな些細な事で、十七名の人間の命が奪われた事が、許し難く感じている。 わたくしも、そうなの。 遣り過ぎよ。 それに、王家の体面を保とうとする。 皺寄せは、その他のモノになる。 いけないわ。 いくら、一罰百戒とはいえ、その事に対し、特例を設けるような事をしては。 やるならば、徹底してやらねば、後々禍根となるでしょうに。 それが、判らぬウーノルでもありませんでしょうに!」

「ティカ様、此処はまだ王城に御座います。 お声が高こう御座います」

「大丈夫よ、リーナ。 疎まれてはいても、わたくしはニトルベインの息女。 そして、王太子府に ” 出入り自由 ” を、許されている身。 お爺様とて、既にわたくしに過度の干渉は出来なくなっておりますのよ、リーナ。 わたくしが恐れるものは、光を無くすこと。 せっかく、ウーノルがやる気を出したと云うのに、まだ、古き柵に囚われて居る。 由々しき問題ね。 いずれ、きちんとお話せねばならないわ」

「ティカ様ッ! それ以上はッ!」

「……ごめんなさいね。 ちょっと、昂っていたわ。 心許せる方の前では、つい……ね」




 にへらって感じで、ティカ様が笑み崩れるの。 それは、それは、愛想のいい、心楽し気な笑顔。 こちら迄、楽しくなってくるようなそんな笑顔。 そして、笑顔のまま、彼女はとある事を御口にされる。




「この後、わたくしの屋敷に来てくださいね。 護衛の方々の分の馬車も用意してあります。 王城外苑、外門の車寄せに…… そろそろ着くはずですわよ。 お急ぎになって、リーナ」




 えっ? こ、この後? 私にだって、予定が有るわよ? 皆と晩御飯とか…… それに、護衛隊の人達も一緒って…… 獣人族の人達よ? シルフィーも、ラムソンさんも、クレアさんだっているのよ? 凄い大所帯なのよ? 全員って事? ニコニコ顔のティカ様は、私の手を取ると、騎士団駐屯地を抜け、王城外苑に続く扉の前に向かうの。

 詰めて居られた護衛騎士の方々も、ティカ様のおいでに、顔を強張らせているの。

 護衛騎士隊の方面でも、王宮魔導院の魔術師ロマンスティカ様のお名前は、燦然と光り輝いているようだったのよ。 そうよね。 色々と武勇伝お持ちだもの…… ティカ様。

 薄っすらと漏れ聞くに、彼女、相当遣り合ったらしいわ。 騎士団の中の魔法騎士さん達と。 近衛騎士隊の中でも、特に気位が高い、魔法騎士さん達。 ニトルベインの魔女の噂を聞きつけて、突っかかって云った事があったらしいの。 伝聞の伝聞だから、本当の所は判らない。

 ただね…… 一時的に、魔法騎士の一団が、壊滅したって…… 暫くは、立ち直れない位の被害を受けたって…… そんな噂がまことしやかに、流れたの。 ちょっとだけ、興味が出てね、シルフィーにお願いして、調べて貰ったのよ。

 でね…… シルフィーがね…… 青白い顔をして、戻って来たの。


 ”わたくしでは、どうにも出来ません。 ただ、ただ、リーナ様を御守するだけに御座います。 決して、決して、此方からニトルベインの魔女に手出しなど、すべきでは有りません。 いいえ、出来ません。 防御を固め、逃走経路を確保し、リーナ様だけでも…… ”


 真剣に、そう震えながら、そう云うのよ。 なにが有ったのかって、尋ねても、彼女云うのよ……


 ”知る必要の無い事柄も御座います。 リーナ様とは、一切関りの無いお話に御座いますれば、お忘れください。 ただ、魔法騎士達は、になったと。 深く関わるべきでは、御座いません”


 ってね。 絶対に教えてくれなかったの。 なんでかな? 私に知られたら、マズいのか、それとも、グッサリと大きな釘でも刺されたか…… 彼女がポロリと漏らした ” ニトルベインの魔女 ” って、言葉。 ティカ様の事よね。 やっぱり、噂は本当の事だったのかしら?

 そんな強張った顔をした護衛騎士隊の面々に、『騎士の礼』を、捧げられつつ、颯爽と私の手を引いて、にこやかに、王城外苑に抜けたのよ…… ティカ様は…… 王城内は元より、騎士団の駐屯所でも、このご様子。 ニトルベイン大公家のお嬢様の御威光は、ほんとに、とんでもなく…… 

 強烈なのよね……




 ^^^^^




 王城外苑で待っている、護衛隊の人達と、シルフィー、ラムソンさん、クレアさん。 皆の顔が固まっていた。 すでに、先触れは出されていたの。 

 ティカ様のお屋敷の家令の方が、皆を呼び、ティカ様からのご招待を告げられていたわ。 丁寧なご招待に、クレアさんは半分恐慌をきたしていたし、ラムソンさんは始終周囲を伺い、シルフィーはやっぱり顔色を真っ青にしていたの。


 血走った目で、説明を求めるシルフィーとは、正反対に、護衛隊の皆さんは、良く判っていらっしゃらないわ。 獣人族にとっては、ニトルベイン大公家が、ファンダリアにおいて、どんなご家族か、どんな高貴な存在か、そんな事知らないんだものね。

 シルフィーは、招待しているのが、ティカ様って事で、警戒をさらに強くしている。 自分が太刀打ち出来ないと、そう感じているから…… 私を逃がす為の逃走経路を必死に考えているのが手に取る様に判る。 でも、それを見越したように、家令の人や、ティカ様の侍女の人達が、逃走経路の一つ一つの前に立ち塞がっていらっしゃるのよ。

 只者じゃないわよね、この人達…… ティカ様のお抱え? それとも…… ニトルベイン大公家の……人? シルフィーの額から、汗が零れ落ちるのが見えた……


 そんな、『家令の人』に、ティカ様はにこやかに頷かれる。




「ご招待は出来た?」

「お嬢様、御意に御座います。 是非ともと、お願い申し上げました。 皆様、快くご招待に応じられるそうに御座います」

「そう…… では、馬車をまわして。 丁重に御持て成ししてね。 わたくしにとって、大切な方達だものね。 いいわね」

「御意に御座います」




 有無をも言わせぬ、圧倒的な高位の貴族の威圧感を醸し出しているティカ様。 絶対に、絶対に、嫌だとは言えない雰囲気に成っているの。 外門の車寄せに回された、黒塗りの無紋の馬車は全部で四台。 大型馬車で、普通なら一台に六人は楽に乗れるような豪華な馬車。

 私を含め、シルフィー、ラムソンさん、クレアさん、そして護衛隊の五人の九人と、ティカ様、家令の人、侍女の人三人の五人が、用意されている、馬車に乗り込むの。

 余裕よ余裕ッ! 飲み込まれたら、何を約束させられるか、判ったものじゃないわッ!! なんとしても、切り抜けなくちゃ! いくら、ティカ様のお願いでも、聞けることと聞けない事はあるもの。 それに、護衛の人達や、シルフィー、ラムソンさん、クレアさんまで、一緒に連れて行くって! 



 ちょっぴり、ティカ様に怒りを覚えたの。  

 大切な御義姉様だと、思っていたのに……

 こんな事されるなんて…… 思っても居なかった……

 

 家令の人と、侍女さん三人が一台、護衛隊の人達が二台に分乗、そして、ティカ様、私、シルフィー、ラムソンさん、クレアさんの五人が、一台の馬車に乗り込んだの。 いいえ、連れ込まれれたと云うべきかしら。



「リーナ。 晩餐にご招待しますわ。 是非とも一緒にいらして欲しいの。 すこし、お話が必要と思われます。 今後の事も、貴女の事も。 大事なお話よ、よろしくて?」

「……釈然としません。 あまりに、強引におもわれます」

「そうね、陳謝は後で幾らでも。 でも、時には替えられません。 時間が無いのです。 出来るだけ、早く、お話をしなくては成らないのよ」 

「…………はい」




 キラリと光る翡翠のティカ様の眼。 シルフィーがとっても警戒しているの。 ラムソンさんはすでに臨戦態勢。 様々な鬼気に、気を失いそうになっているのは、クレアさん。 何が何だか判らない私……

 そんな、トンデモナイ空気感を、楽しそうに、嬉し気に、堪能される様に、満足気なティカ様……


 一体……


 今夜……


 何が始まろうというの?


 精霊様! 




 どうか、無力な私を―――




 た す け て !







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