その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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光への細い道

王宮学習室へ 当惑の薬師リーナ

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 年が明け、日常が戻る。 日常って、こんなにも忙しいもの?

   あれ?

    あれぇぇぇ?




 私の知らない内に、立て続けに、予定が押し寄せてくる。 予定を捌くのは、スフェラさん。 毎日毎日、予定の調整に、とても忙しそう…… 打ち合わせも、とても大変になってしまうの。 ご飯の後、第十三号棟で夜遅く迄、予定のすり合わせなんて、当たり前になってしまったの。

 そんな毎日に、追われ続けて行くうちに、初月も晦日となっていたわ。




 もう、一ヶ月も、経ってしまったの。




 早い…… 本当に早く感じるわ。 

 そしてね、初月最終日にね、来たのよ……



 そう来てしまったのよ……




 ―――― 王太子府からの御命令書。




 つまりは、王城、王宮学習室への召喚状。 アンネテーナ様の主務医務官としての、お呼び出しね。 命令書には、あわせて、主務魔導護衛官様も、” ご一緒される ” と、記載されているの。 そう…… ティカ様も、ご一緒されるって事よね。

 はぁ…… 王宮学習室かぁ…… 気が重い。 とっても、重い。 行きたくない……

 だってね、王城に入城出来るの、私だけなのよ? シルフィーも、ラムソンさんも許可されてないもの。 その上、あの王宮学習室でしょ? 女官長様の冷たい目とか、女官様、侍従様達の余所余所しい態度とか…… ほら、私は庶民だから…… かなり、特異な目で見られていて、風当たりは強い筈なのよ。

 いくら、王宮薬師院、調剤局第八位の薬師って言っても、そこは、王宮でしょ? 周りの目も有るし…… その上、アノ場所にはあまり良い記憶も無いわ。 ガッツリと、ほんとうにガッツリと王妃教育を受けたんだもの、前世でね。 厳しく、そして、細かく。 


 その時の教育官様は、あのスコッテス女史。 


 あまりの教育の熱心さに、根を上げていたのは…… 遠い記憶の中の一齣。 ドワイアル大公閣下にお願いして、何とかならないかって、……担当を外してもらうように、お願いしたりもしたのよ。 多分そのせいで、スコッテス女史は、王城、王宮教育室を罷免されてしまった…… 黒い過去よね。 


 その後来た教育官の先生方は…… 全くと言っていい程、熱意なんて無かったのだもの。 


 当初は嬉しかった…… かなり ” 楽 ” に成ったんだもの。

 でも、マクシミリアン様のお隣に立つには、それじゃ駄目だって事に気が付いた時には、もう、『 時 』 既に遅し。

 親身になって、熱心にご指導してくださった人スコッテス女史を遠ざけてしまった私には…… 誰も親身になんてなってくれなかったもの。 そして、同時に、私の驕慢さを諌める人を失っていたと云う事。 つまりは ” 自業自得自分のせい ” なの。 


 ――――王城教育室の至る所に、前世の記憶を刺激するものが沢山あるわ。


 アンネテーナ様が滞在されているお部屋なんか、最たるものなのよ。 わたしも、あそこに滞在していたんだもの。 もっとも、当時は、あんな呪具が備えられていたなんて、知りもしなかったし、体調がだんだんと悪くなっていくのも、熱心な王妃教育のせいだって思っていたんだものね。

 はぁぁぁ…… 行きたくない……





 ^^^^^





 月が明けて、王宮学習室に伺候する当日。 王城外苑でのお仕事はお休みにしたの。 護衛の人達も、王城外苑までで、今日は終日そこで待機してもらう事になっているの。 シルフィーも、ラムソンさんも、同様にそこで待機してもらう事になったの。


 皆、心配そうな顔。


 その理由は、『 私の顔 』が強張っているからね。 仕方ないよね。 でも、行かなくてはいけない。 勇気を振り絞って、王城外苑の扉を抜けるの。 胸には近衛騎士の特別記章。 この外苑の裏口みたいな所を抜けて、王城に入城するには、必要な記章だからね。

 装束は、薬師装束。 だって、主務医務官なんだもの。 役割は薬師なんだもの…… ね。 間違いは無いはず。 腰に山刀も装備している。 ククリナイフだって、下げている。 持って居ないのは、魔法の杖だけなのよ? でも、すんなりと通してくれたのよ? おかしいでしょ? 

 営門の警備についている、護衛騎士の人は、私の顔を見て一つ頷き、確認されるの。




「薬師リーナ様に御座いますね」

「はい、第四軍 第四〇〇特務隊 指揮官 薬師リーナに御座います。 王太子府よりのご要請にて、王城、王宮学習室に伺候いたします。 此方に『勅命』を拝した御命令書が……」




 そういって、命令書を出そうとすると、その護衛騎士の方が手を振って止められるの。 にこやかな笑みと一緒にね。




「薬師リーナ様。 王太子殿下の ” 勅命 ” を以って、王宮学習室に伺候される事は伺っております。 どうそ、そのまま、お入りください。 ご連絡は既に、此方には届いております。 ご来訪時には速やかにお通し申し上げるよう、指令を受けております故、どうぞ、そのまま」

「えっ? 宜しいのですか? あの…… わたくしが、薬師リーナであるとは…… 謀っている可能性も……」

「お忘れですか? まぁ…… そうでしょう。 その他大勢の一人でしたし……」

「はっ? どう云うことに御座いましょう?」

「公女リリアンネ殿下の「お出迎え」の、一員に御座いました。 薬師リーナ様のお姿は、よく覚えております。 護衛隊の獣人を良く従え、あの囮作戦に従事された方。 忘れる訳は御座いますまい。 あの作戦に従事した、護衛騎士は何人もおります。 そして、貴女が成した事は、護衛騎士隊の中で話題に上っております。 ……ちょうど、護衛騎士隊と、近衛騎士隊の配置が入れ替わりました。 王城内の騎士達のほぼ全ては、現在護衛騎士隊の者達ばかりに成っております。 どうぞ、ご安心ください。 なにが起こりましょうと、すぐさまに騎士隊のモノが駆けつけましょう。 ……貴女の見識と、勇気、そして何よりも、ファンダリアの民としての矜持。 たしかに我々は見届けました。 そして、決めたのです。 護るべきお方であると。 王城にて、このように会いまみえる事が出来た事を、精霊様に感謝申し上げます。 さぁ…… ご入城ください」

「あ、有難う御座います。 に、任務でしたので…… そのように仰られると……」

「恐縮しないで下さいますかな? 貴女はそれだけの事を成したのです。 胸を張って、堂々としてください。 王城内の護衛騎士達も皆、そう思っています。 さぁ、ご入城されよ」




 ほんとにもう! なんで、こうなっちゃうのかしら? ちょっと重いよね。 そんなに、評価を頂くような事じゃないわよ。 任務だったんだもの…… リリアンネ殿下を安全に素早く王城コンクエストムに送り届ける、そういう任務。 余禄は一杯あったけれど、それは、それ…… なのだけれども…… ねぇ。 


 でも…… 悶着も成しに王城に入城できたのは、本当によかったわ。 ここで、沢山の時間を浪費するわけにも行かないものね。 



^^^^^


 第一層から、第四層までは、好奇の目で見られ…… 第五層から、第八層までは、ちょっと胡散臭げに見られたけど…… 誰にも止めらる事無く、第九層…… 王城コンクエストム 王宮学習室に続く廊下まで来れたの。 あの程度の視線ならば…… まぁ、そんなには問題は無いわ。

 それに、王城内の警備に当っている騎士の人達…… 営門の騎士さんが言っていた通り、本当に護衛騎士さん達に代わっていたの。 何人か…… 記憶の片隅にある顔を見出したわ。 その度に、にこやかに微笑まれ、ご挨拶頂いたの。

 胸に手を当ててね、騎士の礼を捧げて下さるのよ。 私も軍礼則に則って、答礼を返すの。 文官さん達が、不思議そうに見てたのよね。 まぁ、そうでしょうね。 小娘に、正規の護衛騎士さんがするには、ちょっと大げさに過ぎる『 礼 』だものね。

 軽くそんなやり取りをした後に、王宮学習室の営門の前に着いたの。 営門の騎士さん達、私の顔を認めると、恭しく頭をお下げになり、御口上を述べられたのよ。 ちょっと驚いた。




「薬師リーナ殿、お待ち申し上げておりました。 王宮魔導院、特務局 魔術師ロマンスティカ様も、既に御入室に御座いますれば、どうぞお入りくださりますよう」

「は、はい…… ご丁寧なご挨拶、誠に…… あっ! 騎士長様!!」




 胸に手を当てて「騎士の礼」を私に捧げる人は…… そう、あの作戦の時の、騎士長様!! なぜ? 高位の指揮官様でなんでしょ? 困惑と驚きに目を白黒させていると、騎士長様がその表情を読み取って、お話下さったの。




「王太子府より、ご命令が御座いましてな。 この王宮学習室には、王太子殿下の大切な方々が居られる。 曰く、” その護衛の要である、営門の立哨には、特に人選を厳とせよ ” と、御座いましてな…… 及ばずながら、本職がその任に就くことに成りました。 交代制では御座いますが、これから幾度も顔を合わせる事となりましょう。 どうか、よろしくお願い申し上げます、薬師リーナ殿」

「此方こそ、どうぞ良しなに。 でも、驚きましたわ。 王城内の騎士様の殆んどが、護衛騎士様に御代わりに成られているのですもの」

「色々と御座いましてな。 近衛の諸君には、すこし現実を見てもらう為に、配置の交換と相成りました。 フルブラント大公閣下のご命令に御座いますれば、誰も文句は言えません。 近衛の諸君らは…… 苦労する事に御座いましょうな」

「まぁ! 左様に御座いましたか! 知らなかった……」

「薬師リーナ殿。 知る必要など御座いません。 お耳汚しの事柄も、有りましょうが、それも、これも、全て王太子殿下のご決断。 色々と有った不都合、不条理を見直された結果に御座いましょう。 立ち話もこのくらいに…… ささっ、皆様、お待ちかねに御座いましょうから」




 そう云うと、大きく扉を開き、私を王宮学習室の中に誘って下さったの。 本当に? ここ、本当に王宮学習室?

 浮かぶ不思議な思いに、少し混乱しつつ、歩みを進めるの。 扉の向こう側で、女官の人達が、列を成してこうべを垂れて居られたの。




「「「 王宮学習室 主務医務官 薬師リーナ様。 ようこそ、お越しくださいました! 」」」




 えっ? ええぇぇぇ??





 一体、何が、どうなっているの?





 説明を!


 誰か、説明を!!!









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