その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

文字の大きさ
上 下
413 / 714
光への細い道

辺境の仲間からの「贈り物」

しおりを挟む



 ” フルーリー総合商会 ”


 その設立経緯は、普通の商会とは、かなり違っているの。 何かを売ろうって始めた、商会じゃないわ。 云わば、フルーリー様の ” 商いあきない ” を理解する為の、勉強の場でもあるのよ。


 フルーリー様がお父様のグランクラブ準男爵様に、私との取引をするに当って、彼女を窓口としたのよ。 そのときに、商会内にもう一つの商会をお立てになったの。


 それが、フルーリー総合商会なのよ。


 次代のグランクラブ商会の『 女性会頭商会長 』を志す彼女。 一人娘ですものね。 そして、その彼女を真正面から、商人として鍛えようとされているのがグランクラブ準男爵様。 えっと、物凄く甘いお父様なんだけれど、こと商売となると本当に別人のように成られるのよ。

 流石は政商の誉れ高い、グランクラブ準男爵様よ。 その鍛え方って云うのが、なんて云うか…… そう、実践的。 いきなり、彼女を長とした商会内商会を立ち上げてね、仕入れ、値決め、財務、配送業務、の各業務を、” 彼女に一手 ” に、引き受けさせられたの。


 勿論、必要な知識を持った、グランクラブ商会の人達が補佐に入ってはいるけれどもね。 物凄く厳しい事には変わりないけれどね。 それを、嬉々として受け入れてらっしゃるフルーリー様も、フルーリー様だけどね。


 主な取引相手は…… 『 私 』。 そう、『第四軍、軍属薬師錬金術師 リーナ』。 本当だったら、お父様であられる、グランクラブ準男爵様が第四軍…… または、執政府と新たな契約を結ぶだけだったのよ。 それを、新商会を起こし、私個人と、フルーリー様との間での商売として、成立させたのよ。

 こんな小娘が、政商相手に個人的に商売する事は、まぁ、有り得ないわ。 でも、新規に設立された、商会なら…… って事ね。 商売の実態は、私が直接 イグバール様に商品、つまりは薬草箱とか、符呪した魔道具とかを、お願いして、代金の決済をして貰っているの。


 ―――― いわゆる金融って事ね。


 大金を運ぶのは、とても危ないし、その為の護衛を雇うのもとても非効率的。 だから、商業ギルドのある、各都市間を繋ぐ、商会の決済口座を利用させてもらっている。 信用状態も加味して、色々な特典もあるし、皆がスムーズな取引が出来て、本当に有り難いの。

 でも、この頃、決済をわざと遅らせて、イグバール様も王都の品物をご購入されているのよね。 決済時にその代金を代引きして貰っているって、お手紙に書いてあったわ。 お取引の物品は主に女性の装飾品、靴、そして、下着類。 軽くて小さくて高価なモノなのよ。

 南方辺境域は、ベネディクト=ペンスラ連合王国との貿易が活発になり、かなり潤い始めているんですって。 そこでね、辺境域の全ての御領で税収も向上して余裕も出始めているんですって。 余裕が出れば、ほら、男爵家とか子爵家とか、王都に出て来れない方々だって、着飾ったりしたいのが心情よね。

 男爵家、子爵家の御夫人、お嬢様が、イグバール様の顧客って事。 一体、お師匠様は何になろうとされているのかしら? あの方…… 馬車屋さんなのよ? そういえば、馬車屋さんのお仕事も順調に拡大しているって、そうお手紙にあったわ。 緩衝装置もブギットさん印のものが、この王都でも普及し始めているしね。



 フルーリー総合商会は、とっても上手くいっていると思うの。



 ^^^^^^




 新年初日の祝祭日にわざわざ、窓口を開けてくださったの。 申し訳ないわ。 玄関ホールで待っていらしたフルーリー様。 私の姿を認めると、両手を一杯に広げて、歓待してくださったの。





「リーナ様!!」

「フルーリー様。 祝祭日に…… ごめんなさいね」

「それを云うのは、私の方よ。 大晦日にトンデモナイお願いをしてしまって…… ごめんなさいね。 でも、ユーリも本当に助かったって。 今朝、ユーリが飛んできてね、神官長様が恙無く新年祈願祭を終えられたって。 それは、それは興奮して報告に来られたのよ。 何でも、わ、脇侍? とかに、任じられて、その任を全うしたって…… 鼻の穴大きくして、とても誇らしげに、云ってきたわ。 ホホホホッ 子供みたいにねぇ」

「脇侍ですか? それは、凄い。 確か、『 ” 迎人 ”に認められれし、真摯な信仰を精霊様に捧げ給いし者 』だったかしら? 普通は、枢機卿様とかの高位の神官様が勤められる筈のお役目ですわよ、それ」

「そうなの?! あら、やだ! 其れがどうしたの?って、応えちゃった! あとで、謝っておかなくちゃ!!」

「ええ、それは、御謝りに成った方が宜しいわ。 聖堂教会の神官ならば、誇るべき事柄ですものね」




 出会い頭のお話としては、途轍もない異例なお話を聞いてしまったわ。 異例中の異例よ。 助祭様が、脇侍を勤めたなんて話、聞いた事がないもの。 それに、勧請できた精霊様が、闇の精霊ノクターナル様だったんでしょ? 光の精霊 グローリアス様と同様に、最高の精霊様のご光臨って、そう街の人が囁きあっていたもの。


 やはり、新年祈願祭って、階位じゃなくて、祈りの深さが精霊様に繋がるのね。 そうだと思っていたわ。


 玄関ホールでそんなお話をしつつ、中に入る。 既に、沢山の下着が準備されていて、更にお針子さん達が、いまや遅しと、私の来るのを待っていたみたいなの。 なんで?





「リーナ様は、今年から又、学院にも通学されますでしょ? だったら、御衣装も沢山必要になりますわ。 だって、今年は私達のデビュタントの年で御座いましょ? それに「礼法の時間」もそれに掛かりきりになるはずですもの」

「えっ、い、いや、わたくしは…… えぇっと…… その……」

「なんですの?」

「は、はい………… 実は、そのデビュタントの時には、アンネテーナ様の護衛に入ると、そう申し付かっておりますわ。 だから……」

「えぇぇぇ! 知らなかったわ!! ユーリは知っているはずよね、あの子、王太子府に通っているんだもん。 なんで、教えてくれなかったのかしら!」

「えっと…… 護衛の人選は極秘なものですから…… 多分口止めされていたのでは?」

「リーナが其れを云うの?」

「えっ! あっ!!」

「なら、私は知らない。 いい? 私は知らなかったのよ。 リーナ、一杯ドレスを作りましょう! デビュタントの為のドレスもねッ! 代金はイグバール様から頂いております。 可愛い弟子が可愛く装う様にって!! これは、イグバール商会からの「贈り物」だそうです。 商会の仲間への「贈り物」だそうです。 いいですわよね。 出来る限り、お手伝いすると云う事で、お話は付いておりますからね」




 満面の笑みを浮かべて、フルーリー様がそう云うの。



 イグバール様……

 イグバール師匠様……

 ご好意有り難く思います。 




 『』 確かに…… 確かに感謝と共に、お受け取り致します。









 はぁ…… 会いたいなぁ…… 皆に……  辺境に…… 辺境に帰りたいなぁ……















 ところで、フルーリー様?


 このって…… 



 レース編みの向こうが透けて見えるような、

 装甲にもならないコンナモノデ……




 『 誰 』と『 何 』を、勝負するんですの?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。