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引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。
ウーカルさんが告げる、獣人族の想い
しおりを挟むそうだッ!! 兎人族の皆さんは、薬草に特に詳しいはず。 なら、私の知らない薬草だって、知っているかもしれない。 だったら! 兎人族の人達に、この大錬金釜の運用をお任せしてもいいんじゃないかしら? 知識を持つ者が、手順を簡略化してくれる魔法具を使うのは、とても有効的なことなんだものね!
「兎人族の方々は、皆さん薬草にはお詳しいのよね?」
「……ええ、ええ、勿論です。 伊達に ” 草喰い ” って呼ばれていません」
「うん、決めた。 この大錬金釜を運用するのは、貴方達、兎人族の方々ね」
「えっ? ……人族の魔法は…… よく、判らないんですが……」
「大丈夫よ、呼び出して組み立てるだけなんだもの。 お薬の作り方は知っているんでしょ?」
「ええ、それは…… 私は呪術医見習いですし、仲間も良く似たものだし……」
「大錬金釜の使い方は、私がお教えします。 そして、その対価として、貴方達が持つ呪術医の知識を授けてくださいませんか? より良いお薬や、風土病の特効薬とか、見つけられるかもしれませんし、なにより、森に帰ったときにとても役に立ちますわよ?」
一瞬の間が有ったの。 私の発した言葉を受けて、みるみる内にウーカルさんの表情が強張るの。 強い不快感と怒りが表情に浮かび上がる。 赤く上気した顔。 震える握りこぶし。 怒りをこらえるかのような、低く重い声がウーカルさんの口から漏れ出したの。
「……そ、そんなぁ…… まだ、私たちに森に帰れって云われるのですか!!」
「えっ?」
頬を膨らませて、俯き加減で、見上げるように怒りを顕にするウーカルさん。 強い怒りがヒシヒシと私に伝わってくるの。
―――― なんで? いずれは、森に帰るんでしょ?
「いいですか、リーナ様。 私たち、第四〇〇〇護衛隊の面々は、色んな意味で、もう帰る場所が無いんです。 あるものは巣穴が、あるものは群れが、すでに失われているんです。 そして、あるものは矜持と精霊制約を持って、あるものは守り抜くって決めた心をもって、貴女に仕えようとしているんですよッ!!」
「ま、まってよ、ウーカルさん。 それは…… でも、私は…… 貴方達が森で幸せに暮らせるように…… 私は……」
「私たちの幸せは、貴女と共にあることですよッ!! もう!!」
「ウーカルさん……」
「大錬金釜の使い方をお教え願えることはありがたいです。 でも、それは、貴女の…… リーナ様のお力に成れるから、嬉しいんです。 理解してください。 私たちの事をッ!」
腕を組んで、両足を広げて立ち、私を睨みつけるように見詰める、二つの赤い双眸。 彼女の垂れ耳がフルフル震えているの。 初めてかもしれない。 こんなにも感情を爆発させているウーカルさんを見るのは。 そんなにも…… 私の事を? 私の事を、想っていてくれるの?
彼女の真剣な赤い双眸は、私から外れることなくジッと見ている。
私は期せずして、彼女の誇りと矜持を踏みにじってしまったのかもしれない。 この激しい怒りは、私の不用意な言葉が原因ね。 そして、それは彼女の聖域とも言える心の在り処を踏み躙ってしまったのかも知れないわ。
ならば、謝罪と感謝を込めて、口に刷るの言葉は一つね。
「有難う…… って、云うべきなのよね」
「そうですよ!! でも、感謝の言葉は必要ありません。 私たちは、私たちの意志で、貴女に仕え、そして護ろうとしているんですから。 全部、全部、リーナ様。 貴女が云った事から始まったのですよ」
「私が、言った事?」
「最初に言われました。 ” ただ、皆さんがもう奴隷では無いと、それだけは申し上げたいと思います。 王国ジュバリアンの民の末裔。 あなた方は、皆、誇り高きジュバリアンの民なのです。 ” と。 覚えていらっしゃいますか?」
「……ええ、確かに。 確かにそう云ったわ。 確かに……」
アレは彼女達を奴隷紋から解放したときの事。 ……願ったんだっけ。 彼女達の力を貸して欲しいって……
私が云ったのは ――――
” 皆さんは、コレで自由になりました。 居留地の森に帰る事も出来ます…… 直ぐにではありませんが。 ただ、皆さんがもう奴隷では無いと、それだけは申し上げたいと思います。 王国ジュバリアンの民の末裔。 あなた方は、皆、誇り高きジュバリアンの民なのです。
一つ、提案が有ります。 強制はしません。 いずれ時が来れば、あなた方は森に帰る事に成るでしょう。 ただ、それまでの間…… 貴方達の ” 力 ” を、貸してもらえないでしょうか? あなた方の森を守る意思を…… 私に……
衣食住は、第四軍は保障します。 義勇兵として、共に敵の暴虐に抗う者を私は欲します。 勿論、森に帰る未来は…… 私が死なない限り、護りたいと。 精霊様に誓約を掲げたるわたくしが護る、あなた達への「お約束」です…… ”
だったわよね。 身勝手なお願いだったのに…… なのに……
ウーカルさんは、口調を柔らかくして、私に告げるの。 真摯に、そして、まるで宣言するかのように。
「誇り高きジュバリアンの民に、矜持と誇りを取り戻させてくださったのは、リーナ様です。 だから、隊の皆は、その誇りゆえに、貴女に仕えると誓ったのです。 だから、もう、仰らないでください。 森に帰れとは…… 悲しいです。 辛いのです。 リーナ様に見捨てられるのではないかと…… 心が痛いのです……」
「…………誇りに掛けて ……ですか。 これは私も 《 覚悟 》 を、せねばなりませんね。 判りました。 その誇りを汚さぬように、わたくしも、精進せねばなりますまい。 御免なさい。 『 対価 』 などと云ってしまって。 それは、貴方達の『 誇り 』 を、汚すような言葉でしたね。 では、言葉を改めます。 貴女の、『矜持』と『友誼』を持って、私に森人の知恵を授けてください。 私は、その崇高な想いに報いるため、私の知る事を貴方達にお教えします」
「リーナ様ッ!!!」
ウーカルさんが、ピョンって飛び跳ねて、抱きついてきたの。 ギュ~~~~って、抱きしめられた。 そうね、矜持と友誼を持って、私たちはこの人達を大切にしなきゃ…… いけないわ。
―――― ふと、視線を感じるの。
ナジールさん。 とっても良い笑顔で頷いてらした。 信には…… 信を。 ……ね。
こんな私だけど……
これからも、よろしくお願いしますッ!!
^^^^^^
慶び、心楽しくなったそんな時、あわてた様子で、クレアさんが錬金室に駆け込んでいらしたの。 ちょっと、顔色が…… なんだか、大変な事が起こったみたいね。 まだ、半日も経ってないのよ? どうしたのかしら?
「リーナ様。 お客様です。 貴族の方です。 どうしてもお会いして、お話がしたいと」
「どなた?」
「なんでも、第四軍で勤務されていた、事務官の親御様といわれておられました。 爵位は子爵。 わたくしの出身である北方領域の子爵家の方です。 お名前も耳にした事があります。 実直な、実務に長けたお家柄の方…… と、そう記憶しております。 如何致しましょうか?」
「……行きましょう。 なにやら、お話があるご様子なのでしょ? それも、わたくしに。 ならば、行かねばらないでしょう。 応接にお通しして」
「すでに、お待ちになっておられます」
「流石ね。 お二人は、すこし此処で待っててね。 多分直ぐに帰ってこれるはずだから」
「「 はい 」」
クレアさんの先導で、プーイさんが護衛に立ち、回廊を応接室に向かったわ。 一体何のお話なんだろう? ちょっぴり不安が浮かび上がるわ。 事務官……
” あの事務官 ” の、事かしらね。
終わった事なのに……
どうあっても、覆せない処分は降りたはずよね……
一体なんなんだろう?
応援ありがとうございます!
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