その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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引き寄せるのは、未来。 振り払うは、魔の手。

お仕事 初日…… (2)

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 そして舞い戻る王城外苑。



 はぁ……



 一日目から、面倒だなぁ…… 護衛隊の五人を引き連れ、ゾロゾロ動き回るので目立つこと極まりないのよ。 はぁ…… また、溜息が出ちゃったわ。 早く本業の、ポーション練成釜の移設とかをしなくちゃ、今日の予定が終わらないって云うのに…… 頭が痛い。

 王城外苑には入ったけれど、錬金室には向かわず、応接室に入るの。 ほら、私が居たら何かと問題になるでしょ。 だから、ココで待機。 スパーダ伯爵様がうまく誘導して、何があったかを聞き出せたらそれでいいんだものね。 そして、証言をつき合わせて、事実関係を明らかにする。



 それだけよ。



 でもね、彼の言動は、軍として認められない事なのよ。 軍属ならば、放逐当たり前。 軍の人員なら…… そうね、最悪を想定してしまう。 職掌に無いことをしてしまった上に、指揮権の奪取と取られれば、反抗罪では、すまないもの……


 下手をすれば、抗命罪。 反逆罪にも問われる可能性があるんだから…… もう……


 御口に気をつけなさいって、そういったのも、こういった事が想定できたから。 アノ人…… なんて、理由付けするのかな。 下手な事を、言わなければ良いんだけれど……

 ジリジリと時間が経ってね。 待ってたの。 まさか、お喋りするって訳に行かないでしょ。 だから、だんまりで過ごしたの。 プーイさん達も同じ。 ちょっと、怒っているプーイさん。 疲れたのかな? 少しくらいなら…… お喋りしたって…… いいかな?




「ごめんね、こんな事に成るなんて、思っても見なかったの」

「リーナは悪くないよ」

「怒ってるんでしょ?」

「あぁ、アノ馬鹿にね。 リーナには、怒りは無いのかい?」

「少しは…… でも、恐れの方が大きいわ。 傍若無人な言葉は、必ず返ってくる。 アノ人…… どうなるか、ちょっと想像して…… 怖くなったの。 あんな事でも、場合によっては、命すら取られてしまうのよ。 だから、言動には注意して欲しかったの。 軍の規律は…… 甘くないのよ。 厳罰なんて、望んでないもの……」



「そうか…… リーナは優しいな。 厳罰を求めることは無いか」






 突然、プーイさんとのお話に割り込んだ声があったの。 リフターズ様のお声だった。 ビックリしたわ。 本当に突然だったんだもの。




「リフターズ様! 如何、成りました?」

「まぁ、順当にな。 すまないが、明日から、君の事務官の一人をココに付けてくれないか? 四軍の人事を洗いなおすって、エルグリットがそう息巻いているんでな」

「まぁ、それは、大変」

「あのバカ、事もあろうに、薬師リーナの報告のままの事を、胸を張って言いのけたんだ。 まぁ、良くて抗命罪。 下手すりゃ、反逆罪に問われるな、アレは。 その上、聖堂教会に服していると見られる言動の数々。 もう助からんな、アレは。 薬師リーナ。 初日から気分の悪くなるような事になった。 済まない。 今日は、もう帰っていい」

「リフターズ様、それは如何なものかと。 わたくしは第四〇〇特務隊の指揮官を拝命しております。 本日より、お仕事を開始せよとの命令も受けております。 ならば、遂行せねばなりません。 錬金室の問題も山積み、解決には時間も人の手も掛かります。 よって、少しでも早く開始せねば、お役に立てるまでに、相当の時間が無為に経ってしまいますゆえ」

「強いな、君は。 判った。 もう少しすれば、処分の言い渡しも終わる。 副参謀長と、法務参謀がこちらに来るだろうから、その言葉を受けてから、仕事に取り掛かってもらえるかは、奴らが判断してくれる」

「御意に」




 胸に手を当て、頭を下げるの。 そうとしか言えないもね。 ドカドカとした靴音。 何かしら叫ぶ声。 なんだろうと、思っていたら、事務官さんが、後ろ手に縛り上げられて、腰に縄付きで引きたてられていたの。 完全に罪人対応ね。

 応接室に、副参謀長様と法務参謀様がいらっしゃった。 苦虫を噛み潰したような御顔をされていたの。 とても、普通な感じを受けないわ。 荒ぶってらっしゃる。 困ったなぁ…… 眉を下げ、お話を伺おうとしていると、ガバッって感じで頭を下げられたの。




「薬師リーナ殿、誠に申し訳ない。 あんな者が、第四軍に配属されて居たとは、自らの不明をさらけ出すようで、誠に恥ずかしい。 今後このような事が起こらぬように、人事、人員の見直しに入る。 より厳格な資格審査を実施する。 それで…… 許してもらえないだろうか?」

「勿体無く。 わたくしごときに、そのようにされる必要など、御座いませんわ。 どうぞ、お顔をお上げください。 それで…… あの方は?」

「軍、重営倉に収監。 背後関係を洗い、問題なければ、軍籍名簿から抹消。 二度と、軍務に付く事はないでしょう。 涜職と云うには、弱すぎ、また、反逆罪を適用するには微妙に過ぎてしまう。 法務幕僚からの進言で処刑は、後々の面倒ごとになる可能性が非常に大きい為、懲戒免職と成すのが妥当と…… 自分的には、公開処刑相当と思われたのだが…… 薬師リーナ殿と、聖堂教会とが絡んでいるとなると…… どうにも」

「命は一つしかありません。 易々と、その命を奪う事に嫌悪を感じてしまいます。 宜しいのでは? 軍権を徒に私物化した罰として、軍籍を抜かれると…… そう理解しても?」

「有り難く。 まこと、有り難く。 法務…… 薬師リーナの嘆願により、罪一等を減じたと、そう記載する事は可能か?」

「もとより。 薬師リーナ殿の温情を記させて頂く。 本来であれば、薬師リーナ殿がその場で反抗罪として処断する事も出来た。 君は第四〇〇特務隊の指揮官。 軍属とは言え、歴とした軍人の指揮官だ。 その者を貶める事はすなわち、その者に命令を下した、上層部を侮辱した事になる。 軍令則を読んでいれば、おのずと判ろう物なのだがな…… 貴殿の思いやりを、あやつが理解する日はなかろうが、考課表にはきちんと記載する。 例え、懲戒免職されようともな。 薬師リーナ…… 事が大きくなる前に収められた。 礼を言う」

「勿体無く…… 誠に、勿体無く。 では、わたくしは、お仕事に入っても宜しいのでしょうか?」

「おお、勿論。 頼む。 四軍の命運は、貴殿の腕に掛かっているのだ。 頼む」

「喜んで、お受けいたしますわ。 では、これにて、ごきげんよう」





 ニッコリと微笑んで、応接室を出るのよ。 はぁ…… 良かった。 本当に良かった。 誰も命を失わなくて…… さて、お仕事、お仕事っと!! あの錬金釜の移動とか、魔法草の準備とか、色々とあるんだものね。 




 さぁ、頑張って行きましょう!!

 やる事は山積み、でも、やる事はわかっているんだもの   ねッ!!






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