その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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「薬師錬金術士」 の 「リーナ」

報告と命令と

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 翌日、受け入れ準備が整ったことを報告に、「四紅錬石赤レンガ」に向かったの。



 朝食が終わった後くらいの、早い時間。 第四軍の事務方の方々が忙しそうにされていたわ。 ご助言の通り、私は第四軍の主計参謀のミッドバース=リフターズ様に面会の申請をしたの。

 事情を知っている、有能な事務方さんのおかげで、時間の無駄は殆んど無く、早々に第四軍主計局に通されたわ。

 扉の無い、その部屋は、ある意味戦場だった。

 忙しく走り回る、事務方の皆さん。 第四軍の資材、糧秣、装備のすべてをココで整えているんだから、当たり前といえば、当たり前なのよ。 部屋の壁に張り出されている、王国東部領域の地図。 その上に配されているのは、実際に運用されている部隊の位置。 

 そろそろ第四四師団が任地に向かう時期に来ているのが、地図の上でもはっきりとわかったの。 彼らは、王国東方南部領域に向かうわ。 第四二師団との交代でね。 東方北部領域の第四一師団は、本来ならもうすでに帰還しているはず。 でも、やせ細った第四三師団では、交代にならず、今もまだ東方北部領域でがんばっている。



 頑張らざるを得ないって所かしら。



 これでも、状況はだいぶマシになってきていると、第四四師団の副師団長アントワーヌ子爵様には言われてはいたの。 払底していた医薬品が滞ることなく現地に届きだした結果、負傷者の救護もそして、士気も高まってきているって…… 

 ようやくというか、やっとというか、第四一師団の帰還も考えられるようになってきたのよね。 第四四師団が任地に赴くと、代わりに第四一師団が帰ってこられるのかな? 第四二師団は暫く、任地で頑張るそうなのよ。 戦区の調整もあって、今、第四軍司令部は大忙しって所なのよ。




 そんな中に、私がやってきた。

 まぁ、かなり、面倒な感じなのかな? 出来るだけ、お邪魔しないようにしなくちゃね。




 事務官さんが、私を連れて執務室に向かったの。 執務室も扉は取り払われていたわ。 誰でも入れるし、いちいち誰何することなく、出入りできるようにしていらっしゃるらしいの。 警備は、営門で済ませているから、余計な警備で時間をとられるのを嫌われたそうよ。



 庶民階層のリフターズ様らしいお考えね。



 おかげで、第四軍の主計はとても風通しが良いと、オフレッサー閣下がにこやかにそう仰っていたわ。 確かにそうね。 ここの事務官さんたち、堂々とお仕事されているし、人の顔色を伺うような、そんな様子無いものね。

 書類仕事をしているリフターズ様の前に着いて、声をかけるの。




「お仕事中、申し訳御座いません。 第四〇〇特務隊、指揮官 薬師リーナに御座います。 面会のご許可を頂きまして、ありがたく有ります。 報告申し上げます。 薬師院外局、倉庫群、第十五号棟において、第四〇〇〇護衛隊の受け入れ準備が整いました。 いつでも、受け入れ可能に御座います」

「そうですか。 それは良かった。 貴女の護衛に関して、オフレッサー閣下より、懸念が御座いましたからね。 第四〇〇〇護衛隊が王都に来てくれるのならば、とても有りがたい。 まぁ、貴女の専属護衛だから、そうなるのは必然なのだけれど、受け入れ準備にどれほど時間と人と金が掛かるか、予測できなかったからね。 君が準備を?」

「はい。 わたくしは、薬師錬金術師に御座います。 錬金の技を使いまして、必要であるものを揃えることもまた、可能に御座います」

「そうですか。 それは重畳。 貴女が受け入れ態勢が出来たと仰るのなら、そうなのでしょう。 早速、エスコー=トリント練兵場の、第四〇〇〇護衛隊を呼び寄せる命令を発令しましょう。 来週から、この王城外苑において、貴女の仕事は始まります。 なにか、聞きたいことはありますか?」

「はい。 二、三 ご質問があります」

「宜しい。 何が知りたいのですか?」




 リフターズ様がそう仰ってくださるので、私はちょっと気になっている事を聞いてみようと、そう思ったの。 私のお仕事は、第四軍への医薬品供給。 まぁ、それなら、以前にもしていたから、なんでもないわ。 多分、原材料の入手も私の伝で、賄うのでしょうからね。 

 でも、その資金は第四軍から出るのかそれが聞きたいのよ。



 それと、私の事。



 ほら、言われてたでしょ? あのド変態シーモア子爵と、怖~い女史が。 私の学園復帰…… 礼法の時間への参加とか何とか。 アレは…… 本当に実行されるのかどうか。 それも、聞きたいのよ。

 で、リフターズ様からのご返事はね、王都周辺の薬草は、殆んどが王宮薬師院と聖堂教会に流れているから、出来れば、以前のように私の伝で、南部領域から購入したいんだって。 そのための資金は、きちんと第四軍主計局から支払われるということになっていたのよ。

 なら、ちゃんと、筋を通しておくために、一度、グランクラブ商会とお話しなくちゃね。 フルーリー様とね。 だって、彼女が窓口なんだもの。 よかった、また、彼女に会えるんだ。 嬉しいなぁ…… 彼女に連絡をとって、一緒にココに来て、お金の流れを作らないとねッ!

 それから、私の王立ナイトプレックス学院での、「礼法の時間」の参加は、本決まりになったようなの。 その為に、お仕事の時間を多少変更するって事になったって。

 これは、軍と薬師院だけでなく、王太子府、宰相府からの要請でもあったの。 受け入れ側の学院は、しぶしぶって感じなんだって。 まぁ、あそこは聖堂教会との繋がりも深いから…… 私が軍属になったって事で、ちょっと、反感を持っているような節も見られるのよ。 

 まぁ、女史とド変態シーモア子爵が居るし、教師はそのお二方だけだものね。 学院の上層部とは、そんなに絡まなくてもいいんだから、私としては最小限度の接触で、終わらせたいなぁ…… と思っているのよ。 まぁ、なんで、学院で学ぶことになったのかが、ちょっと疑問なんだけれどもね。

 とりあえず、聞きたいことも、知りたいことも聞けた。 お邪魔して、時間を無駄にしてしまうのは、心苦しいから、早々に退散しようと思うの。 その旨を伝えて、下がろうとしたときに、伝令係の人が執務室に入ってらしたのよ。 書状をもってね。

 チラッと見た感じ、とても身分の高い方のお手紙のようだったわ。

 ” 緊急です。 ” の言葉に、リフターズ様は早速そのお手紙を読まれていたの。 お邪魔したら悪いから、敬礼を捧げて、下がろうとした丁度その時、リフターズ様のお口から、とんでもない事を聞かされたのよ。




「あぁ、待たれよ。 薬師リーナ殿。 王太子府よりの召喚だ。 君を王太子府に伺候させよとの命令がある。 即時命令だ」




 はっ? 即時? どういう事? わたし、王城に入るだけの ” 礼法 ” を修めていないって、学院の上層部からそう言われているのよ? それが、なんで? どうして?




「混乱していると思うが、特急という事になっている。 君がココに報告に来てくれていて、良かった。 午前、十刻に王城外苑に迎えがこられるそうだ。 命令書もコレにある。 渡しておこう。 後、二刻ほどあるな。 それまでの間、外苑の錬金室を見学すればよいのではないか? 手配するぞ」

「……承知いたしました。 来週からの仕事場ですので、ご配慮、有り難く申し受けます。 それでは、御前を辞させていただきます」

「うむ、リーナ殿の仕事場でもあるから、よく見ておきたまえ」

「御意に。 では」




 もう一度、敬礼を捧げ執務室を出る。 いや、本当に混乱しているのよ私。 突然の呼び出し。 王城への伺候なのよ? まぁ、今は、軍属としてこの 「四紅錬石赤レンガ」に来ているから、当然、支給されている軍服を着用しているのから、まぁ…… ねぇ…… そこは、儀礼的にも問題は無いんだけど……

 ほら、記章も従軍薬師の記章と、王宮薬師院の記章を両方つけているし、まぁ、めったな事は無いと思うんだけど…… はぁ…… 王城かぁ……

 ついに…… というか……

 やっぱり、と、言うか……

 呼び出されちゃったよ。

 もう、二度と再び、登城することは無いと思っていたんだけどなぁ……





 引き締めていこう。




 気を……




 引き締めてッ!!




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