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「薬師錬金術士」 の 「リーナ」
久々の第十三号棟
しおりを挟む久しぶりに戻った、第十三号棟は……
薬師院の方々によって、本当に封鎖されていたのよ。 キッチリと、頑丈に、誰も入れない様にね。 私には、その封印を解くための特別な鍵が、ライダル伯爵から渡されていたの。 羊皮紙に描かれた解呪の紋様。 ” 「鍵」を渡しておく ” と、そうライダル伯爵から渡されたっけ……
えっと、つまりは…… 魔法的何かで、第十三号棟を封印してあるって事ね。 興味が湧いたので、眼に張り付けてある、【制限付き詳細鑑定】の制限を解くの。 そして、扉に掛けてある魔法を感知する。
ふーん 成程ね……
私の眼に映る、新たに設置されたらしい、各種の【防御魔法】に【障壁魔法】。 扉前には、私が以前打ち込んだ【探知】にも改変が施されていたわ。 ……色んな人が、この第十三号棟の封印に関わっているって、一目で判ったわ。 だってね、各種の魔方陣の術式記述が、独特なんだもの。 かなり、改変されているモノもあるわ。
コレを施したの、多分…… 王宮魔導院の魔術師さんね。 高度な魔法封印も、散見されるもの。 ライダル伯爵様から頂いた、羊皮紙の解呪魔法を読み解いて、何の魔法を解放するのかを確認したわ。 う~ん、これ、お部屋の封印を全部、解呪するモノじゃ無いわね。
幾つかの監視用の魔方陣は残るし、その機能には糸が付いている。 どうしようかな…… 覗き見されるのは、嫌だなぁ…… 取り敢えず、第十三号棟に入る事にしたの。 入る前に皆にその旨を告げておくことにしたわ。
「皆さん、此処は 『 監視の目 』 が、強く張られております。 何の為かは判りませんが、その事はお伝えしておきますわ」
「リーナ様。 如何いたしますか?」
「まずは、第十三号棟に入ってから。 私も、覗き見されるのは、快く思えませんので、潰します。 でも、監視者さん達には極力潰した事を知られたくはないですから、内側から…… ですね」
「御意に。 皆、リーナ様が良いと云われるまで、私語は慎むように。 何処で誰が監視しているのかもわからぬからな」
「判った」
「御意に」
「承りました」
みんな頷いてくれるの。 そうね、私が指揮官である、第四〇〇特務隊は、相当に注目を浴びているものね。 特に軍以外の組織からだけどね。 軍はその視線から、私達を守って下さっている。 そう云う風に感じるのよ。 あのオフレッサー侯爵閣下の言にしても、その眼差しにしても、とても大切なモノを見ている様な感じだったしね。
無茶さえ言わなければ、相応の自由は手に入りそうな感じを受けたわ。 だから、無茶や我儘は云わないつもりよ。
「鍵」を開けて第十三号棟のお部屋に入るの。 うわぁぁ…… 懐かしいなぁ…… なにもかも、出て行った時のまま…… だと、思うのよ。 表面上はね。
つかつかとお部屋の中に入って、魔法灯火を点けるの。 壁面に設置してある、釣鐘蛍草の魔法灯火。 作業テーブルの上のカイガラムシの甲殻のランプ。 天井の大きめの照明に一気に灯が入るの。 うん、大丈夫そうね。
辺りは…… まぁ、少し埃っぽいけど、直ぐに使える感じ。 最初にするのは、当然、お部屋の中の ” 完全鑑定 ” ね。 だって、色々と仕込まれて居そうなんだものね。 目の色がスッと蒼くなる。 周りの人は、皆知っている人達だから、気にしないけどね。
『第四〇〇特務隊の隊長さんは、黒目、黒髪に二条の紅い髪』 それで、通っているんだもの。 こんな蒼い目をしている私を知っているのは、一握りに人達だけ。 それも、他には絶対に教えないでねって、釘を打ち付けているから…… 大丈夫。
――― 大丈夫だよね?
眼を凝らば、辺りにはかなりの数の「糸」が張り巡らされていたわ。 この部屋を監視する為の魔方陣に繋がる「糸」。 その「糸」を辿れば、色々な魔方陣に繋がっているの。 例えば魔法灯。 音声を拾う術式が追加されていたわ。
それも複数ね。
後は…… 高い所にこの部屋を「視る」為の魔方陣。 きっと、どこかに繋がってて、何をしているか監視しているのね。 それと…… 私の「お部屋」に成る場所。 此処は何処よりも沢山の「糸」が張り巡らされていたわ。 とても、気に入らない……
監視用の「魔道具」も、それとなく追加されて置いてあるんだものね。
覗き見されるは、とても嫌。 だから、糸がこの部屋を出る場所に、現状の状態を記録した魔石を配して、全部それに繋げたの。 一つ一つ潰していくのは、とても大変なんだけど、糸がこの部屋を出るのはたったの二か所。 だから、それに「目眩まし」を噛ませたのよ。
これで、この部屋の監視は不可能になったわ。 ついでに、防壁も強化しておくわ。 ほら、あの異界の魔術師さんから、色々と教えて貰ったでしょ。 記憶の転写って形で…… アレによると、あちらの防壁に、楽しいモノが色々とあってね、それを応用した術式を組上げてみたの。
お外にある、【探知】にも改変を加えたの。 勿論、あちらに繋がっている「糸」は排除済み。 今度、この部屋に何かを仕掛けようとしても、無理よ。 だって、術式構成がこの世界のモノでは無いんだもの。 いくら解析したって、出てくるのは「解析不能」だもの。
以前に扉に書き込んだ、【耐物理防御】と、【耐魔法防御】の魔方陣にも、それぞれ、異界の術式構成を混ぜ込んだわ。 新たに設置されていた、【防御魔法】に【障壁魔法】は、強制昇華して霧散させたの。 だって、色々と変な術式が含まれていたんだもの。
【施錠】と【開錠】の術式は登録式にしたわ。 もちろん、第四〇〇特務隊の人達なら「鍵」要らずで出入り出来る様にね。 後は許可制。 それも、私の許可なくしては、誰も入れない様にね。 これもまた、異界の魔術の法理を駆使して編み出したの。 だから、本当に入れないわよ。 多分…… 今のティカ様でもね。
随分とスッキリしたわ。 にこやかに微笑んで、皆の前に行くの。
「もう大丈夫ですわ。 誰にもこの中の出来事は察知できません。 自由に、お話も出来ます。 節度を持って、色々な事が出来る様になりました。 明日からは、隣の第十五号棟の整理をしたいと思います。 第四〇〇〇護衛隊の皆さんが、楽に出来る様に致します」
「はい。 あのリーナ様……」
「どうかしましたか、クレアさん?」
「わたくし達も、此処に? 宜しいのですか? 此処は王宮薬師院の建物ですが……」
「そうですね。 でも、お話頂いた通り、第十三号棟、及び、第十五号棟は、第四〇〇特務隊、及び、第四〇〇〇護衛隊に貸与されました。 第四軍と王宮薬師院との取り決めですから、問題は御座いませんわ。 早速、あなた達のお部屋も作らないと…… 何処か…… そうだわ、わたくしのお隣に、小部屋を作りましょう! 水回りもわたくしのお部屋から引けますしね!」
彼女達専用の個室は、作ろうと思っていたの。 だって、此処って、ほとんど剥き出しなんだものね。 女性の事務官なんだから、個室は必要よね。 シルフィーと、ラムソンさんは、もう自分たちの寝床に向かっているわ。 簡易お風呂から、音がしているモノ……
まずは、簡単にだけれど、わたしの小部屋の隣に小部屋を二室…… 材料は…… そうね、積み上げられている薬草箱が良いわね。 中には、まだ古い薬草も入っているし…… 保存を掛けておいたけれど、相当古くなっているから、薬効も抜けちゃっているから、この際だからお部屋の材料にしてしまおう……
錬金魔方陣を繰り出して…… 妖精さん三人に手伝って貰って、小部屋の材料を錬成したの。 簡単な間仕切りと天井。 ベッドと机と椅子。 書棚と物置棚。 後は布モノね。 簡単、簡単。 薬草箱の奥底に釣鐘蛍草の古いのが有ったから、それで、魔法灯も作ったの。
魔石はかなりの量を持っているわ。 ほら、北域街道を戻る時に、いろんな場所で採取とか狩とかしたでしょ。 アノ時に、魔獣さん達にも出くわしていたから…… 大小様々な魔石も手に入れていたのよ。 ほんとお役立ちね。
ザックリと部品を作りつつ、ホワテルとブラウニーが組上げてくれたの。 レディッシュは錬金魔方陣で作った布を私と一緒に切ったり縫ったりね。 手際イイのよ? 私達はね。 クレアさんとスフェラさんは、オロオロとしていたけれど、お構いなしに作業を続けるの。 個人の嗜好とかは、後回しでね。 それは、各人が用意すればいいの。
一応…… 住む為の設備が有れば、後は個人が作り上げるのが、いいのよ。 寝具にしても、一応のモノでね。
水回りは、私の小部屋から引っ張って、繋げただけ。 簡単なモノよ。 排水も配管を取りまわして、私のお部屋ある排水溝に繋げたの。 彼女達のお部屋の方が一段高くなっているのはその為なのよ。 まぁ、あまり気に成らない程度だけどね。
お部屋も組み上がり、扉を付け、施錠出来る様に錠前も付けた。 コレは、第十三号棟の扉と同じようなモノね。 マスターは彼女達。 他には彼女達が許可を与えたモノにしか開ける事は出来ない様にしたわ。 おばば様が言っていた事を思い出したの……
” 女ってのはね、秘密が多いもんなんだ。 暴くんじゃないよッ! ”
って、そう仰ってたのよね。 だから、個人的空間は、とても大切な場所。 たとえ私でもそこには入って行ってはいけないんだもの。 後は…… 【防音】と【耐物理防御】と、【耐魔法防御】を打ち込んでおけば……
ほら、簡単でしょ?
「あ、あの…… この小部屋をわたくし達に?」
「ええ、そうよ。 此処は、新たな貴方達のお家。 心休める場所に成るんだもの。 小物とか、必要なモノとかは、お給金で賄ってね。 第四軍の軍属として登録している貴女達だもの、ちゃんと、第四軍からお給金は出ている筈だものね」
「え、ええ、まぁ…… でも…… いいのでしょうか?」
「その為のお給金よ。 いいのよ。 それで。 心を休め癒される、そんなお部屋にして下さいね」
「ありがとう御座います…… 御恩は……」
「仲間でしょ? それに、こんな小娘でも、私は貴女達の上官でもあるのよ。 ならば、その義務は遂行しなくちゃいけないのよ。 だから、御恩とかはナシ! やるべき事をやっただけよ。 さぁ、中を検めて! 持ってきた物を入れてね。 私はお手紙をニ、三通書かないといけないから、それが済んだら、晩御飯を食べに行きましょう! あと、お風呂も用意したわ。 簡易お風呂だけど、あなた達のお部屋の真ん中に作って置いたわ。 中から行ける様にしてあるわ。 よかったら、使って」
「えっ? お、お風呂……ですか?」
「そうよ、使い方は…… ねぇ、シルフィー! お風呂の使い方、教えてあげて!」
「承知いたしました」
オロオロとしている二人に、そう声を掛けたの。 恐る恐る中を検めている二人。 気に入ってもらえると、嬉しいんだけどなぁ……
妖精さん達三人にお礼を言ってね、左手に戻って貰ったの。 疲れたでしょ? ゆっくり休んでね。 シルフィーが二人にお風呂の使い方を教えている間に、私は自分の小部屋に戻って、お手紙を書いたの。
そう、おばば様と、ティカ様、そしてイグバール様へね。
近況と、暫くお手紙出せなかった事のお詫びと、王都に戻って来ちゃったこと。 そして、第四軍の医薬品供給を担ってしまった事。 イグバール様には、また、南方辺境から魔法草を送ってもらう算段を付けて貰う事。 色々と、書かなきゃならない事が一杯あったわ。
三通のお手紙を書いて……
折り込んで……鳥の形にして…… 息を吹きかけ……
――― さぁ、飛んで行って!!
大好きな方々に、私の事を伝える為に!
私は、今日も、元気に、精一杯生きていますって!!!
高い天井に近い明り取りの窓を抜けて、ハトが飛んで行くの。
宜しくね。
さて…… 晩御飯の時間よね。
今日の晩御飯は…… シチューが良いなぁ……
応援ありがとうございます!
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