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「薬師錬金術士」 の 「リーナ」
王都ファンダル
しおりを挟むエスコー=トリント練兵場からの異動は、命令書として頂いたわ。 色々な部署の方が、努力してくださったお陰で、発令もとても早かったの。 でもね、王都のでの受け入れ態勢とか、色々あるでしょ? だから、先行して私達、第四四〇特務隊が王都に向かう手筈になったのよ。
人員構成は、私と、シルフィー、ラムソンさん、そして、クレアさん、スフェラさんの五人。 小部隊での移動は殊の外早く済むはずだったの。 そう、” だった ”……のよ。
問題はね、膨大な量の事務仕事。 第四四〇〇護衛隊の分も有るんだものね。 さらに、私は「軍属」の薬師。 だから、薬師のお仕事に必要な、様々な手配もこちら持ちになったの。 練兵場を離れるまでにかかった日数は、二週間。 最初の一週間は、クレアさんとスフェラさんが居なかったから、事務仕事を一手に引き受けてたの。
そこで判明したのが、入出庫台帳の不備。 修正に次ぐ修正。 さらに、出発する前に、第四四師団のお薬関連の補充。 傷薬が結構な数量減ってたわ。 まぁ、その分強靭な歩兵に成ったのだから、それは、いいのよ。 錬成するのも、楽しいし。
でも、時間が無かったの。 本当に、寝る間を惜しんでお仕事してた。
一週間がたって、クレアさんとスフェラさんが帰隊してくれて本当に、ホッとしたわ。 帳簿関連の指摘箇所を告げるだけで、後は遣ってくれるんだもの。 本当に有難いわよ。
「リーナ様のお手を煩わせまして、誠に済みませんでした。 この様な詳細な経理事務は、軍属に成るまでは携わる事がありませんでしたので、頂いた教本片手に出来るだけはと思っておりましたのですが……」
「いいのですのよ、クレアさん。 十分良く出来ていたましたしわ。 ちょっとした認識の違いとか、解釈の違いとかは、常に起こり得ることですもの。 それが、早くに判明して修正出来るのなら、問題は有りませんわ。 だけど、ちょっと時間が…… お手伝い、本当に嬉しいわ」
「勿体なく…… 努力いたします」
「スフェラさんも、よしくて?」
「はい、勿論に御座います。 足手纏いに成らない様に…… が、頑張ります」
「ほら、肩の力を抜いて下さい…… 三人でやれば早いですし、間違いにも気が付きやすですから」
「あ、ありがとうございます……」
ニコリと微笑んで、彼女達の力添えをお願いしたのよ。 まぁ、一人でやったら、トンデモなく時間が掛かる事は間違いないしね。 快く私の願いを聞き入れてくれたおかげで、お仕事もとっても順調に進んだの。 提出すべき書類も、全て提出し、ついに、エスコー=トリント練兵場を出る日に成ったわ。
指定期日までは、まだ、時間が有るけれど、此処は「軍」。
なにがあるか判らないから、さっさと勤務地に向かうべきなのよ。 用意してもらった、軍用荷馬車に五人分の荷物を詰め込んで、出発するの。
冬の寒い朝。 第四四師団の皆さんが見送る中、私達は王都に向かったの。 出来るだけ早く、護衛隊の人達の住居を作り上げるからッ! 待っててね!!
鈍色の空。 小雪が舞うそんな朝。
私の、エスコー=トリント練兵場での日々は、遠く懐かしいモノに変わる。 エスコーの街、トリントの街。 あの街の人達には、お別れは云わない。
きっと、また……
行く事も有る筈よね。
またね。
大切な人達。
暫しの、お別れです。
春になってから、任地に向かわれる、第四四師団の皆さま。
お元気で。
心よりの、《武運長久》を、祈ります。
~~~~~~~~~~~
王都の喧噪…… 久しぶりね。 エスコー=トリント練兵場に配属されてからは、足を向けなかったものね。 厄介ごとが沢山ある、王都ファンダル。 私にとっては、あまり住みやすい場所ではないもの。 辺境が懐かしいわ。 あっ! おばば様へのお手紙ッ!! まだ、出してなかった!!
近況報告をするって、そう前回書いてから、もう三ヶ月近くたっちゃったわ! ダメよね。 時間を見つけて、とにかく、お手紙出さなきゃ!! あぁ、それと、イグバール様にもッ!! 魔法草の手配をお願いしなくちゃ! 王都近郊の森とかに自生している魔法草は、王都の人達が必要な分で精一杯な筈。
王都冒険者ギルドも、そっちに力を入れているんだけど、それでも、王宮薬師院と街の需要で手一杯な筈だしね。 品質は向上するけど、量の方はどうしようもない。 イグバール様…… 贈って下さるかしら?
となると、フルーリー様にもお話しなくちゃ!!
うわぁぁぁ、色々と大変そう…… と、とにかく、着任のご挨拶に向かわないと!! 王都ファンダルに到着して、目指すは、王城外苑。 軍の総司令部みたいな場所だものね。 そして、わたしのお仕事は、その王城外苑の錬成室勤務。 四軍全ての必要な薬品類の調剤錬成。
あの…… 弄った錬金釜…… まだ、有るのかなぁ…… それと、補助の薬師様か、魔術師様…… 居ると…… いいんだけどなぁ……
軍用荷馬車に揺られながら、そんな事をつらつらと考えているうちに、王城外苑に到着したの。 石畳の固い感覚は、以前と比べものに成らない程小さいわ。 これも……そうね、礼の緩衝装置が上手く働いているって事ね。 だって、そんなにお尻痛くないモノ……
久しぶりに見た、「四紅錬石」 は、やっぱり、威厳に満ちた建物だったわ。 私達の乗った軍用馬車は、誰何を受ける事無く、第四軍の建物の厩に馬車が入るったの。 えっと、いいのかな? まぁ、王都だし…… ギフリント城塞では、キチンと誰何されて、馬車の中まで確認されていたのにね。
ちょっと警備が甘いような気がするのよ。
でも、此処は、王都だしね…… オフレッサー侯爵様に問い合わせておいた方がいい事かもしれないわ。 まぁ、それは後で。 私達一行は、重厚な玄関を通り抜けて、四軍の執務室へと向かうの。 途中、途中で、見知った人達が居たわ。 敬礼と答礼を繰り返すの。 私は軍属で、階位も無いから、廊下の脇に寄って偉い人達が通るのを敬礼を持って待つのよ。
――― メンドクサイ
相手が私を見る目もちょっとね。 びっくりしたような、なんとも言えない視線を私に向けるのよ。 随伴のシルフィーやラムソンさんの顔を見て、ちょっとヒクついているのが、またなんとも…… 残念な事なんだけれどもね。
クレアさんも、スフェラさんも、今は軍属の事務官として、支給されている制服を着こんでいるわ。 ちょっと、カッコイイの。 詰襟のロングジャケット。 金釦はキラキラよ。 略綬は何にも無いんだけど、襟章は、第四四〇特務隊のモノ。 薬師の部隊だから、魔法草をモチーフにした襟章なの。 私が護衛作戦に従事しているときに、エスコー=トリント練兵場の第四四師団の被服科の人達が作ってくれたみたい。
軍属だから、正規軍の服装規定に近いモノを用意したって、そう聞いているのよ。
スラックスには、横に紅い細い帯が入っているの。 それが軍属の証なんだって。 へぇ…… 知らなかった。 私は、おばば様から頂いた何時もの服装だものね。 薬師としての制服みたいなものですって、軍に着任した時にそう言ったから、コレを着てても許されるらしいの。
本当は、軍属の服もちゃんと用意されているわ。 着ないけれど…… あれ…… ちょっと、胸周りがきついんですもの。 軍には、女性用の軍服なんて、無いし…… 丈で合わすと、胸周りがきついのよ…… やっと、成長し始めたからね…… 御胸…… 痩せっぽちだったけれど、それなりに、丸くなり始めた私の身体付き……
そう云えば、前世のデビュタントの時、やたらと露出の多いドレスを着こんでたっけ…… 似合いもしないのに…… 派手な化粧迄ね…… 思い出したら、顔から火が出る程、恥ずかしいわ……
何回も敬礼を繰り返して、やっと執務室に到着。 ノックをして、入室を乞う。
コン コン コン コン
「第四四〇特務隊。 指揮官リーナ。 本日、王城外苑に着任いたしました。 着任の報告を致しくたく存じます。 入室のご許可頂きたく存じます」
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