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広がる世界、狭まる選択
謎の呼び出し
しおりを挟む「リーナ様、お客様がギフリント城塞においでに成っておられます。 是非、お会いしたいと、そう申されました」
「えっ? お客様?」
「はい、此処、ギフリント城塞の建物に入いる前に、呼び止められました。 先触れを頼むと…… と、いうよりも、連れ出して欲しいと。 ギフリント城塞に籠られて、中々に接触が難しいと、そう云われました」
「ええぇ? どういう事?」
「―――少し、お出かけ致しましょう。 幸い、城塞の敷地の中ですので、師団長様の許可は必要ありませんから」
「…………なんだか、怖いわね。 大丈夫なの?」
「ええ、安全は保障致します。 状況の確認をされたいとの事でしたので」
「……やっぱり、事情聴取なのね。 表立って会えない人なのね。 ……諜報関連の人ね」
「御意に」
いつも通りのシルフィー。 表情からは伺えないけれど、きっと様々な事を想定して、それでも尚、私が出向く様に言ってくるって事は、相手は大物ってことね。 諜報関連の大物さんとの会合? そんな感じね。 ちょっと…… いいえ、かなり負担に感じるわ。
私は『重要人物』でも無いし、モグラでも無いんだけどなぁ……
不安な気持ちも有るんだけれど、それでも、シルフィーがそこまで云うのならと、思うのよ。 出向くことにしたのよ。 あんまり、ギフリント城塞の建物の外には出たくないんだけど…… 仕方ないよね。
^^^^^
日が落ちても、城塞の敷地の中はとても明るかったの。 大天幕が作り出す、ちょっとした繁華街は、不夜城と化していたわ。 大きな笑い声とか、高らかに歌う酔った声。 軍警邏の人達も、慰問の人達が来ている間は、大目に見ているのね。
普段、こんな事してたら、営倉が一杯に成っちゃうものね。
夜風が大天幕の間を通り抜けるの。 もう、冬が間近に迫っているのも有って、その風は身を切る様に冷たくなって来たわ。 秋も…… もうすぐ終わる。 また一つ…… 歳を重ねるのね。 来年に成れば、私も十五歳。
前世では、盛大なデビュタントの王室主催の舞踏会に出た年に成るわ。
あんまり、思い出したくない記憶だけどね。 色々と物議を醸した、前世のデビュタント。 色気づいて、マクシミリアン殿下に多大な迷惑をかけたっけ…… あぁぁ、もうっ! 忘れろ、忘れろ!! 今は、薬師錬金術士のリーナ。
――― 庶民のリーナ なんだもの。
王室舞踏会なんて、全く、これっぽっちも、出席する事なんて、考えられないモノだものねッ! 招待されるのは、伯爵家以上の家格を持つ家の子弟よ。 庶民の私には、何の関係も無いわ! はぁぁ…… 思い出は…… どうしてこんなに、心に刺さるのかしら?
やらかした事は、前世の中でも相当な事。
マクシミリアン殿下の歓心を買おうと、そりゃ無茶したんだもの…… 穴が有ったら…… いえ、無くても、自分で掘って…… 埋まりたい……
そんな想いを胸に…… 何とも言えない表情を浮かべていた私。 夜の大天幕の間を、シルフィーとラムソンさんと一緒に歩いていたわ。 シルフィーが先頭を、ラムソンさんが後ろから、周囲を伺いつつね。 色んな声が聞こえる大天幕の間。 楽し気な雰囲気が、さっきのちょっと凹んだ私の心を浮かび上がらせてくれるのよ。
シルフィーはどんどんと奥に進んでいくの。 この辺りは…… たしか…… 酒場とかが集中している場所だったけ? 治癒室の窓からも少し見えていた場所だったはず…… この辺りは、お酒に酔った人たちがかなり居るし…… あんまり…… 来たくなかったなぁ……
ほら…… だって、私…… まだ、十四歳なのよ? せめて、十五歳に成らないと、こんな場所に足を踏み入れるべきでは無いモノ。 辺境じゃぁ、娼館に往診に行ってたけど…… お店が閉まってからだったし…… 酒場の方は、行くような機会も無かったし……
「リーナ様、大丈夫ですよ。 流石にギフリント城塞の敷地内ですから、酔漢も結構…… 御行儀はいい方です。 流石、第四軍の指揮下の者達だと云う事です。 この先の天幕にお待ちですから、もう少しです」
私の不安を嗅ぎ取ったのか、シルフィーは振り向いて、涼しい顔でそんな事を言ってくれるのよ。 まぁ、貴女がそう云うのなら、そうなんでしょうけどね…… コクンと頷いて、ちょっと、シルフィーとの間を詰めたの。
だって…… ねぇ…… いくら、” 御行儀 ” が、言いと云っても…… 酔った兵士なのよ? 一般の人じゃ無いのよ? 常に暴力の間に居て、気持ちがささくれている様な人たちなのよ? なにが原因で、暴発するか、判ったモノじゃ無いわ。 そりゃ、対処は出来るけど…… 敢えて、そんな中に入っていくのは、どうかと思うのよ。
周り中が、患者に見えるんだもの。
明日辺り…… 酷い二日酔いの症状を呈する人達が、かなりの数に成るんじゃないかなぁ…… 酔い覚ましの薬草…… 備蓄、有ったかしら? 水を飲ませて、寝て貰って……
そんな事を考えていたら、シルフィーの足が止まったの。 目の前にこじんまりとした天幕が有ったわ。 目立たない…… 事務所みたいな、そんな感じ。 華やかな他の天幕と違って、地味で中の様子が外に漏れないように、遮光布製の天幕だったの。
「ここ?」
「はい。 中に入りましょう。 きっと、お待ちかねです」
「判ったわ」
入口の布の合わせ目から、身体を滑り込ませたの。 ほんのりと暖かい。 柔らかく甘い香り…… 落とされている光源は…… ランタン。 魔法灯でも無いのよ。 テーブルが有って、その向こうは、間仕切りの几帳が張られているの。 テーブルには、数人の男の人達がたむろって居る。
鋭い眼光の人達ね…… 表情は暗いから、あまり判らないけれど、強い光が瞳に宿っているのは、わかるわ。
ほんと、悪巧みをする人達って、こんな雰囲気が好きよね。 もうちょっと、明るい中でお話出来ないかしら? 促されるまま、几帳の一つの裏側に入っていくの。 そうしたら、さらに薄暗い空間があったわ。 丸いテーブルに、お皿に乗った蝋燭が一本だけ。
はぁ…… これは…… 何なんでしょうね。
シルフィーの様子を伺っても、何でもない様な顔しているのよ。 仕方ないわ、促されるまま、椅子に座るの。 用心を忘れない様に、【気配察知】は展開していたの。 ほら、伏撃受けたでしょ? あれ以来、ずっと常時展開するようにしているし、魔法陣の強化もしたのよ。 不意打ちはもう御免だものね。
テーブルには、気配を絶った人達が、四人。
上手く気配を殺しているし、何らかの魔道具を使って隠遁しているわ。 でも、ちゃんと見えているわよ。 ホントにもう…… きっと…… 何だって、貴方が此処に居るのよ……
驚いたわよ。
ホントに、ホントに驚いたわよ。
なんで、こんな国境の城塞の敷地内に張られた天幕の中に、何で居るんですか?
王立ナイトプレックス学院の授業はどうしたんですか?
ねぇ、シーモア先生?……
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