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広がる世界、狭まる選択
獣人達の休暇
しおりを挟む足止めをされ、事情聴取の日々が過ぎる事、早五日になったの。
色んな部署の人が次々とやって来てね、その度に驚かれたり、疑惑に満ちた目で見られたり…… その上、森都ブルシャトの森の辺りが、原初の森の様に再生され、散逸していた穴熊族方々が集まり始めている事が観測されてから、もっと、突っ込んだ事情聴取を受ける様になったのよ……
シルフィーが居ないって云うのに……
ラムソンさんは我関せずなの。 従者だから、特別に報告数る事は無いと云う感じなのかしらね。 そして、様々な部署の人達も、” わざわざ、獣人族の従者に聞く事も無い ” って感じでね。 嫌な雰囲気なのよ。 ラムソンさんは気にしてないからって、言って呉れてるけれど、私的にはちょっとね。
私が足止めされている間、我が栄えある、第四四〇特務隊は開店休業なのよ。 このギフリント城塞では、完全にお客さまな訳で、その上、第四四〇〇護衛隊は皆さん獣人族義勇兵だからね。 オフレッサー侯爵閣下の薫陶も、まだまだ、キチンと浸透していないから、彼等を見る目は…… まぁ、その……ね。
居心地悪い事、この上ないのよ。
だから、願い出たの。 第四一師団の師団長様である、ファンダンテ伯爵に。 それしか方法が無くて、仕方なかったのよ。 指揮命令系統上は、私は第四四師団直下の特務隊でしかないし、指揮官を兼務している第四四〇〇護衛隊に関しても、私の直下と云うことで、このギフリント城塞に駐屯する第四一師団には、命令権は無いの。
でもね、お伺いを立てる相手は、第四一師団、師団長ファンダンテ伯爵しか居られないからね。 ギフリント城塞の師団長執務室を訪問して、お願いする事にしたの。 城塞の奥、簡単には敵に足を踏み込ませないような、そんな場所に執務室はあるのよ。 武骨で堅牢な城塞の中でも一番防御の固い場所なのよね。
先触れを出し、お時間を頂ける様にお願いして、やっとのことでお話が出来る事に成ったわ。 ラムソンさんに側についてもらって、一応、私個人の安全も図ってね。 重厚な扉をノックして、お話合いに臨んだのよ。
大きな執務机越しでの、お話合い。 私は直立不動。 机の向こうに柔和な表情で座る第四一師団 ファンダンテ師団長様。 私も出来るだけ柔らかく、言葉を紡ぎ出したの。
「お時間を戴き誠に有難うございました、師団長様。 不躾ならが、ご質問が御座います」
「何だろうか? 私に応えらる事ならば、如何様にも?」
「わたくしが、エスコー=トリント練兵場へ帰還し原隊復帰する迄、まだ時間が掛かるのでしょうか?」
「そうだな…… まだ、北域街道の混乱は続いている。 二日前に此処を出たテイナイト子爵殿が中域街道の安全を確かめながら辿っている。 まだ、本領との領境には到達していない。 第四三師団の伝令兵と共に騎馬にて行軍中だが、中域街道沿いにも、マグノリアの手の者が居るやも知れぬからな。 薬師リーナ殿が、どの街道を使って、本領に向かうか…… 決めかねているのだ」
「左様に御座いましたか。 わたくしを狙っての襲撃でしたから、仕方ないと思います」
「本領からも色々と問い合わせと、人員が送り込まれてきているのも有る。 当分、この城塞にて滞在してもらう事になるかと思う。 そうだな、見積もって…… 一ヶ月程か」
「周辺の情報収集と、本領各組織の調整と、何かしらの欺瞞情報の流布…… ですね」
「よく見るな。 そうだ。 薬師リーナ殿。 貴殿は今、ちょっとした注目を集めていると、そう本領より報告が有った。 表向きは、襲撃に会い重傷。 このギフリント城塞までは、なんとか移送出来たが、治療中との事となっている。 此処は城塞でもあるし、第四軍の関係者しか居らんから、まずは貴殿の安全を確保できるのでな。 状況が収まるまで、少々窮屈な思いをして貰う事に成った」
「はい…… 理解しました。 ご迷惑をお掛け致します」
「何の! 貴殿が城塞の治癒院で、将兵の治癒をしてくれておるであろう? 女性の治癒師に見てもらえると云うだけで、奴ら…… その…… な。 現金なモノだ、士気が上がっておるのよ。 それに、払底し始めて負った薬品類も、供給してくれている。 感謝に堪えん。 いやはや、第四一師団において、リーナ殿が滞在してくれている事は、なんとも心強い事であるな!」
「勿体なく…… あの師団長様、申し上げにくい事なのですが……」
「なにか?」
「一つ、お願いがございます。 本来であれば、指揮命令系統から外れている事では御座いますが、出来れば第四軍司令部に御口添え頂けないでしょうか? わたくしだけがお願いいたしましても、中々…… その……」
「難しい話か?」
「ええ…… 実は、第四四〇〇護衛隊の義勇兵の皆様に、『特別休暇』を、願い出たいのです。 幸いと云っていいかのは判りませんが、ここギフリント城塞でのわたくしの安全は確保されております。 よって護衛隊の皆さんには、お仕事が無い状態に御座います。 それに、あの苛烈と云っても良い護衛戦闘に置いて獅子奮迅の活躍をされた皆さんに、少しでも報いて差し上げたいのです。 此処は居留地の森にも近い場所。 一時的な帰郷も…… 宜しいかと愚考いたしました」
腕を組み頷く師団長様。 まぁ、そうなのよね。 コレは本心なの。 戦闘でささくれ立った気持ちを落ち着かせるのに、森の故郷に一時的に帰郷するのは、皆さんにとっても、英気を養う機会に成りそうだし…… 皆さんの精神衛生上も、とても良い事だと、おもうのよ。 だから、願い出てみたの。
「なるほど、そうでしょうな。 彼等は、彼等の故郷に帰ってみるのも良い事かもしれませんな。 四軍の新兵も、望郷の念を抱く者も多々居りますからな。 ましてや義勇兵として、ファンダリアに残ったモノ達。 彼等もまた、強く、故郷を想うでしょうからな。 宜しい。 私からもオフレッサー侯爵閣下に御口添えの書面をお送りいたしましょう」
「有難うございます!! お願いして良かった!!」
満面の笑みを浮かべ、そう口にしたの。 ハト便とか、中距離【遠話】を繋いで、王城外苑に連絡を取って、私の請願書と、御口添えの文書を送って下さったのよ。 驚いた事に、『王太子ウーノル殿下』の御名で、即日、ご許可が下りたわ。 そう、” 勅許 ” よ…… 師団長様から、送られた書状をご覧に成られた、オフレッサー侯爵閣下もまたウーノル殿下に、御口添えして頂いたと、そう伺ったの。
――― 感謝の言葉しか口にする事が出来なかったわ……
ファンダンテ師団長様に、丁寧にお礼を申し上げて、その許可を持って、プーイさん達が居る部屋に行ってね、伝えたのよ。
『恩賜の休暇』を戴けたことをね。
皆さん、最初はポカンとした顔してたけどね、森に一時的に帰れると云う事で、何となく元気に成ってくれたと思うの。 プーイさん達なんかは、ちょっと嫌がる素振りをしていたんだけど……
「ほら、聖域が再生されたんでしょ? その眼で見てみたいと思わない? 私があなた達にお約束した事が、キチンと護られていたって事、その眼で見て欲しいのよ。 ダメかな?」
「リーナ…… あ、あの…… 森都ブルシャトへ…… 行ってもいいのかい?」
「勿論よ。 魂の故郷でしょ? 何なら、現地除隊でも構わない。 あなた達にはあなた達の希望も未来も有るんだから!」
「いや、それは精霊誓約に抵触する。 リーナの心遣いはとても有難いけどね…… 一目見て、帰って来るよ。 なぁ、そうだろ?」
「「「 応 」」」
穴熊族さん達だけでなく、他の人達迄……
もう……
私とラムソンさんを残し、彼等は森へ一時帰郷したわ……
皆、とても輝いた表情をしていたの。
ラムソンさんは、頑として私の側を離れないけどね……
英気を養ってほしいな。
ジュバリアンの民としてのあなた達。
一粒の種のように……
再生された森に、安寧が回復した事を…… 伝えてね。
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