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公女リリアンネ様 と 穢れた森 (2)
穢れの浄化
しおりを挟むシュトカーナの杖を捧げ持ち、おばば様から頂いた、極大魔方陣を紡ぎ出すの。
杖の先端から、周辺に向かって、編み上げられる、【聖浄浄化】の魔法陣。 赤黒い私の魔力で、紡ぎ出されたその魔方陣は、かなりの大きさなの。
このスープ皿の様な盆の地上空高くに出現したわ。 起動魔方陣をいくつか編み出して、連結する。 モノがモノだけに、起動限界もかなり大きい。 起動魔方陣一つじゃ間に合わないくらいね。 連結した起動魔方陣に、魔力を注ぎ込む。 大量に…… それは、それは、とても大量に……
必要量にはやっぱり届かない。 髪に蓄えていて、残っていた魔力も全部投入する。 【制限付き詳細鑑定】【身体強化】【浮揚】の各魔方陣も昇華させて、維持用の魔力も投入。 足元で、ジャリンって、ガラスを踏んだような音がしたわ。 それに、かなり熱い……
そっか…… まだ、熱を持っているものね。
今は、それどころじゃないから、無視したわ。 足りないと思われる魔力を、シュトカーナが注ぎ入れてくれる。 かなりの量だけど…… 大丈夫かしら…… 赤黒い魔力と、緑色の魔力が、起動魔方陣の中で混ざり合うの。
本来…… こんな方法で起動すべきじゃないのは判っている。 でも、時間も無いし、私の身の証を立てねば、信じて貰えないんだもの…… 仕方ないわ。 だから、渾身の力を込めて…… 震える足に叱咤激励して、起動可能な魔力が溜まるのを待つ。
連結した、起動魔方陣に、魔力が満ちた…… うねる魔力が、起動限界を超えたの。
「今ここに、異界からの穢れを払い、清浄なる土地をよみがえらせん! 起動! 【聖浄浄化】!!!」
頭上に紡ぎ出した、極大魔法に一気に魔力が注入される。 各部が正確に効果を発揮し、段階的な魔法の発動を具現化し始めた。 魔方陣は更に巨大に…… 周辺部から膨張し…… 大きく広く、水面にインクを落とす様に、広がっていったの。
起動魔方陣の相当量の魔力が、全て注ぎ込まれる。
魔方陣の大きさは、荒地の全てを覆い包む。 赤黒く、そして、深い碧緑色に発光しながら、極大魔方陣は、ゆっくりと降下し始めた。 遠く、近く、遠雷の様な音が響く…… 穢れを昇華させるときに出る、雷を様な音。
パリパリ、バリバリ……
この「穢れし森」の荒野のあちこちで、その音が鳴り響く。 一つ鳴ると同時に、失われる魔力…… 起動限界以下になれば、魔法陣は霧散する。 だから、追加でどんどんと、魔力を送り込むの。 私の内包魔力は、ほぼ空っぽになる。 凄まじい吐き気がする。 意識が遠のく……
今度のは、良く判る。
魔力枯渇なんだよ…… 勢いよく魔力回復回路が回っているわ…… あの「大魔方陣の欠片」は焼いたから、この辺り…… いいえ、「穢れし森」の荒野には、もう、異界の魔力は無い。 薄い通常の魔力だけが漂っているの。
それを捕まえて、必死に回復を図ろうとしているのよ。 ちょびっと…… ほんのちょびっとだけど、魔力の回復を感じるの……
追加の魔力の多くは、シュトカーナがやってくれている…… 捧げ持つ、シュトカーナの杖から、迸る碧緑の魔力がそうよ……
ゆっくりと降下する、その極大魔法陣は、この荒野全域で、同じように降下している。 浮遊する穢れが終わり、地面と接地する。 一気に落雷にも似た音が四方八方から響き渡るの。
バリバリバリ!
ってね。 私達の足元まで降りた極大魔方陣。 その効果は絶大。
無数の光の粒が、湧き上がり天空に消えていくの。 大きなモノから、小さなモノまでね。 やがて…… 遠雷の様に、落雷の音が遠ざかる。 光の粒は…… 上空に舞い上がり…… 虚空に霧散していく。 明るい照明の様な光の粒……
その場にいて…… その光景を見て…… 穢れを払えた事を理解したの。
草一本生えていなかった、荒野が…… ありとあらゆる草花に覆われた…… 金色の粒が舞い上がるその下に、緑の絨毯が生まれたの…… あぁ…… 精霊様…… 感謝申し上げます! この地の穢れを払いし事が出来ましたのも、一重に精霊様の御加護。 この世界の理が今、まさに ” 復活 ” 致しました!
【聖浄浄化】の、極大魔法陣が、その役割を終え、昇華を始めるの。 シュトカーナ…… ありがとう…… 本当にありがとう。 私一人では、絶対にできなかった。
〈 リーナ…… 少し眠るわ。 いい? 〉
〈 ええ、シュトカーナ。 本当にありがとう。 これで、樹々も蘇るの? 〉
〈 ええ、種子は落としたわ。 森に成るのは、長い年月が必要だけど…… きっと、また、森に成るわ 〉
〈 そう…… ね。 長い年月が必要なのよね…… 〉
〈 ええ…… そうよ。 樹々や、樹人にはあっという間。 でも、人の時間で云えば悠久の時が必要よ 〉
〈 そう……なのね。 わかった。 シュトカーナ。 貴女の献身と、慈愛に神様と精霊様の祝福が有らん事を…… 〉
〈 言祝ぎ、ありがとう。 眠るわ…… また…… 起こしてね、リーナ 〉
〈 ええ、ゆっくりと、お休みください。 シュトカーナ=パエシア姫様…… おやすみなさいませ 〉
シュトカーナが眠りに付き、シュトカーナの杖が左腕に格納された。 フラりと危なげな足元。 柔らかな下生えが、既に膝まで生えてきている。
” それが…… 浄化か…… ”
「はい、左様に御座います。 「穢れし森」の穢れは払われました。 もう、此処は「穢れし森」では、御座いませんね」
” そうか…… その様だ。 多くの囚われし者達が、この情景を見、安堵したようだ ”
色とりどりの、光の珠が、上昇を始めている…… 遠き時の輪の接するその場所への回帰。 輪廻の輪への帰還…… これで、やっと…… やっと…… 彼等も、この世界の理の輪の中に帰還する事が出来たんだ……
「 魂が帰りし場所、遠き時の接する場所。 願わくば、『闇の精霊』ノクターナル様に、彼等の魂を導いきその場所へ送り届けて下さる事…… ノクターナル様のご加護を…… 魂の安寧を…… 伏し願い奉ります」
葬送の贈り言葉を口にする。 これでやっと、彼等は眠れる。 ゆっくりと輪廻の時をめぐり、やがて再び、この地上に命として帰って来るその時まで…… お眠り下さい……
”・・・・・ ”
”・・・・・ ”
”・・・・・ ”
”・・・・・ ”
”・・・・・ ”
”・・・・・ ”
魂がそう呟きながら、虚空に消えていく……
緑に絨毯となった、荒野から天空に……
昇華され、分解され、光の粒となった浄化された瘴気の欠片と共に……
輪廻の輪に戻っていくの……
祈りは……
届いたかな?
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