その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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公女リリアンネ様 と 穢れた森 (1)

大切な誓い

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 この商業都市ヘーバリオンは、シルフィーにとっても、馴染み深い街だったんだって。


 彼女が小さいころ、居留地の森で捕らえられ、首に奴隷紋を打ち込まれて…… 売り払われたのが、このヘーバリオンだったのよ。 買ったのが、『 闇に生きる 』人達。 そして、彼女は、この街で『暗殺者』としての技術をすべて叩き込まれたそうなの。

 あまり、話したく無さそうだから、深くは聞かなかった。 彼女が言うには、その時一緒に居たモノ達もまだ、この街には居るそうなの。 繋ぎを取り、ギフリント城塞周辺を探ろうとしていたら、その人達が情報をくれたんだって。 相応の対価を払ったんだけどね。 『 敵の繋ぎ 』 の、元締めがこの街に居ると、そう知らされたんだって。

 公女リリアンネ様の御遊学が決定する前から、拠点はこの街に築かれていたらしいの。 此処なら、王都ファンダルと、あちらの王都の丁度中間地点に成るらしくてね。 あちらの王都からの指示や命令もここに来るんだって。 そして、此方の情報や策謀の結果なんかもここから【長距離念話】で、あちらに伝えられていたらしいの……

 もうね…… その話を聞いて、目の前が暗くなったわ。 ファンダリア王国の防諜って、どうなっているのかと…… シルフィーが云うのよ……




「アレを認識するのは、難しい。 残置諜報としては、最高のモノ達だから。 交易商人、地元の有力者、更には、ファンダリアの貴族も居た」

「何ですって! 本当に?!」

「ええ、間違いは無い。 かなり昔から、この地に根付いていたようだ。 隠れ蓑としては、これほど有力なモノは居ない。 まぁ…… 奴らは、影武者を使って表と裏を行ったり来たりしているのだ。 本人が定期的に、自身は大丈夫だと、そう云えば影武者共は行動を起こす事も出来ない」




 どうしたモノだろう…… そう考えるていると、シルフィーが喉の奥で笑ったの。




「リーナが心配する事は、無いようにした」

「えっ?」



 とても平坦な声で、またもトンデモナイ事を話し始めたのよ……




「【月夜の瞳】の奴らに協力してもらって、大ネズミ五匹は籠に入れた。 子ネズミ共は、大ネズミの云う事しか聞かない。 もう、奴らの繋ぎは ” ファンダリア ” の手に落ちた」

「……というと?」

「要は、あちらの計画とやらは、そのまま上手く動いていると思わせればいい。 この地の妖精レプラコーンに囲って貰った」




 突拍子もない ” お話 ” が彼女の口から綴られるの。 【月夜の瞳】の実行部隊と共に、五人の主要連絡係を捕縛して…… この地に住まう、妖精族に協力を得たんだって。 少し北にある、居留地の森の南端にある、妖精族の村樹。 そこに押し込めちゃったんだって!




「古い樹でな、その村樹は。 大きな洞が根元にある。 その一角に奴らを押し込めた。 眠らせ良き夢を見てもらっている。 【長距離念話】は繋がる様にしたままでな。 奴らにとって耳障りのいい情報しか流せない様にしたんだ」

「……どうやって!」

「村樹に棲む、レプラコーンに頼んだ。 奴らも相当頭に来ていたようだ。 二つ返事で請け負ってくれた。 眠り続ける様に、術もかけてくれている」

「でも、そんな事しちゃったら…… 直ぐに死んじゃうわよ?」

「秘薬というか…… リーナだったら知っているだろ? レプラコーンの奴ら『妖精ドロップ』を、奴らの腹に埋め込んでいた。 水は、村樹の根が、直接奴らに差し込まれている。 老衰以外の死に方は出来ないし、いずれ、村樹に取り込まれるかもな。 まぁ、村樹に悪影響が出そうなら、直ぐに水を止めると、レプラコーンは言っていたがね」




 えっと…… それって…… ある意味、究極の牢獄? 夢見ながら、老衰で死ぬまでその場に? エグイわよ、それ…… えっ、でも、シルフィーって、妖精さんとお話が出来るの?




「昔、一度…… 奴らから ” 仕事 ” を請け負った。 まだ、見習いで、一党に売られる前の事だが、奴らは覚えていてくれたよ」




 私の不審げな眼を見て、私の疑問に気が付いたのか、シルフィーは、彼女と妖精族とのかかわりについて、ちょっとだけ、お話してくれたの。 そうか…… ” お仕事 ” でねぇ…… 何をやったのやら……

 そうそう、妖精ドロップって云うのは、村樹の栄養が固まったモノ。 とても高濃度に栄養が固まっている…… お腹に埋め込んだの? ……食べることが必要無いように? もう、その繋ぎの人達は、逃げ出す事もできはしないわよ。 なにせ、相手は妖精族なんだもの。 ……な、なんとも云えないわ。




「どんなに、こっちの領域で騒ごうと、奴らの本国には、” 異常なし、計画は恙なく進行中 ” としか、発信されない。 襲撃者を一網打尽にしてもな」

「…………そう。 ならば……もう、遠慮も行動制限も必要無いと云う事ね」

「あぁ、殲滅しても、あちらには伝わらない」

「……判った」

「情報の一部は、【月夜の瞳】が持って帰った。 大部分の情報は、この紙挟みに有る。 何人かのマグノリア兵は、その装備と共に、荷馬車に隠してある。 もう、息はしていないが、【保存】が符呪してある布でくるんであるから、腐る事も無い。 良かったか?」

「う、うん…… そうね。 それでいいわ。 十分な証拠に成るわよ、それ。 随分と苛烈な行動をしたのね、シルフィー」

「なにせ、ニトルベインの魔女に、” 甘い ” と、そう云われたからな。 二度とそんな事は云わせない」




 その声色はとても強い。 徹底すると云う意思が、面体越しに伝わって来たわ。




「リーナ。 この後、計画通り、『 噂 』 を流す。 敵が計画している、襲撃地点は、『穢れし森』の近く。 この街から三日後に到達する地点だ」

「ええ、そうでしょうね。 あの辺りは、何処からも遠い。 人家も無い。 救援は望めない。 一撃決めるならば、……るならば、あそこでしょうね。 想定と一致するわ」

「リーナ。 どうしても、同行するのか?」

「ええ、そうよ。 第四四〇特務隊の指揮官して、そこは譲れない」

「私も、後を追う。 直ぐに追いつく。 それまで…… それまでは、無事で居てくれ」

「勿論、そのつもり。 無益な行動は慎むわ。 でも、攻撃されたらその限りには有らずよ」

「自重して欲しい。 護衛隊の奴らが肝を冷やす」

「なるだけ、そうする」

「頼む。 我らの希望なのだ。 リーナ。 貴女は、私達『 獣人族 』の、希望なのだからなっ!」




 そう云うと、しっかりと私の手を両手で掴むの。 今までずっと黙って聞いていたラムソンさんの手が、その上に覆いかぶさる様に掴んで来たわ。




「シルフィー、成るだけ早く追いついて来い。 このじゃじゃ馬は、俺の手には余る。 予想もしない動きをする。 頼む」

「あぁ、判っているさ、ラムソン。 少しの間だ、その間だけ…… リーナを…… 我らが希望を、頼む」


 真剣に、そう云いあい頷きあう二人。 何故か私は、蚊帳の外。 


 何でかなぁ~ どうしてかなぁ~ 私って……


 そんなに、トンデモナイ動き……


 しているのかなぁ?




 そして、私達に、月夜の誓いが、結ばれたの。




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