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エスコー=トリント練兵場の「聖女」
煉獄の結末(2)
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小柄な男の方は……
とても、良い服を着ているの。 周囲を護衛隊の方達に囲まれて、戦意を喪失している。 ガタガタ震えながら…… 懇願するように、私に言ってくるの。
「お、俺は…… こ、こいつに捕らえられて、ここに連れてこられただけだ。 な、なにも知らない。 わ、判らない!! た、助けてくれ…… なぁ、綺麗な軍人さん、頼むよ。 お願いだ!!」
少年と青年の中間の様な、幼い顔。 真っ青になって、必死にそういってくるの。 普通なら、この人も、囚われた人だろうと…… そう判断してしまうでしょうね。 山賊に捕らえられた、裕福なお家の子供…… みたいに見えるのよ。 外見はね。
でもね……
私には、それは効かないわ。 だって…… その顔に見覚えが有るんだもの。
私は、暗い、暗い、瞳でその男の姿をもう一度確認する。 豪華で高価そうな服…… 指には大きな宝石の付いた指輪…… 重そうな金袋を腹帯に挟み込んでいる。 濃いアッシュブラウンの髪、とても整った顔。 夕焼けの様な瞳。 そして…… 頬に浮かぶ、媚びたような、それでもって、卑しい笑い。
忘れる訳無いわ。
その顔、その卑しい笑み。
前世でね…… 地下牢の中で、私を凌辱した男の中の一人だもの…… あの時も何かへまをして、捕まっていたのよね。 そして、同じ地下牢に放り込まれ、怯える私を…… 無理矢理に…… 散々に……
初めてだっだのよ…… そいつが……
急激に、視界が狭くなる…… 心の底の、暗い、暗い「モノ」が…… 浮かび上がる…… まるで、私を「 黒く 」染め上げる様に…… 目が、クラクラし始める。 手に持つ山刀の柄を強く強く、握りしめる……
「助けてくれ! 俺は、ただ、連れてこられただけなんだ!! なぁ、お願いだ、ここから出してくれ! ちゃんと礼もする! そ、そうだ、この金だって……」
「そんな訳は無いわ。 貴方が山賊の首領ね。 奴隷商との取引に来たのよね? その腰の金袋は…… その代金? ファンダリアの民を「奴隷」にしたの? 許せる訳は無いわ」
「ち、違う!! お、俺は、ひ、被害者だ!!」
プルプルと震える私…… その口をどうやって黙らせようか! 私が一歩前に出る前に、狐人族のニライさんが、言葉を紡ぐ。
「違う訳無かろう。 精霊が云う。 お前が首領だと。 この、洞穴は、地の精霊様の住まう場所。 その場所を穢したお前に慈悲など必要ない。 リーナ殿。 こ奴の仕置きは、どうか我らに。 地の精霊様が大層お怒りになっておられます」
ニライさんの言葉で、視界が…… 広がる……
ソイツしか見えていなかった視界に、沢山の護衛隊の人が写り込んだの。 皆、一様にどす黒い鬼気を纏っているわ。 ……ナジールさんが一発の鉄拳を、ソイツの端正な顔に叩き込んだの。 洞穴の壁面迄吹き飛んだ…… ギュって、言ったと思うの。 綺麗に意識が刈り取られて、ピクリとも動かなくなたわ。
「軍の者達に任せるぞ、ニライ。 精霊様の御怒りを鎮めるのは、私達にしか出来ぬ。 こ奴の処分は、軍がする。 同じように怒りを持って、こ奴を殺す事は、精霊様の怒りを増す事にもなる。 耐えよ。 我らが何者か…… 思い出せニライ」
ナジールさんの深く重い声が、洞穴に響く…… その言葉の響きに、狐人族の皆さんは首肯する。 その場に跪き、精霊様に祈りを捧げ始めた。 慰撫するような、荘厳な響きを紡ぎ出す彼等の祝詞は、私の心からも、黒い意識を、霧散させる。
此奴の…… 裁きは…… 私がしたら…… ダメよね。 証拠なら、たっぷりと、出てくるものね…… 「人族」の人身売買は、ファンダリア王国では「死罪」と、決まっているもの…… フッと息を吐き出すの。
「黒」く、染まりそうになっていた私の心が…… 戻って来た。
「縛り上げて下さい。 エスコーの司直の手に委ねます」
プーイさんが、ガッチリと太いロープで縛りあげる。 骨も砕けんばかりの力でね。 彼女も相当に怒っているのね。 縛り上げ、転がした後、プーイさんが私の側に寄って来て、頭を下げたの。 紡ぎ出される言葉に、驚きを感じる。
「済まない、リーナ殿。 動けなかった」
「プーイさん。 大丈夫です。 わたくしも、自分で自分の身くらいは護れます」
「護衛として…… 我らは居るのだ……」
「そうですね。 でも、あんな所に秘密の通路の出口が有るのは…… 誰にも判らなかった。 そして、わたくし自身が対応した。 それで、いいではありませんか」
「……済まない」
貴方だけじゃないわ。 シルフィーも、ラムソンさんも位置的に動けなかったし、他の皆さんだって。 洞穴の中は何が起こるか判らないもの。 囚われの女性たちの介助や、運び込まれれ来る山賊の簀巻きとかだって、してくれたんですもの。 まして、こんな砦でしょ? だから、気にしないで。 ね。
^^^^^
深夜〇三〇〇……
奪還作戦…… 終了。
錬成中隊の被害は…… 軽傷者、八名。 切り傷で済んだの。 直ぐに治療したから、後遺症も無く治るわ。 捕らえた山賊は、六十三名。 内、死者十三名。 異国の奴隷商の者、八名。
捕らえられていた女性は…… 全部で三十五名。 一様に首に奴隷紋を打ち込まれ、手足に枷を付けられていた。
ボロを纏い…… 凌辱の跡も生々しい人も……
女性たちは、先に練兵場に送り届けたの。 このまま、家族の元、愛しい人達への元に返す事は出来ないわ。 彼女達の傷付いた心を癒さねば、村や町に帰っても…… 壊れた心のままでは、いずれ…… そんな事は、精霊様がお許しに成らないわ。 彼女達の心に平安をもたらすのも、私の使命の一つだと、そう思うの。
練兵場では、彼女達の為に治療室を開けてくれている筈。 そして、私が帰るまで、第四軍の治療師さん達の手厚い看護がされる様に、お願いもした。 今はまだ、混乱の最中だから、早まった事なんかはしないだろうけれども、明日以降は判らない。
それを、どうにかするは、「薬師」であり、曲がりなりにも治療師である、私の役目。
降りしきる夜の雨。 雨脚も強くなってきている。 そんな中、私達は回収地点まで、そいつらを引きずって、エスコーの街に行くの。 そう、こいつらを牢屋に放り込む為に。 ……あとは、司法の出番。 私達に出来るのは、ここ迄なの。 重い足取りで、練兵場に向かい…… 最終点呼をして、解散。
―――― 全作戦は、コレで終了したわ ――――
後日、兵舎にある司令部で、今回の作戦の結果をお聞きしたの。 そこで、判明した事もあるのよ。 本隊である、増強第四四一大隊、 そして、もう一つの拠点を落とした、伯爵様が指揮を執った、二個錬成中隊も、かなりの数の山賊を捕縛した。
残念な事に、そちらに居た、囚われの女性たちは、助ける事が出来なかったそうよ。 あちらの目的は、山賊の捕縛か、壊滅が目的だったそうだから……
……悔しいわよね。
かなりの規模の山賊だったから、こちら側にも、相当数の被害が出たと、そう聞かされてもしたわ。 兵隊さんの、死者、重傷者は、新兵さんを中心に…… 三十五名……
特に、伯爵様が指揮を取られた、二個錬成中隊の被害が大きく、死者が十二名、重傷者十八名。 重傷者の内、戦列に戻れない人達が…… 八名も居たの。 あちらも洞穴内での戦闘だったらしいわ。 体力が尽きたところを、囲まれて、切り刻まれたと…… そう聞くの。
だから、言ったじゃない!!
いくら個人技を高めても、連携無くして勝利はおぼつかないって!! 実際の戦闘になるまで、長時間歩きまわって、体力を消耗して、その度にポーションを使って…… ポーション酔いの症状が出て、まともな判断力が無くなっていたって事でしょ?
それを聞いた時に、私は…… 戦務参謀様の顔を睨みつける様に見ていたの。 そして、呟くように言ったわ。
「無為に…… 兵を損耗しましたね」
「そうだな。 ……訓練計画の見直しに入る。 誰が見ても、薬師リーナ殿の訓練が優れている」
「無くしてしまった命は…… もう、戻りません」
「そうだな。 まさしくな」
「悔しいですわね」
「後悔は…… したく無いのは私も同じだ。 訓練に付いては、上申する。 これ以上、後悔したくはない。 ……薬師リーナが担当した、あの洞穴砦に山賊の首領が居た。 そして、王国の民を捕らえ「奴隷」と成し、他国へ売り飛ばしていた事が、判明した。 ……また、マグノリア王国だ。 何処までも、あの国は!」
戦務幕僚リヒャルト=フランシス=アーバスノット子爵様の瞳に剣呑な光が宿る。 大きな山賊の集団とは、判っていたけれど、マグノリアと繋がっている事までは、情報に無かった。 私が、それを暴いた事になったの。
あの煉獄の様な洞穴で……
情報は、既に第四軍司令部にも届けられている。 さらに、他の師団にも。 東の国境は更に厳重な警戒を要すると。
*******
後日、山賊達は…… 簡易裁判を経て、エスコーの街で処刑された。
特に、首領と目される男は……
その罪の重さ故……
「丑曳の刑」に処せられる。
特別に休暇届出し、エスコーの街の処刑場に赴き…… その男の最後を見た。 見なくてはいけない気がしたから。 私の中の黒い物が…… そう、させたの。
刑場に引き出せれ、泣き叫ぶその男。 酷薄の視線で、その男を見つめながら、そっと呟くいたの。 まるで、心の奥底から出て来た様な…… 暗い、暗い、声でね。
「引き裂かれるだけで済むのよ…… 痛みで、あっという間に死ねる。 わたしと違ってね…… 報いよ。 だから、祈らない。 貴方に魂に祈りは捧げない」
苦い想いだけが、心の中に降り積もっていったわ。
とても、良い服を着ているの。 周囲を護衛隊の方達に囲まれて、戦意を喪失している。 ガタガタ震えながら…… 懇願するように、私に言ってくるの。
「お、俺は…… こ、こいつに捕らえられて、ここに連れてこられただけだ。 な、なにも知らない。 わ、判らない!! た、助けてくれ…… なぁ、綺麗な軍人さん、頼むよ。 お願いだ!!」
少年と青年の中間の様な、幼い顔。 真っ青になって、必死にそういってくるの。 普通なら、この人も、囚われた人だろうと…… そう判断してしまうでしょうね。 山賊に捕らえられた、裕福なお家の子供…… みたいに見えるのよ。 外見はね。
でもね……
私には、それは効かないわ。 だって…… その顔に見覚えが有るんだもの。
私は、暗い、暗い、瞳でその男の姿をもう一度確認する。 豪華で高価そうな服…… 指には大きな宝石の付いた指輪…… 重そうな金袋を腹帯に挟み込んでいる。 濃いアッシュブラウンの髪、とても整った顔。 夕焼けの様な瞳。 そして…… 頬に浮かぶ、媚びたような、それでもって、卑しい笑い。
忘れる訳無いわ。
その顔、その卑しい笑み。
前世でね…… 地下牢の中で、私を凌辱した男の中の一人だもの…… あの時も何かへまをして、捕まっていたのよね。 そして、同じ地下牢に放り込まれ、怯える私を…… 無理矢理に…… 散々に……
初めてだっだのよ…… そいつが……
急激に、視界が狭くなる…… 心の底の、暗い、暗い「モノ」が…… 浮かび上がる…… まるで、私を「 黒く 」染め上げる様に…… 目が、クラクラし始める。 手に持つ山刀の柄を強く強く、握りしめる……
「助けてくれ! 俺は、ただ、連れてこられただけなんだ!! なぁ、お願いだ、ここから出してくれ! ちゃんと礼もする! そ、そうだ、この金だって……」
「そんな訳は無いわ。 貴方が山賊の首領ね。 奴隷商との取引に来たのよね? その腰の金袋は…… その代金? ファンダリアの民を「奴隷」にしたの? 許せる訳は無いわ」
「ち、違う!! お、俺は、ひ、被害者だ!!」
プルプルと震える私…… その口をどうやって黙らせようか! 私が一歩前に出る前に、狐人族のニライさんが、言葉を紡ぐ。
「違う訳無かろう。 精霊が云う。 お前が首領だと。 この、洞穴は、地の精霊様の住まう場所。 その場所を穢したお前に慈悲など必要ない。 リーナ殿。 こ奴の仕置きは、どうか我らに。 地の精霊様が大層お怒りになっておられます」
ニライさんの言葉で、視界が…… 広がる……
ソイツしか見えていなかった視界に、沢山の護衛隊の人が写り込んだの。 皆、一様にどす黒い鬼気を纏っているわ。 ……ナジールさんが一発の鉄拳を、ソイツの端正な顔に叩き込んだの。 洞穴の壁面迄吹き飛んだ…… ギュって、言ったと思うの。 綺麗に意識が刈り取られて、ピクリとも動かなくなたわ。
「軍の者達に任せるぞ、ニライ。 精霊様の御怒りを鎮めるのは、私達にしか出来ぬ。 こ奴の処分は、軍がする。 同じように怒りを持って、こ奴を殺す事は、精霊様の怒りを増す事にもなる。 耐えよ。 我らが何者か…… 思い出せニライ」
ナジールさんの深く重い声が、洞穴に響く…… その言葉の響きに、狐人族の皆さんは首肯する。 その場に跪き、精霊様に祈りを捧げ始めた。 慰撫するような、荘厳な響きを紡ぎ出す彼等の祝詞は、私の心からも、黒い意識を、霧散させる。
此奴の…… 裁きは…… 私がしたら…… ダメよね。 証拠なら、たっぷりと、出てくるものね…… 「人族」の人身売買は、ファンダリア王国では「死罪」と、決まっているもの…… フッと息を吐き出すの。
「黒」く、染まりそうになっていた私の心が…… 戻って来た。
「縛り上げて下さい。 エスコーの司直の手に委ねます」
プーイさんが、ガッチリと太いロープで縛りあげる。 骨も砕けんばかりの力でね。 彼女も相当に怒っているのね。 縛り上げ、転がした後、プーイさんが私の側に寄って来て、頭を下げたの。 紡ぎ出される言葉に、驚きを感じる。
「済まない、リーナ殿。 動けなかった」
「プーイさん。 大丈夫です。 わたくしも、自分で自分の身くらいは護れます」
「護衛として…… 我らは居るのだ……」
「そうですね。 でも、あんな所に秘密の通路の出口が有るのは…… 誰にも判らなかった。 そして、わたくし自身が対応した。 それで、いいではありませんか」
「……済まない」
貴方だけじゃないわ。 シルフィーも、ラムソンさんも位置的に動けなかったし、他の皆さんだって。 洞穴の中は何が起こるか判らないもの。 囚われの女性たちの介助や、運び込まれれ来る山賊の簀巻きとかだって、してくれたんですもの。 まして、こんな砦でしょ? だから、気にしないで。 ね。
^^^^^
深夜〇三〇〇……
奪還作戦…… 終了。
錬成中隊の被害は…… 軽傷者、八名。 切り傷で済んだの。 直ぐに治療したから、後遺症も無く治るわ。 捕らえた山賊は、六十三名。 内、死者十三名。 異国の奴隷商の者、八名。
捕らえられていた女性は…… 全部で三十五名。 一様に首に奴隷紋を打ち込まれ、手足に枷を付けられていた。
ボロを纏い…… 凌辱の跡も生々しい人も……
女性たちは、先に練兵場に送り届けたの。 このまま、家族の元、愛しい人達への元に返す事は出来ないわ。 彼女達の傷付いた心を癒さねば、村や町に帰っても…… 壊れた心のままでは、いずれ…… そんな事は、精霊様がお許しに成らないわ。 彼女達の心に平安をもたらすのも、私の使命の一つだと、そう思うの。
練兵場では、彼女達の為に治療室を開けてくれている筈。 そして、私が帰るまで、第四軍の治療師さん達の手厚い看護がされる様に、お願いもした。 今はまだ、混乱の最中だから、早まった事なんかはしないだろうけれども、明日以降は判らない。
それを、どうにかするは、「薬師」であり、曲がりなりにも治療師である、私の役目。
降りしきる夜の雨。 雨脚も強くなってきている。 そんな中、私達は回収地点まで、そいつらを引きずって、エスコーの街に行くの。 そう、こいつらを牢屋に放り込む為に。 ……あとは、司法の出番。 私達に出来るのは、ここ迄なの。 重い足取りで、練兵場に向かい…… 最終点呼をして、解散。
―――― 全作戦は、コレで終了したわ ――――
後日、兵舎にある司令部で、今回の作戦の結果をお聞きしたの。 そこで、判明した事もあるのよ。 本隊である、増強第四四一大隊、 そして、もう一つの拠点を落とした、伯爵様が指揮を執った、二個錬成中隊も、かなりの数の山賊を捕縛した。
残念な事に、そちらに居た、囚われの女性たちは、助ける事が出来なかったそうよ。 あちらの目的は、山賊の捕縛か、壊滅が目的だったそうだから……
……悔しいわよね。
かなりの規模の山賊だったから、こちら側にも、相当数の被害が出たと、そう聞かされてもしたわ。 兵隊さんの、死者、重傷者は、新兵さんを中心に…… 三十五名……
特に、伯爵様が指揮を取られた、二個錬成中隊の被害が大きく、死者が十二名、重傷者十八名。 重傷者の内、戦列に戻れない人達が…… 八名も居たの。 あちらも洞穴内での戦闘だったらしいわ。 体力が尽きたところを、囲まれて、切り刻まれたと…… そう聞くの。
だから、言ったじゃない!!
いくら個人技を高めても、連携無くして勝利はおぼつかないって!! 実際の戦闘になるまで、長時間歩きまわって、体力を消耗して、その度にポーションを使って…… ポーション酔いの症状が出て、まともな判断力が無くなっていたって事でしょ?
それを聞いた時に、私は…… 戦務参謀様の顔を睨みつける様に見ていたの。 そして、呟くように言ったわ。
「無為に…… 兵を損耗しましたね」
「そうだな。 ……訓練計画の見直しに入る。 誰が見ても、薬師リーナ殿の訓練が優れている」
「無くしてしまった命は…… もう、戻りません」
「そうだな。 まさしくな」
「悔しいですわね」
「後悔は…… したく無いのは私も同じだ。 訓練に付いては、上申する。 これ以上、後悔したくはない。 ……薬師リーナが担当した、あの洞穴砦に山賊の首領が居た。 そして、王国の民を捕らえ「奴隷」と成し、他国へ売り飛ばしていた事が、判明した。 ……また、マグノリア王国だ。 何処までも、あの国は!」
戦務幕僚リヒャルト=フランシス=アーバスノット子爵様の瞳に剣呑な光が宿る。 大きな山賊の集団とは、判っていたけれど、マグノリアと繋がっている事までは、情報に無かった。 私が、それを暴いた事になったの。
あの煉獄の様な洞穴で……
情報は、既に第四軍司令部にも届けられている。 さらに、他の師団にも。 東の国境は更に厳重な警戒を要すると。
*******
後日、山賊達は…… 簡易裁判を経て、エスコーの街で処刑された。
特に、首領と目される男は……
その罪の重さ故……
「丑曳の刑」に処せられる。
特別に休暇届出し、エスコーの街の処刑場に赴き…… その男の最後を見た。 見なくてはいけない気がしたから。 私の中の黒い物が…… そう、させたの。
刑場に引き出せれ、泣き叫ぶその男。 酷薄の視線で、その男を見つめながら、そっと呟くいたの。 まるで、心の奥底から出て来た様な…… 暗い、暗い、声でね。
「引き裂かれるだけで済むのよ…… 痛みで、あっという間に死ねる。 わたしと違ってね…… 報いよ。 だから、祈らない。 貴方に魂に祈りは捧げない」
苦い想いだけが、心の中に降り積もっていったわ。
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